明ンク街13番地

きりしま つかさ

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第0023話「私の過ちは、私が終わらせる」

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「私は帰ります」

カレンはできるだけ落ち着いた声を選びながら、ディースの姿が現れたことで、先ほどよりは確かな自信を持ってそう告げた。

確かにディースは彼の命を握りしめているものの、

外で風に舞うタンポポの種のように命が軽々しく散るよりはマシだった。

しかし、結局のところ彼は偽りの神棍として装っているだけだ。

偽物は偽物である限り、その言葉を放ち終えた直後、

「何かおっしゃりたいことは?」

と即座に付け加えた。

アルフレッドが名刺を取り出し、丁寧に差し出した。

カレンが受け取った名刺には『ロジャーブラックワイアードラジオ番組ホスト』と電話番号の列が記されていた。

「またお呼びかけください」

アルフレッドは二歩後退して道を空け、続けた。

「電話で直接こちらに来ても結構です。

貴方からの呼びかけは日出日没のように変えられぬ規則なのです」

カレンは名刺を手のひらに戻し、胸をなだめた。

要求がないのは良いことだった。

彼には何を差し出すか分からないから——

2万ルーブルの私用金?

ミフィート社製ゴールドウォッチ?

あるいは死んだ後のインメレーズ葬儀社五割引クーポン?

まあ、ありがたいことに何も要求しない。

しかし次の瞬間、

モリーがカレンの前に膝をついた。

彼女は頭を上げながら跪いていた——

他人なら跪かれる相手として上位者気分に浸るかもしれないが、モリーの場合ではそうならない。

彼女が跪くのは、むしろ彼女が凝視しているように感じられた。

「ごめんなさい、無理を言って申し訳ありません。

しかし偉大なるあなたが、清らかな肉体を与えてください」

肉体?

死体のことか?

家には地下室に三つもある。

盗み出す手立ては考えられる——

だが「清らかな肉体」という言葉の意味は特殊だ。

最初にジェフの遺体や以前のシュース夫人の身体も全うだったのに、モリーがそれを求めない理由があるはず。

もし「それで清らかな肉体とは何か?」

と尋ねれば、

先ほどまで装っていた「深遠な存在感」が一瞬で崩れるかもしれない。

物理学者が大文字の『E』を指して意味を問われたようなものだ。

しかしカレンは今、ここから離れることが最優先だった——

「待って」

「ごめんなさい、偉大なるあなた。

私はいつまでもあなたの前に跪き、全てを捧げます」

カレンは返事をせず、僅かに頷いた。

まずシュース夫人の遺物をザックに入れてから、ザックを持ち上げて歩き始めた。

主寝室を出るとき、その二人組が追いかけてこなかったことに気づいた。

階段を下りながら、

一階、二階——

緩やかに、余裕を持って——

あまり真剣すぎたせいで、カレンは意図せずリズムの良い歩き方になっていた。



忘れてしまったのは、次に左足から始めるべきか右足かという点だった。

階段を二段同時に踏みかけた上にザックを持っていたため重心が崩れ、急ぎ足で前に進むことしかできなかった。

「ドドド……」

最後には右手で手すりを支えながら体を回し、「ドン!」

と着地した。

恥ずかしさを隠すためにカレンは大きな笑い声を上げた。

「ははは。



わざと子供っぽさを出そうとしたが、その演技は素直に見えた。

インターホンを開けた瞬間から外に出るまで、ずっと階段の窓を見ないようにしていた。

そのまま前へ進み続け、ついにディースの前に立った。

息を吐きかけてから深呼吸するように吸い込むと、その濃厚な安心感が頭蓋内を酔わせた。

「アルフレッド様」

二階の窓辺でアルフレッドは笑顔を見せた。

「モリーさん。

我々の約束を覚えていてください」

「私は決して約束を破り、モリーさんはこの部屋から出ない。

今日もまた一人が死んだが、彼女は罪に問われるべきだった」

ディースがカレンの方を見やると、カレンはシューズ夫人の赤い『カメ』車を指した。

「説明します」

ディースが反対しなかったのでカレンはドアを開け、ザックを入れてから乗り込んだ。

ディースは助手席に座り、プールは窓から後部シートへ飛び降りた。

カレンがエンジンを始動させると、二階のベランダでアルフレッドは遠ざかる車を見つめて咳払いした。

地面には三本の吸殻があった。

「人間が自殺用にこんな慢性毒薬を作るのはなぜでしょう?」

「生まれた瞬間に死に向かうのが人間というものだ」

「モリーさん、貴方の答えはますます哲学的ですね。

いずれ機会があれば私の番組の特別ゲストにお呼びしたい。

まあ視聴者には見えないだけですけどね」

アルフレッドを見つめるモリーさんに、彼女は尋ねた。

「貴方の魔眼(メイムアイ)を閉じる気はないのか?」

「ああ、ははは」

アルフレッドの血色の目が収縮し、通常の人間の瞳孔に戻った。

ただしその上に薄い灰色の曇りが残っていた。

「アルフレッドよ、貴方が最初にあの偉大なる存在を発見したのは誰か、そして今日は最も謙虚な態度を見せたのも貴方でしょう。

なぜ今も貴方は魔眼を開け続けているのか分からない」

魔眼は虚偽を見破り人間の心を捕らえる能力を持つ。

異魔(イェム)の中でも特に知能が高い種族だ。

騙されないからこそ、それが賢者と呼ばれる理由だった。



カレンはアルフレッドの前では常に真実を口にしなければならないという意識があった。

そのため、過去の会話ではアルフレッドがどれほど謙虚であろうとも、彼女はすべて「大真実」で応じていた。

「ただ尊敬を示すため、その偉大なる存在の前に本質を見せることこそが忠誠の証だ」

「信じないわ」

アルフレッドは肩をすくめ、

「実は、ある事柄ほどに確信しているとき、同時にそのことへの疑いも高まる。

それがなぜか老年の科学者が神学に没頭する理由なのさ」

「あなた……今でも彼を疑っているの?私は以前からあなたが死心していただけだと思っていたわ」

「私の最大の懐疑点は何か知ってる?」

アルフレッドは自嘲気味に笑った、「それが一切疑いを持たない存在だということよ」

「ええ、あなたが『聖歌』と『文字』について語っていたことを私は覚えてます」

「それだけではないわ。

一ヶ月前、ロージャをベルウィン市に連れて行ったこと覚えている?」

「はい」

「多くの教会から使者が派遣され、さらにはレーブン政府の軍隊までその地域を封鎖したのよ。

あなたはそこで何があったか知ってる?」

「何か?」

「ベルウィン市の郊外で『神降儀式』が行われたのよ」

「神降儀式?」

モリー様は平静に言った、「それだけだわ」

神降儀式とは多くの教会が用いる祭祀。

彼らが崇拝する神々の栄光と意志を求めて迷い人を導くため。

「おや?」

アルフレッドは声を潜めた、「その神降儀式で呼び寄せられたのは『邪神』、しかも名も知れぬ存在だったのよ」

邪神とは単一の存在ではなく統称。

正統教会が崇拝する真神と区別されるもの。

彼らの神々は「真神」として崇められ、他の神々を「邪神」と呼ぶ者は滅ぼされる。

小規模な教会や支教会(正統教会の分派)が崇める神々もまた、信仰さえ守れば尊重される。

悪神(教義が極端で凶暴な者)であっても、その信仰は「邪神」ではない。

邪神とは信仰に依存せず単独存在するもの。

天地をさまよい歩くか、封印された伝説の領域に閉じ込められながらも「神降儀式」を通じて呼び寄せられる。

これは秩序破壊行為で、何が現れるか誰にも分からないのだ。



古くからの記録に残る大災禍は稀少で、その原因は規模制限にある。

神降儀式の規模が決めるのは、呼び下ろされる存在の質だ。

物質準備は金銭で済むことも多いが、本質的な規格は司祭の能力と直結する。

正統大教会にしか発展できない領域で、小教団の神官が輝きをもたらすのが精一杯。

大教団の司祭なら奇跡を日常とするし、最高位の祭祀や総監督は神器さえ呼び下ろせる。

最低限の邪神召喚は「お絵かき遊び」で、近隣に漂う弱小異魔を呼ぶ。

最弱でも普通の人間を恐怖に陥れる存在だが、正統教会の力なら軽く抹殺できる。

規模が上がるにつれ強力な異魔や種類も増えるが、それらは許容範囲内だ。

実際、人里離れた場所か社会で慎ましく行動するため、解決されるのは修ス夫人のような低能脳の存在ばかり。

真に許せないのは規模を越えた邪神召喚。

正統大教会が独占する高規格儀式だからこそ、古籍に記録される「邪神」は全て逆説者によるものだ。

昼間は奇跡をもたらし、夜には耐え難い異魔を呼び下ろす。

その到来は災禍で、ある正統大教会の滅亡さえ招く。

過去の紀元や伝承に記された神々との因縁を持つ存在が復活すれば、旧怨への憎悪は計り知れない。



もっとも奇妙なのは、一紀元にわたる正統大教会の至高権限でも「神器」や「神の虚影」を呼び出すのが精一杯で、真の神々を再び降臨させる力を持つ教会は存在しないということだ。

真神が降臨できない以上、邪神を封じるには想像を絶する代償が必要となる。

モリー氏がようやく驚愕の表情を見せた。

「邪神!」

すると彼女は目を見開きながら追及した。

「成功したのか?」

アルフレッドはモリー氏の感情の変化に満足げに答えた。

「もし失敗していたら、こんなにも注目を集めるわけがない。

同様にこの降臨儀式の規模も極めて高いはずだ。

なぜなら、たとえ十倍二十倍のあなたや私を呼び寄せても……」

「いいやアルフレッド、私の意味は……」

アルフレッドが頷きながら続けた。

「異常なほど強力な審判官よ。

ふふふ。

あの戦いの後に私は最も恐れたのは何か知っているか?表面上は互角に終わったが両者とも傷ついたという結論だ。

しかし冷静に考えれば、彼が使用した神術は全て秩序教会の審判官級のみに伝授されるものばかりだった。

明らかに審判官より遥かに強力な秩序神教の一員が、あえて審判官級の神術で私と戦ったという事実から、

彼は、力を隠していると悟ったのだ。



「つまりあなたは彼に勝てなかったのか?」

「モリー氏、それは問題外だ!」

「了解したわ」

「そもそも私は全力を出せない。

秩序神教の総力戦を恐れているからだ」

「分かりました、続けなさい」

「今夜、ようやく悟った」

「彼は……?」

モリー氏が尋ねた。

「『偉大なる存在』という意味での祖父뻪?でもその降臨儀式はベルウィンで行われたのよ……」

そこでモリー氏は黙り込んだ;

自らの住む街で注目を集めることを避けようとするほど愚かとは言え、明らかに場所を変えなければならなかったからだ。

「だからアルフレッド、私は疑うべきなのは彼の偉大さではなく、

真神の外見の下に邪神の本質が隠されているのではないかと恐れているのだ」

アルフレッドは先ほどのシュース夫人が吞み込まれた地域を一瞥し、つぶやいた。

「秩序の光よ。

もしかしたら、かつて秩序の神によって鎮圧された恐怖の存在なのかもしれない」

モリー氏が懸念を口にした。

「私の……肉躯は?」

アルフレッドは帽檐をさらに下げながら注意を促すように言った。

「心配しなくていい。

真神であろうと邪神であろうと、彼の前では我々は役割を演じるだけだ。

静かに控え、覗き見せず、干渉せず、必要ならば呼び出されれば全てを尽くせばいい」

「アルフレッド、その役割についてもう少し具体的に説明してもらえる?私はうまく演じられないかもしれないわ」

「はい、よく聞いてください」

アルフレッドが腕を広げると、叫んだ。

「ワン!ワン!ワン!」

……

「そういうことだ」

カレンは運転しながら、今夜の出来事を全てディスに打ち明けた。

何も隠さず。

普洱が後席に座っている度に、カレンの胸中は浮き立つ。

しかし自分が猫を虐待するような人物ではないと確信していた。

「おじいちゃん、あの二人って本当に馬鹿ですよね?私は本当にびっくりしたわ。

でもうまく騙せたし、自分の命も守れた」

助手席のディスは黙っていた。

後ろから普洱が人間のような笑みを浮かべるのを見た瞬間、カレンは胸騒ぎを感じた。

やっと車が止まった。

修ス火葬社の前に停まる。

老ダシーが死んでからは営業していないし、仮に営業中でもこの時間には閉まっているはずだった。

「ここに来たのはなぜ?」

ディスがようやく口を開いた。

カレンは説明した。

「ドク警部がすぐに手掛けるだろう。

修ス夫人こそ真の犯人だ」

ドク警部が馬鹿ならともかく、たとえそれがドク警部でも事件は解決するはずだとカレンは思った。

「だから私は修ス夫人の衣服や車を火葬社に持ち帰って、彼女が事情が露見したことを悟り逃亡したという偽装を作ろうと思ったの。

もうどうしようもないからね」

修ス夫人は死んでいるのだ。

ディスが頷いた。

カレンは修ス夫人の衣服を持って降車し、その車も修ス夫人のものだった。

遺品の中には鍵があり、ドアを開けた彼女は登山バッグを持ち込み中に入っていた器具を並べ始めた。

本当に豊富な道具だ。

修ス夫人の芸術レベルは低かったが、道具類は十分に準備されていた。

まるで成績不良者が新しい文房具を購入するように、何かを始めることへの期待感があったようだった。

カレンは椅子を引き寄せ、そこに座った。

「おじいちゃん、きっと今夜警官たちは犯人を見つけられるわ。

彼らがここに来るまでには時間がかかるでしょうから、もし来ないならおじいちゃんが電話で警察に連絡して『孫が修ス夫人を送り届けた後行方不明になった』と報告してください」

「それからおじいちゃんは私をこの椅子に縛って、次に被害者になるという偽装を作ってください。

修ス夫人については、警官が来たら彼女が気付いて逃げたと言えばいいわ」

ディスは頷き、カレンの後ろに回り込んで登山バッグの中からナイフを取り出し把玩し始めた。

椅子に座っているカレンはおじいちゃんが自分を縛るのを見ていた。

普洱が自分の前に蹲踞している姿を見て、その猫の笑みがますます気味悪く感じられた。

「おじいちゃん、もう一つ方法があるわ。

おじいちゃんが何かで私の意識を失わせてくれれば、警官が来るときの効果も良くなるし、私も説明しやすくなる」

「そんな必要はない」

ディスはカレンの前に歩み寄り、彼女は笑った。

「もちろん全ておじいちゃんに任せるわ。

どうなってもいいわ」

「プッ!」

激しい痛みが胸を貫いた。

カレンは信じられない思いで顔を下げた。

自分の胸に刺さっているのはナイフだった。

耳の奥から、おじいちゃんの声が聞こえた。

「私が始めた間違いは、私が終わらせるべきだ」

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