国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

文字の大きさ
30 / 776
0000

第0030話「魏隊長は信頼できる」

しおりを挟む
江遠は魏振国が語ったいくつかの事件を、まず紙に書き留め、次にパソコンで一つずつ探り始めた。

魏振国の言う通り、合計3件の事件だった。

そのうち1件は林地に関わるもので、本格的な放火ではあったものの指紋が採取できていなかった。

残る2件は指紋が採取されていたが、一方は廃車になったトラクターを焼いたもの、もう一方は無人住宅を焼いたものだった。

後者の現場から採取された指紋は非常に劣化しており、欠損しているだけでなく形も崩れていた。

江遠の推測では、当時の現地派出所の警察官が、火災による影響を考慮せずに粉を吹き付けた後にテープで剥がしたのだろうと。

その指紋が刑科大隊の痕跡鑑識に送られた際、重要視されるかどうかはともかく、江遠が老厳たちの実力について正確に判断しているように、このような指紋は彼らでも処理できないものだった。

もちろん責めるべきではない。

例えば一般人が重点大学や中学、小学に入れないように、両親が業界のリーダーでないし名門貴族の家系でない限り、自分がその分野のエリートになるのは難しいし、幸運にも外見に恵まれたとしても……。

県警が技術警察官に求めるレベルは、テレビドラマのようなものではないはずだ。

重大事件や大規模な事件でない限り、指紋も専門家からの注目を集めない。

数千円程度の被害額の事件では、通常の処理しかできない。

しかし、この3件の事件が前面の温室放火事件と関連するなら状況は変わるだろう。

「お待ちください」江遠は事務室に戻った。

魏振国もその後ろについてきた。

同僚の刑事である彼も忙しい人物ではあるが、江遠の技術を覗き見したいという気持ちは同じだった——痕跡鑑識は普通の警察官でも最も馴染みのある技術部分で、日常的に指紋カードに記載された指紋と照合する程度なら誰でもできる。

江遠は背筋を伸ばし、しっかりとその3つの指紋を見つめた。

まず廃トラクター放火事件の指紋データをダウンロードした後、その画像を見て深い思考に入った。

この指紋が目に飛び込んでくると、江遠にはどこか懐かしい感覚があった。

温室放火事件の指紋について1週間も繰り返し調べていた江遠は、新たなデータを見た途端にそのイメージが浮かんだ。

似ていない部分はあるものの、焼けたり日光にさらされたことによる変形を考慮すれば、魏振国が言及した可能性は十分だった。

両方とも欠損しているため同一の指紋と証明するのは難しいし、2つの指紋を一つに合成する作業も非常に困難だ。

しかし、トラクター放火事件では現場で3つの指紋が採取され、その完全度は温室事件よりも高かった。

江遠は頭を振って指先をこすりながら、再びマウスを握ると、慣れた手つきでPhotoshopに指紋データを読み込んだ。

色調調整、コントラスト調整、背景フィルター処理……。

江遠がこれらの作業を行う様子は、魚売りの鮭捌き、海鮮売りのカニ剥ぎ、笑い屋の衣装替えのように見事で目まぐるしい。

魏振国も以前に痕跡鑑識班が指紋照合をしているのを見たことがあった。

その苦労とためらいの動作は、鮭捌きがカニを売っているように、カニ剥ぎが笑い屋をやっているように見えたものだった。

「この指紋は可能性がある」江遠が速やかに10個の特徴点をマークしただけで自動照合システムに放り込んだ。

20個の指紋が並べられた中、江遠は数個だけ確認し中断した。

二つの指紋を同一画面に重ねて左傾けたポーズでゆっくりと告げた「方向性に微妙な違いはあるが基本的には同一人物と判断できる」

「えっ?当たったの?」

小王が飛び出してきた

「このトラクター焼損事件は当たった」江遠が再確認すると胸中が一気に晴れやかになった

温室放火事件の指紋照合を長期間続けても一致せず、江遠自身も指紋データベースに該当するものが存在しないと疑っていた

しかし今日のケースはその仮面を瞬時に剥ぎ取った

一致したのはトラクター焼損事件だが解決した可能性があるのは連続犯行かもしれない

魏振国が「ふーん」と息を吐きながら近づいてきた「こんなもんか……」

彼は江遠の指紋分析方法を見に来たつもりだったが、ほんの一瞬で自分が江遠が即座に指紋照合に成功する様子を目撃した——市内の鑑識と比較してもこのレベルの照合は相当な苦労が必要だと知っていた

「過去に放火の前科があるか?」

吴軍も興味津々に詳細データを確認しながら尋ねた「本当に同じ人物なのか?」

江遠が詳細情報を開いて首を横に振った「ない。

それは派出所で身分証明書紛失時に採取した指紋だ。

その指紋を使って彼は強盗容疑で逮捕された……」

各派出所には指紋採取の義務があり、これは派出所と県警の戦力ランキングにも反映される具体的事項だ。

必要な時は何をしに来てもまず指紋採取から始める

魏振国が頷きながらスマホを取り出し「江法医さん、お疲れ様です」とメッセージを送りつつ言った「俺は隊長に一声かけて二人連れて行ってやるよ」

話しながら彼はドア際に移動し手を振りながら素早く部屋から出て行った

王鍾が魏振国の後ろ姿を見送ると表情が一気に重くなり「江遠、この人気者だね」

江遠が尋ねた「どうして分かる?」

「この人の他の連中は眉間に皺を寄せながら睨みつけるんだよ」

「そういうもんか……」

「この人は付き合いやすいんだぜ」王鍾がため息をつくと続けた「江遠、チャンス掴めよ」

「どういうことだ?」

江遠は王鍾を見詰めた

王鍟が深くため息をついた「魏隊長の娘さん……あの子は綺麗なんだぜ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

処理中です...