国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

文字の大きさ
529 / 776
0500

第0580話 灘後村

しおりを挟む
「彼らの……浜辺村に住む人間がいるはずです。

金家の門前の石獅子と同様のものを撮影して戻ってきなさい」江遠は写真内の足跡を見ながら、その軽やかさを直感的に感じ取っていた。

現場写真を適当にめくるだけだった。

派出所が扱う小事件とはいえデジタル画像は無料で多くの警察官も恋人を持ち始めていたため撮影数はそれなりにあり画質も問題なかった。

江遠は庭や部屋の状況には興味を示さず現場は門前一帯と閉じ目で再現すると五菱宏光が朱色の門をくぐり停車した。

乗客が笑顔で降りて石獅子を指差しながら何か言い出す。

次に他の乗客も降車し皆で獅子を抱えながら写真撮影するかもしれない。

誰かの足が白い壁に乗り上げた痕跡——ナイキは足跡鑑定の初歩を教える教師のような存在だった。

その後、荷台を空けた後地面にビニール袋と缶チューハイの残骸——現在は証拠物として認識される——が残る。

彼らは会話しながら石獅子を運び始めた。

重さのため二人の足が壁際の簡易花壇に深く沈んだ。

もしこれがロックバンドの若者たちで映画を見ていたら面白い光景だが年老した四人がこの瞬間を回想するなら初恋や浮気相手との思い出としてオレンジ色の背景と共に語られるかもしれない。

残念ながら浜辺村の醜い地痞連中だった。

彼らは醜悪な容姿で——

約二十分後浜辺村からの数枚写真が王伝星の手元に届いた。

「え、石獅子を小料理店前に置いているのか」王伝星は驚きながら画面を拡大した。

「金家の店か?」

江遠は茶を飲みながらリラックスモードだった。

金家を監禁させる件は労働コストがほとんど必要ない——

王伝星はキーボードを叩きつつスマホを取り出し「確認してみよう」

各部署にはそれぞれのバックヤードシステムがあり警察側も見られない場合が多い。

解決策は多くの微信アカウントを作成することだった——

重大な事件なら担当警官が関係部署の人員を集めた微信グループを作る。

一年で作るグループ数は通常の友人リストを超えてしまう。

この点からもし誰かが海外の即時通信アプリを使っていたら情報セキュリティなど存在しない単方向透明性そのものだった——

電話と微信を交互に使い回した後王伝星が笑顔で戻ってきた「この小料理店は怪しい」

江遠と牧志洋が目を向けた。



「小さな店は李勝偉という人物の名義で登録されている。

近所の村民は単に名を借りているだけだ」王伝星が一呼吸置いて続けた。

「時間がないから、調べた中で最も奇妙なのは彼の店の煙草許可証25級であることだ。

これは明らかに異常だ」

「煙草許可証25級とは一体何本なのか?」

江遠はその数値を漠然と知っている程度だった。

「県内の場合は週に七八十条の煙草を配布するが、こんな田舎の小さな店でどうやって捌き切れるというのか」王伝星が首を横に振った。

「別の場所で売ったのか?」

牧志洋が尋ねた。

「同じく違法行為だ。

煙草許可証があるからにはその場での販売のみが許される」

「煙草局は知らないのか?」

「分からない。

もしかしたら管轄外かもしれないし、関係者なのかも。

それが問題ではない」王伝星がまた息をついて続けた。

「私の考えでは彼らは煙草を売り切したのだろう。

もし外部で販売する場所があれば、逆に煙草許可証を取得してここへ送り込む方が安全だ」

「その通りだな」牧志洋は頷いた。

「王哥、頭がいいね」

王伝星は白目を向けて言った。

江遠は自分で考える気力もなくて、王伝星の話に沿って尋ねた。

「煙草が売り切れたということは何か意味するのか?」

王伝星が笑いながら答えた。

「村でやれるのは風俗・賭博・麻薬くらいだ。

麻薬は恐らく手を出さないだろう、逆に堂々とやるなら風俗か賭博だ」

「ここも金家の財源の一つかもしれない」江遠が同意し、パソコンを見ることもなく立ち上がった。

「もう理由を探す必要はない。

この石獅子だけでも十分な証拠だ。

検察官を連れて来て、彼らが後で騒ぎ出す前に対応する必要がある。

それに記事も書ける」

江遠は以前はメディアと関わらなかった。

技術のスペシャリストとして当然の福利の一環だった。

独りでいる資格、他人から得る情緒価値を享受する資格、情緒価値を提供しない資格。

しかし最近の状況が変わった。

伍軍豪も江遠と黄強民に連累されて可哀想な姿だ。

そのため江遠は一時的に人間関係のスキルを取り出して使うことにした。

王伝星は即座に引き受けた。

この分野では彼が専門だったからだ。

……

夜明け前。

残りの金家人を送り出した派出所長湯小波は、半新のトヨタ・ブラッドに乗り込み、滩後村へ向かった。

同乗していたのは県庁から来た一名額検察官だった。

名額検察官とは独立して事件を処理できる検察官のこと。

員額制が導入された後、入額できなかった検察官や補助検察官は名額検察官のチームに従属するようになる。

名額検察官はそのチームの責任者と言える。

大都市では名額が多く、司法システム内のメンバーの文化水準も高い。

そのため名額検察官試験を突破するのは難易度が低い。

しかし県庁では名額検察官は非常に希少で、日常的に忙殺されるほど多忙だ。

出動に同行するようなことは派出所には頼めない。

その姿を見た湯小波は冗談も言わずに、「この車は素晴らしいね。

我々の派出所の古びた車とは違い、土手を登るのも苦労しない」



「好きなら後で残しておきますよ」江遠が隣に座りながら適当に言った。

湯小波は驚いて「え、それって…いいんですか?」

と訊いた。

「この車は魯陽市からの支援品だ。

刑務警察団と黄局が一緒に行き、事件を解決したんだ。

保険や点検も全て魯陽市の負担で、数年乗ったら嫌になったら返せばいいさ」江遠は明確に説明した。

湯小波は田舎の派出所にいて市況には詳しくないため「噂通りだったのか?」

と驚いた。

「何の噂?」

「黄局が各地から車を回収してきたって話だよ」

「車だけでなく警備装備や実験室、機器類も全てあるんだ。

去年の年越しに配られたサンマと果物だって黄局が警民連携で手配したんだ」

湯小波は何度も頷いた「その通りです…」

「今乗っているA6の白ナンバー車も、先月白江省での事件解決時に連行してきたんだ」江遠は明確に言った。

「黄局がいればこれらの装備は守られる」

湯小波は驚いて口を閉じた。

江遠も詳細に説明し終えたので体勢を変え前を見やった。

間もなく百斤の獅子像がある店に到着した。

店内は明るく麻雀の音が遠くからも聞こえ、多くの人々が騒いでいた。

一名の刑事が駆け寄り江遠らが降車すると報告した「賭博場で近隣の農村部からの客を対象に営業。

招待制で特情が潜入調査したが武器はなく常連客が多い。

総額約数十万円です」

「行こう」伍軍豪は防弾チョッキを着て sẵり上がった。

江遠が頷き注意を付けた「皆さんご自身の安全に気をつけてください。

カメラを準備して下さい。

各路線で優先的に撮影と写真を取ってください。

捕まえられなくても構わない、地元の人だから後でゆっくり取り締まる」

一団の刑事が店を取り囲みさらに誰かがドアに近づいた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

処理中です...