国民の監察医（こくみんのかんさつい）

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第0746話 収束

四体の死体を縛った直径三メートルほどの水柱が大坝から高く突き出されていた。

陶鹿は小規模ダムの湖岸に冷ややかな表情で立っていた。

青い水面を見つめながら黙然としていた。

この댐の経営権は左護法のものだった。

彼らが最初の邸宅を建設した際、その左護法とその下部組織の協力がなければ成り立たなかった。

しかし捜査では関係者から積極的に情報提供されることが少なかった。

予定調査の限界を超えるには強度を下げざるを得ない。

徐泰寧のようなトップクラスは調査項目を最適化し、地域ごとの強度も調整するが、それでも吐真剤ではないため未想定の事実まで突き詰められない。

水位が低下すると底に建築廃材が露出した。

制服警官がビデオカメラを持って三輪バイクで近づき、水中撮影を始めた。

複数箇所に人員を配置しても死角は残るため、バイクが巡回する必要があった。

複数の遺体があれば集まらない可能性もあった。

「こっちに箱がある！」

声が上がると近くの電動三輪が駆け寄った。

乗っている警官は馬乗りでバランスを取りながら見ていた。

早年道路事情が悪かった頃なら三輪バイクは便利だった。

江遠が近づくと警察官から質問された。

「遺体を運ぶ箱ですか？」

彼は首を傾げた。

「まだ距離がある。

あとで潜ってみよう」

底の水と濁りを除去するため排水ポンプが十台も作動し、大きな騒音を立てていた。

効率は悪かったが潜水探偵より安上がりだった。

法医にとっても捜査が容易になる。

岸辺の水位が下がると二人の法医がロープで引き下げられた。

防水ズボンを着て膝まで沈みながら、互いに支え合いながら近づき、箱のそばで確認した。

「遺体です！」

その声には喜びが含まれていた。

外見からは不快に見えるかもしれないが、若い法医にとっては苦労の末に成果が出たという満足感があった。



陶鹿の表情は険しくなり、死体であることを確認した瞬間、深いため息をついた。

「本当に人間離れだな」

犯人が逮捕された今や、殺害者は死刑確定だろう。

余分に増えた遺体はただ残念さを増すだけだ。

何年もの刑事生活を経ても、今回の事件の死体数には背筋が凍り付くほどだった。

「俺も下ろそうか」江遠は全身皮衣に身を包み、ベルトを締め直し安全帯を装着した。

詹龛と共にダム湖へ降りる準備だ。

牧志洋が上から見守りながら緊張の表情を見せていた。

湖底には数十年分の悪臭漂う腐泥があり、足が沈み込むほどだった。

遺体を入れたスーツケースもそのうち1/3は腐泥に埋まっていた。

江遠がようやく到着するとまず表面を観察した。

黒い旅行箱の外側には刃物で大きな穴を開けられていた。

その穴から骨と腐泥、そしてプラスチック片が確認できた。

詹龛が即座に気付いた。

「これで浮かばないのか？」

「うむ、内部に重りがあるんだろう。

張麗珍事件のダンベルみたいだ」江遠は外側を撮影し終えた後、外装部分もチェックした。

ロープで引き寄せたプラスチックカゴからスーツケースを取り出し、四人で持ち上げる。

誰かがロープを引くと、湖岸へ運び込まれた。

この複雑な作業は遺体の状態を最大限保持するためだ。

ダム湖岸に設置された昇降機などは高額な費用を示していた。

ダムから遺体を搬送するのは、エレベーターなしの高層マンションへ荷物を運ぶようなものだった。

一つのスーツケースが処理されるとすぐに次のものが現れた。

江遠らはさらに前進して引き上げた。

やはり中には遺体があった。

「分断されたようだな」江遠は大きな穴から覗き込み、特に驚かなかった。

「小さいスーツケースなら分割した方が収まりやすい」

彼は干涸びしたダム湖から遺体を引っ張り出し運んだ。

合計6体で全く意外ではなかった。

全容では26体の死体が関与していた。

黄建尊と信者40人程度のグループにしてこの数は非人間的だった。

「全てのスーツケースに穴が開けられていて、張麗珍の箱だけない」江遠が陶鹿に報告した瞬間、彼女の身体が一瞬震えた。

「張麗珍事件では犯人が自白している。

遺体を捨てようとした際に荷物で滑って河川へ流されたんだ。

黄建尊はそれを知って激怒し、移動させた……」

江遠は驚きの表情を見せつつも頷いた。

「まあ偶然とは言い切れないが…」

「7体が失われて1体だけ誤ったというなら、現場に二人と引っ越しに関わる複数人が関与しているから問題ない……」陶鹿は付け加えた。

「彼らはダム湖でこそスーツケースを開けた。

中身が車を汚すのを防ぐためだ」

「分かりました」江遠は張麗珍の死体解剖プロセスを回想しながら頷き、解剖センターへと向かった。

彼は今日も疲れ切っていた。

大量の遺体発見という重圧に加え、口数が少なかった。

陶鹿も頷いて「おつかれさま」と言った。

今回の解剖ではほぼ要望を出さなかった。

死因の特定は当然だが、死亡時刻の確定があれば完璧だった。

しかし黄建尊たちが互いに妨害し合い、警察サイドから見れば既に大部分の捜査は完了していた。

理論上、検察側の要望を満たせば補充調書なしで終了するはずだ。

それでも江遠は一具ずつ丁寧に解剖した。

翌日、彼は過去の遺体を全て引っ張り出し再確認を行った。

曾連榮はその姿を見て感動し、特に江遠の報告書を読んだ後、群れいる若手法医たちを教育した。

「ご覧なさい、なぜ技術がこんなに伸びたのか。

一具ずつ丁寧にやるのが基本だ……」

江遠は外部の状況に目配りできなかった。

事件終結後、前の遺体から青白い塊が吐き出された。

張麗珍の遺伝子——ギター（LV2）：彼女の家庭環境は貧困だった。

音楽を愛し時間を費やしたが、専門学校への進学機会も基礎もない。

彼女にギターを教えた男たちは身体的関心の方が技術面より大きかった。

黄建尊は少数派で、職業を変えるよう勧めることもなく、金銭交渉の際も熱心だった。

三五度と小遣いを多めに渡すなど、表面上の優しさよりも誠実さがあった。

もし彼女が長期契約を結ばず黄建尊宅へ行かなければ、楽器代を貯めていたはずだ。

梅方凌の遺伝子——イタリアンパスタ（LV4）

石樊の遺伝子——フランス語（LV4）

潘少麗の遺伝子——崑曲（LV3）