国民の監察医（こくみんのかんさつい）

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第0691話 スクリーニング

江遠が埋蔵現場周辺で発見した参拝者の足跡そのものは珍しいものではない。

身長年齢は普通、体重もやや軽めだが千万単位の一般体重と変わりないため、老九の正体を直接示す手掛かりにはなり得ない。

しかし参拝という行為自体が多くの情報を露呈させた。

これは老九と被殺者間に感情関係があったことを意味し、恨みや情愛にせよ人間的な苦悩にせよ、この参拝行為は連続殺人事件を単なる凶悪犯罪へと引き戻した。

連続殺人の最も恐ろしい点はその反社会性にある。

無欲無求の連続殺人犯なら尚且最期の手段だが、大部分の気ままなタイプは極めて捜査困難だ。

警察が彼らの思考パターンを理解しても有効な捜査に結びつくとは限らない。

一方で情殺となるとありがたい。

一人が多くの人々と知り合いそうに見えるのは見た目だが、実際の社交の上限は鄧巴150法則通り約150人程度だ。

警察から見ればその150人全員が敵対関係にあるとは考えられない。

そのため江遠の発見を聞いた刑事たちは柳景輝に注意喚起されなくても、経験豊富な者なら十八般全ての捜査手法を思い浮かべるだろう。

陶鹿は車で現場へ向かった。

柳景輝・李浩辰・崔小虎らが同行した。

到着後一行は山道を駆け上がり、陶鹿は少し遅れて歩きながら言った。

「私は元々江遠に自由に調査させた上で資源を再配分して捜査を再開させるつもりだった。

夢にも思っていなかった老九が参拝などという行動に出るとは……今はそれが近隣住民の仕業なら無駄骨だと心配している」

「もしこれが無いにせよ社交ネットワークから調べるのは正しい方向だ」柳景輝はその毛を撫でるように言った。

「江遠が疑わしいと言っている以上可能性が高い」

横の劉晟が「近隣の村には住人が少ないし墓地もないが、確認のために人員を派遣した。

土葬する場合もあるから念のためだ」と付け加えた。

多くの地域では密葬を行うが北京では稀なことなので劉晟は万に一つでもという気持ちで対応していた。

陶鹿は頷いたこの程度の基本作業は彼が指示する必要はない。

歩きながら額に汗をかくと埋蔵現場に到着した。

警戒線が目に入り空にはドローンが飛んでいた。

これは寧台県にはない資源で正広局なら誰でも使うようなものだが県では購入しても使わないことが多い。

近づいてみると江遠は白いコートと雨靴を着用し土坑の中に立っていた。

傍らの瓶には昆虫や卵が入っている。

「遺体は搬送済みで私は簡易検査を行った。

ほぼ骨化しているが衣服の破片が残り、被害者の随身品には鍵や装飾品があり金属製が多い……参拝場所をさらに進むと警備員が待機している」

江遠は簡単に報告し陶鹿らに見せることで終わった。



陶鹿が過去の記録を確認した瞬間、胸中で安堵の息をもらした。

祭祀場所は道路内側に位置し、周囲には次生林が広がっていた。

樹木の太さから二三十年以上の樹齢と推測され、通常ならば地下墓地は存在しないだろう。

「身元確認可能か？DNAサンプルと指紋採取は？」

陶鹿が江遠を振り返り尋ねた。

「何維との被害者リストと照合する必要がある」

「DNAなら問題ないが、指紋は手の皮膚が剥離しているため採取困難だ。

鍵から採取できるかは分からない」江遠も軽口を叩きながら答えた。

「これらはLV1でもこなせる単純作業で、LV2なら完璧に」

柳景輝と李浩辰は祭祀場所を確認した後、被害者の人間関係を即座に洗い始めた。

完全なリストはないが重大な利害関係や愛憎の数は有限だ。

柳景輝は長年の刑事経験から被害者の身元を見れば複数の危険人物が浮かぶ。

一般的には該当するケースが多い。

例えば夫婦関係、借金問題、パートナー同士、不倫関係など……面倒なのは長期にわたる親密関係だが、警察は詳細まで調べない。

意図的に関わらないように仕組んだ犯人でも、重大事件では全ての親密関係を網羅調査する。

崔啓山大隊長も「俺が部下と共にこの林を一帯捜索してみるか？」

と提案した。

「よし……まあ掃除程度の作業ならいいや」陶鹿は不本意ながら同意した

江遠が解剖検査を終えたのは翌日午前だった。

午後、彼が専門チームに戻ると大会議室には長いリストが掲示され、複数人が名前を消したり星印をつけたりしていた。

「進展は？」

江遠は徐克の言葉を想起した。

「家財産が豊かすぎて調べる手間がかかる」

劉晟は汗だくながらも笑顔で答えた。

「被害者の関係者はほぼ網羅しました。

ただ確実な容疑者には至らず、いくつかの可能性をリスト化しています……」

「柳課長はどうお考えですか？」

江遠が尋ねた。

劉晟は柳景輝と李浩辰の方を見ながら続けた。

「彼らも熱心に議論中です。

異なる理論が衝突しているのでしょう」

**明白了、前に貼られたリストを見ながら尋ねた。

**

ネットで挑発するような調子の人が現実では俯瞰して話すと、犯人候補は意外に弱いものだ。

疑われている人物を順番に質問すれば、自らが嫌疑者だと気づくかもしれない。

**は首を横に振った。

「総数はまだ多い。

現在の疑いの対象者は少なくとも十数名だ。

被害者の劉治武は建築会社のプロジェクトマネージャーで、多くの案件に関わっている。

黒い目が向けられたケースも複数あり、利益関係に絡む人物も多い。

陶支の考えでは、まず何らかの証拠を確保しないと逮捕できない。

そうでないと、相手が証拠を隠すとこの事件は見苦しいものになる」

立場によって考慮する点は異なるのだ。

**の責任者自体を裏付けるのは難しい。

老九が証拠を処理し切れば、訴訟段階で大変なことになるだろう**

「足跡で絞り込んだら、残ったのは数人か？」

と江遠は尋ねた。

**は慌てて答えた。

「体重の基準を緩めることにした。

一年以上経つと体重が変わるものだからだ。

他の手段も近づいてきた」

「数人なら足跡で十分だ。

君が全員の足跡を集めてきてくれれば、一つずつ照合してみる。

同一だと判明すれば犯人の特定は可能だ」

「それってどうなんだ？**が経験した足跡鑑定の大半では対象を絞り込むだけで、同一と断定するのは極めて稀なケースだった」

江遠は頷いた。

彼は十分に休息していたのでいつでも臨時1号モードに入れる準備ができていた。

足跡鑑定の応用範囲が急激に広がった！