国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0157話「凶器」

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寧台県の商業街は南京路を模倣して建設されたものだ。

当然繁栄度と規模が比例しないのは事実だが、指導者の熱意は称賛に値する。

要約すると中心部の商業街は旧来の道路を封鎖し両側の店舗を開放しつつ数棟建物を撤去して商業空間を拡張した形だ。

その間には小路や分岐点が連続しており人々の出入りを調整している。

ネット通販が県内に普及する前はこの商業街の人通り密度は省都長陽市と互角だった。

江遠らが訪れた割引店は小路と商業街の角地に位置し監視カメラ死角地帯だった。

「この犯人は監視カメラについて相当な研究をしたようだ」派出所を出た温明は眉根を寄せていた。

彼は数年間刑事として働いていたがこんな厄介な加害者には初めて遭遇した。

以前の問題は法律や手続きに関するもの、あるいは被害者の家族からの苦情や上層部からの圧力だった。

今回の犯人に対する感覚はまるでルア釣りに使う擬似餌を投げた時と同じだ。

池の中に黒鮎がいるかどうか分からないのに偽のカエルや爬虫類の動きを模倣して誘う行為そのものに違和感を感じる。

江遠は資格の高い温明をなだめながら「少なくともサンプルは確保したから他の監視映像でこの靴型の人物を探せばいい」と言った。

割引店の従業員二人が犯人の容姿について証言したが中年男性という外見では特徴が乏しく捜査に使える情報にはなり難い。

黄強民は既に画像鑑定士を申請しているが誰も期待していない。

山南省には現職の鑑定士が二人しかおらず業務量は減少傾向にある。

問題は似ているかどうかではなく犯人を特定する手段として有効かという点だ。

逆に容疑者を確保した後に画像と照合するためのツールである。

目撃者がいる場合は冗談にもならない。

白銀事件で例えるなら——この案件が全国的に有名なのは各種刑事技術を駆使しても解決できなかったからだ。

指紋は一致せずDNA鑑定では全男性データベースを作成してもヒットしなかった。

画像鑑定も同様で犯人逮捕後に比べて捜査段階では役に立たなかった。

結局解決後肃省だけで5人が一等功、12人が二等功、19人が三等功、24人が褒賞を受けた。

ある警官は生涯をこの一件に費やしたと言っても過言ではない。

もし誰かが「あの自由灯塔国の映画ドラマで画像鑑定士が凄い技を使うのはなぜ?」

と問うなら移民国家だからこそと言えるだろう。

移民国家の顔の識別度が高いからだ。



多くの小さな町々で、ある遺伝子の発現がその人物を唯一無二に特徴付けることがある。

例えば大顔面、小目尻、鼻梁の低い造形、黒髪など、その地域全体を探してもたった一人しかいないような特徴だ。

しかし画像師にとっては、遺伝子同士の融合が十分に行われている国々では仕事は容易ではない。

また、画像師の技術を育成する前の段階で、街中にカメラが設置される速度が速まってしまったことも問題だった。

自由灯台国では国民がプライバシー権を政府に譲歩したがらないため、カメラの数も限られている。

それぞれの国の事情によって警察の手法は大きく異なる。

命案に対する敬意から黄強民警部は省内の画像師を呼び寄せたが、作業の中心は依然として監視カメラの捜査にあった。

十数名の専門家が映像捜索室で業務に従事し始めた。

商業街周辺や旺河大廈周辺の監視カメラを含めると、複数日の分と異なる部署のデータを合わせれば膨大な量となる。

通常は警察画像捜査部門が存在しない場合でも、これらの映像を統合するだけでも大きな負担になる。

そのため各地で警察画像捜査部門が設置されるようになったのだ。

その最大のメリットは、各部署の監視カメラの利用権限を一元化し、無駄な内耗を減らす点だ。

画像解析技術の向上などは地方では求められず、人材も確保できない。

江遠警部補がシューズの底の溝から足跡データベースを検索しても結果が出なかったのは、犯人が店で新規購入した衣服を使用して犯罪に及んだためだ。

これは犯行目的が明確であることを示していた。

通常は個人間の因縁や情仇による殺人を考える老練な刑事たちにとっては新たな挑戦だった。

「予期せぬ殺害なら動機があるはずだ」と彼らは張り切った。

死体はまだ若い男性で社会との接触が少なかったため、家族関係に問題のある人物も限られる。

数名のベテラン刑事が現場調査を開始したが、江遠警部補はその可能性に疑問を持っていた。

「確かに計画的な殺害ではあるが、因縁や情仇による殺人を考えるような普通の人間ではない」と彼は考えていた。

少なくとも監視カメラを回避する技術を持っている点で特殊だったからだ。

街中のカメラはほとんど隠されていないため、一般人や初犯の場合は全てを避けることは不可能だが、旺河大廈では入口やロビーではなく従業員用通路を通った可能性もあった。

監視映像がないため画像解析ソフトによる補正作業もできない。

足跡や指紋は一切発見されなかった。



江遠は師匠が撮影した死体解剖の写真を何度も見直しても、何らかの手掛かりを得られなかった。

数日後には「他殺か自殺か」という疑問が再び浮上し始めた。

その頃、長陽市に送った微量証拠の第一批が返ってきた。

江遠だけでなく刑科中隊の技術員たちも集まって研究を始め、それぞれの検査報告書は革袋で封じられていた。

A4サイズの紙数枚には表やデータ、結論が記載されていた。

江遠は一枚ずつ開けて見、次々と他人に渡した。

中隊長陸建峰も革袋を開ける様子を見ながら「こんなサービスなら数百円払う価値がある」と感心していた。

微量証拠の解釈は各自が行わなければならないもので、江遠は一つの報告書を読み終えると次の人に渡した。

師匠王鐘も同じように写真を撮影しながら検査結果を見ていた。

江遠の脳裏に電気が走ったのは、ある革袋の中の結論が目に付いた時だった。

「死者の胸元から木屑が検出された」という記述に彼は指で虚しく点をつけると目を輝かせた。

陸建峰もすぐさま写真を見ながら王鐘の胸元を示し「凶器を使ったのか?」

と尋ねた。

江遠は師匠に「ここでの腫れに気づいたか?」

と質問した。

「胸のあたりだな、確かに少し膨らんでいた」と師匠が答えると、微量証拠の報告書を取り出した。

江遠は黙々と読み進めるうちに突然口走った「これって掃除用具の棒だろう」

すると一同の脳裏に光が灯り陸建峰も「そうだ!あの動画写真の靴の位置から距離を測れば……」と指差しながら説明した。

高建勝は「被害者が窓際にいる理由は?」

と疑問を投げかけた。

師匠王鐘は「金銭的動機か、何か問題があったのか、あるいはいじめられたのか」と分析し、陸建峰は「会社の他の従業員が嫌疑者だ」と推測した。

江遠は自然にその方向性を指摘して「この掃除用具の棒を見つけないと!これが凶器なんだ」



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