国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

文字の大きさ
531 / 776
0500

第0582話 土を掘る

しおりを挟む
「小王さん、この案件を整理して」

江遠が特定した事件の後、ざっと目を通しただけで王伝星に渡した。

派出所の事件と積案専門チームが日常的に扱う事件の最大の違いは、直截な素朴な行動が多いことだ。

犯人も派出所も非常に簡潔で、例えば江遠が最近特定した事件は全く派手さがない。

村民が暗器で打たれたというだけの事実で、彼は複数の推測を立てたが、警察が一帯を調べ回った結果、何らかの決定的な証拠は見つからなかった。

一方、被害者の足跡には明らかに泥が付着しており、そのサンプルは鑑定待ちだった。

江遠が関わってからは金家老二・老三とその妻だと判明した。

4人で1人を襲うという構図は完全に成立し、コストパフォーマンスなど全く考慮されていない。

これは地方の事件の特徴でもある。

多くの事件は解決後に何らかの手がかりがあるように見えるが、実際には本郷本土の因縁怨が数世代にわたるため、結局は知り合い同士による偶然の犯行だった場合が多い。

技術的な証拠がない限り推理だけでは、取調べのノートを一冊分書き殴ることになるし、最終的には大型の謎解きイベントのような状況になる。

王伝星たちは慣れてきたようだ。

笑顔で江遠から渡されたメモを受け取り、案件の文書作成業務にとりかかった。

派出所の事件が積み上がる理由の一つは文書作成業務が時間を取るためだが、市民の視点からは些かも無駄な時間を使うべきだ。

「金家老三がまた現れましたよ。

現在一人五件でトップです」牧志洋は余裕ぶかく言った。

あるいは暇を持て余しているのか。

金家の子供たちをランキング順に並べ始めたのだ。

「老五は最も長い刑期になるでしょう。

未成熟者への暴行事件が二件あるからね、あとには続くはずです」と唐佳は憤りの声で言った。

彼女は被害者の面会と証拠採取を行った人物だ。

今でも怒りが込み上げてくる。

農村部で学ぶ女の子たちは家庭環境が比較的貧しい場合が多く、両親は近くにいないことが多い。

祖父母だけの世話になることが多く、不良からの侵害を受けやすい。

一方暴行事件の認定は難しいものだ。

金家老五が二件の事件を確定できたのは、彼の汗で汚れた手が少女の衣服に残した汗疹を鑑定したからだった。

その結果、関連する案件が紐付けられたが、以前は別個の事件として扱われていた。

「宣伝活動も有効かもしれませんよ」王伝星が提案した。

「前に村長事件で犯人を捕まえた時は村内で宣伝して、良い効果がありました。

特に小規模な事件ならみんなが話すでしょう」

唐佳は目を輝かせて言った。

「それやろう!」

王伝星は江遠に視線を向けた。

唐佳は自然と江遠の肩に手を乗せた。

「江隊長、宣伝活動もやっちゃいましょうよ」と彼女は小声で言った。

江遠は咳払いをしてから言った。

「我々の主な目的は捜査力をアピールすることだ。

金家全滅などではないんだ」

「江さん、金家のそのお婆ちゃんは、隣家に倒した塀を理由に村の池に長期間ゴミを捨て続けたため治安上での留置中です。

家族が電話に出る人がいない状態なのにこれで滅門とは言えないでしょう?」

王伝星は金家人をかばうような口調で言ったあと、「同じ村や近隣の住民も証言を避ける傾向があります。

小さな事件でも証言がないまま成立させようとしているんです。

実際、お婆ちゃんのようなケースなら少なくとも数日間の留置は可能でしょう」

唐佳が賛同するように頷いた。

「彼らの若老や老婆たちは結婚式があれば集まって金を要求します。

少な目でも100円から多いときは500円まで、年間でどれだけ詐取しているか分かりません」

「トラック運転手にも問題がある」

「便器の通り道には必ず味見する」

専門チームは若者ばかりだが農村に詳しい人もいれば詳しくない人もいる。

でも金家の犯罪歴を3日間調べただけで誰もが気持ち悪くなる

江遠が全員の感情が同じレベルになったと判断して「それなら宣伝活動をやろう。

申耀偉、お前の仕事だ」

江遠は積案チームの中では申耀偉の組織力が最も高いと考えていた。

家学の影響もあるのか、治安事件に関する知識も金家の手口に合致していた

全員が熱心に動き出した。

最初は金家人を実験的に扱おうと思っていた江遠だが、彼らの悪行を見てからは刑法の罰則が軽すぎると思うようになった

金家人が犯す大多数の悪事は刑法適用外だが、一つ一つ取り上げればどれも普通の人間には数年間吐き気を起こさせるようなものだった。

例えば最も優しいお婆ちゃんでも便秘で溜まった便を水で分解して同村の壁や屋根にかけていた。

清掃は簡単で3日ほどで表面は綺麗になるが臭いは数ヶ月残る。

お婆ちゃん自身もその日のうちに出所していた

理想を持った若い警察官たちは汚れたものを浄化するためには自分たちの手を動かす覚悟があった

江遠は牧志洋と外に出て歩き始めた。

会議室が騒がしかったからだ

外では伍軍豪が部下を整列させている。

以前の突撃隊とは違い理塘郷派出所の若い警察官と補助員で構成された隊伍は人数こそ少ないものの士気は高かった。

伍軍豪という性格勇猛剛強な人物には独特の魅力と説得力があった。

派出所に着任した後すぐに周囲から体を鍛えたい、特殊訓練を受けたい、髪型を変えたい若者を集めていた

「任務に出る準備か?」

江遠が横にある車を見つけて尋ねた

「賭博場の摘発だ」伍軍豪はほぼ回復した様子で答えた

派出所自体もこの開設賭博場事件を重視していた

江遠が確認するように訊いた。

「現場に到着したのか?」



「墓地のほうだろ。

彼ら家はそこにお寺を建てているらしい。

誰かが人影を見たという。

ここから数キロ離れているが、一緒に行かないか?」

江遠はためらいながら手を振った。

「まあいいか。

功労を独り占めするようなことになるかもしれないし」

「分かった。

捕まえたら報告しよう」伍軍豪は勧めるのをやめた。

彼は外勤に出るのが好きだった。

汗だくになっても茶飲み話より良い。

出動した部隊も余計なことはせず、すぐに出発した。

車が坂道を駆け上がった。

間もなく伍軍豪からメッセージが来た:【捕まえた!成功!】

次に数枚の写真が送られてきた。

張恩凡はスーツを着て一基の墓前で膝をついていた。

墓周辺には不規則に植物が生えていた。

江遠はスマホを見ながら尋ねた。

「ここは全て張家のお墓か?」

「そうだ。

彼の父親もここにある」

「ビデオ通話しよう」江遠は立ちながら微信のビデオコールを発信した

伍軍豪は新しく捕まった容疑者を見せた

江遠は頷き、「そっち側に近づいてみろ、その小林の方へ」

「了解」伍軍豪はスマホを持って後方に移動した

数十メートルの距離だった。

伍軍豪は足を運び着いた。

そこには高木・低木・灌木・草本植物が混在し生物多様性が見事に表現されていた

江遠は画面を指でタップしながら「ここ……掘り返された跡がある。

正規の埋葬とは思えない」と告げたが、伍軍豪には見えないことを意識して詳細を説明した

伍軍豪は疑いながら「どうやって分かるんだ?」

江遠は続けた「掘り返された土は植物が茂りにくい。

そっち側の土地も同じ状態だ。

ちょうど一人分の長さと幅に合っている」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

処理中です...