国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0377話 結局監視が全てを背負う

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江遠が画面を覗いている間に、牧志洋はなぜか落ち着きがなくなり始めた。

「数百人の映像から一人を見つけた」という成果自体が画期的だった。

二日間かけて見つけた唯一の人物が事件解決に直接つながる可能性があるのだ。

牧志洋は自分が何らかの形で貢献したと感じていた。

現在の積案班ではそれが難しいことだ。

特に同僚たちを見れば、都市部から来たエリート集団であることは明らかだった。

彼らの探偵活動は些細な動きさえも難儀なものだった。

しかし実際には容易でもなかった。

画面内の「一号」は氷棺の中の死体とは異なる点があった。

斑紋や金鎖・腕時計がなく、シャツのデザインと髪型に僅かな違いがあったのだ。

牧志洋がその一瞬を捉えたことは相当な眼力だった。

「同じ人物だ」と江遠は歩き方で判断した。

現在の身分認証技術では歩行パターン認識が主流である。

国内の大規模空港や新幹線駅での人間検知システムも同様に歩く姿勢を採用している。

柳景輝も近づいてきてノートに車両ナンバーを記録した。

「この車を発見し、運転手と所有者を連行して質問せよ。

こんな人物が無関係に客駅に現れるはずがない」

「行きましょう」と高玉燕と董冰はチームを組んだ。

最近の積案班では未遂犯の捜査しかなく、彼らも新たな位置付けを探っていた。

江遠が同意し、「車も連行して調べろ」と指示した。

「了解です」二人は声を揃えた。

「一号は荷主だ」と柳景輝が情報を得て分析を始めた。

「寧台県の客駅から毒物を送り出した可能性が高い。

二号が一号を殺害した動機は奪財か人質か?」

経験豊富な孟成標は「奪財なら荷物がないはずだ」と指摘した。

「正に、奪財目的なら一号のネックレスと腕時計も奪われている筈だ。

つまり二号被害者は最初から一号を殺害するためだった」

柳景輝が続けた。

「二号は薬物中毒者で脱毒からは外せない。

殺人は薬物絡みの内部抗争か?」

唐佳が質問した「なぜ認識していたのか?」

「彼らが薬物取引に関わっているとは知らなかったからだ。

深夜三時、バーに座る薬物密輸者なら、知らない人物が近づいてきた場合、直ちに警戒し立ち上がるはずだ。

当然冷静な硬漢で即殺害される可能性も否定はしないが…」

「装いを立てるだけで死ぬのが面白いんだよ」申耀偉は最後の映像を感じ取り、くすっと笑った。

「解剖検査から冷静な硬漢の可能性は低いと判断した。

俺が直接解剖した遺体で、今回は現行犯として初めて解剖したため、通常の死後解剖より多くの情報を得た自信がある。

『007のような人物でも、他人が入ってきたら筋肉は緊張するはずだ』と言いたいところだが、即時殺害された上に心臓を刺されていても、その状態から見れば、相手と会った時点で相当リラックスしていたと推測できる」

江遠の解剖結果を根拠に柳景輝は推理がスムーズになった。

「つまり一号と二号は知り合いで、一号がバーで飲んでいた。

バーテンダーがドアを開けた後帰宅した。

その後二号が訪ねてきて会ったのだろう。

二人は約束していた可能性が高いが、二号が意図せず一号を刺し、さらに自殺するという流れだ。

問題は二号が即座に自殺した点にある」

誰も口を開かなかった。

推理に関して柳景輝の頭脳は群を抜いていた。

「つまり二号が一号を刺し、その後自殺した場合、主導権は二号側で、一号は被害者として動いていた可能性が高い。

通常の наркотик 輸送という状況だったかもしれない」

孟成標が無音で笑った。

「正常な наркотик 輸送」という表現に彼の笑点を刺激されたようだ。

柳景輝の頭脳は高速回転中だが、言葉の修正にはまだ手間取っている。

一方、さらに推測する余地はなかった。

新たな証拠は一号が наркотик を運んでいたことを示すものでさえも、高玉燕らに確認が必要な段階だった。

二人の死体間に起こったことだけでは不十分だ。

「現在はこのnarco輸送網を追跡するしかない」柳景輝は思考を断ち切って結論を出した。

江遠が頷くと、周囲の手配りが始まった。

人貨分離型 наркотик 輸送は確かに先進的だが、天頂星技術ではない。

主に荷物持ちの保護と法的な価値を高めるもので、発見確率を減らすわけではない。

つまり輸送ルートは調査可能だ。

二時間後。

高玉燕と董冰がバス運転手を連れて戻ってきた。

運転手は冷静に审讯室に入った。

事実を述べるだけの姿勢だった。

「知らない猪も知っている時代だ」運転手はグループチャットで類似事件を聞いたことはあった。

現状では警察がバス内に無主のnarcoを見つけた場合、運転手や客運会社への処分例はほとんどない。

法律的には「事実上知らない」ということで、関与していない限りは質問程度だ。

寧台警備局もこの運転手を逮捕するつもりはなく、高玉燕らは詳細を可能な限り尋ねた。

すぐに新たな情報が江遠の事件資料に並んだ。



**死者一号は荷物を運んで駅に預け、ドライバーがそれを荷物室に入れるという方法で死亡した。

その過程には自らの仲間が一切関わっていない。

「彼らは既に手順を確立しているようだ」柳景輝も初めてこの種の事件に関わることで眉をひそめた。

江遠は眉を寄せ、「監視調査を続けろ」と指示した。

即戦力としての警察官たちは、証拠がない場合でも監視調査を行うのが習性だった。

柳景輝はそれを理解できず黙り込んだ。

「死者一号が駅に現れた時間帯は把握している。

彼を特定して、その後数日間の行動範囲と接触者を探ればいいんじゃないか」江遠は寧台県の監視システムに自信を持ち、新しく体系化されたシステムは繁華街でも有効だと考えていた。

柳景輝はためらった。

「これだけでは結果が出ないかもしれない」

「出なくても構わない。

別の方法を考えるんだ」江遠は柳景輝が反論しないのを見計らいスマホで指示を出した。

彼がこれまで解決した事件から悟ったのは、特に難易度が高い事件ほど資源を浪費する必要があるということだった。

節約志向の結果、案件未解決で全ての資源が無駄になるのだ。

柳景輝は省庁勤務ゆえ各地域との連携が必要な立場で、常にコスト削減と効率化を考える傾向があった。

江遠のような自由気儘さとは対照的だった。

最終決定権は寧台県警にあり、江遠が資源も使う立場だった。

新たな監視調査が始まった。

前回より規模は小さく、十数人が会議室で作業を始めた。

ハードウェアは揃っていた。

持ち込まれたモニターとテレビ画面は大きいものを選び、人員配置もほぼ同じ。

牧志洋だけが早めに呼ばれて中央の席に座り、前回と同じパソコンを使っていた。

調査の出発点は牧志洋が最初の被害者を発見した時間と場所だった。

監視カメラはその人物の移動に合わせて追跡するように設定された。

言うほど簡単ではなく、カメラの映像自体が断続的であるため、被害者が反偵察策を取らなくとも自然な空白が生じる。

テレビドラマのような連続追跡は京沪圏外ではほぼ不可能だった。

過去の優秀メンバーたちはジャンプ技術で対応した。

監視自体が断続的なら、移動方向や時間に基づいて先方のカメラに直接飛び移り再ロックする方法だ。

理論的には単純だが実際は複雑で、多くの人手が必要だった。

結局、死者一号死亡前日、バー街の交差点で二号と遭遇した映像が得られた。

二人の顔には驚きと動揺があった。

交差点のカメラ画質では口元までは判別できなかったが、多くの想像を喚起するものだった。

「死体同士の歴史的出会いだ」柳景輝は画面を見ながらつぶやいた。



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