国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0564話 死亡推定時刻

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ドン、ドン。

朝早くから青通廠の職員が二人の警官を連れて専門家マンションの前まで案内し、インターホンを押した。

「楊工場長は前の事件についてお尋ねしたいと」

職員が一言だけ説明すると、ドアが開いた。

楊工場長は退職から十年近く経つにもかかわらず、かつて勤務していた頃の恰好で、シャツをアイロンがけして袖口を捲り上げた手首には鋼鉄製の腕時計が輝いていた。

新聞紙を片手に軽く叩きながら「どうぞ」と言葉を続けた。

二人の警官は顔を見合わせて「失礼します」と言い、中に入った。

職員は笑いながら「外で待ってます」などと口走り、そのままドアを閉めた。

楊工場長のリビングルームには旧時代的な家具が並んでいた。

大きな革張りソファ、大型パネルテレビ、ソファとテレビの間に低いテーブルが置かれている...

「お茶でもどうですか」

楊工場長が尋ねた。

「いえ」

警官は手を振ると続けた。

「楊工場長、今回は京陽線三屍事件について調査に来ました。

当時の4月18日、19日のことですが、何か記憶がありますか?お話ししていただけますか」

「あれから二十年近く経つのですよ。

その日に何をしたかと聞かれても、どうしろと言うのでしょう。

貴方たちはその日何をしていたですか?」

楊工場長が首を横に振ると反問した。

先頭の警官は笑いながら「僕はまだ小学校でした」と答えた。

楊工場長が驚いてため息をつく。

「時間って流れるもんですなぁ」

「楊工場長、奥さんいらっしゃいますか?別々にお尋ねしたいことがあるのです」

「ああ、今は息子の家で孫を預かっているとさ。

それとも奥さんとの関係ですか?」

警官が楊工場長の態度を見て少しだるけたように笑いながら「当時はあなたと奥さんが一緒に散歩していたはずです。

そのことをお聞きしたいのです」と付け加えた。

単体より二人の年齢、身長、性別などを考慮し複数リストから人物を特定する方が簡単だった。

江遠は工場関係者や家族の大半の資料を持っていたが、それ以上に参考になったのは以前の捜査記録だった。

数千件にも及ぶ証言録と膨大な名簿を足跡鑑定で絞り込み、秃頭チームと青白市警から送られてきた二十数人を照合し、ようやく一家ずつ訪ね始めたのだ。

楊工場長はその裏の事情を見えなかったため呆然としていた。

「僕と妻が一緒に散歩していたなんてどうして知ったんですか。

あの頃カメラなんかあったもんじゃありませんよ」

警官が笑いながら「確かにあなたと奥さんが一緒に散歩していたはずです」と繰り返した。

楊工場長は苦労して考えた末に尋ねた。

「誰かが僕を告発したんですか?」

警官が笑い声を上げたが理由は説明せず、「まずは具体的にいつ外で散歩していたのかお答えください」と続けた。

「僕は記憶がないと言っているのに、あなた方は京陽線の三屍事件の日に鉄道沿いで人が死んだと教えてくれるんですか」

警官はまた一言だけ付け足した。



楊工場長が事情を理解したとたん、冷静さを取り戻し、言葉を選んで述べた。

「わざと隠していたわけではありません。

ただ……今は特に問題ないでしょう。

私と妻は確かにその現場を通ったのです。

しかし午後の通行でしたから、死亡時刻とは重なりません」

「その日は何か用事があったのか?」

警官が尋ねる。

「予感があったんだよ」楊工場長は続けた。

「あの頃ね、私たち夫婦は近所の市場で小さな店を開いていた。

違法ではないし、知られたくなかったからね。

その日は店を見に行ったついでに売り上げを回収しただけだ」

二人の警官が一瞬黙り込んだ。

彼らにとっては新たな状況だった。

しかし結果としては悪くない。

新しい情報や手掛かりがあるのは良いことだ。

気を取り直して質問を続けた。

---

報告書は次々と重ねられ、青白市局の事務室に送られた。

庁舎の一室が用意されたものの、依然として狭さを感じさせた。

それでも警官たちの熱気が徐々に高まっていった。

「本当に新たな手掛かりが出たんだな」

「二十年前の秘密を今さら明かすのはね」

「重要なのは、足跡で人を特定できたことだよ」

「寧台江遠の看板技だったわけだ」

隣の小部屋では張世忠も興奮していた。

刑事からサイバーパトロールに異動になって何年経ったか。

しかしやはり刑事時代の物語の方が胸騒ぎがする。

「もしかしたら本当にチャンスがあるかも」張世忠は報告書を聞きながら、少し自信を取り戻した。

彼は江遠が二十年前の行方不明者を発見できるとは思っていなかった。

まだ事件の進展にはついていないし、殺人犯への直接的な証拠もない。

しかしその出だしは驚異的だった。

「江隊長が帰ってきたぞ」会話中に警官が声を上げた。

張世忠が窓から見やると、ちょうど江遠が車から降りてきたところだった。

同乗していたのは黄強民と、私服の上級警部補だ。

すぐに江遠は相手を連れて事務室に入った。

「こちらは柳景輝警部補です」江遠が席を譲った。

張世忠はすぐ思い出したように言った。

「柳課長はよく耳にしますよ。

彼が解決した事件は我々も教材として学びました」

柳景輝は慣れた場面の冗談で笑い、尋ねた。

「成績なら江遠が隣にいるんだからどうかね。

案件はどうなっている?」

「計画通り進行中だ」江遠は車内で柳景輝に説明したように答えた。

「毎日少しずつ進めるつもりだ」

「よし、私もまずは資料を読むしかないだろう」柳景輝も特にアイデアはないようだった。

江遠は柳景輝を放ち、自分で次の一手を考え始めた。

彼の選択は……

死亡時刻判定LV6。

LV6の死亡時刻判定自体が異常な上に、さらに臨時スキル+1があれば、数学的計算なしでもLV7と分かる。

しかし江遠は正直そのLV7の技をほとんど理解していなかった。



江遠は今日の「拱卒」任務がなかったことにほっと息を吐いた。

柳景輝と残されたまま、スキルを開いて写真を見始めた。

彼が注目したのは二件目の死体写真だった。

三尸事件の最初の犠牲者と第三の犠牲者は生きて轢かれていたが、唯一二件目の犠牲者は既に死亡状態で轢かれていた。

既に死亡していたということは、それ以前に殺害されていたはずだ。

その死後経過が重要なポイントだった。

しかし通常の死体とは異なり、第二名の犠牲者は死体のまま鉄道に衝突させられていたため、死後経過の判定は非常に困難だった。

江遠が見た報告書には死後経過が20時間にも及ぶと記載されていた。

まるで「最近二日間」という文字が書き込まれたかのような幅広い範囲だった。

江遠がLV7の死後経過判定スキルを用いても、特に楽観的な結果は得られなかった。

これは明らかに超難関のケースだ。

実際、死後経過が少し長ければ例えば一週間以上であれば、死後経過の判定基準も緩やかになる。

20時間や二日程度の幅なら問題ない範囲だった。

しかし犠牲者がまだ新しい死体であるという点が難しさを増していた。

江遠は一枚一枚写真を取り出し、繰り返し観察した。

頭蓋骨が砕けた死体、散らばった腸、白い骨の端、剥がれた皮膚……など、衝撃的な光景が写っていた。

第二具の遺体が発見された際にはまだ三尸事件とは関係なかったため、最終的に火葬されてしまった。

そのため現在は写真のみが唯一の証拠だった。

もちろん死体を残していれば現在でも何らかの痕跡はあるだろうが、骨だけしか残っていないに過ぎない。

当時は法医学で骨を保存するケースも少なかった。

「どうだ?」

柳景輝もファイルを見疲れたのか、しばらく経てようやく近づいてきた。

「6時間から8時間くらいかな」江遠は写真を置きながら答えた。

「これ以上正確には出ない」

柳景輝が眉根を寄せた。

「既に相当精密な結果だ。

でも死後経過が6~8時間と、死後1日程度では大きな違いがあるんだ」

「どういうこと?」

「約50kgの遺体を鉄道に運ぶのは容易じゃない。

被害者が六七時間前に殺害された場合、犯人は一刻も早く遺体を捨てに行かねばならない。

その心理的強度……そして遺棄経路の複雑さは……」柳景輝が頬杖をついて考え込んだ。



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