国民の監察医（こくみんのかんさつい）

きりしまつかさ

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第0067話「心配」

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ドンドンと音を立てて進むボートが台河（たいこう）の水面に苦労しながら走行していた。

二人の刑事は安全帯を腰に巻き、手でボートを掴みながら、目視による河面捜索を行っていた。

雷雨交加の悪天候により能見度が極めて低く二十メートル先すら確認できない状況では危険性と効率性の両立は不可能だった。

しかし半具の遺体を発見した以上、どんなに困難でも台河全体を捜索し尽くさなければならない。

悪天候ほどに気を緩められないのが刑事課の本心だ。

明日穏やかになるまで放置すれば遺体が損傷したり行方不明になったりしたらどうしようという焦りがあった。

この現発事件が解決しない限り、今年の成績や政績談論は無意味だった。

黄強民（こうきょうみん）は岸辺に立って無用な双眼鏡を首から下げながらも可能な限り河面を見詰めていた。

成功率が低いことは承知だが殺人事件解決というものは低確率の作業を積み重ねることで成り立つものだと理解していた。

「バチッ！」

と稲妻が空を切り、激流に照らし出された瞬間だけが一時的に能見度を確保した。

その後周囲はさらに暗くなり……。

葬儀場。

江遠（こうえん）は防毒マスクを装着して解剖室に入ると、老法医の吴軍（ごうぐん）はマスク一枚で作業に取り掛かっていた。

ステンレス製の解剖台には灰白い半具遺体が置かれ、折れた部分は惨白な色調だった。

「前回あなたが人類学を調べていた時期だよ。

今こそその知識が必要なんだ」

江遠は法医学人類学（LV3）というスキルを得ていてもまだ活用できていなかったが、確かに多くの書籍を読ませられていた。

病理学と比べて人類学の方が自信を持って取り組める分野だったため、吴軍の前に立って「私が解剖しますか？」

と提案した。

「まずは私がやってみよう。

この半具遺体は難易度が高いから」

吴軍自身も眼前の不完全な遺体を見れば苦労する様子で江遠を信頼できなかった。

通常の死因判定とは異なり、法医学人類学が求められるのは「誰か」を特定することだ。

事実上人類学の方が病理学より困難な問題を扱う。

前者は選択問題、後者は大問という比喩も適切だった。

法医学者は遺体から情報を解き放ちながら以下の質問に答えなければならない：

人間か？

男性か女性か？

何の種族・民族か？

年齢幾つ？

身長体重外見はどうか？

特徴は何？

彼（彼女）は誰か？

这些问题、生者面前ならほとんど問題にならない。

解決策も簡単だ。

だが死体の前ではそうはいかない。

吴军は一歩ずつ屍表を清掃し記録を取った後、便携式X線機を持って下半身の死体にX線撮影を行った。

「この骨盤から若い男性だと判断できます」吴軍がX線写真を前面のライトボックスに差し込み骨盤部分を指しながらため息をつき江遠に向かって尋ねた。

「もしもこれだけの骨盤のX線写真があれば性別はどのように判定しますか？」

「男性的な骨盤は狭く高く、女性は広く低く、男性の上口は心形で女性は円形または楕円形です。

さらに恥骨弓の角度では男性は70度前後、女性は90-100度……」江遠は早口で確信を持って説明した。

骨盤は性別判定が最も容易で多くの判断ポイントがあり、専門用語で頭蓋骨による判定より簡単かつ正確です。

ただし法医学の立場では。

吴軍は江遠の回答に満足し続けた。

「次に骨年齢で年代を判定します。

その方法はご存知ですか？」

「下半身の死体なら骨盤と長骨を使います」江遠はLv3の法医人類学スキルを持つが、この解剖検査を主導する際の年代判定にはX線撮影が必要です。

あるいは肉を剥ぎ取って直接観察します。

現状では前者の方が破壊性が少なく実用的です。

最も困難なのは腕骨・掌骨や鎖骨・胸骨など年齢判定に優れた部位が残っていない点で、現在の無名死体は骨髄腔による公式計算のみ可能です。

「23-25歳ですか」江遠がコンピューターを操作して即座に結果を提示した。

吴軍は驚いて黙り込みしばらく経てから身を乗り出して再計算を試みた。

やがて顔を上げてから「次に身長を算出します」と指示した。

「大腿骨転子部全長43cmに2.36の係数を掛け1015、さらに680を加算すると169-170cmです」

長骨による身長判定は正確で簡単です。

ここまで到達すれば半分の死体の重量からも推測可能な情報は全て得られた——男性、23-25歳、身長170cm体重68kg……

これらが最終的な謎解きには不十分ですが、江遠を刮目させるほどでした。

「若い者は学びが速いものですな」吴軍がため息をついた。

江遠は恥ずかしげに「各方面の力を借りたからです」

「私が若かった頃は本さえ見つけられず師匠について剖検を繰り返し実践で学んだ……」吴軍が刀を江遠に渡した。

「君でいいわい」

最初の不安は完全に消えていた。

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