国民の監察医（こくみんのかんさつい）

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第0290話 人請け

「項庚、君がこの監視システムの使い方を披露してくれないか」

叔父は犬を連れて中年不良のような恰好で監視室をうろうろと歩き回っていた。

その串本（雪貂？）の足元からも鼻高々な態度で、まるで二文銭にも値しないような気分だった。

項庚は痩せた若い男で指先が黄色く煙草臭い不快な匂いをまとっている。

叔父の呼びかけに笑みを浮かべて監視台に座り「現在システム全体が完成していませんから、皆さんに見せるのは監視範囲だけです」

彼は一二三四とボタンを押し回転ジョイスティックを操作しながら江村小区の玄関前裏庭の様子を見せた。

同来した中年農民たちが重々しく「これからのことだから、勝手に近づかないようにしなきゃ」と口々に言う。

叔父は笑って「大丈夫だよ。

項庚はうちの娘婿の息子だから四女の甥っ子さ」

皆が「あー」と頷くと表情がほぐれた。

叔父は続けた「項庚、このシステムで撮影された我々の動画は不適切なものは全て削除するように。

自分たちだけでなく村人全員も同様に扱うのはどうか？」

叔父が周囲を見回すと皆が頷いた。

項庚は苦々しく「それが難しいんです。

このシステムで動画を消去するのは手間ですし、全員のデータを削除すれば監視の意味もなくなってしまいます」

彼はその任務に耐えられないという意思を示していた。

疲れるだけでなく危険な作業だからだ。

叔父が眉根を寄せ「うちの庭でのことも全て記録されるんだぞ」

項庚は黙って頷きながらうなずいた。

「お前たちの中に動画削除できる人間は？」

叔父が他の五人に尋ねた。

彼らは互いに見合わせて首を横に振った。

単発で消すのは簡単でも全員のデータを消去するなんて……住民全員が監視対象ならカメラを止める方が楽だ。

項庚が「叔父さん、このシステムを設置する前から自分たちが撮影されるとは考えていなかったんですか？」

と切り出した。

叔父は眉をひそめて「こんな高度な技術のことなど想像もできなかった」

項庚は途端に言葉に詰まった。

江遠（※江村の人物）は咳払いしながら「三さん、主に何が心配なんですか？」

叔父は質問されると眉根をさらに寄せて左右を見回してから低い声で「我々の村民会議が間もなく行われるんだ……」

「提案があるぞ」江遠は即座に切り出した。

「このシステムの監視方向を変えればいい。

簡単な作業だ。

小区中心の広場、活動センターの隣辺りをカメラが向いているものは全て角度を調整して……」

江遠は話し終わる前にシステム上で操作を始めてしまった。

あるカメラには制限をかけたが無理だったものもある。

その場合はそのままこちら側に向いていたので江遠は番号をメモし後で作業員に撤去させることになった。

項庚は最初驚き、全く理解できなかったがようやく「三さん、このシステムを作ったのは江遠君なんですか？」

彼は単なる監視工事の見回り役だと思っていたのに文字通りその人物だったとは思っていなかったのだ。



項ヶんらたちが単に操作するだけの江遠の技術は、テレビをリモコンで変えている最中に電気修理屋さんが入ってきたようなものだった。

彼らがやっていることと江遠がやっていることは全く別の行為だ。

江遠がほぼ完成させた後、安全区域の範囲を三叔らに説明しながら作業を続けた。

三叔は理解した様子で何度も頷き「そうそう、そういうことよ。

自分たち同士には手が出せないんだから危険すぎるわ……」と満足げに言った。

江遠が笑みを浮かべて答えた。

「あとで誰かに緑の線を塗ってもらうようにするわ。

その線の外側は監視カメラがあるエリア、内側は緑区や議会区域になるわ。

選挙について話し合っているなら撮影されないから問題ないわね……そうすれば不正競争も防げるわ」

「あらそう！ 議会圏よ」と三叔が大喜びで周囲に頷きを振った。

項ヶんらはようやく悟り、笑って言った。

「おじさん、今年はあなた番でしょう？」

「そんなの分からないもの。

ただ今年は積極的に動こうと思ってるわ」三叔も笑いながら続けた。

「項ヶんは江遠にしっかり学べ。

このシステムは彼が仕組んだのよ。

頭がいいのよね」

「ハイ」と項ヶんが即座に頷いた。

江遠の先ほどの操作を見ただけで、その監視システムの達人ぶりが分かると悟ったのだ。

さらに江村の人間である江遠は権限者扱いだが、項ヶんは半親戚とはいえ江村ではない。

「これから六人が三交代制で監視と巡回を担当するわ。

これは『江村セキュリティ監視室』の基本機能よ」項ヶんが三叔らに説明しつつ同僚にも事情を説明した。

これこそが江富町が聞いた「江村セキュリティ監視室」の本質だった。

江富町はさらに続けた。

「あなたたちが以前監視業務に携わっていたから最初に採用したのよ。

その後も村で数人採用し、さらに増やしていく予定よ」

江富町が他の面々を見回して言った。

「セキュリティというのは結局勇気と決断が必要なのよ。

我々は全村の安全を守るという責任があるから油断はできないわ……」

全員が頷いた。

本当に金持ちは本当に安全感を求めているのだ。

翌日、監視カメラ設置会社の人が来て新たな調整を行った。

三叔らが満足した後、江村の老一軒である大伯や二伯たちも監視室に訪れ、監視設備の運用状況をチェックし6名の警備員を励ました。

その後は江村の人々が頻繁に訪れて見物するようになった。

その騒ぎが収まったのは三日四日後だった。

また全村選挙で高得票を得て、江遠と江富町が安保委員会委員に就任した。

三人で監視室や全村の警備業務を管理・維持することになったのだ。

「江村セキュリティ監視室」はようやく軌道に乗った。

記念すべき日として、江遠が数人を連れて最近一週間分の新規監視映像を再チェックした。

その中で物品紛失一件（返還）という報告があった。



発見！電動自転車強盗事件が2件発生——江村の監視システムを構築したのは地元住民だが、県庁も同様に防犯カメラを設置している。

それでも小規模な犯罪集団は手を休めることなく活動を続ける。

「手を休めれば生活費が賄えない——どうやって暮らすのか」

江遠は「江村セキュリティ監視室」の席に座り、2件の電動自転車強盗事件の容疑者の顔写真を共有画面に表示した。

「さてどうするか？」

項庚が江遠から渡された煙草を鼻先で嗅ぎながらスクリーンを見つめる。

彼は普通学校出身だが就職時には金盾社に入り、開発中のマンションの警備員として兼業監視業務も経験した。

長時間監視室に勤務するうちに自ら技術を磨き、江村が新設したセキュリティ会社の噂を聞きつけて転職してきた。

「顔認識システムは？」

項庚が共有画面の人間認証機能を指摘する。

「難しいよ。

こんな小規模な事件は諦めよう」

「じゃあ指紋採取はどうか？」

「でも犯人は手袋を着用しているだろう」

項庚が頭をかく。

「監視カメラで彼らが手袋なしの状態で触れた物を探せばいいかもしれない」

江遠が笑いながら共有画面の写真を寧台強盗グループチャットに送信した。

「どなたかこの犯人をご存知ですか？　江村管理組合の監視カメラで電動自転車強盗を撮影。

被害者は所有証明書を持っています」

すぐに複数の返信が入る。

南二環【連絡してみよう】

六隊李靖【探偵よ、左側の男は知っている。

江遠に映像を見せてから逮捕に行く】

侵財小王【右側は私が担当する。

江村エリアは私の専門だ。

江遠さん、3000円程度の1年未満使用車両です】

寧台江遠【7000円超の2年未満車両です】

侵財小王【失礼しました。

江村の電動自転車は3000円とは言えませんよ】

南二環【羨ましい！私は15日間も犯人を見かけない。

彼らが現れるのは本当に嬉しい】

六隊李靖【今後さらに減少するでしょう。

捕獲を楽しんでください】

六隊魏振国【私が入社した頃、師匠は「警備員は生涯の仕事だ」と言いました。

ある地域では凶悪犯罪がない地域でも放火事件が発生しない地域でも必ず窃盗犯は存在すると言います。

まさか一生をかけても捕まえきれないとは……】

江遠が笑いながら映像を送信しスマホを片付け、項庚らを見やる。

彼らは監視カメラの追跡で自ら混乱させてしまっていた。



「よし、両方の強盗は主が決まったから、いずれかが行くだろう。

警察が原始データを要求してきたら渡せばいい」江遠は項庚にそう告げた。

彼自身も笑い飛ばすつもりはないようだった。

「監視カメラで指紋を見つけられたら理想的だ」

項庚は即座に頷いた「お任せください、必ず一生懸命練習します」

「分かりました。

そろそろ帰ります」江遠が立ち上がりかけた時、江村の伝統を思い出し口を開いた。

「この二件解決したら皆1000円の手当が出る。

今後も監視で犯人を逮捕した場合、強盗一人につき500円ずつ」

項庚の目が輝いた「それでは遠慮なく頂きます。

また捕まえたらお渡しします」

「構わないよ」江遠は項庚の積極性に少々心配になった。

「お金が必要ですか？」

「そこまでではないですが、使う場面が多いんです」

「結婚してたり恋人と出費が大きいのか？」

「いいや……まだ独身です。

彼女もそれほど贅沢しないんですが、三人で比べ合って何か買うと三つ買わないと不満なんですよ」項庚はためらいながら弱々しく告げた

江遠は黙り込んだ。

「必要な時は直接連絡して。

監視室には恋人を連れてこないでください、一人でもダメです」

（えんべん）→音訳：えんべん

（こうきん）→音訳：こうきん