国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0260話 喜び

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織物の表面は凹凸不揃いだが、実際には繊維自体に粒子性があると理解できる。

指紋はまず繊維上の粒子に分配され、その後抽出される。

粒子は丸みを帯びている。

したがって織物に残された指紋は粒子への圧着によって形成され、抽出された指紋は二度目の圧着で得られる。

明らかに両者の表面像は異なるため、細部の情報損失が発生する。

完全な指紋には影響しないが、欠片状の指紋の場合、何らかの補完が必要となる。

江遠は昨日一日、粒子化した指紋を再構築し繊維単位の粒子と照合する試みに没頭していた。

この画像強化技術は専門家でも日常的に行わない高度なものだ。

「まあ、殺人犯めっけな」などと考えながら。

江遠がお茶を淹れながら三年前の高級パソコンで指紋データを処理し始めたのは朝の七時だった。

一通り処理後画像調整して再実行。

時間はブラシブラシと刻まれる。

心の流れから抜け出したときには既に午前一点、腹が鳴いた。

「超大判卵焼きならもう一時間くらいか」

「食事に行きましょうか?」

吴軍が江遠が作業を止めたのを見計らって尋ねた。

「お弁当持ってきた。

あとで温めればいい」江遠は父が作った手掴み飯を持参していた。

隣家の十三叔が殺した山羊から一塊と一本の腿を送ってくれた。

その肉は生食なら香ばしく、温めた方が美味しく、小菜数本添えると職場で昼食に最適だ。

「先に食事に行きます」吴軍は立ち上がり外に出た。

江遠は顔を上げずに指紋解析を続けた。

午後の半分が経過した頃、吴軍が戻ってきて報告。

「万主任が来られました。

黄隊長と張局が対応しています」

張局は刑事部の副局長で黄強民の直属上司だ。

この事件の展開から推測すれば、彼は黄強民から奪った肉片をさらに切り取ろうとしている。

「黄隊長はどうおっしゃいましたか?」

と江遠が尋ねた。

「『順調ですか?不都合があれば定金でもいいし、もう少し時間をかけて』と言っています。

順調なら提出前に再確認して電話で連絡するようにとの指示です」

「ちょうど良い。

ほぼ完成しました」

そう言いながら江遠はスマホを取り黄強民に電話をかけた。

水を飲む隙に。

黄強民が受話器を取ったのは数分後だった。

「喂、江遠、順調ですか?」

「はい。

ただこの種の指紋は犯人を捕まえた後に再確認した方が確実です」

「ははは、その通りだよ。

急がないでね。

もう少しだけ待って」

黄強民の声には明らかに楽しさが滲んでいた。

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肉腸が脂で光り出す頃、家から持ってきたトマトの薄切りと生菜を手に取る。

生菜にトマト片と肉腸を包み、卵灌まんに生菜を巻き込み酸味のキュウリスライスを数枚挿し込むことで、中西折衷の究極的な朝食が完成する。

江遠は卵灌まんを両手で掴み、狼吞虎咽と頬張り始めた。

彼にとってこれは非常に儀式的な朝食であり、一気にこれだけ食べてしまうということは、今日一日で何とか大仕事に取り組む覚悟があることを意味する。

「殺人犯一名の処刑だろ」

ドンと鍵が開けられると同時に室内から煙の匂いが漂ってきた。

吴軍は即座にドアを閉じロックした。

中を見れば江遠が焼肉グリルを使っていることを確認し、安堵の息を吐く。

「また死体かと思った」

「長陽市の刑事科学センターへ指紋鑑定依頼だ」

卵灌まんを食べながら幸福感に浸る江遠。

職場で核心技術を握っている利点は、環境を快適に保てるということ。

ちょっとしたテクニックがあれば至福の状態を作り出せる。

例えば国営企業の事務員のようなベスト例だ。

組織内事情に詳しく、全ての業務フローを熟知し、(本章未完!)

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