国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0472話 最終日

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「黄局、柳課長、江隊長、まずは焦がずにどうぞ。

まだ石庭県に着いたばかりで休憩も取れていないではありませんか。

仕事はいつでもできますが、まずはご飯を食べ、一杯お飲みになろうではありませんか」白健より厚い顔皮を持たない局長は、口先の強さも白健ほどではなかったため、早速雰囲気を和らげ始めた。

副局長もすぐに合わせて「場所は既に確保済みで、時間もちょうど良い……」と付け加えた。

「我々石庭県の正陽楼は非常に有名です。

この地には大族が集まる歴史があり、石姓の家々が数百年にわたり住んでいます。

正陽楼と言えば、百年続く料理店ですよ……」局長が正陽楼を紹介する際、同時に食事場所も変更していた。

元々予定されていた場所は、局長にとって不適切だった。

石庭県の正陽楼は観光地として知られ、通常は公務員が利用しない高級店である。

費用がかさむだけでなく他の幹部と遭遇する可能性もあり、現在の節約三公の精神にも反する。

しかし朝に起こった予期せぬ出来事の後、局長は元々選定したホテルが不適切だと悟り、石庭県庁の熱意を示すなら正陽楼しかないと判断したのだ。

副局長はその意図を察知しスマホを取り出し場所変更の指示を出した。

江遠と柳景輝らも軽く断わってから従順に従った。

白大隊長が数秒ためらい「私は再捜査班を残して馬家庄で捜索に行きます……」と言いかけると

「構わない。

」局長は即座に同意した、死んだ子犬も少しは頭を使うようになったと思ったようだ。

皆が白大隊長を置いて正陽楼へ向かう中、局長はさらに電話をかけ正陽楼の料理長に調理を依頼した。

厨房の料理人が法医と同様重要なのは技術である。

正陽楼の料理人は数十年間名を馳せていたが県外には出ていない。

石庭県では異常に強い影響力を持っている。

正陽楼で最も有名な料理、そして最も伝統的な料理は「石蛙」だ。

百年ほど前の石家人が何を食べていたかは不明だが、正陽楼が石家に戻った後、最も有名な料理となったのは石蛙の調理法だった。

石蛙は山珍と呼ばれるが普通のカエルとは異なる。

肉刺を持つ体で蛇を捕食するという特徴がある。

現代人の口には、清潔な水質の中でしか生息しないため養殖者に死なせてしまうほど高貴な肉質で、価格も高い。

調理法は非常にシンプルで、炒め物、煮込み、最も人気の辛味が特徴的な料理など、どれをとっても美味だった。

江遠も満足げに食べていた。

寧台でも石庭県の特色として手に入りはするが、正陽楼の料理人が作るものは確かに法医のような名声は高くないが調理技術が高い。

辛味で風味を損なわず、鮮やかな食感を保つという点で完璧だった。



江遠は満足そうに食事を終えた。

ビジネス上の飲み会を嫌っていたため、気分が乗っていると牧志洋に指示した。

「パッドとノートパソコンを持ってこい。

いくつかの案件を選んでみよう」

以前は慎重だった彼もLV3スキルを持つ今では突破口を見つけるのが容易だった。

寧台県で犯罪組織を壊滅させた実績があるため、新規事件ではなく未解決案件に手を出す必要があった。

「由衷の賞賛」を得るためには規模を大きくするべきだ。

石庭県警の幹部たちがスキル獲得に目を向けている以上、彼らの個人的な考えなど問題外だった。

牧志洋は黙って江遠の指示通りに機器を持ってきた。

満腹になった江遠はその場でファイルを開き始めた。

幹部たちは不快そうに酒を止めた。

システム表示を見るとタスク進行率335/Xとあった。

石庭県警の士気低下が顕著だった。

「コーヒーを」とサービス係に頼み、ヘッドホンを被りスクリーンを見つめる江遠。

黄強民は不自然な笑い声で切り抜けた。

「我々のやり方なら分かる。

技術畑だから考え方の違いがあるだけだ」

「当然だろう」などと受け流す会話が続いた。

実際には彼らもスキル獲得に危機感を抱いていた。

黄強民が積極的に敬酒することで雰囲気が和解した。

江遠は事情を知りつつも無視していた。

スキルが増えたことで捜査効率が向上し、技術者としての人間関係への興味は薄れた。

一方で彼の気分はより放恣に。

高知層の社会的疎外感は安全な環境下での跋扈を意味した。

「どうせやるなら自分のやりたいようにする」低IQ表現こそが彼らの特徴だった。

不安定な時代か経済的に苦しい場合でも笑顔で対応する必要があるが、江遠のような技術者ならば「気分次第で行動できる」という自由を享受していた。

死体を見たいなら見せて欲しいと要求し、人間関係に煩わされるのが嫌いなのはより高度な快楽だった。

彼はノートパソコンを開き特殊案件を選んだ。



本地の山体崩壊で旧清県時代の墓穴が露出したが、その後の発掘調査では二具の遺骨が確認され、そのうち一具は新鮮な骨格を保ち、明らかに元の墓とは関係ないものだった。

「ある意味、既存の墓穴を利用するのは賢明な手だ。

新たな墓を作るのは時間と労力を要し、痕跡も残りやすいからね。

例えば、既存の墓なら掘削時間を短縮でき、同時に再開発されるリスクも軽減できる」

「確かにそうだが、問題は逆に存在する。

その墓穴を知っている人物が限られるため、容疑者の範囲が絞り込まれる。

捜査本部にとっては致命的な弱点だ」

石庭県警の法医検死官たちは、この点を活かしきれていないようだった。

遺体の身元特定という段階で既に壁にぶつかった。

「大丈夫だよ」江遠は黄強民が一息入れたタイミングを見計らってPADを手渡した。

「これ見て」

黄強民は画像を見て驚きの声を上げ、慌てて酒を飲み込んで平静を取り戻す。

「次回からは名前だけでいい。

写真は不要だよ」

「了解」江遠は自分のグラスに注ぎながら満足そうに笑った。

石庭県警の連中もようやく江遠の性格を掴んだのか、無理やりな距離取りを止め、黄強民と密談を始めた。

黄強民の要求額は高かったが、江遠の実力を考えれば妥当だった。

酒盛りする者、蛙料理を食べる者、遺体鑑定をする者、価格交渉する者——各自が得るものを得て、穏やかな一日が始まった。

しかし、誰かにとってはこれが最後の平和な日かもしれない。



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