国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0158話「分かれ道」

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旺河ビル28階のほうき棒が押収された。

念のため27階と29階のトイレや物置からも、同様にほうきを押収した。

さらに念の念のため1階と2階のほうき、警備室専用の二本まで回収した。

凶器は殺人事件の審理で極めて重要視され、証拠連鎖の欠かせない部分だった。

手に入りそうなものは捜査機関が可能な限り押収する。

やがて28階のトイレから発生した、墜落現場に近いほうき棒は、半車分のほうき棒の中でも異彩を放った。

相当長期間慎重に保管されることになるだろう。

幸運な場合なら数十年間も残るかもしれない。

一方で新たな証拠が見つかり案件が大きく前進した。

専門捜査本部は正式に編成された。

その報告書は法務課の審査を経て、所管副局长の署名を得て初めて正式受理される。

理想は十分な手掛りがある段階での提出だ。

黄強民はほっと息を吐いた。

この案件がここまで進んだのは誰かの仕業だろうが、少なくとも人を見る目があったと評価されてもいい。

さらに頭の切れた人物が加われば、黄強民氏には先見之明があると言えるかもしれない。

元々簡易的に聴取された死者生前所属の旅行会社の同僚たちを再び呼び出し、一つずつ厳しく取り調べた。

死者がガラスに這い上がったのは金銭的動機か屈辱か脅迫か他の可能性があるが、いずれにせよ生活環境か職場環境でしか起こり得ない。

人員充足の専門捜査本部は、未整備のŠkodaに乗って死者の故郷へ出発した。

残りのメンバーは旅行会社の従業員を並べて審査する態勢を整えた。

県内の旅行会社支店に勤める小職たちがこんな光景を見たのは初めてだったため、すぐに鼻水と涙で人生の話を語り始めた。

聞き取り担当の二中隊中隊長劉文凱は出てきたときから頭が重かった。

「そっちどう?」

魏振国も隣の取調べ室から出てきたばかりだ。

「カエルが蛙をやる、醜いのに遊ぶのは花々」劉文凱は首を横に振った。

「でも大したことはない。

そっちの方はどう?」

魏振国は少し考えた後、「孔雀が野鶏をやる、美しいのに遊ぶのは醸造所」と答えた。

劉文凱は驚いた。

魏振国はただ前向きなことば遊びを考えていたのだ。

劉文凱はため息をつきながら「おまえもずいぶん余裕だね。

何か見つかったのか?」

と尋ねた。

「ええ、死者が事件発生直前に3300円現金を引き出した。

前回の聴取時に財務部長は他の人間の前で言い出せなかったんです」魏振国は劉文凱と共に小会議室へ行き、黄強民に報告した。

黄強民が魏振国の報告を聞いた途端、「現場には金は見つからなかったのか?」

と即座に質問した。



「見つかりません、死者には金がなく現場にもない」

黄強民は言った。

「それなら金は殺人犯に渡った可能性が高い。

そして死体が自らお金を取ったということは死体と殺人犯の間に関係があった……」

「高利貸!」

「回収!」

金銭という要素を考えると、脅迫という要素も加われば「暴力的回収」という言葉がすぐに浮かんでくる。

実際死者の家は借金を抱えており、死者自身もネットキャッシングに手を出していたことはずっと注目されていたが、主要な項目として扱われることはなかった。

理由は単純だ、価値がないからだ。

刑事としての経験から黄強民はネットキャッシングと高利貸について深い理解を持っていた。

暴力的回収というものは存在するものの頻繁に発生するもので、死者が借りていた金額は数万円程度でそのほとんど利息や遅延損害金によるものだった。

この金額では息苦しさはあるものの暴力的回収のレベルには達していなかった。

特に死者は異なるネットキャッシングサイトを渡り歩いて借金を繰り返していたため、電話での催促に遭う程度で暴力的回収の必要性は感じられなかった。

一方死者の家が抱えていた30万円以上の借金は兄の結婚資金や新築費用などに使われたもので、主に親戚から借りていたため暴力的回収の対象にはならなかった。

しかし現在は考える必要があった。

黄強民は考えを巡らせると命令した。

「死者が具体的にどのサイトなどで借金したか調べてリスト化し、その小さなサイトの中には意図的に返済しないものや忘れてしまったものを確認してみろ」

極めて小さい貸付業者は高い遅延損害金や違約金、手数料などにより短期間で大きな債務を生み出すことができる。

時間が経過すれば十分に暴力的回収の規模になる可能性もあった。

またある借り手は長期間にわたりネットキャッシングアプリの「穴」を利用し意図的に返済を遅らせていて、そのアプリが廃業するのを待って債務消滅を望んでいたケースもある。

黄強民は後者の可能性が高いと考えた。

なぜなら殺人という極端な行動にはならないからだ

江遠は他の技術員と共に死者のスマホを調べながら同時に信用情報と銀行口座明細をチェックした。

スマホ内のネットキャッシングアプリは一般的なもの3種類で利息が高くもともと無節操な行為だった。

信用情報は明らかに使い切られており、スマホ内にあるいくつかの銀行口座の取引履歴からは不自然な入金は見られなかった。

銀行口座明細を調べる目的はネットキャッシングアプリを探すためだった。

現代のネットキャッシングアプリはほとんどが信用報告書には載らないものが多いからだ。

もし死者のスマホ内のアプリが削除されていた場合、最も直接的な方法は銀行口座明細を調べることになる。

なぜならネットキャッシングアプリからの貸付はいずれかの銀行口座に振り込まれるからだ。

しかしより多くの銀行を探すのは困難だった。

可能ではあるものの容易ではない。

特に地方銀行の場合、警察が支店や事務所まで出向いて調査する必要がある場合もあった。

さらに一部の銀行は開設行や取扱行を指定して調査を求めるケースさえあった

四大行から地方銀行に至るまで、その数は非常に膨大だった。

黄強民が再び一隊を派遣したが、1日で有用な情報を得られなかった。

「我々も2年以上遡及調査しているが、会派催収のアプリなどはそんな長期維持できない」

胡髪だらけの劉文凱が声を荒げた。

数日間ひげを剃っていないため、その声は雄々しい狒狒のような響きだった。

「ゴリラ」は伍軍豪の代名詞だった。

「借金がないなら暴力催収も発生しない」

魏振国が手を広げて否定した。

この線が断絶すれば全証拠が途絶えるため、黄強民は眉を顰めた。

劉文凱が咳払いながら提案する。

「もしかしたら胡磊が過去に利用していたアプリで、倒産後に債権譲渡された可能性はないか?」

黄強民は既にその可能性を考慮しており、僅かに頷いた上で尋ねた。

「どうやって調べる?」

この線は調査可能だが、経済犯罪捜査本部(経偵)が担当すれば1~2ヶ月で結果が出る。

運が良ければ2週間程度で判明する可能性もある。

しかし殺人事件の場合、2週間という期間は重大な状況変化を招く。

解決率は大幅に低下する。

劉文凱も経偵の協力を得られず、眉を顰めながら「技術捜査本部(技偵)はどうか?」

警務システム内で神のような存在である技偵だが、一般的な案件では依頼されない。

手続きが煩雑で機密保持要件も厳しいからだ。

名称こそ「技術捜査」とあるものの、実際は無線技術や通信技術を扱う部署。

今回の事件なら現場の携帯電話番号リストを作成するなど可能かもしれない。

黄強民は黙考した。

本当に手がつかない場合、これも手段の一つだ。

「現金に沿って追跡はどうか?」

江遠がスマホアプリ調査で長時間思考を続けていたようだった。

黄強民が愛将を見つめ、「どうやって?」

「3300円の現金は犯人が奪った可能性が高い。

暴力催収業者ならその現金を持ち帰るのは不便だろう。

預金やホテル代金などに使うかもしれない……」

「風俗店で使う可能性もある」劉文凱が即座に補足したが、皆の視線を感じて慌てた。

「これは皆さんからの推測です。

現在は大規模な風俗業者のデータ収集システムがあるから……」

「ATMの監視カメラ映像を銀行に問い合わせる」黄強民が迅速に決断し、「ホテルの監視動画も回収する。

劉文凱は風俗店の関係者を調べろ」

全員が了承した。

何らかの手がかりがある方が良いからだ。

これが最後の最近の手がかりを追跡する機会になるだろう。

数日後にこの線を切り捨てた場合、未解決事件(積案)となる可能性が高い。

江遠は初めて案件全体に同行し、大きなプレッシャーを感じていたが、各方面で全力を尽くした。

結果はどうあれ少なくとも後悔しないようにしていた。



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