国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0546話 植物DNA

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五百四十六章 植物DNA

独身の裕福な外国人男性が連行された後、ポン・キドウはその背中を見つめながら一気に気を冷やした。

三日間で夏休みの宿題を全部終わらせたような疲れ切った様子で、話す元気がなく、何をするにも動けない表情だった。

「どうしたんだ?」

江遠は彼の状態に気づき、心配そうに尋ねた。

まだ勉強中だ。

止めるわけにはいかない。

しかし体調がここまで悪化しているのは問題だ。

ポン・キドウは風紀を緩めた。

シャツのボタンを開け放ち、「準備ができていないだけさ」と前置きした。

「何を準備するんだ?」

江遠は笑みを浮かべた。

ポン・キドウはこれまで逮捕してきた犯人たちを思い出し、同じように笑った。

「確かにね」

江遠が牧志洋に目配りし、彼を慰めるよう促す。

牧志洋は「弾丸を防ぐならまだ慣れているけど」とためらう。

しかし相手を励ますのは初めてのことだ。

「ポンドー大隊長、事件解決したら夜ごとカラオケに行きましょうよ」牧志洋が提案した。

ポン・キドウは苦々しい表情。

「こんな程度の解決なら送検で成立するとは言えない。

外国人関与の場合、検察側の証拠要求は厳しいから、追加捜査を命じられる可能性もある」

そう言いながら江遠を見やった。

江遠は頭を下げて調査前の準備に取り掛かり、まるで彼の言葉を聞こえていないかのように無関心だった。

ポン・キドウは直ちに尋ねた。

「江隊長、確実な証拠が取れると思う?」

江遠は「法医学植物学ならある程度勉強したよね。

君たちが得た証拠で確実なものとは何か?」

と反問した。

ポン・キドウは驚いた。

「質問したのは私だろ?どうして逆に聞かれるの?答えようか」

頭皮が痒くなってきた…帰宅したらシャンプーを変えないと…

「単なる植物証拠だけなら定罪は難しいんじゃないかな」ポン・キドウは長い間考えて答えた。

「なぜ?」

江遠が反問した。

ポン・キドウは「法医学植物学という分野自体、国内ではまだあまり知られていない。

花粉のサンプルを証拠にする場合、専門的な説明が必要だろうし…」

「確かに可能性があるね」江遠は頷いた。

司法システムは新しい技術を受け入れるのが極めて遅い。

成熟した技術だけに偏る傾向があり、技術への不信感や全てに対する不信感がその理由とも取れる。

DNAのように既に広く応用されているものでも、導入まで十数年かかったし、様々な検証と妥協の末にようやく実現した。

録音証拠などは未だに議論が続いているし、コンピュータ関連の証拠認定も遅れがちで、例えば微信メッセージのようなものは捜査段階では一般的だが、法廷での検証手続きは複雑だ。

ポン・キドウは江遠から否定的な答えを期待していたが、彼も同じようなことを言ったため、一気に暗い表情になった。



「まずは現場検証から始めよう。

ただ、取り調べの際には一つ提案がある」江遠は整った服装でサンプルを採取しながら言った。

「取り調べでは植物のDNAから話を始めるのがいい」

「植物のDNAと言えば……」ポンキチオが一瞬ためらいながら声を潜め、「同じような種類の植物のDNAって、たくさんあるんじゃないですか?」

江遠は舌打ちをしてポンキチオを見直した。

「士は三日にまたとならぬ」という言葉を口にした。

「へへ……おれたちがどれだけ頑張ったか、覚えているわけないだろ」ポンキチオは頭をかいた。

なぜ江遠が教えてくれるのか分からないが、感謝の気持ちでいっぱいだった。

自分が一時的に保護された野生の鴨子のように、餌を差し出す人には、口では言えないほど何度も「ありがとう」と心の中で繰り返していた。

もし餌を強制されるのが遅ければ、その回数はさらに増えるだろう。

牧志洋が目を見開いて驚きながら、「ポンキチオ隊長は何を言っているんですか?私は全然分かりません」

江遠はポンキチオに視線を向けた。

「ポンキチオ、説明してみてくれ」

ポンキチオは言葉を選んで整理した。

「植物の繁殖には必ずしも有性生殖とは限らない。

無性生殖を行う種類も多いからね。

例えば広大な柳の群落を調べてDNAを採取しても、すべて同じ個体かもしれない。

バラやポテト、ヤナギ、リンゴなどは同様だ。

さらに花粉が飛ぶ距離などの要素も考慮すると、単一の植物のDNAで『来た』と証明するのは難しい」

江遠は頷き、ポンキチオの発言に満足した。

「まだ改善点はあるが、短期間でここまで来ているのは立派だ」

ポンキチオも達成感を感じて自然と言葉を口にした。

「現代人はDNAに慣れているからね。

100%の正確さを求めてしまうんだ。

それが現実的じゃないのに……メディアは『DNA証拠がない』と騒ぎ立て、一般の人たちはただ『DNA』という言葉だけを知っている」

ポンキチオが悟りの目を開いたように、「君は採取した花粉すべてにDNA鑑定をして、それを証明するつもりか?それなら適切だ。

無性生殖を行う種類とそうでないものがあるからね。

そして複数の植物のDNAが一致すれば偶然とは言えない」

「それに……」江遠が付け加えた。

「犯人が生物学を理解しているかどうかは分からないだろう。

植物のDNAと動物のDNAは異なるという知識、彼は知っているかもしれない」

ポンキチオの目が輝いた、「そうだよ!この難しさは最近夜更かしで生物の教科書を読んだからこそ分かるんだ。

昼間は七十七時間ぶっ通しで意識朦朧だったのに」

目の前の独居用別荘の持ち主は明らかに頭がおかしいが金持ちは確かだ。

「彼を騙せばいいんだよ」

「取り調べの担当者に連絡して、DNAマッチングという話を仕込んでおこう。

一般人なら『DNAで一致した』と聞くだけで白状するだろう」ポンキチオは笑みを浮かべた。

ある種の知的優越感を感じていた。

江遠も笑いながら言った。

「分かった。

彼が理解していたとしても、それこそが怖いんだよ」

花粉の分布パターンが確定したことで、複数の植物DNAと一致する結果が出た。

動物DNAほど唯一性に欠ける植物DNAでも、これだけ多くのサンプルがマッチすれば十分な証拠となるし、さらにその割合も考慮すれば問題ない。

検察官や裁判官に法医学植物学を説明するには億劫な作業だ。

口頭で証言させることが可能なら理想的だが。

江遠はその場で詳細な現地調査を開始し、大量のサンプル採取を始めた。

後庭の落ち葉堆積層から骨片を発見した際、彼は腐敗した骨や半分腐敗した骨を瞬時に識別した(Lv3法医学人類学の訓練による)。

牧志洋が「死臭と混ざり合っている」と心細くなる中、「この環境なら一人や二人程度なら問題ない」とつぶやいた。

江遠は「人体分解時間の実験場かもしれない」と推測。

人間の多くの事柄について医学倫理上の制約があるため、実験可能な法医学者は稀だ。

腐敗速度などの重要データを現地で検証するような犯行者と言えば、貴重な存在である。

牧志洋が「こんな手口も…」と途端に言葉を詰まらせた。

一方、ポンキチ(仮名)は「この一年間何をやっていたのか」と独りごちる。



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