国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0351話 出撃

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谷旗市公安局。

夕焼けの赤い残照が厚い雲を透かすように染め上げていた。

高長江の一言で、これまで静かだった市局の庭園はたちまち沸き立った。

数百人の警察官たちはどこから現れたのか、楼上から地下から隙間から次々と姿を見せ、装備一式を整えて庭園に並び始めた。

作戦服に防弾ベストを着込み、腰に拳銃を下げた高長江は、黒い炎のように下方を見据えながら言った。

「五歳未満の子供四人。

中央部委が名指しで指定した案件だ。

各省庁の関係者が懸念と催促を重ねている。

この事件の重要性は説明する必要はないだろう。

ここに任務配分を行う。

受けた単位や個人は勝ち取り合いはせず、引き下がることなく、困難も犠牲も恐れず、全力で遂行せよ。

天からナイフが降りても、仲間の死体を踏みしめながらでも、必ず成し遂げろ!」

高長江の手に握られたマイクから響き渡るその声は、透き通るほどに力強く、命令の中に荒々しい勢いがあった。

「お二人方は普段からこんな調子なのですか?」

と江遠が両側を見回しながら董冰に尋ねた。

「小規模な事件ならそうしないけど、大規模案件となると高局はこうなるのよ」董冰はささやいた。

江遠は「あー」と短く返し、現代の警備組織では「犠牲を恐れず」というスローガンが少なくなっていることに思いを馳せた。

この高長江という局長は、案件分析時には普通の警察官長のような、少し弱々しい面も見せる人物だと思っていたが、出撃準備に入った途端に意気軒高で力が倍増していた。

武夏は江遠の思考を読み取り、35年間親戚の家で過ごしたような経験から得た勘で軽く笑った。

「高局は元々国境警備隊出身なんです」

「なるほど」江遠が納得して頷き、市局の刑事たちが一列に並んで任務を受領し、戦場へと向かっていった。

最新の情報は次から次へと流れ込んでくる。

「犯人の携帯電話番号を特定しました。

こちらに送信します」

「複数人物の微信アカウントも確認済みです」

「彼らの次の目的地は省境を越えて、興豊省新明郷の高速出口でしょう。

そこが彼らの拠点と思われます」

「この組織の総勢30人程度で、首謀者についてはまだ不明……」

犯罪組織は未知の孤島のように、位置や座標が分からない限り長い運命と偶然の探索が必要だが、その孤島に到達し登陸した途端には情報が安価かつ豊富になる。

次なる課題は、その孤島を奪還しつつ可能な限り多くの成果を得ることか、あるいは汚い実体を葬り去ることかだった。

江遠と数名の専門家たちは報告を受けながら資料を確認する段階に移ったが、30人規模という組織の規模が伝わるとやっと僅かな関心を示した。

「これは中規模組織で全国的に活動している可能性が高い。

過去の事件との関連調査も継続すべきでしょう」張献が経験豊富に提案した。



江遠がうなずくと、それだけで説明する必要もなかった。

牧志洋らはすぐに動き出した。

隣接の谷旗市警の刑事たちも同様に捜索を開始した。

江遠自身も事件を前にして平静になれない。

90年代は誘拐が多発期で、省庁が全国規模の4回の誘拐防止キャンペーンを実施。

2000年頃には件数が激減し、年間約2000件にまで減少した。

しかし07年以降再び増加傾向にある。

現在の誘拐団体は規模拡大傾向で、売買の連鎖も長くなり、複数回転売が一般的になっている。

犯人同士の連絡は単線化し、専門性が向上している。

江遠にとって、利欲と罰則の低さは相互に作用する要因だ。

誘拐団体のメンバーはほぼ全員が低学歴・低所得で女性が多い。

刑務所出所後は就職困難。

都市部では清掃や家事代行にも犯罪歴がない証明が必要だが、彼らには技術レベルも高くない。

残る仕事は農業か個人事業主。

後者は創業に近いが容易ではない。

再教育を受けた元誘拐犯たちは、依然として誘拐で金儲けする方が手っ取り早いと気づく。

特に子供誘拐はコストがほとんどなく、車券や宿泊費程度の費用で数万円を得られる。

かつての専制権力下で服役した元犯人たちは犯罪再開を決意すれば組織の要職に就き、数名いれば十数人乃至数十人の大規模団体を形成できる。

00年の誘拐熱が終息し07年に再燃するまで、そのような幹部が潜伏していた可能性は否定できない。

「彼らの顔写真があれば捜査が容易です」江遠は画像追跡専門の王主任を見やった。

「動画があれば人物特定は簡単なはずです」

王主任は笑みを浮かべた。

彼の専門は犯人や誰でもない人物の行動パターンを追跡することであり、電子番犬のような存在だ。

この作業は映画作品では当たり前のように描かれるが現実には不可能。

カメラの死角や故障機械、未設置区域があるからだ。

さらに異なる管轄区域のカメラを一つのシステムに統合する技術的・権限上の問題も大きい。

結局車両追跡すら専門家が必要で、人物追跡はさらに困難だ。

「後日手伝う」江遠が王主任に一言告げた。

他のメンバーからまとめられたSNS情報を見つめるのだった。

王主任は「了解」と短く返し、特に驚きも示さなかった。



江遠は痕跡鑑定に確かに優れていた、驚異的なほどだが、画像解析においてその能力がどれほどの価値を持つのか疑問だった。

真の「観察者」としては董冰のような人物を好むのだ。

王主任を一旦解放し、江遠は犯人たちのチャット内容を探り始めた。

携帯電話やアカウントを特定すれば、警察が即座にバックアップサーバーからデータを入手できる。

捜査の核心は有用な情報を見つけることだ。

例えば犯罪組織が外食アプリで注文した場合、配達先住所から居住地を特定したり、あるいは...

抽出された情報は膨大だが、実用的なものは現場に送り、更なる調査が必要なものには別の専門家を派遣する。

省庁の案件なら資源と人員不足はない。

理論上、これらがあれば99%の事件が解決可能だ。

問題は時間と難易度にある。

王主任が最初の犯人画像を提示した瞬間、江遠は音を立てて近づいた。

やはり王主任の二人のアシスタントが頑として画像強化に没頭していた。

監視カメラ映像は環境要因で大きく劣化する。

風雨や霧など物理的影響だけでなく、画質自体も4K・1080p・240pと格差が明確だ。

設置時期の違いも重要で、古い機材を使っている地域もある。

距離も決定要因となる。

同じ解像度でも1m先の人間と100m先では質が変わる。

これらは画像強化技術で部分的に改善できる。

王主任という映像追跡の専門家が率いるチームは、その問題に特に力を入れていた。

彼の直属部下たちはコマンドラインを駆使し、フレームごとに調整するなど高度な処理を行っていた。

画像強化技術でレベル2以上のスキルを持つ技術者は超高額だ。

王主任の二人の技術員は社会人経験者で、もう一人は警校出身だが画像処理能力もレベル1.5以上だった。

この二名を維持するコストは警犬部隊に匹敵する。

江遠が弱い方の技術者の肩を叩いて「場所譲ってくれ」と言った。

彼は外部機関との折衝に慣れていた。

能力や技術格差を言葉で説明すると相手が侮辱されたと感じる場合があるが、実際に実技を見せれば冷静になる。

画像強化処理のレベル2以上の技術者は超稀少だ。

王主任のチームはその点でも突出していた。



王主任が連れてきた警犬中隊の技術員は、そのコストを三分の一に抑えたという点で戸惑いながら立ち上がった。

江遠が何を意図しているのかまだ把握できていなかったからだ。

江遠は当然のように彼の椅子に座り込み、バチバチと操作を始めた。

警犬中隊の技術員は驚きの表情を見せ、王主任を見上げた。

王主任もその様子に気づいてゆっくりと近づいた。

その頃、江遠は既に画像強化に入ったところだった。

彼は警犬用ソフトウェアのバージョンを一瞬で確認し、すぐに作業モードに入っていた。

王主任が到着した時には、江遠は既に一枚の画像を完全にクリーンアップ済みだった。

この写真はレンタカー会社から来ていたもので、駐車場の監視カメラによる記録映像だった。

画質は一般レベルで顔認証までは難しいが、人物識別にはある程度可能だった。

江遠はノイズ除去をさらに進め、顔部分まで拡大した。

「これでいいですか?」

王主任に近づいてきたのを見て、礼儀正しく尋ねた。

王主任は画像処理の専門家としてその技術を見極め、パソコン前に身を乗り出した。

江遠を見る目が優しいものになった。

「画像強化もできるのか?」

「まあ少しはできますよ」と答えた江遠は、意図的にコマンドラインを開き、一連の関数を手打ちした——実際には全く必要なかったが、画像強化レベル5の能力を証明するためだった。

王主任とその二人の助手たちの表情は柔らかくなり、まるでレベル5の犬飯を食べた大壮のような雰囲気に変わった。

「この組織のメンバー全員の画像を押さえつけてみよう」と江遠は、海賊島に乗り込んだ船長のように数人の頭を点呼するように言った。

現場唯一の女性警官董冰が唐佳だけに聞こえる声で囁いた。

「寧台江遠か。

やっぱりね」

唐佳は目を合わせながら内心で思った——どこにそんな可愛い口調を使う女警がいるだろう

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