国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

文字の大きさ
331 / 776
0300

第0359話 正確性

しおりを挟む
王伝星が四名の隊員を集め、五人揃って一台の車で赤雍市へ向かった。

翌日の未明、一行はホテルに到着した。

再びぼんやりと数時間眠り、完全に明けた頃、王伝星は事前に連絡を取っていた赤雍市公安局の刑事袁贲(えんぺん)に電話を掛けた。

袁贲とは孟成標を通じて知り合ったが、両者の間には深い親密度はなく、業務上の付き合い程度だった。

天下の警察一家という言葉通り、長年刑事をしていると厚い電話帳ができるものだ。

しかし袁贲も王伝星らを特別に扱うつもりはなく、若い外地の刑事たちが捜査するならそれで良いと考えた。

週に数回ある類似のケースもあり、特に珍しいことではなかった。

王伝星らも過度な要求はせず、事前に作成した計画書に基づき、まず広告噴絵会社から調べ始めた。

印刷店よりも規模が大きく専門的な広告噴絵会社は、噴絵機や燻印機、裁断機といった大型機械を所有しており、これらは偽造紙幣の製造にも利用可能だった。

現代の技術水準では、多くの都市でその分野の専門家が関連資料を得れば、偽造紙幣を作成できる。

特に防偽度の低い20元紙幣の場合、9割程度の精度なら難易度は高くない。

さらに進むと、半製品を購入すれば9.9割の類似度も達成可能だが、その場合はより明確な痕跡が残る。

王伝星はまず最近にエプソンR330プリンターを購入した店舗を探し始めた。

偽造紙幣には必要な機械は限られているが、燻印機や裁断機など大型機械は既存の店舗にある場合が多い。

ただし印刷機は改造が必要で、一台では1万枚(20万元分)を印刷するのに時間がかかりすぎるため、犯罪者は複数台を改造するのが一般的だ。

R330は価格も安く、多くの偽造犯が複数台を一斉に改造し、大量の偽造紙幣を作成して収益を回収しようとする傾向があった。

王伝星がリストを作成しながら広告噴絵会社を訪ねたが、連続して何軒も見つからなかった。

副席の陳山(ちんさん)が焦り気味に言った。

「王さん、荷物の追跡を手伝うか?」

王伝星は答えた。

「貴方の見解では犯人は赤雍市にいない?」

「荷物は赤雍市発送ですが、現地で発送するなら危険すぎますよ。

」陳山が考えながら言った。

「もし私が犯人なら、車に積んで周辺都市から発送したでしょう。



「能有多大区别?」

「赤雍市周辺の都市はそれほど大きくないから、赤雍市より周辺で探す方が効率的だろ」

王伝星が言う。

「道中で偽造紙幣を積んでいたら危険すぎやしないか」

「でも可能性はあるんじゃないか。

陳山が言う。

「柳課長の推理は空疎に感じて、どこか不安定さがある気がするんだよ」

「でも大抵は当たってるし、今回は江隊が文書鑑定をしたんだから」王伝星が説明する。

「犯人は自分が使ったプリンターを知らないかもしれないけど、それも判別できるんだろ」

「まあそうかもね。

陳山は王伝星より少し頭の回る犯人像を想像してるんだろうけど、それほど差はないんじゃないかな」

「現代なら偽造で儲けるなんて、知性が限界まで使えないからさ。

ちょっと賢い連中なら、暗黙に指南書を売る方が金になるんだよ」

「到着したぞ」王伝星が車を白い工場の前に停めた。

「独立した建物、二階建て、偉豪プリント広告社。

何かあるみたいだね」陳山がコメントし、降りた。

後部座席の刑事ふたりは自動的に裏側に回った。

王伝星らがインターホンを鳴らすと、しばらくしてドアを開けた男が「誰ですか?」

と聞く。

「警察です」と証明書を見せる。

「社長さんはいますか?入ってもいいですか?」

「私です」男の目つきに慌てが見えた。

王伝星たちがその視線を察知し、一人がそっと前に進み寄った。

男は特殊な体術で脱出する以外には逃げられない構図だ。

「中に入りましょう」と確認した瞬間から態度が変わらなかった。

数人が押し入ると、半透明の仕切り越しに愛普生プリンターが作動しているのが見えた。

警官がすぐそばに行った。

「あの…ここは入れないんですが」男が夢中で叫んだ。

その時、先頭の刑事が左手を上げた。

「動くな」王伝星と同僚が男を制した。

「結構な金額だね」捕まった男を見た刑事がため息をつく。

王伝星が男を押さえながら後半間を見ると、八台のプリンターがカタカタ音を立てていた。

床には紙箱が積まれ、20円札の束が転がっていた。

「あれは何か?」

王伝星が指した。

「映画用の小道具です……」男が低く言った。

王伝星は鼻で笑った。

「貴社の人間はどうなってるんですか?他の人はどうなったんですか?」

「みんな辞めちゃって、儲けも入らないから給料も払えない。

従業員が次々に辞めていったけど、私は残るしかなかった……」男は話すうちに本音が出た。

王伝星は鼻を鳴らした。

「商売が厳しくても偽造の理由にはならねーだろ」「俺…そんなことはしてないんだよ」と男は言い訳する。

「染料、未完成品の偽札、収入記録……」王伝星が口走った。

「説明できたら帰るぜ」

袁警部補が驚きを隠せなかった。

「これだけの量か!? 一体どうやって?」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

処理中です...