国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0039話「一斉に」

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翌日。

朝の小会議が終わると、江遠はすぐに整髪して降りて、魏振国らを待つため階段を下がった。

逮捕対象は電動自転車泥棒一名で夜間出動する必要もなかった。

しかし、単なる小規模犯人とはいえ江遠は少し緊張していた。

これまで現場での逮捕経験がなかったからだ。

魏振国らが到着すると、その緊張感は突然消えた。

「人数が多いんじゃない?」

江遠の前に7男1女の編成があり、自分を含めると8男1女となる。

映像で見た犯人の体型や動きは弱々しい印象だった。

場にいる9人中、女性警官も含めて皆小泥棒を投げ飛ばせそうな体格だ。

「捕まえるには人数が多い方がいいんだよ。

我々が兵、兵が盗賊を捕らえるなら三倍四倍の人数で押さえつけるんだ。

今回はお前と一緒に行けばいい」

魏振国は実際には江遠を保護する意図があった。

指紋鑑定に長けた刑事技術班の新人が寧台県に降りてきたのは奇跡そのものだ。

彼はもっと大きな口で噛みつきたかった…

江遠が逮捕に同行したいという願望や経験の有無など、魏振国にはどうでもよかった。

とにかく人数を多めにすればいいだけのこと。

普段から趣味で野菜を作りながら遊び呆ける局長クラスが参加するような現行犯逮捕ではあるが、同じ手順だ。

9人で2台の車両を使用し警笛も点けずに橋辺りのマンションへ向かうと、駐車場に停まっていた車からさらに2人の制服姿の警察官が降りてきた。

「魏隊長」相手は熱心に挨拶を交わした。

「老顧(ろうこ)さんだ。

こちらは我々のチームメイトで刑事技術班の新人小江…犯人は家にいるはずだ。

住所は記録にあるし、昨日観察に行った際には夜中まで電気がついていたので、まだ起きていなさそう」

老顧が押し寄せる9人を見ながら感心したように言った。

「規模はどうなんだ?」

進行中の現行犯や未解決の積年の事件に関する詳細は慎重に扱われるべきだ。

それは捜査資源であり同時に有罪判決の根拠となるからだ。

寧台県警の警察官たちはその点でも完璧だった。

「大したことないよ」

老顧が魏振国が連行した人数を見て真剣な表情になった。

「犯人が住むのは古いマンションで状況が複雑だから、必要に応じて所内の待機警備員も呼び出すか…」

「十分だ。

万全を期すためだよ」

老顧に道案内させた一行は11人を3班に分け前後から目標マンションへ侵入した。

所謂マンションとは建物が3棟あり20~24階建てだが、全てタワーマンションで一階には十数戸の住居があり回廊状の構造。

中央に長い中庭を抱え外側と内側から安全階段が連なりていた。



この環境は見た目は簡単でも制御が難しいものだ。

前後二つの門と車庫のドア、全てが車両や人物を通すことができる。

小区内も同様で、地面に駐車できるだけでなく地下駐車場では散歩も可能だ。

さらに地下駐車場には東西二つの階段があり、三棟建物全体を見れば四通八達の構造となっている。

各棟ごとに西側と東側に位置する4台のエレベーターが存在し、全てが地下駐車場へアクセスできる。

加えて各棟2本の安全用階段と車庫内にも2本の避難経路があり、三棟建物全体で驚異的な動線網を形成している。

江遠は管理組合からの説明を聞きながら、香港映画『英雄本色』のシーンが脳裏に浮かんだ。

犯人を捕まえる作業が発覚した場合、22階建ての回廊階段を俯瞰するような構図が頭の中に広がる。

**(ここは「22階建て」で補完)**

暗い照明の階段では緊迫感が増し、追跡シーンに臨場感を与える。

車両や侵入をテーマにすれば、30名の群衆を使った映画撮影も可能だ。

魏振国の表情は読み取れない。

皺くched警服と顔のシワが彼の年齢を物語る。

しかし外での行動ではオフィスより自信があるようだ。

「前後門に各2人、車庫には1人ずつ配置し、無線機で連絡を取り合い支援する。

**(ここは「执法记录仪」で補完)**」

残り5名と合流したところでエレベーターで12階へ移動。

部屋の前に現れたカップルが警官の姿に驚き目を丸くする。

「左右に一人ずつ配置」と魏振国が指示し、犯人の部屋前まで進む。

**(ここは「1209」で補完)**

「水漏れ調査のため入室してほしい」と告げるとすぐにドアが開いた。

二人の警官が素早く室内へ突入し犯人を壁に押し付ける。

「警察です、動かないでください。

お名前は?」

「蔡斌…」

「蔡斌さん、あなたは容疑者です…**(ここは「手錠」で補完)**

「家族は何人ですか?誰かいますか?」

「妻が…不、恋人が中に入っています」

「雲!警察だよ。

動かないで」

江遠は近くに立っていたが介入する余地はなかった。



「緊張してない?」

同行の女警を頼んで容疑者の恋人を連れてきた魏振国は江遠の隣に寄り、笑って尋ねた。

江遠が微かにうなずく。

「少しは。



「一般的な逮捕現場はこんなもんだよ」魏振国が口元を動かして続けた。

「激しく抵抗するのは二種類だ。

重大犯罪を犯した連中と本当に無実の連中。

だから激しい抵抗を見たら審査時に注意が必要なんだ」

江遠が手錠でぐっと締め付けられた蔡斌を見る。

彼はまた小さくうなずいた。

「行こう」魏振国が下に待機させた潜伏中の警察たちを呼び集め、マンションの前まで並ばせた。

先ほど前後玄関と駐車場口で待機していた警察たちがゆっくりと戻ってきた。

11人が二人の容疑者を取り囲み、朝のマンション前に異様に目立つ光景となった。

手錠をされた蔡斌はさらに不安げに体を捩り、こんな大勢の警察を見て全身から疑問符が溢れ出していた。

2~3人で1人を捕まえるのは普通のことだが、一斉に11人も現れるなど明らかに異常だった。

蔡斌はますます納得いかず「なんで俺を捕まえたんだよ?」

と尋ねた。

「自分がやったこと知らないのか?」

魏振国が鋭い目つきで蔡斌を見据える。

蔡斌が警察の人数を数えながら首を横に振り「何もしてない!本当に誤って捕まえたんだ……」

「誤って?もう一度よく考えてみろ。

今は訊かない」魏振国の険しい顔は包青天の醜い版画みたいだった。

「お前が暇だから出てきたと思ってるのか?」

「いや、俺……」

蔡斌は冤魂に取り憑かれたように抗弁した。

「車で帰れ」魏振国が执法記録機を指しながら規律正しい態度を見せた。

しかし魏振国ほど形式ばっているほど蔡斌は気分が悪くなり、彼の恋人も不審な目つきで蔡斌を見つめるようになった。



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