国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0789話 マップ走破

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「こちらは正広局の麻薬取缔部の数名の幹部です

免許を外しますからね」江遠が電話の向こう側のポン・キドウに伝えた後、スマホを免許モードにして中央テーブルに置いた。

「よし 師匠」ポン・キドウが即座に返事した後、笑いながら「皆さんおはようございます。

洛晋市刑事部第四大隊のポン・キドウです」

「ポン大佐 ごきげんよう こちら麻薬取缔部の老石 石忠龍です。

以前会ったことがあるはずです 笑」

江遠を見上げた石忠龍は好奇心と話題を振るため、尋ねた。

「ポン大佐 江法医に師匠入りしたのはいつですか?」

「一年ほど前からです 師匠が丁寧に教えてくれます。

先日また北京に来て一ヶ月ほど師匠の指導を受けました」

石忠龍は江遠に笑顔で頷き、スマホに向かって続けた。

「继東 今我々は『牛耳』という麻薬取缔組織を追跡中だ。

最後の情報では彼が洛晋市から恋人に電話したとある。

その際の位置情報を確認してほしい」

ポン・キドウは真剣に話を聞いていた。

江遠はスマホを切ると、牛耳の捜査資料を開いて読み始めた。



公安の支隊長李乾が考えを巡らせた末、残ることにした。

ようやく洛晋市と連絡が取れたからだ。

海ロインのルートは新型薬物より伝統的なものだった。

これを断ち切れば短期間で回復できず、毒販組織も大きな代償を払わねばならない。

崔啓山が咳き込みながら交渉役を引き受けた。

一斉に会議室から現実感が消えた瞬間、ポンキチオの電話が鳴り響いた。

技術員数名で接続し合い、操作が始まった。

たちまち公安支隊の大型モニターには洛晋市図偵大隊の画面が映し出された。

「師匠、どの時間帯・場所の監視動画を調べますか?」

ポンキチオは江遠の戦法に慣れていた。

今は動画データが必要だということが最も重要だった。

江遠が石忠龍を見やった。

石忠龍が即座に日時と場所を報告した。

洛晋市の図偵が9連画面をスワイプさせながら言った。

「五峰地区の主要道路口の車両監視カメラと人物監視カメラの動画です。

僕は先ほど人物画像を走査しましたが、牛耳と一致するものは見当たりません」

人物監視カメラの映像は非常に鮮明だった。

スマホで顔にピントを合わせたような解像度だ。

日常的に人通りのある歩道や交差点など、誰かが通ると撮影される。

気をつけていない限り、必ず写り込む。

逆に意図的に避けようとする場合はさらに注意が必要になる。

「マスクの画像を走査してみよう」江遠は洛晋市が使用しているソフトウェアの型式を見て指示した。

電話の向こう側で洛晋市の図偵が応じ、すぐに大量の画像が表示された。

「2720枚です」

「サングラスも追加。

マスクとサングラスを同時に着用しているものだけに絞ってください」江遠が指示した。

洛晋市の図偵は従い、今度は20数枚の画像だけになった。

江遠らが一枚ずつ確認していく中で、牛耳と一致するものは見つからなかった。

ポンキチオが提案を出した。

「もしかしたら我々が手分けしてこの2720枚を調べてみる?」

「了解だ。

大変だが頼むよ」江遠は頷いた。

「構わないです。

支隊長様の指示通り、江課長の重大事件・重要案件には全力で協力するよう命令されています」図偵大隊の警察官が電話越しに述べた。

電話の向こう側では公安支隊の面々が顔を見合わせ、表情を引き締めた。

確かにその言葉は正しい。

江遠がこれまで解決した重大事件・重要案件の数は尋常ではないのだ。

こちらも全力で協力するしかない。

「分かりました。

我々は審査チームを編成し、約1時間ほどで結果が出せます」図偵大隊長が電話越しに報告した。

江遠は繰り返し感謝の言葉を述べた。

マスクをしているため直接的な照合は不可能だが、人工的に調べる方法なら効果的だった。

要するに正確な一致ではなく、ある程度の類似性があれば十分だ。

犯人が少なければ個別調査や家宅捜索も可能になる。



理論的な捜査と実際の捜査には大きな違いがある。

理論的な捜査は常に「唯一解」を追求するが、現実の捜査は六七分に近い類似車両を見つけるだけで済むものだ。

案件に少しでも手掛かりがあれば、有無を問わず調べるというのが常識だった。

「では次に車両監視カメラをチェックしよう」江遠はLv6の軌跡分析技術を使い、連続した推理を展開する。

「まずは無登録車両や偽造ナンバー、不明瞭なナンバープレート、臨時ナンバーの車両から調べるべきか?」

洛晋市の軌跡分析担当が提案する。

「了解だ」江遠は少し待った。

意図的にナンバープレートを泥で隠す輩もいる。

そのような車両は監視カメラを通れば自動で検知される。

本来は見ないはずの動画でも、その赤い点に気付くと確認せざるを得ない。

通常の軌跡分析では何も出てこなかったため、江遠が追加指示を出す。

「顔が見えない車両や副驾驶席の乗客も含めてリストアップしてくれ」

「承知しました。

その場合……48568枚の画像になります」軌跡分析担当が報告する。

江遠は頬を掻いた。

現代の大規模データは膨大すぎて、如何に処理し抽出するかが本質だった。

「迂回ルートも追加しよう」江遠が指示。

「同じ地点を複数回通過した車両で、その日の分だけ調べてみよう」

毒販組織の慎重さから、運転手であろうと他人に任せる場合でも、到着したらすぐに降りるわけにはいかない。

必ず周辺を確認するはずだ。

今回は軌跡分析が7台の車両のみ抽出した。

逐一映像を見せていく。

「これだ」江遠は一瞬で特定し、「黒色ソナタを追跡せよ!ナンバー778の車両」

「了解です。

この車両の動きを追うことにします」軌跡分析技術員も興味津々に動画を再生する。

すぐにソナタは大通りから小路へと入った。

画像上ではその車両が姿を消す。

洛晋市の軌跡分析チームはプロだ。

ルートに基づき、2km先の監視カメラ映像を即座に調出した。

「来たぞ、また去った」江遠が時刻を見ながら言う。

「牛耳はここで降りたはずだ。

ついでに電話もしたんだろう」

「その車両が五峰を離れたのは電話終了後のことです」洛晋市の軌跡分析チームが車両の各通過地点の時間を特定し、ソフトウェアで経路図を描画する。

しかし途中降車の場合、全てやり直しだ。

そのため数名の軽微な軽犯罪捜査官は少し落胆した。

江遠は動揺しない。

「牛耳がここまで警戒しているなら、五峰に滞在しているとは考えられない。

終話10分後から1時間以内の単独車両を探せ。

顔隠しも含めて」

軌跡分析チームが操作した結果、新たに1300枚以上の画像が出たが成果はなかった。

江遠は少し考えて、「そうすると歩行または自転車で離脱した可能性が高いだろう」

「この写真にはこちら側のカムイも含まれている」画像捜査官が注意を促す。

先ほど2720枚の画像を解析したばかりだった。

江遠は首を横に振った。

「彼は小道を通ったはずだ。

自分がどこにあるか知らないかもしれないが、小道を使えばカムイを避けることができる」

「その地域に関する記録には何らかの痕跡がない」電話越しに一人の画像捜査官が反論した。

重大事件の場合、特に大規模な案件では、どんな級別でも上官は部下の発言を咎めるつもりなどない。

このレベルの事件では情報不足の方が問題であり、調査方向が増えたところで何ら問題はないからだ。

さらに言えば、捜査経験が重要であっても、若い未熟な頭脳も重要な要素である。

プロフェッショナルな捜査官なら誰もがその点は理解している。

最悪の場合、若手が提示した調査方向に困難がある場合でも、本人を現場に出せばいいだけのことだ。

例えば化成槽の中を調べさせたり、ゴミ山を登らせたりするような...

江遠は相手の反論など構わず、「牛耳は毒薬取引者であり、日常的に自身の身分証明書や携帯電話を使わない人物だ。

記録が残っているかどうかは関係ない...現在最も重要なのは時間問題だ。

逃亡中の牛耳が最も気にしているのは時間だろう。

緊急でない限り、時間を浪費するとは考えられない」

江遠はそう言いながら地図に数点をマークし、ポンキチオウへとスクリーンショットを送信した。

「これらの場所の監視カメラ映像を探して欲しい。

不足があれば他部署や民間の監視カメラも調べてくれ」

「了解だ」ポンキチオウは即座に応じた。

江遠はさらに広範囲な地図を開き、外周部にも30数点を追加したが、しばらく経てその半分を削除した。

「見つからない場合は次回もここから探す」

江遠の画面にはLV6と表示された軌跡分析。

情報は極めて少ないが、確信に満ちていた。

電話の向こう側の刑事や麻薬取締官たちは江遠の自信に感染し、笑顔になった。

しかし画像捜査官だけは疑問符で頭をいっぱいにしていた。

先ほどまで地図上で論じていたのに、なぜ突然別の地図が表示されたのか...

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