国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0289話 江村の監視カメラ

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二百八十九章 江村監視

政治部の要請で江遠ら警官と被害者家族が記念撮影し、一緒に感謝の旗を掲げた後、江遠は帰宅したくない気持ちに駆られる。

スマホを取り出し旅行地の動画アプリを開き、父親に電話。

「おやじ、旅行どう?」

と尋ねる。

「よし、どこへ行く?」

一人で酒を飲みながらキッチンにいた江富鎮が即答する。

「広夏だ。

チケットは私が買うから、長陽まで来てくれないか」

「分かった」江富鎮はすぐに出発準備を始める。

強舅に連絡し花婶に肉の調理と配達を頼み、エレファが待つ地下駐車場へ向かう。

夕方には江遠父子は広夏行き直行機に乗っていた。

「どうして急に旅行したんだ?仕事で不満があるのか?」

父親はスリッパを履き足元に毛布を掛けながら息子と会話する。

水で喉を潤やせた江遠が続ける。

「仕事は順調だ。

積年の事件を解決し殺人犯を逮捕したんだ。

被害者の家族に連絡したら、夫と息子が大泣きしてた」

江遠が首を横に振る。

「私は以前ほとんど被害者家族とは会わなかったからね……」

父親が肩を叩いてため息をつく。

彼は慰めるのが苦手で、金以外には特別なスキルを持たない。

エンジン音が弱まるにつれ江遠は安心して眠り込んだ。

連日広夏で適当に観光し食べ歩きする日々が続いた。

満足した後二人は帰路につく。

江遠も寧台県に戻る。

自宅前には高い街灯のそばに雲梯を組んだ作業員が監視カメラ設置中だった。

「防犯カメラ工事か?」

江遠はV3の技術防犯知識で即座に判断する。

父親が頷く。

「高速道路まで延伸させるらしい。

今後は自転車泥棒も減るだろう」

「そんなことまで知ってるのか?」

江遠が驚く。

「永新から聞いたんだ。

彼は店を二つ経営しつつ電動自転車も販売しているからね」父親は笑顔で雲梯の脇を通る。

江遠は真剣に見ていた。

監視システムの基盤となるのはカメラ設置だ。

理論上カメラが多ければ効果が高い。

しかし一般人が考えるような「一つのカメラで広範囲をカバーする」イメージとは異なり、実際のカメラは単一機能のものが多い。

遠くを見られるものは細部まで見えないし、高所から撮影したものは手元の状況が不明瞭になる。

全方位無死角の監視都市を作るのは非常に難しいのだ。

例えば北京西駅には1200台のカメラがあるが、そのシステムの複雑さは言うまでもなく、それらの映像を読み解くのにどれだけの人間と時間を要するのか?

もしそれらの映像を保存するだけで見る人がいないなら、その価値は大きく低下する。

寧台県はそんな大規模な監視システムには程遠い。

重点防御こそが唯一の選択肢なのだ。



ふーん、これも江遠が売り出した外地からの支援品だ。

寧台県の財政力だけで三二年はこんな大量の資源を配分できないだろう。

「今年の寧台県警察採用試験は楽だったね」江遠は自分が受験した時の情景を回想し、舌打ちしたくなるほど感心していた。

「これだけの大規模な監視カメラシステムなら、少なくとも『画像捜査中隊』が必要だ。

それこそが最低限の運用体制なんだ」

「でも効果的に活用するには『画像捜査大隊』が必要かもしれないよ」江遠は続けた。

「県警レベルの大隊規模ではないけど、通常配置で二三個中隊に内勤組織を加えれば五〇人から七八〇人の人員で全县の監視システムを十分活用できる」

これが現在警察署のトレンドだ。

刑事大隊の規模は縮小し、代わりに特警大隊・巡警大隊・サイバー犯罪対策大隊・画像捜査大隊が拡充されている。

電気詐欺事件だけでも新規発生件数の半分を占めている。

多くの電気詐欺事件が国外に関連しているため県市レベルでは処理できない場合、サイバー犯罪対策大隊は少なくとも刑事大隊並みに拡充すべきだ。

「これらのカメラがあれば捜査が簡単になるだろうね」江富町は息子が警察官になったことで思考パターンを変えたようだった。

「強舅さん、マンションの玄関と車庫も強化して。

もっと安全にしないと」

江遠は笑って答えた。

「まあね。

でも計画的な犯罪なら他の場所でやればいいさ。

例えば最近の殺人事件は個人住宅が最多だよ」

「あとで強舅さんに管理組合の玄関を強化させろ、車庫ももっと安全にしないと」江富町はぞっとするような不安を感じていた。

「俺は金持ち過ぎるからね、危険人物のターゲットになるのは当然だ」

江遠は頷いた。

帰宅後にはわざわざ二匹のドーベルマン用に犬専用ご飯を作った。

安全面では自動化設備よりも猛犬の方が優れている場合もあるのだ。

獲物を捕まえた時の情熱度は最初から変わらない。

強舅が「俺も彼らのために食べ物を作るんだ……この二匹の野郎……」とぼやくと江遠は慰めた。

「運の問題だよ」

「でも以前に君が作った犬のご飯は本当に美味しかった……その前の話だけどね、確かに美味しいけどここまで反応するほどではなかった……」強舅は犬の喜びを理解できていなかった。

江遠は笑いながら話を変えた。

「強舅さん、前から教えてもらった柔術を最近練習してみた。

また試合しよう」

「構わないよ」強舅は袖で口元を拭き、厚手のヨガマットを敷いた。

二人が組み手を始めた。

三〇分後江遠は全身痛めつけられ動きができなくなった。

「まあまあね。

敵に遭ったら冷静にすれば、一般の小悪党なら傷つけられないよ」

「それは不武装の場合だな?」

強舅が確認した。

「武装している場合も?」

**

「ネットの動画は見たのか?逃げればいいんだよ」強舅が言ったあと、さらに付け加えた。

「危険を感じたらスチールロッドを持ち歩くとか、武器があるかいないかで全然違う。

できるなら仲間と一緒に行動するといい。

相手に銃があっても弾数を考えてやる」

江富町は眉をひそめて訊ねた「警備会社を雇うのはどうだ?」

「警察の身分じゃなくて、うちの村にも監視システムを作ろうよ」江遠は以前から考えていた案を提示した。

「清河学院よりは江村小区の方が難易度が低いかもしれない」

江富町は無関心そうに訊いた「警備室を作って監視するようなものか?」

「それより複雑だ。

俺たちは警備会社を作ろうと思う」

強舅が驚いて訊ねた「既存の会社を頼まないのか?」

江富町と江遠は同時に首を横に振った。

江村小区は本当に裕福で、外人に全村の警備を任せたら誰も安心できない。

その夜。

江富町は一頭の羊を煮て、いくつかの海鮮料理を作り、三叔五叔ら平輩の江村人を呼び寄せた。

江村では確かに几位の長老が実権を握る。

しかし本当に動くのは江富町世代だった。

江富町と数名の兄弟や従兄弟たちと話し合った後、その後の進め方は簡単になった。

次の二日間、江富町は複数回羊を食べながら仲間たちと会食し、村民総会を開いた。

江村では日常的に総会が開かれる。

駐車場の賃貸や家屋の賃貸、祖霊祭の費用など巨額な金額に関わる事柄も、総会で決めるのが効率的だった。

しかし本当に動くときは県のように入札や企業選定はせず、江富町たちが話し合った通りに施工業者を呼ぶだけ。

結果として進捗速度は県の監視システムよりも遥かに速かった。

特に警備会社の設立では、県より8倍も早く人材を募集できた。

約一週間後、江遠は新築された「江村警備監視室」で、新たに入社した6名の若い顔を見た。



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