国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

文字の大きさ
215 / 776
0200

第0234話 もう一度説明 無料閲覧

しおりを挟む
一二三四「

「一、二、三、四!」

窓外の規則正しい走る音が江遠を深い眠りから覚ました。

窓際に顔を出すと、確かに無数の学生が校庭や教棟周辺、あるいは某道路を走っている。

こんな環境では睡眠なんて得られない。

江遠は清河学院のゲストハウスに宿泊したことを後悔していた。

ホテルなら昼まで寝て帰れるのに。

顔を洗い整えると、魏振国も出てきた。

彼の顔はさらに黒ずんでいた。

昨日も相当な酒量を摂ったようだ。

まだ酔っているのか、歩き方が斜めに傾いていた。

タイヤが外れた車のように。

「朝食にするか?」

江遠が声をかけた。

「食べる。

食べないと胃が痛くなるんだよ。

これだけの酒はもうやめにしないと。

知識人による勧める飲酒は、無形の殺人だぜ。



魏振国は嘆息しながら言った。

「老衡(ろうへい)の飲み方を学びたい。

帰って実践して、あの連中にやっつけてやりたいんだ。



「我々も席を立った後だから、もう老衡と呼ぶのはやめようよ。



江遠が魏振国を見た。

「あなたは謙虚さを教えるべきだと言っているのか?」

「俺は昇進を望んでいないから何も恐れない。

君だけが謹べばいいんだ。



魏振国は笑いながらも老衡の呼び方はやめた。

「食堂で朝食にするか?」

「構わないよ。



「早く行こう。

学生たちが運動会を終えたら、食堂は殺人的に混むだろう。



「そうね。



魏振国がため息をついた。

「どうして大学でこんな早朝走りがあるの?

本当にうるさいんだぜ。



「清河学院は大概(だいたい)学生を寝坊させるためか?」

江遠が言った。

「清河学院小概(たぶん)は規律に厳しい学校なんだよ。



「我々の塀は既に穴だらけなのに、規律を厳守するなんて……収容所じゃないんだぜ。



二人の会話が食堂についた頃には教師たちも食事を終えていた。

魏振国と万志遠(まんちえん)が食べ物を取ると同時に区警視庁からの電話があった。

俞雅霞(う・やすか)は包子を齧りながら受話器を取った。

「あー、はい……えー、はい……はい……」

魏振国は平常心で万志遠に「小包(ちんこ)」にタレをかけて食べさせた。

彼の顔は赤くなっていたが、万志遠がいないからこそ、思い切り食べられるのだ。

すると万志遠が電話を切った。

「泥棒の子供を捕まったぞ。



「予想通りだよ。



俞雅霞が包子を置き、「自白したのか?」

「ほぼ全額(ぜんがく)だ。

あの子は後科(こうか)のないやつだから、ちゃんと教えたんだと思う。



万志遠は緊張しながら言った。

警察官として最も嫌うのは、後科のない犯人を審問することだった。

その後の教育を通じて、そのような犯人は多くの口実を使わずに済むし、態度も素直になるのだ。

例えば「弁護士に会いたい」「電話したい」とか、「黙る権利がある」とかと主張する連中は、全てが未経験者で、大学の白痴犯人なのだ。



ふと老白が本を読み返す。

嫌疑者は逮捕後必ず弁護人に会えるし、許可があれば電話も可能だ。

沈黙権は存在するから、抵抗しつづける容疑者を見た刑事の目には屑が光る。

「彼女は動き回りすぎてるわ」

微胖の白長直少年が手を伸ばす。

「清河学院の校長の息子、魏振国です」

「あの方は校長様のお嬢さん」

魏振がふと本を閉じた。

熊小という呼び方は時代遅れだが、ウクライナ戦争で熊小が礼儀正しい表現として定着したらしい。

「江法医師と呼ぶべきでしょう」

「でも衡校長の個人顧問は『先生』でいいはずよ」

少年が自らを説明する。

「清河学院の校長の息子、魏振国です」

「あの方は校長様のお嬢さん」

魏振が江法医師と呼ぶ。

少年はバイクを押しながら話す。

「計画書に目を通した後、意見を聞かせてください。

入札に関わるため、機密保持をお願いします」

「了解です。

でもまずは昨日逮捕した『愉猴』の犯人を見に行きましょう」

俞雅霞が自転車を押しながら言う。

「あの方は校長様のお嬢さん」

「一緒に行きましょう」

二人もそれぞれ自転車を押して派出所へ向かう。

容疑者は衡瓊思と名乗る。

髪型はパンク風のサルヘアで、ちょっとした悪ガキっぽい美人だった。

刑事たちが見つめるように「世界は正義と悪に分かれているからこそ美醜も同様だわ」と言い合う。

もし容疑者がそのくらいのイケメンなら、あの男を牢屋に入れることなどなかったはずだ。

派出所で魏振が尋ねる。

「どうやって捕まったんですか」

俞雅霞も同じように訊く。

「うちでは買えるからと電話したけど誰も返事しなかった。

でも『恒猴』なら?と聞くと相手はホテルの番号を教えてくれたわ」

刑事たちが得意げに笑う。

「複雑な手口だけど、そこまで気付いたのは素人さんだね」

ふと、俞雅(ウ・ヤ)と万志遠(マン・チエン)が褒め称えたことで、担当警部は鼻を膨らませながらも、二人を監視室に誘い、審査ビデオの前半部分を再生させた。

画面外では衡瓊思(ヘン・テウシン)が、急に元気になったように叫んだ。

「あなたが告発するなら、私が野生のヘンコウモンキを買い取ったことで立功になるのか?」

「はい。

」と即答した。

画面外の警部補は威厳を保ちながらも、監視室にいる警部補はチンパンジーのような表情で笑み、「その場合は、私がヘンコウモンキの取引が違法であることを知っていたことになるね」と付け足す。

監視室外の警察官たちは納得したように微笑んだ。

画面外では衡瓊思が続けた。

「あなたが建元社の袁語堂(ユエン・ゴタン)董事を告発するなら、私が密かに野生ヘンコウモンキを買い取った。

国定七等保護動物であるヘンコウモンキは一万円で購入し、十数万円と虚偽報告して社に売りつけた。

その差額は私だけの儲けだった!」

警部補が頷く。

「彼はあなたに売らなかったのか?」

衡瓊思は歯を食いしばって答えた。

「売りましたよ。



「何回ですか?」

「二度です。



「それぞれ何匹ですか?」

「一度一匹、一度二匹です。



「その手口を詳しく説明してください。



警部補の要求に応じて衡瓊思は、二度の野生モンキ取引の詳細を全て告白した後、「あなたが立功になるのは間違いないでしょう?」

と確認する。

「当然です」と即答。

警部補の口調には少しだけ残念そうなニュアンスがあった。

衡瓊思は満足げに尋ねた。

「『当然』とはどういう意味ですか?つまり……」

「彼が興奮しているのでしょう。



警部補はため息をつき、「袁語堂はまだ死んでいないからです。

しかし、その二件については詳しく説明してもらわなければなりません……」と続けた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

処理中です...