国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0815話 再び奮起

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たった1日のうちに、実験室は収集した68本の鍬の中から凶器を発見した。

これが農村事件の一大特徴だ。

動機は複雑かもしれないが、村民の反偵察手段は乏しいという点では。

この家族は鍬だけ洗浄したに過ぎず、捨てたり竹柄を変えたりもしなかった。

さらに実験室に送られたその鍬は即座に一致した。

「犯人は被害者の従兄弟で、原因は両家の墓地問題……」雷鑫が説明し始めたが、すぐに混乱して首を横に振り、「とにかく陳腐な因縁めいたことだ。

犯人が供述した通り、二人は後庭で水道工事のことで言い争いになり、その場で殴り合いになった」

雷鑫がさらに詳細を語ると、手を広げて続けた。

「動機から探るなら一生かからない」

「つまりこの家族が鍬を処分していれば、この事件は解決しなかったかもしれない」王伝星が隣のパソコンを叩きながら尋ねた。

柳景輝が首を横に振った。

「それだけじゃない。

凶器が何であるか特定すれば、誰かの家の鍬がなくなったと確認するだけだ」

「その通りさ。

村には隠し通る秘密は少ない。

今回は犯人の隣人まで協力してくれた」雷鑫は農村出身ゆえに、つい頷きながら続けた。

「家を建てるためにも争い、水道工事を巡っても争い、墓地問題でも揉めたが、犯罪にはならなかった」

「色々と噂話を聞いたんだろうな?」

柳景輝が笑顔で尋ねた。

雷鑫はため息をついた。

「それだけじゃない。

我々が人を逮捕したとき、懇願する人もいれば、裏では黒い過去を語り始めた者もいた……」

「少なくともこの事件は終わった」江遠は江村出身だ。

幼少期に百家粥を食べた際には村の人々から同情されたが、成長後は全体的に裕福になり、醜い噂話はあったものの、村人同士で騙し合うことは減った。

彼は外に出たことでむしろ村の印象が良くなった。

雷鑫は江遠がその話題を嫌っていることに気づき、すぐに表情を変えて笑みを浮かべた。

「そうだね、ようやく事件は終わった。

この大規模な命案未解決事件だが、例年なら3ヶ月で解決して全署が祝い酒を飲むところだ。

今回はたった三四日!」

雷鑫は語るうちに感慨に浸っていた。

省庁には特別捜査本部の刑事鑑識専門家が9人おり「鑑識八虎」と呼ばれていた。

国内の大規模事件で活躍し、多くの難事件を解決したことで有名だ。

彼らが扱った案件は物語として語れないほど奇抜な要素が多い。

03年に8人が追加され現在22名の特別捜査本部刑事鑑識専門家と、さらに刑事技術のスペシャリスト350名が存在する。

彼らは全国を飛び回り、次々に難事件を解決していく類の人間だ。



雷鑫本人数人との接触経験から、江遠の効率と能力は既存の名手に劣らないと確信していた。

専門家たちも例外ではないが、刑事捜査のプロフェッショナルたちは通常、一件に数日間しか没頭しない。

その短い期間で突破口を開けた場合、案件は終結する。

逆に突破できない場合は…実際にはほとんどが解決に向かうものだった。

特に犯罪を犯したばかりの犯人とは、初物の若者と熟練のベテランのような関係だ。

彼らの奇妙な手口やポーズなどは、数十年間で数百件の事件に携わり続けたベテラン捜査官にとっては些細なことだった。

だからこそ、若造の犯人を挑むのは危険だ。

高級刑事捜査官の注意を引く前に、運が良ければ江遠のような精力的な新人刑事の網から逃れ、最終的には平均的な刑事と対峙する道を選ぶしかない。

「江隊長がいれば清河市は再び『海晏河清』の日が近い」と雷鑫が熱弁を振るう。

彼は江遠がわずか3日で自身やチーム全員を数ヶ月分の労力を節約させたことに胸を張り、満足気に笑みを浮かべていた。

柳景輝は舌打ちしながら言った。

「『海晏河清』という言葉は雷大隊長の口から出るとは思わなかった」

「俺が田舎者だからって老婆に洗脳されて文語体になったのかな」雷鑫は笑いながら続けた。

「老婆は長陽大学出身で、耳に入り込むもんだよ」

柳景輝の顔が曇った。

「チームを分断するようなことはやめろ」

雷鑫は満面の笑みでその不快感を消し去っていた。

普段の家庭内のストレスなど一瞬で吹き飛んだのだ。

副官が江遠の前にある茶碗に水を注ぎながら言った。

「江隊長、今日は休日ですか?」

「牛排を焼く予定だけど、皆さんもまだ忙しいのかな」江遠は茶を飲みながら笑った。

雷鑫は一瞬で悟り、「すぐに新たな事件を扱うつもりか?」

と即座に反応した。

「前回の『411』事件の資料を発見したんだ。

台河に放置された男の死体が六年前のものだ。

当時の専門チームは…」

雷鑫は積年の未解決事件を数えるように答えた。

「清明明けに遺体が発見され、その後の連休も無駄になったが…残念ながら解決しなかったんだ」

「ええ、この事件にはいくつかのポイントがあると思います」江遠が一呼吸置いてファイルを手に取り数ページめくると「この事件の死体包装物は白いナイロンロープで縛られ、透明な白いビニールシートを使用しています。

さらにそのロープの先端には直径1センチメートルの緑色ナイロンロープが接続されています。

外側のビニールシートは新品と古びたものがあり、これらを準備するのに慌てた様子が伺えますね。

つまり事前に用意したものではないと考えられます」

雷鑫は事件を回想しながら頷いた

「死体包装に使われたナイロンロープとビニールシートから推測すると犯人はその場で手近にある材料を使い出したのでしょう。

つまり第一現場付近の可能性が高いですね。

当初貴方達もそう判断したはずです」

雷鑫は続けながらメモを取ると「この判断は間違っていたのか?」

普通なら知らない警視正がまず疑うところだが雷鑫は江遠に無意識に影響されていた。

まず自分が間違いを犯したかと考えるようになっていた

江遠は首を横に振った「その判断には異存ありません。

貴方達の誤りは解剖結果にある」

雷鑫の表情が引き締まった「間違いがあるなら修正の余地があり解決への希望が持てますね。

法医のミスと言えば江遠さん前で失敗するものですが雷鑫にとってはそれほど珍しいことではありません。

基準を高く設定すれば偶然に見つかるものは少なくなります」

実際江遠は積年の未解決事件を解明するために意図的に間違い探しをする傾向があった。

条件が同じなら異質な結論を得ようとするのは逆労働に近い

江遠が死体検案書を取り出し「発見時巨人体位で屍僵が緩和されていた。

解剖時には右側頭頂部の顔蓋骨を粉砕する骨折があり硬膜は破損せず脳組織は自溶変化を示していた舌骨に骨折はなく頸胸腹部皮下組織と筋肉には気腫が認められた」

江遠が検案書の一部を読み終えると「死因は頭蓋部外傷と機械的外傷です。

法医は長条形接触面を持つ硬質で振り回しやすい打撃器である金属製棍棒を凶器として推測しています。

また首周りに帯状の皮膚損傷があり一部には皮下出血が認められこれは軟質の索状物体、例えばロープによる絞殺と判断されています。

この部分は問題ないのですが……」

雷鑫はここで本番だと悟った

「法医の年齢判定に誤りがあります。

報告書によると骨盤の前頭面が平坦で脊椎痕跡があり腹側斜面が頂点まで達しておらず下角が形成され腹側縁がほぼ完成し背側縁は外反しないという観察結果ですがこの解釈に問題があります。

しかも大きな差異があると」

江遠が机を叩いたその瞬間にも僅かにためらいがあった

死体の年齢判定は基礎だが基礎だからこそ難しい。

骨盤があっても年代判断には曖昧さや個人的な経験要素が多く含まれるからだ

骨格を観るのも顔を観るのと同じだ。

通常の人間が通常の状況で、誰かの顔を見れば年齢を推測できる。

骨格も同様だが、法医たちはそれをより詳細に分類する。

可能な限り具体的な数値を提示するが、特殊な人種や特殊環境下の遺体の場合、化粧をしている人を前にしているように正確性は大きく低下する。

年齢が間違えれば死体の身元も特定しにくくなる。

「あとで骨格を見直して具体的に判断したい。

現在の情報では元法医が28歳±1歳と断定したのは誤りだ」

江遠が即座に部分的な答えを出した。

「それほどずれているのか?」

雷新が追及する。

「かなりずれていると思う」

江遠が答える。

「はいはい……つまり新たな手掛かりが見つかったということですね」雷新らは以前から身元捜索の際、年齢と組み合わせて捜査していた。

実際の年齢と推定年齢に大きな差があれば捜査不能の理由になる。

警視庁の教官が傍らに立っていた。

スマホを取り出し「牛法医を連れてこい。

この事件は老牛も関与している」

「了解」雷新は教官を横へ引き寄せ「彼には負担にならないように、江法医が指摘する間違いは間違いではないと言え。

まず態度を正すよう説得してほしい」

「承知しました」教官は真剣に頷いた。

この仕事は慰謝料請求の警察官より格段に光栄だ。



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