国民の監察医（こくみんのかんさつい）

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第0109話「目撃者」

ぶんさと、久しぶりにこんなに賑やかだった。

最後の記憶は東側の飼料店が炎上した時だ。

火災の熱気と救援活動の活気で、焼き立てトウモロコシの香りが町中に広がり、住民たちの関心をさらに引きつけた。

陳帆の金属部品店はぶんさでも知らない者はいない大店だった。

地元最高級の重工業技術を持ち、近隣の修理屋が技術支援を求めて訪れるほどだった。

「金属部品店までやるとは」

周囲のざわめきの中、住民たちが方言で議論しているのが聞こえた。

江遠はたまに聞き取って振り返り、「どのことだ？」

と尋ねた。

「あなたは外の者だから、わからないでしょう。

彼らはそのことをやっているんだ」

「違うよ、それは『その』ではなくて『その』」

「あー、あの『その』のことさ」

警戒態勢が緩む気配はないが銃声は響かなかった。

江遠がスマホを見ると、既に19分経過していた。

この時間帯に犯人が発砲する可能性は低いと判断し、彼は柳景輝の連絡を待った。

「どうぞお入りあれ。

魚は小さいけど力強いよ」

柳景輝の声には隠せない興奮が滲んでいた。

「了解。

すぐ行くわ」

江遠もその男の状況に好奇心を抱いていた。

事件解決への影響度合いが気になっていたからだ。

警備中の警察官たちが次々と撤退し、住民が店内に入り込み人波が流れ始めた。

商店街の店主たちは息を吹き返して声を張り上げていた。

「ほうはん売り！ お顔盆売り！ 不動産用のスチール製カミソリ売り！」

「ビール・ナッツ・飲み物だよー！」

「ほうはん・ほうはん・毛布・殺虫剤・ネズミ退治薬・犬用クリーム売り！」

「小さい鶏ちゃん！ ほらほら、可愛い鶏ちゃんだよ！」

店主たちは同業者の祭壇を借りて最高潮のパフォーマンスを見せようとしていた。

各地から集まった警察官たちが足を止めたり、熱心に誘われて店内に入ったりしていた。

年配の狙撃手は壁蜥蜴のように悠然と屋根から降りてきた。

若いほうは少し落胆した様子で左右を見回しながら移動し、自分が二等功賞章を得る機会を失ったことに少しだけ後悔していたようだった。

金属部品店の裏庭には赤レンガの高塀があり、さらにコンクリート壁が追加されていた。

その堅牢さは一目で見て取れた。

周辺の店舗や住宅は全て金属部品店に近づき可能な限り余白を占拠しようとしていたが、赤レンガの壁によって阻まれていた。

江遠が裏庭に入ると、暗く広い工場が見えた。

目立つのはNC旋削盤（数値制御旋削盤）で、それ以外にも古びた車床やフライス盤などが並んでいた。

工場の一角には大量の段ボール箱があり、内部から機械部品が露出していた。

銃身・銃床・圧力計・ポンプハンドル・弁・ナット・ワッシャーなどが見えた。

光線の良い方には黒革で覆われたテーブルに未組立の空気銃が数機並んでいた。



「こんなに堂々と？」

江遠は驚いていた。

文郷の商店街全体が千具以上の遺体ほど広い場所で、今や百名近い警察が密集し銃器を生産している状況は明らかに危険すぎた。

陳帆は肩を落として言った。

「私は片付けようと思っていました」

「どうやって片付ける？貴方の工場には違法品があるのか？」

柳景輝は鼻で笑った。

手早く指し示すと続けた。

「ここだけで組み立て済みの銃が十数丁、これだけの部品があるんだ。

こんなに大量に何のために？狂っているんじゃないか」

陳帆は抗議しようとしたが、口を開く前にまた黙り込んだ。

弁解を試みる気持ちはあったが、殴られるのが怖かった。

一時間前まで楽しく五金店を営んでいた自分が、今や牢獄生活が目の前に迫っているという現実に直面した陳帆の心境は言語化できないほど激変していた。

そして彼にはさらに恐ろしいものが待っていた。

幸運と混乱の中、柳景輝は真剣な口調で言った。

「先に私が貴方に言った通りだ。

貴方は我々と対立する考えを持たない方がいい。

銃器の認定基準を知っているだろう？2ジュール平方センチメートル以上が銃器となる。

ここにある銃は一体何丁か分かるかい？」

陳帆が震えたのは、柳景輝が彼の真実を知らないからだ。

柳景輝は笑いながら続けた。

「もしあなたが専門家なら、私に教えてくれるはずだ。

国内で銃器を製造する際の部品認定基準と、密輸される銃器の部品認定基準は異なることを知っているだろうか？」

陳帆は驚愕の目で柳景輝を見つめた。

柳景輝は陳帆に哀れみの眼差しを向けたが、実際には彼は嘘をついていた。

柳景輝が言及した認定基準は密輸銃器の場合のものであり、国内製造銃器の場合とは異なるのだ。

しかし陳帆はその違いを理解できなかった。

柳景輝にとってはこれが完璧な罠だった。

少し間を置いて柳景輝は続けた。

「貴方が黙っているなら私が説明する。

我が国の銃器管理法では、組み立て可能な部品セットは一丁として扱われるが、単体の部品は三十個で一丁と換算される。

貴方の工場には一体どれだけの部品があるのか？」

陳帆は全身を震わせながら柳景輝を見上げた。

柳景輝は陳帆の反応を見て確信を得た。

もし陳帆が法条に詳しかったら、彼は黙っていなかっただろう。

しかし陳帆は素人だった。

つまり未経験者であることを示す証拠だ。

柳景輝は隣のテーブルからネジを一つ取り上げた。

「貴方の持つこれらの部品全てを銃器として換算すると、貴方は何丁もの銃を作っていることになる。

その分だけ牢獄生活が続く」

陳帆は顔色を変えながらゆっくりと柳景輝を見上げた。

江遠は彼を見て胸中でため息をついた。

独立して精密機械製品を作る能力があり、収入も得られるのに、なぜ銃器を作り始めたのか。

そして刑法の関連条項さえ読まずに、なぜ銃器製造に手を染めたのか。



柳景輝が続けた。

「こんなに多くの仲間が集まったのは、君一人を捕まえるためではない。

協力してくれれば、上家と下家の情報を教えてくれるだろう。

貴方の部品は汎用部品と見なせるものなら、そのように扱う」

陳帆は救命の藁を見つけたように叫んだ。

「そうですね！これらの部品は他の用途で加工したもので銃を作るためではありません」

柳景輝が冷めた目線を向けた。

数十秒にわたる注視の後、陳帆は再び頭を垂れた。

柳景輝は勢いを得て陳帆を文郷派出所へ連行し「虎の檻」に座らせた。

虎の檻とは赤ちゃんが食事をする椅子で手足と背中を縛り付けたものだ。

赤ちゃん用の椅子は食べ物を落とさないためだが、虎の檻は被告人が感情的になって不適切な行動に出ないようにするためのものだった。

柳景輝の取調べ技術は省公安機関の中では上位に位置するわけではないが、看守所未経験者の陳帆にとっては極めて効果的なものだった。

たった一時間余りで陳帆は竹筒から豆を撒くように全てを吐き出し上家と下家の情報を完全に暴露した。

この時陳帆は自分を捕まえたのは銃器製造のためだと信じていた。

柳景輝が水を飲んで気分を整えると今日最も致命的な一撃を放った。

「こんなに多くの空気銃を作ったのに狩猟など考えたことはないのか？」

「い、たまにウサギくらいです」

柳景輝はこの一撃のために長時間準備したが陳帆の反応は素早く「ない、絶対にない……」

「些細なことだ。

貴方の嘘をつけるほど私は馬鹿ではない」柳景輝は不満そうに眉をひそめた

陳帆は冷や飯の残りがあるかと思いながら冷蔵庫の中を探った。

彼は叔父と狩猟に出かけたこともあり自分で試しに山で銃を使うこともあった。

山では見つかった獲物は全て射る習性だった。

狩猟を繰り返すうちに未消化の獣肉が蓄積していた

次に陳帆は自分が作った毒酒にも気付いた。

その中に鷹と蛇が入っていた。

普通の家庭でも毒蛇で酒を作るし文郷では鷹で酒を作る人もいる。

以前逮捕された人々は没収や罰金を科せられたがこの時陳帆はさらに認めざるを得なかった

柳景輝の視線の中で陳帆は意図的に堂々と告白した。

「認めるよ、鷹も狩ったし酒に漬けた」

「それ以外にも？」

「鳥も射った。

麻雀くらいだ」

「もっと考えてみよう……」

柳景輝が複数の獲物を引き出したらやっと今日の第二撃を放った。

「これらの獲物はどこで得たのか？」

陳帆は困惑しながら強いて答えた。

「文郷です」

柳景輝が目を見開いた。

「文郷にその動物は生息しているのか？」

陳帆は低く言った。

「いる」

「エボル山に行ったことは？」

「ない」陳帆は即座に首を横向けた。

この反応は明らかに前よりも激しかった

彼は次のように弁解を始めた。

「吴珑山（ごりょうさん）は自然保護区ですから、決してそこには行かないはずです。

ただ家の周辺を散歩しただけです」

柳景輝の表情が一変し、重々しい声で告げた。

「君は吴珑山に行ったことがないのか？我々はそこで君の指紋がついたミネラルウォーターのボトルを見つけたんだ」

陳帆はようやく自分が指紋で逮捕されたことを思い出し、顔色が蒼白になった。

その瞬間、脱出を試みる衝動に駆られたが、手足が縛られていることに気づいた。

背筋が凍り付くような寒気を感じながら、彼は審問室の壁に書かれた文字を見つめる。

「自白すれば減刑、抵抗すれば厳罰」

目を閉じて歯を噛み締めながら陳帆は言葉につまずいた。

「私……」

「考えた上で言ってください。

」柳景輝は陳帆の表情から彼の心理状態を探りつつ、「ここで嘘をつこうとしているようだ」

陳帆は黙り込んだ

しばらく沈黙が続いた後、柳景輝は静かに尋ねた。

「何人殺した？」

陳帆の心臓が激しく跳ね上がり、極度の不安に駆られる

「言わなければ全てを君の責任にするぞ……」

「それはダメです！」

と陳帆は悟ったように唾を飲み込みながら慎重に告げた。

「私は単なる足代の人間で、証人というよりは汚点証人みたいな存在です」

中国には汚点証人の概念がないため柳景輝は説明せずただ陳帆を見つめた「では見たものは？」

「……彼らが殺したのを」

低く震える声で陳帆は告げた。

彼もまた殺害を目撃したことによる心理的圧迫に耐えている

江遠は審問室の外で監視カメラの映像を見ながら、平静さを保ちつつペンを回していた。

その長い指先が扇のように軽やかに動く。

陳帆が「彼らが殺した」と告白する瞬間、彼の手からボールペンが落ちた。

バタッと床に音を立てた。

江遠はそれを拾い上げ立ち上がると、その時だけ心臓が元に戻った