闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1397話 半聖傀儡粉砕

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菩提古樹の前に現れた五体の影を見た瞬間、全員が背筋を凍りつかせるような気味悪さを感じた。

彼らは決して想像できなかった——この悟浄古樹の中に、半聖級の強者が五名も潜んでいたという事実に。

「これらの五名の半聖強者……」

蕭炎が深く息を吸い込み、胸中で沸き立つ驚愕を抑えながら、視線をその五体に向けた。

彼の目は突然鋭敏さを増し、低い声で続けた。

「彼らには生気も魂も存在しない。

ただの傀儡だ」

薰(フン)が静かに言った。

彼女の頬は険しさに染まり、悟浄古樹を見据える視線は鋭く冷たい。

(半聖強者を傀儡にするなど……)

全員が同時に悟った——これは悟浄古樹の仕業だ。

しかしその事実を知るほどに、彼らの背中には冷汗が滲む。

半聖級というものは、この世界で頂点に近い存在なのだ。

古族や魂族といった遠古種族の中でも相当な強者でありながら、今や悟浄古樹によって傀儡と化している。

その光景は彼らの心臓を鈍痛させるほどだった。

「あの黒袍の半聖……」

魂玉(コンガ)が震える声で囁いた。

彼の視線が最も痩せた一人に注がれる瞬間、全員の顔色が一変した。

その人物は悟浄古樹と共に失踪したと記録にある先祖だった——悟浄古樹の半聖級強者である。

「この光景を見れば……」

古青陽(コウセイヤ)も険しい表情を浮かべた。

五名の半聖傀儡は圧倒的な存在感を放ち、彼ら全員がかりでも相手にできるとは言い難い。

しかし悟浄心が眼前にある——それを諦めるなど、蕭炎(ショウエン)には到底受け入れられない。

「我々で一人分なら……」

彼の視線が自身の側の戦力を確認した。

薰と古青陽は斗尊級の頂点に達している。

前者は八段、後者は六段——さらに彩鱗(サイロン)、小医仙(コウイセン)、雲韻(ウンユン)、青城(セイジョウ)、古華(クオカ)らも六七段クラスで、一人分なら相手にできるかもしれない。

しかし問題は五名の傀儡がいることだ。

「皆様……」

蕭炎が微かに眉をひそめながら、全員を見回した。

「この状況から退けば、彼らは動かないかもしれません。

今ここで引き返すのはまだ時間です」

その提案に、全員が一瞬で顔を曇らせた。

しかし最終的には首を横に振った——悟浄心を得るためには、彼らの決意が必要だった。

(続く)

「誰も退く者がいないなら、硬闘するしかありません。

我々の側にはまだ七支隊が残っています。

我々一行は一人半聖級の強者を阻み、残り四名は貴方たちに分担していただけますか?」

ここに集まったのは、蕭炎の一団と魂族、天妖凰族の三支隊のみで、残る四支隊は蕭炎が以前見たことがない中州勢力と思われた。

彼らの編成は蕭炎や魂玉たちほどではないものの、侮れない強さを誇り、各支隊には少なくとも二名の斗尊級最上位戦士が配置されていた。

「我々なら一人は可能です」魂玉は蕭炎を見やりながらも、この危機的状況では喧嘩売らないと自制した。

もし誰かがここで撤退すれば、残りの者たちは五名の半聖級強者に勝ち目はない。

「その一人を我々に任せてください」九鳳は一瞬迷ったあと提案した。

「彼らは確かに恐ろしいが、傀儡とはいえ本物の半聖とは比べ物になりません。

多くの者が力を合わせれば、戦えるでしょう」

「残り二名の半聖級傀儡は、貴方たち四支隊に分けていただけますか?」

蕭炎は余下の四支隊を見やった。

「単独では我々と比較できないが、二人一組で一人相手にするなら、十分勝負できるはずです」

四支隊同士が視線を交わし、菩提心の所在する位置に目を向けた。

彼女たちも覚悟したように頷いた。

「よし、開始だ!」

蕭炎は深く息を吐き、顔色を引き締めた。

半聖級強者と戦うのは初めてのことだったが、傀儡とはいえ『聖』という称号を持つ存在に挑むことは、それだけで畏怖の対象となる。

その瞬間、蕭炎の最後の一言と共に、彼は三歩進み出した。

体中に流れ込む斗気は天を覆い尽くした。

「轟!」

蕭炎が第三歩を踏んだ時、五体の傀儡像が突然動き出した。

彼らは硬直したように見えたが、実際には極めて巧妙な動きで、一人が瞬時に蕭炎の前に現れた。

無言で恐怖の掌を空間を砕きながら、彼は蕭炎に襲いかかった。

その凶猛な攻撃に対し、蕭炎は地面を蹴り岩漿柱を放った。

通常なら九星斗尊級戦士を倒すほどの威力だが、傀儡の体にはたじろぎもさせなかった。

掌風はそのまま蕭炎に迫る。

「ドン!」

その瞬間、蕭炎の背後から十数本の雄大な斗気の矢が飛来した。

四支隊全員の力を結集した一撃だった。

九星斗尊級最上位戦士ですら受け付けないほどの威力だが、傀儡は全てを受けても掌風は消えた。

「始めるぞ!」



炎の群れが半聖傀儡と戦い始めた時、魂玉らも油断はせず「喝」と声を上げた。

同時に十数人の影が暴走し、その半聖傀儡を包囲した。

「この先祖よ、お前の苦しみは我々に任せてみよう」

空虚な目を持つ傀儡を見つめながら魂玉が淡々と告げると、身を翻して背後に近づいた。

十数名の強力な魂殿戦士もすぐさま続き、その半聖傀儡を圧倒的な気勢で囲み込む。

炎の群れに続く九鳳ら他の部隊も動き出した。

体中の斗気を最大限まで引き伸ばし、最後の三名の半聖傀儡へと猛進する。

広大な平原は瞬く間に恐怖の気圧が満ちた。

鋭い刃のような風が荒れ狂う。

人数で優るとはいえ、誰一人として斗聖級の実力者ではない。

激戦必至だ。

半空中から古華と古刑が駆け寄り、掌に集めた斗気を天蓋のように広げた。

その全てを傀儡の背中に叩き込む。

しかし凄まじい攻撃は石投げのごとき効果しかなく、傀儡の体が一瞬だけ震えただけで終わる。

「プチッ!」

驚異的な反動力が古華と古刑の体内に直撃した。

二人は即座に血を噴き、後方へ転倒する。

花宗の長老たちが慌てて受け止める。

戦闘開始から二十分近く経つが、傀儡の一撫でで戦士が動けなくなる状況が続いた。

しかし蕭炎や古青陽、薰など主力は頑強に抵抗し続けた。

「頭を狙え!」

傀儡の生命はない。

彼らを止めるには頭部破壊しかない。

「金剛琉璃身!」

「八極崩!」

その声が響くと同時に蕭炎の体から金色の光が爆発した。

黄金の拳となって、傀儡の動きを引きつける古青陽に気を取られた隙に、頭部へと瞬時に衝撃を与えた。

「バーン!」

凄まじい力で傀儡の頭部に亀裂を作ったものの血は流れず、干尸化した体がさらに硬直する。

しかし即座に傀儡は反転し、雷鳴のような動きで蕭炎の肩を叩いた。

「ゴン!」

巨体の蕭炎も十数歩後退させられたが、金剛琉璃身と虫皇衣・龍凰古甲のおかげで致命傷は免れた。

傀儡の反撃を受けた直後、再び叫ぶ声が響く。

「頭を続けろ!解決せよ!」



フー!斗聖の傀儡(とうせいのかべら)が炎を吐き、蕭炎(しょうえん)は再び重い声で叫んだ。

その頭部に増え続ける亀裂を見つめながらも、この敵の強靭さは半聖(かんせい)に匹敵するが、しかし…「大寂滅指(たいじゃみつけし)」

薰(くん)と古青陽(こしょうよう)が同時に手を上げた。

二人の顔には緊張が浮かび、瞬時に複雑な印を作り出す。

巨大なエネルギーの指は『寂滅』という死の気配を纏い、空を切り裂いて傀儡の頭部へと激しく叩きつけた。

「大寂滅指」

古華(こか)と古刑(こけい)も蒼白な顔でこの強力な天階(てんかい)級の術を発動させた。

暗淡なエネルギーの指は次々と現れ、空気を切り裂く。

「バーン!」

彩雲(さいうん)の雷光が一瞬に集まり、半聖傀儡(かんせいのかべら)へと重撃を放った。

全員がほぼ同時に手を合わせた。

凄まじい攻撃が全て同じタイミングで傀儡の頭部に集中する。

その圧倒的な連続攻撃に対し、半聖傀儡は体を震わせた。

蕭炎の炎で既に亀裂だらけだった頭蓋(ずがい)は突然西瓜のように爆発した。



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