国民の監察医（こくみんのかんさつい）

0800

第0830話 番組

メイクアップアーティストが江遠に適当なメイクを施し、髪型も整え、衣装チェックの際に内蔵マイクを仕込んだ。

高さ調整用の椅子に乗りながら「完成した」と報告すると、メイク師は肩幅を確認して「君はこのくらいの身長だとスターになるのは難しいわ」と付け足した。

「なぜですか？」

江遠は純粋に知識への好奇心から尋ねた。

「共演する俳優たちが不満を感じるでしょう。

もし君と同ステージになったら、彼らが小柄に見えることになります。

例えばトム・クルーズや木村拓哉の共演者なら、特型以外は身長差を出さない傾向があるわ。

あなたは彼らの身長を推測できる？」

江遠は「足跡と骨格から判断しますが、最近は忙しくて映画を見ていません」と答えた。

メイク師が「骨格？どうやって見るの？」

と興味津々に聞くと、「通常は遺体を熱湯で煮て脱骨し、重量や長さを測定して回帰式で推定します」と説明した。

するとメイク師は満足げに江遠をスタジオへ送り出し、ドアを閉めた直後に錠を下ろした。

数百平方メートルのスタジオでは設備とスタッフが大半を占め、中央部分は照明で照らし出され、12人の出演者が「毛髪までくっきり」と映えるように配置されていた。

本日の番組『メリラショー』はインタビュー脱口秀形式で、マレーシア人気司会者メリラが進行する。

ゲストは公開中の映画の二線俳優たちで、宣伝目的から各自がメリットを得ながらトークやゲームを楽しんでいた。

江遠は静かに控え室で待機し、特に焦りもせずにいた。

彼は芸能界への期待や幻想を持たず、国内人気スターの顔も完全に覚えておらず、マレーシア二線俳優の名前すら知らなかったため、彼らが無理な会話をする様子を平静に見守っていた。

しばらく経った頃、スタッフが江遠を呼び出し、舞台脇まで案内した。

別のスタッフが彼を止め、「マイクチェック」と指図してきた。

テレビ局の制作陣は「馬鹿げた手順」で各工程を管理し、頭の悪い人間がプロセスを混乱させるのを防いでいた。

実際、その必要性を証明するように、追加スタッフが必要になることもあった。

メリラは「次にゲームをやります。

ビュウ、あなたは過去にヒールを履かれたことがありますが、今日は？」

マレーシアトップ司会者が映画チームの俳優を祭り上げるため、まずは小規模な爆発を演出する必要があったのだ。



比ヌの身長は180センチに満たないため、度々小手先の対策を講じていたが、その暴露は珍しくなかった。

メラの発言を耳にして暗然としながらも、平静を保ちつつ告げた。

「今日は普段着の靴で来てるんだよ。

ヒール付きの靴はただのシューズケースから取り出しただけさ。

あくまで厚底のやつだったってことだ」

「ははは、その返答を待っていたわね。

さて、次に……」メラが比ヌの手を引いた。

「一体何をするつもりなの？」

「ふざけた抵抗を演じつつも、実際には拒否できない状況だわ。

自分はまだ未熟なアイドルだから、もしもこれが番組のネタになるなら、崩れかけたキャラクターがさらに欠陥が出ても構わない」

「どう思う？」

メラが笑みを浮かべる。

「どうしても靴を脱ぐ必要があるなら、優しい人が脱いでくれたら……」比ヌは意識的にエンターテインメント性を探りつつ答えた。

メラが軽く笑いながら告げた。

「その予想は外れちゃったわ。

今回は脱ぐ必要はないのよ。

来なさい、プロップスを用意したわ」

その瞬間、数人のスタッフがベッド2台分ほどのエアマットを舞台中央に運び出した。

その中間に相当量の砂が積まれていた。

事前に江遠（ケン）警部補にテストしておきながらも、彼らは彼の失敗を恐れていた。

普通には無関係だが実際は不正な道具であるこの砂の厚さは、彼らは最大限に調整していたのだ。

比ヌが中央の砂場を見つめつつ小声で訊ねた。

「残酷な手段で何か質問させようとしてるんじゃないでしょうね」

「それよりずっと簡単よ。

次に、あなたはその砂坑の一端から他方まで歩いてみせるわ」

比ヌがためらいながら砂場の端へ向かうと、「靴を脱ぐ必要はないわ」とメラが指示した。

メラが比ヌを促す手勢を示し、三本指で時間を逆数するスタッフに合図を送った。

江遠はカウントダウンを終えると舞台に進み出した。

「江遠法医学鑑定官よう……」メラが拍手しながらインタビュー調の質問を始めた。

「江遠さん、足跡から身長を判断し、その結果で有名な事件を解決したというのは本当ですか？例えば大馬のアズサ女優殺害事件や天台の暴力事件など」

「はい」江遠が頷く。

「教えていただけますか？」

江遠は特に緊張せずに答えた。

「ええ、核心は足跡の重心や歩き方から身長と体重を判断するということです……」

「凄いわね。

江遠さんのマレー語も上手ですね。

専門で学んだんですか？」

メラが話題を変えた。



江遠は自然と司会者の要求に従い、二言の好意的な発言をした。

観客席から拍手が湧き上がった。

「メラショー」は雰囲気を考慮して一部ファンを観客として招待していたが、撮影禁止だった。

場内の俳優たちも江遠に興味を持って視線を向けた。

メラは少しだけ準備した後、「江遠さん、ちょっとテストをしてみましょうか？目の前の砂坑の足跡の持ち主の身長はどれくらいですか。

いいでしょう、江遠さんに少し時間を与えます」

「176センチ」江遠は途端に躓くこともなく答えた。

メラが驚きを隠せないように江遠を見た。

「こんなに早く？」

「はい」江遠は笑った。

このくらいの難易度なら十分だった。

Lv1の足跡鑑定で十分だったからだ。

放送のため、靴の高さまでは報告しなかった。

メラが技術を理解できなくても番組進行の腕前は最上級だった。

まずカメラに向かって笑顔で告げた。

「ここで申しますが、江遠さんに答えを事前に教えたことはありません。

それから…ビヌさん、江遠さんの言う通りですか？」

ビヌは先ほど気付いていたので、今はリラックスして答えた。

「176は私の純粋な身長です。

この数字を誰かに話したことは一度もありません」

観客席から「ふー」とため息が漏れた。

「大丈夫ですよ、次のテストをしてみましょう」メラは視線を江遠に戻し、手を振って笑った。

「こうして数名の観客の方々においでになってテストしてみませんか？」

ファンたちは瞬時に沸き立った。

これはなかなか面白いインタラクションだった。

メラが江遠を見ながら意地悪に聞いた。

「江遠さん、問題ないですか？」

「大丈夫です」江遠は頷いた。