国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0251話 説得

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解剖室で江遠は飽き切っていた。

これだけ長く骨を見てきたにもかかわらず、見つけてきた手がかりが活用できないことに苛立ちを覚えた。

考えてみればこの事件が始まって以来、発見された手がかりは決して少なくない。

だが犯人を絞り込む距離は一向に縮まらない。

その一方で犯人の反偵察能力が高いことを示し、同時に犯行回数が増える可能性があると指摘する声もあれば、捜査陣の士気を落とす要因にもなっている。

特に江遠の落ち込みはより深刻だ。

この事件を解決したいという思いは極めて強い。

理由は柳景輝がまだ行方不明であるからだ。

彼が失踪した時間が長ければ長いほど、見つかる可能性は低くなる。

これは誰も口に出せない事実だった。

かつての事件では江遠には勝ち目がないことにはなかった。

県域レベルでは圧倒的なスキルを持っていたため、積年の未解決事件でも彼の手にかかれば必ず突破口が開けた。

しかし今回は容赦ない。

解決しなければならないし、速やかに解決する必要がある。

だがどうしても進まない。

江遠はもう骨を見たくない。

直感的に感じるのは、証拠王が提供した証拠が不足しているということだった。

解剖室で働いている同僚たちの背中を眺めながら、江遠は王藍に声をかけた。

「王姐、方金郷に行ってみたいんだ」

「黄隊長から呼び出されてるんじゃない?」

王藍は自然とそう推測した。

「いや、ただ飽き切ったから外に出たいんだよ」江遠の答えは直截だった。

警官としての地位が上がってきたことで、若い頃のような気を遣う必要はなくなったようだ。

王藍も江遠の直属の上司ではないため、その要求に応じて笑みを浮かべた。

「煮いた骨の匂いが消えたから嫌になったんだろ。

外に出るのもいいんじゃない? あとはグループチャットで連絡して」

「了解だ。

また煮た骨が出たら呼び出せよ」江遠は警官グループにメッセージを送った。

【@黄強民 黄隊長、僕が方金郷に向かいます】

黄強民の返信:

【見に来ていいぜ。

どうやって来るんだ? 新車も君に貸したぜ】

江遠の返答:

【車を借りて行くよ】

清河市は江永新の新たな戦場だ。

彼のレンタカー会社には高級車が数多くある。

江遠はグループチャットから離れてメッセージを送り、車が到着する頃には服も変えられるだろう。

再びグループを見ると黄強民が発言していた:

【よし。

見つからない場合はタクシーで来ればいいぜ。

領収書で請求して】

するとたちまちコメントが飛び交った。

劉文凱:【黄隊長、僕も領収書を請求したい!】

魏振国:【黄隊長、僕も!】

伍軍豪:【黄隊長~】

【伍軍豪は既にグループから退出】

黄強民の返信:

【誰が紫峰警官局以外の人間を入れた? 領収書を請求したい人は直接私に来て】

「寧台紫峰警官グループ」は突然静かになった。

まるで何事もなかったように。

江遠はスマートフォンを閉じ、王藍に笑みを浮かべてシャワー室に向かった。

その後服を着替えて出た。



臭い死体の衣服を干す場合、洗濯する前に一昼夜放置しておくと消臭効果が高まる。

新規購入した洋服はクローゼットに収納する際、必ずビニール袋で隔離するのが理想だ。

清河市の解剖室の施設レベルでは、上位クラスの法医学解剖室には独立洗面所と更衣室が完備されている。

これらは検死結果を明確にするというより、法医学者の快適性向上に寄与する設備と言える。

外に出ると、ジャガー・ランドローバーがちょうど到着したところだった。

運転手はドアロックをしっかり施し、周囲を見張るような表情でこちらを見ていた。

「ドン」という音が二度聞こえた。

江遠が窓ガラスに手を叩いた瞬間、運転手の体が突然硬直した。

彼はその姿勢を維持しつつも、再び手を叩くとまたしても身体が緩み始めた。

この繰り返しを見ていた江遠は、運転手の反応に興味を持ちつつも黙って見守っていた。

やがてドアが開き、運転手が後視鏡越しに振り返った。

「お兄さん、貴方のお勤め場所は本当に変わっているわね」と言いながら、ギアを切り替えて発進した。

その際に「ごめんなさい」と笑みを見せた。

江遠は後席でリラックスして座り、「あなたが人間を怖がるのは分かるけど、幽霊ならどうかしら? 殯館の死者は生前から体調不良や病気を持っていたり、高齢者が多いわ。

そういう幽霊と比べて、凶悪な死因で亡くなった者の幽霊ほど恐ろしいものはないでしょう」と説明した。

運転手が車内灯を点けつつ、たまにヘッドライトを照らす動作を繰り返していた。

ジャガー・ランドローバーは方金郷へと到着した。

この集落は紫峰町よりもさらに貧しい印象で、道路沿いには二階建ての建物が零星に並んでいたが、ほとんどがシャッターが下ろされた状態だった。

中身があるかどうかも分からない様子だ。

しかしメインストリートを背後にすれば、広大な土地が延々と続き、自宅や庭園が点在しているエリアがあった。

江遠は黄強民の元へ向かって降り立ち、「黄さん、手伝いますよ」と笑顔で言った。

黄強民は「本来は貴方に休んで欲しかったんだ…でもやはり魏さんと一緒の方がいいわね」と言いながら、魏振国を呼び寄せた。

魏振国が江遠に笑みを浮かべて頷いた。

捜査時には江遠の存在がありがたいと感じていたようだ。

一方で黄強民との共働は「意志力を消耗する」ものらしい。

江遠が魏振国の隣に近づき、低い声で尋ねた。

「バイクの調査はまだ進行中ですか?」

「はい」と返事した魏振国は、「現在可能な限り全てのバイクを特定している最中です。

ただ犯人が最後に犯罪を行ったのは二三年前のことでしょうから、その間バイクを売却したり引っ越したりしていたら、追跡が困難になるわね」と付け加えた。

「それだけでも調べるべきです」江遠は断言した。

黄強民はスマートフォンの画面を見ながらも、「本当に? とても自信があるんですね」と尋ねた。



江遠は車内でずっと考えていたが、すぐに口を開いた。

「まず一つ断定すべきだ。

犯人は紫峰山周辺にいるはずだ。

そうでなければ柳課長たちの行方不明は説明できないからね」

黄強民が「うむ」と頷く。

「だから犯人の最後の手口は二三年前ではなく九日前。

その前の一件は一ヶ月前だ。

もし犯人の行動パターンに変化がないなら、少なくとも一ヶ月間でバイクを使い回したということになる。

江遠は指を折りながら説明する。

魏振国も頷いた。

紫峰山はみんなが登っているから、車を使わずに歩いていくのは本当に疲れるだろう。

「柳課長たちが運転していたピックアップトラックも見当たらない。

犯人はどこかに隠しやしたはずだ。

でも少なくとも一つ分かるのは、犯人が運転できるということ。

つまり免許を持っている可能性が高い」

徐泰寧は専門のチームを車探しに派遣し、各隊に最新情報を毎日提供しているが、未だに車の行方不明で、その事実自体が犯人が紫峰山を熟知していることを示していた。

こう考える根拠は、画像捜査班が主要な交差点の映像を九日間調べた結果、柳景輝たちの車を見つけることはできなかったからだ。

ほぼ否定できるという結論だった。

江遠は四号の死体源で発見した二種類の鋸痕について説明し、さらに強調した。

「私の見立てでは犯人は使い捨てのように簡単に変えているんだ。

一本の鋸が壊れたからではなく、そして新しい鋸を使った部分は非常に細かい切り口になっている……もし条件が整わないとすれば、ここまで小さく切る必要などないはずだ」

「手がかりはあるのに犯人を捕まえられないのは本当に苛つい」黄強民も少し不満そうにため息をつく。

捜査の回数が増えれば増えるほど、その効果は非常に大きい。

通常、嫌疑者に近づけば様々な手段で発見できるのだ。

単に証拠物を押収するだけでなく、刑事が犯人を見つめているだけで「犯罪臭」を感じ取ることもあった。

戦時中には特殊訓練を受けたスパイですら逃れられないものだ。

現代の社会は確かに緩和されているが、嫌疑者の訓練レベルはあまりにも低い。

多くの手がかりと人員を投入しているのに犯人を見つけられないほどに、刑事たちの中では特に精明な者ほど不快感を感じている。

柳景輝もその日同じような考えを持っていたかもしれない。

何かの手がかりがあったのかもしれない。

「あと一つあるんだ……」江遠は黄強民を見つめながら言った。

「犯人が捜査や捜索に協力している人々の中に混ざっている可能性がある」

それが江遠が現地に来た理由だった。

電話では話せないような内容もあるからだ。

黄強民はため息をつく。

「徐課長も調べさせているし、私も方金郷で注意している。

少なくとも住民登録などからは見つかっていない」

「疑わしいリストがあれば方金郷と照合してみる。

バイクの所有者や免許を持っている人との比較も……」

「その手は動いているよ」黄強民が答えた。



「バイクに絞った方がいいんじゃないか、特に方金郷内をじっくり調べられる」

「うむ……」黄強民はためらいがちだった。

殺人事件、特に未解決の連続殺人事件の捜査では手がかりは尽きない。

問題はどの手がかりに絞るべきかだ。

江遠が提示した鋸口の手がかりだが、黄強民にはまだ不十分だと感じていた。

客観的な証拠が少なすぎ、推測の部分が多い。

方金郷周辺数キロメートル内にバイクを絞り込むのか、再捜査するか。

黄強民は決断できなかった。

江遠は真剣に言い張った。

「黄隊長、今は土を掘り返すまで探すべきです。

人員が足りないなら僕も同行します」

「じゃあ老魏と一緒に行ってくれ」黄強民は江遠の判断力を信頼していた。

歯噛みしながら決断した。

再捜査すれば説得作業は倍増するだろう。

警官だけでなく住民にも負担がかかる。

(本章終)

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