国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0594話 包囲完了

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江遠が承諾したのを見て、谭所長はなぜか妙な興奮を覚えた。

「所」に積み上がっているのは些細な事件ばかりだが、それらもまた多くの人々に影響を与える。

ストレスと民怨が蓄積するのだ。

一方、些細な事件で他人に助けを求めるのは難しい。

指紋・足跡・DNAや携帯画像など、派出所単体では対応できないケースは、依頼が殺到して順番待ちになる。

県内で発生した何らかの事態は、必ずしも重大事件でなくても派出所に確実な影響を与える。

命を奪うような大規模事件ではなくとも、例えば男性が婚活不調から幸せそうな夫婦の飼い犬を盗み、家に連れ帰り唐辛子を食べさせた後放生し、その途中で気に入らない人物を見つけてナイフで切りつけた後に逃亡する……犯人が捕まらないうちに、県警は少なくとも二個中隊以上の出動が決まる。

専門家への依頼など日常的に派出所には存在しない。

谭靖も所長として、所の治安事件を専門家に持ち出すのは恥ずかしい。

少なくとも走馬道派出所がこれまで扱った事件は、専門家の出番が必要なレベルではないのだ。

もし江遠が理塘郷で手伝いに行かなかったら、谭靖もまた江遠の所へ行く勇気を持たなかっただろう。

しかし逆説的に考えれば、江遠以前に走馬道派出所が出動した際は、江永新が失くした自転車を江遠が発見して返してきたのだ。

谭靖が江遠を派出所に連れてきた際には、一種の鼻高々な態度で迎えた。

まるで「大王が私を巡山させた、唐僧を家に連れ帰った」というような気分だった。

走馬道派出所も独立した敷地だが、広さは極めて限られている。

駐車場には出動用の警車二台しかなく、残りのスペースは鉢植えなどで埋め尽くされ、半分のバスケットコートほどの広さで集合できる程度だ。

そのほか派出所には四階建ての本庁舎があり、宿泊施設や食堂はない。

寧台県内で見れば待遇は低いが、郊外署であるため逆に多くの人が希望する職場だった──走馬道派出所勤務なら毎日帰宅可能だが、理塘郷派出所では地元以外の者は週一回しか帰れない。

「どの資料が必要ですか? 準備させますよ」谭靖は江遠を事務室に案内し、期待の目で尋ねた。

明らかに彼も何かの話を聞いたようだ。

実際、理塘郷の事件がこんなにも早く解決したのは業界内で最も信じられなかった。

そして人々が最も関心を持ったのは、江遠がどうやってそれを成し遂げたかという詳細だった。

なぜなら、彼らは「自分も同じようにできる」と願っているからだ。

そのような事柄に関しては、当然誰も隠すまいとしないので、江遠が犯人を覚えていた足跡や指紋などは少しずつ広まっていた。

谭靖は再び江遠に来てもらいたいと思っていた。

江遠は笑って答えた。

「まずは黒导游の捜査から始めよう。

その後で検討する」

谭靖が想像したより複雑な状況だった。

現在の江遠には何らかの装備もないし、少なくとも大規模な事件解決など不可能だ。

数名の黒导游を逮捕すれば派出所の警官たちも手一杯になるだろう。



さて、手下を動かすかどうかは派出所の状況と警察官たちの協力度次第だ。

特に江遠は黄強民(※ここに適切な名前を入れる)との連携が不可欠で、区検察庁にも事情を説明し、場合によっては拘置所への通知も必要になる。

一気に大量の事件を起こすと必ずどこかで爆発するだろう。

すると谭靖(※ここに適切な名前を入れる)が黒导游に関連した多くのファイルを持ってきた。

江遠が最初から最後まで読み進めるうち、眉根が次第に寄り始めた。

四寧山の麓で農業を営む江村は長年観光業と関わってきた。

他の多くの集落と同じく資金がない限り村民たちは荷馬車運びや調理手伝い、清掃といった基本的な労働しかできなかった。

しかし土地収用後はそんな苦しい仕事から解放されたが、軽作業の席も観光客案内員や販売員、ドライバー兼店舗経営など全て国営文化観光会社が外部人材を採用する形で占められていた。

口先だけのガイドのような白領職は舌足らずな子供には到底務まらない。

この仕事と強盗とは性質が異なるとはいえ、四寧山の黒导游というのは舌禿(※ここに適切な表現を入れる)なうえに心も暗い者たちで、これほど多くの問題を引き起こしていた。

例えば複数の観光地を一気に案内し時間節約のために各所で短く済ませ、ガイドとしての義務さえ果たさず山下りを催促するような輩が典型的だ。

さらに酷いのは強制購入や言葉の暴力(※ここに適切な表現を入れる)、乗客降車を要求するなど。

また集団での脅迫や喧嘩、暴行事件も頻発し派出所はこれらに対応で最も出動が多い。

観光地関連の契約紛争や買い物トラブル、黒タクシー・黒店舗など問題はさらに多い。

江遠が眉を深くするほど四寧山は素晴らしい場所なのに、それが江家代々の住処だというのにこんな悪質な輩に汚されている。

「観光関連のガイド事件は以前どう対応していた?」

と江遠が谭靖(※ここに適切な名前を入れる)に尋ねた。

すると所長が苦しげに笑った。

「正直、ほとんど手を抜いていました。

我々は現場での問題処理が主です。

観光客からの通報があれば対応し、喧嘩や暴行があれば簡単には取り調べて仲裁したり、治安罰則の適用範囲ならそれで済ませていました」

「一時黙考した谭所長が続けた『最も厄介なのは経済紛争だ。

例えば観光客が購入した商品を返品したいと主張する場合、店側が拒否すれば我々は仲裁に赴く。

通常は一部返金で解決し、客の満足を得る。

しかし数時間かけても一件処理できないケースもある』

『中には過剰な例もあり、途中で客を捨て去る業者や携帯機器を没収して退出を阻むケースも発生する。

後者は一度だけだが、そのガイドの免許は取り上げられた』

「ため息と共に谭所長が語り出す『観光問題の責任は他部署にもあるが我々の課題は証拠確保の難しさだ。

例えば遠方からの客が来日するだけで交通費や宿泊費が発生する。

電話での聴取では不十分で、直接面会しなければならない。

再訪を求めるのは不可能だし、我々が出張に行く際の経費も問題になる」

『重大事件なら警察署でも費用は使えるが派出所には限界がある。

実際、捜査資金がないと鉄道や航空券さえ購入できない。

全国規模で聴取を行ったとしても起訴に至らないケースが多い』

「江遠が理解したように頷く『つまり貴方の考えは典型的な事件を処理し市場を脅かすことで業界全体を規制するということですね?』」

『谭所長が連続して頷いた「その通りです」』

「江遠がファイルを閉じながら答える『では我々も旅行団体に参加しましょう』」

「谭所長が驚いて声を上げた『潜入捜査ですか?』」

「瞬時に江遠の身分を考えた谭所長が慌てて否定した『危険です危険です』」

「『それほどでもないでしょう。

旅行団体なら大丈夫ですよ』」

「『しかし予期せぬ危険も…』」

「『問題ありません。

仲間を連れて行きます』江遠がスマホを取り出し決定的な態度で指示した『伝星さん、暇な隊員全員呼び出してください。

前向きに進めている事件はそのまま処理して下さい。

空いている人だけ集めてください。

突撃班のメンバーも可能な限り参加させましょう。

総数30人以内で』」

「江遠が谭所長を見ながら尋ねた『旅行団体30人いれば十分でしょう』」

「走馬道派出所には正規の警察官約30名在籍しており、その中には複数の所長クラスも含まれる」

「谭靖が真剣に頷き江遠の電話を覗きながら『潜入は危険だと申し上げた…しかし旅行団体全員が潜入員とは到底不可能です』」

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