国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0050話「災難を逃れた」

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深井は約四メートルの深さだった。

コンクリート床を掘り下げた下には粗い土壌が広がっていた。

この井筒は一人しか通れない構造で、最も狭い部分では一時的にしか立ち入りできない。

底辺部にようやく少し広がった空間があり、施工の利便性を考慮した設計と推測された。

横坑の土量はさらに多く、斜面方向に二メートル以上伸びていた。

地下室本体は高さ二メートル、十坪程度のスペースで煙突を改造した換気設備が設置されていた。

空気が依然として悪臭を放っていたものの長期的な生存には耐えうる環境だった。

驚くべきことに牢獄内にコンピューターが存在した。

インターネット接続は不可能だが娯楽用としては十分な機能を持っていた。

江遠は先ほど地上に出た三人の衣服不整、神経質で落ち着きのない女性を思い浮かべながら全身の皮膚と血管が引き締まっている感覚に陥った。

彼は入口付近で数秒間覗いただけで自制心を持って立ち去った。

好奇心はあるものの現在その十坪未満の牢獄内には全てが証拠物だ。

手電筒やスマートフォン以外に使える検証機材は一切持ち合わせていないし現場採取用の踏み板さえもなかった。

もし足を踏み入れれば床全体が自分の痕跡で覆われる。

小規模事件なら専用機材なしでも対応可能な場合もある。

例えば奇妙な物質に汚染されたベッドシーツならば警官が手早く巻き取ったり破いたりしてプラスチック袋に入れて証拠として収集することができる。

しかし今回の事件は小規模とは無関係だ。

たとえ床の一つの足跡でも極めて重要な証拠となる可能性があった。

温明が救出に急いで降りてきた際にはその痕跡だけなら影響は限定的だったかもしれない。

ただし温明の足跡のみに限定される必要がある。

三五人もの人が出入りすれば十坪の牢獄内は足跡や指紋、さらなる痕跡で埋め尽くされ現場が破壊されてしまうからだ。

そのため江遠は入口付近で門扉周辺の指紋と足跡を採取し終了後警告テープで入り口を封鎖した。

その後すぐにドア周辺の採取作業に着手した。

温勇や魏振国にとっては谭勇が確定犯人という結論かもしれないが江遠にはまだ疑問符が残る。

小規模事件なら谭勇は確実に釣り上げられるだろうが死刑レベルの重大犯罪となると証拠の厳密性は伝説級のものが必要になる。

最終的には良い結果を得たとしても捜査過程での厳しい追及を経験する警官は誰もいない。

警察と犯人間に情報格差があることが多くの事件で問題になる。

例えば現在谭勇のDNAが牢獄内に至る所に存在すると皆が推測しているがその仮定は論理的ではない。

もし谭勇が毎回牢獄に入る際に防護服を着用するなら可能性はゼロだ。

「では彼が射精した際はどうか」という反論があるかもしれない。

まず必ずしも射精するとは限らないし万に一つでも防護服で射精するという変態的な行為をする可能性もある。

そのような意見に対して牢獄の内部構造を見れば答えは出るだろう。



江遠はいくつかの指紋と足跡を採取し、最低限の対策を講じた後、慎重に地牢から退出した。

地面に出ると、長陽市警の四名の刑事が現場に到着していた。

「干李良!」

「卧槽!」

室内に入ってきた警察官は、地中深くまで続く井戸を見て、三名の不安げな女性を見た途端、全身から血の気が引いた。

警察という職業は社会の闇を多く見てきたが、耐え忍ぶ力も強いはずだ。

しかし普通の巡査はそのような訓練を受けず、所謂「見識」は徐々に養われていくものだ。

彼らが目にした光景は、明らかにこれまでの経験を超えた社会の闇を目の当たりにした。

「この状況は……」

「本当にこんな人がいるのか?」

四名の刑事は四部屋構成の家の中を歩き回りながら、全身の細胞が罵倒するような感覚に陥っていた。

江遠の気分もさらに悪化していた。

警察と比べて経験は少ないものの知識は多く、地下室の光景から想像される詳細な情景が頭を駆け巡った。

「牧志洋の方はどうなっている?」

魏振国は丁蘭が震えながら隣にいるのを見て、どう声をかけようか迷っていた。

彼は電話で状況を確認するため、部屋の中に向かった。

三人は自然とその動きに合わせてついてきた。

「大丈夫だよ、ただ電話をかけるだけだから」

丁蘭は涙ながらに魏振国を見上げた。

涙が頬を伝わるのを見て、魏振国はすぐに声をかけた。

「いいや、まず水を飲んで待ってろ。

車が来るまでここで待とうか」

丁蘭はタイミングを見計らって要求した。

「私たちも電話したいんです……うちへ連絡したいんです」

魏振国は一瞬ためらいながらも答えた。

「家族には既に連絡しているはずだ。

こんな大規模な事件だから、直接会った方がいいと思うよ」

彼の思考が警察としての判断に戻り始めた時、牧志洋からの返信があった。

息を切らせて報告する声が聞こえた。

「師匠、私より醜い奴を捕まえました」

「良かった!危険はあったか?大丈夫だったのか?」

「いいえ、問題なしです。

四人で飛びついて手錠をかけたんです」

「そうか……検察が直接関与するかもしれないから、手続きには注意してほしい」

電話を切った魏振国はようやく肩の荷が下りたように息を吐いた。

こうして案件の核心部分は無事に完了した。

不安げな丁蘭たちを見ながら、魏振国もまた一命つながってよかったと感じていた。



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