明ンク街13番地

きりしま つかさ

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第0277話「闇月の呪い」

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リチャードは隣に座るエーゼン先生を見やり、尋ねた。

「ベルナが生きているというのはどういう意味だ?」

「ヴェイン法典によれば、我々はただ盗みと死体侮辱罪だったんだよ」

「それなら今はどうなんだ?」

「ベルナが生きているということは、我々は無罪になったということさ」

リチャードは真剣にエーゼン先生を見つめ、瞬きながら感嘆した。

「うん、その通りだね!」

カルンが後ろの二人を手招きすると、たちまち近づいてきた。

リチャードはついベルナの顔を叩いた。

「ほんとに生きているのか?」

「ええ、間違いなく生きてるわ」

「じゃあどうやってやったんだ?」

とリチャードが訊ねた

エーゼン先生が口を開いた。

「あの巨大な亀と同じかもしれない。

一種の長眠死体状態だ」

ドロンスは既に寿命を尽きていたが、フィリアスが封印して彼を長眠させ、百年後に人々の血と汗で築かれた結晶を見る機会を与えたのだ。

カルンが頷いた。

「暗月島の記録によれば、ベルナの死因は曖昧だったはずよ」

ベルナの死前には政変や動乱もなければ重大な傷害もなく、慢性病もなかった。

つまり具体的な死因は存在しなかったのだ。

公式見解では彼は暗月島のために過労で自らの書斎で亡くなり、机に広げられた地図が残されていたという。

偉大なる先祖ベルナが死ぬ直前まで未来の暗月島を描き続けていたという物語だった。

カルンはそれを信じなかった。

彼の個人的な問題もさることながら仕事面でも暗月島への無私の奉仕者ではなかったから、そのような人物が「奇観」を作り出すなどあり得ないと思っていたのだ

ベルナの白髪と肌の色合いについて最初カルンは死後保存状態が良いからだと考えていたが、実際には準備して死んでいたのかもしれない。

思念宮の本当の目的はポールへの愛慕表現だけではなかった。

彼は地面に棺を置くという形式そのものも欲しかったのかもしれない

なぜそんなことをしたのか?

それは誰一人信用できなかったからだ。

たとえどれほど忠誠心があっても、権力闘争の歪みや堕落をよく知っていたからこそ

死んだ後でも忠誠は続くのか?

子嗣はどうだろう?自分が選んだ次代族長であっても信頼できないのか?

暗月一族が自分たちだけに向けた「呪いの虫」が存在するように、彼は完全な信用を置けなかったのだ

百年もの間眠り続けたという事実からもその意思の強さが窺えた

彼は成功した。

なぜなら、その遺体が思念宮に安置されていたからだ。

後代の権力闘争に関わらず超然の立場を保っていたのは、既に図腾であり暗月島の政治正義となったためである。

「蘇醒後に出てくる際に便利なだけか?」

カレンは思念宮の構造を瞬時に思い浮かべた。

高々とそびえる普洱像(※ここでは仮に「古代の彫刻」で統一)と岩脈導入の必要性から、大殿には屋根がなかった。

暗月の光を吸収して養分とするのか、それとも思念宮の岩脈も必要な要素なのか?

カレンはその可能性を感じたが、今はベルナードが生きてることに興味があった。

彼女にとって「通常の蘇醒」では不十分だった。

目覚めさせれば、彼女が与えた罰と復讐を完結できなかった。

今やベルナードが生きているなら、彼女は彼を起こせば本物のベルナードに罰を与えることができるのだ。

そして殺した後も蘇醒して再び殺すことも可能だった。

「双倍の喜びではなく十重もの快楽だ」

問題は如何やって目覚めさせるかだ。

棺から背負い出しても意識がなかったなら理解できた(深度睡眠状態で外界への感知は微弱)。

しかしエーゼン氏が針を刺すように配置した陣法も効果なしという事実が、その死の深刻さを物語っていた。

「目覚めさせたいのか?」

「えぇ、何か方法があるか?」

「ないわ」

リチャードはエーゼン氏に肩を押し付けた。

「じゃあなぜ質問したんだよ。

馬鹿なこと言うんじゃない」

エーゼン氏は頷いた。

カレンが言った。

「暗月島では先祖の不在に気づくだろう。

我々も早く戻らねばならない」

エーゼン氏が口を開いた。

「巨竜の目覚め方か?」

「しかし今は海螺(※ここでは「貝殻」で統一)を探す時間はないわ」

リチャードが疑問を投げた。

「何の貝殻?」

エーゼン氏は言った。

「先ほど陣法を配置した際、彼の体内に微弱な意識を感じた。

聖器に新たな彫刻を行うような抵抗感があった。

その量は通常の死体とは比べ物にならないほどで、私の施術に対し軽い排斥反応を示していた」

「この情報が役立つかどうか分からないけど……」

カレンは何か思いついたように額に手を当て、ベルナードを見やった。



彼はオフィーリアが呪いの虫を飲み込んだ際の反応を思い出した。

オフィーリア自身が闇月浄化を行う際に体内に潜む呪いの虫は即座に反撃し、汚染度がさらに高まるという事実。

フィリアスはかつて多隆スの身から採取した蚤を段階的に育成して呪いの虫を作り出したと語っていた。

最初の目的は闇月島の新規産業品としてではなく、単に新たな商品開発だったのだ。

その虫が後に呪いの虫となったのは蛇島で逃亡したフィリアスが怒りから唱えた呪文によるものだった。

闇月一族が今も呪いの虫を掌握している理由は内輪の争い以外に何かあるのか?もしもその虫が闇月の血脈を持つ者だけに効果があるなら、それ自体には他の価値が存在するのではないだろうか?

ベルナールの眠り方と多隆スは似ていた。

元々この虫を育成した目的とは何か。

産業品として?産業品として?

フィリアスとその信者たちは善良な人々だ。

危害性のある商品を作り売り出すことはしないはず。

ならば、死に瀕する人間の眠りを誘う虫であるべきか。

それが産業品となるなら世間に求められるものだろう。

ベルナールはその虫を飲み込んだ!

呪いの虫ではなく、最初に完成させたオリジナルバージョンの虫だった。

これはフィリアスたちが闇月島のために開発した看板商品なのだ。

闇月一族はその価値を見抜いて絶滅させず現在まで保存している。

この虫は他人には無害だ。

むしろ有用かもしれない。

他の補助手段と組み合わせてこの虫の効果を加えることで人間が長眠状態に入る可能性がある。

しかし闇月一族はその産業化に踏み切れない。

なぜならそれは自ら首を絞めるようなものだからだ。

闇月島への敵意を持つ勢力がわずかの金でこの虫を購入し、闇月島へ侵入させれば一族滅亡の危機となるからである。

カルンは自分の推測が正しいと確信した。

フィリアスは天才だったのだ。

彼には人格魅力があり、熱心な支持者がいた。

優しく善良だった…いや、そういった人々がベルナールのためにそのような結末を迎えたのは残念だった。

もしそうなら、彼はまた別の伝説となるべき存在だったかもしれない。

カルンの胸中ではフィリアスは百年前前の自分と重なっていた。

その代入感が強まるたびにベルナールへの憎悪感が増す。

ふん…

幸いにもカルンは後からこの事実を知ったのだ。

もしそれ以前に分かっていたなら、自分が隊長と共に何かする機会があったかもしれない。

むしろ自分の方が積極的に動いていた可能性さえある。

しかし問題の本質が明らかになった今、解決策も見えてきた。

カルンは掌を開き、オフィーリアに血を注いだ傷跡を見やった。

術法治療を受けたため今は薄い痕だけが残っている。



「メモス、リチャード、次にやることは彼を覚醒させるための私の秘密を使うことだ。

見せられないものだから二人は外に出なさい」

リチャードが笑った。

「ははは、あんたもずいぶん堂々と」

「了解」

エイセン氏はカレンの前に糸玉を置いた。

それは一連の結界を制御する糸で、どの線を切ればどの結界が起動するか、カレン自身が配置したので問題ないはずだ。

置いてから出て行った。

「待って!」

リチャードはエイセン氏を追って洞窟外に出た。

「あいつの秘密は何だと思う?」

「彼には多くの秘密がある」

「それは当然のことだよ」

「お前と仲良くするようにしなさい、それがお前のためになる」

「貴様のような高慢な態度で話しかけるのは不快だが、心は温かい」

「ふふふ」

リチャードがエイセン氏の後頭部を撫でた。

「お前もしっかりやれよ。

お前の仲間カレンと仲良くするようにしなさい。

覚えてるか?」

エイセン氏「はい、覚えています」

「あーっ」リチャードが伸びをした。

「夕方の劇場公演はもう十分だったのに、深夜の体験の方がずっと印象的だ。

今でも現実味がない気がする。

あの先祖の遺骸を盗んだなんて」

「なぜやるのかは知らなくてもいい。

ただ命令に従っていればいいんだよ」

「そんなことくらい知ってるさ。

カレンの言う通りにするだけだ」

そう言いながらリチャードがエイセン氏の肩を抱き締めた。

「お前も頑張れよ。

近いうちにお前の仲間カレンは独立して秩序の鞭小隊を率いる資格を得るだろう。

その時は俺たち兄弟でカレンに従ってやろうぜ」

エイセン氏「はい、分かりました」

「カレンは長兄だ。

俺が先に来たからお前は二番目だな? 年齢で比べるのは野暮ったいよ」

「はい」

「おーい! お前の名を呼ばんか?」

エイセン氏が頷き、リチャードを見た。

「うむ、聞いたぞ」

洞窟内。

カレンがアレウスの剣に掌で切り込みを入れ血を流し始めた。

次いで彼はもう一方の手でベルナの頬を強く掴み唇を尖らせさせた。

血がその尖った唇から流れ出す。

しばらくするとカレンは手を離した。

その後、ベルナの反応を見るだけだ。



反応は早かった。

カレンが掌の傷口に簡単な治療魔法を施す前に、ベルナの口から白い虫が這い出てきた。

オフィーリアが誤飲した黒い呪虫とは違い、この白い虫はそのサイズも大きく蚕の幼虫のように見えた。

これは一種の特殊共生関係だ。

カレンとプール(※原文「普洱」を仮名で表記)との間にある共生とは異なり、物理的な共存に過ぎない。

宿主となる人間は身体を貸し出す代わりに清掃や維持管理を行う。

白い虫が出てきた直後、その体が痙攣した。

カレンはそれが自分の方を見つめていることに気づいた。

脱出後の虫は新たな住処を探しつつ掌の傷口へと向かった。

「理查!」

洞窟の外に声をかけた。

返事と共に理チャ(※原文「理查」を仮名で表記)が小走りで入ってきた。

彼はベルナがカレンによって目覚めさせられたと思い込んでいたが、棺材内のベルナが動いていないことに驚きを隠せない。

「掌を開けろ」

「え?」

理チャが手を開くと、白い虫が置かれた。

その質問に答えようとする前にカレンは指示を出す。

「孟フィス(※原文「孟菲斯」を仮名で表記)に確認してから吞み込むように。

ただし咀嚼はしないこと」

「可愛いじゃん、どこから来たの?」

と理チャが尋ねる。

「オフィーリア様からの贈り物だ。

眠っていたものが目覚めたんだ。

体内にいるなら傷の回復が早くなるはず」

「本当に? オフィーリア様のものなのにそのまま渡すのか?」

「俺たち仲間だからさ」

「記憶に留めておけよ。

まず孟フィスに検査を依頼し、貴方の体質がその虫を飲み込めるかどうか確認してもらいたい。

それから彼にも注意点があれば教えてもらうんだ」

「はいはい、承知しました。

他に何か?」

「ないさ。

出ていけよ。

私が呼びかけない限り、誰もここには入ってこないようにな」

「分かりました」

リチャードが虫を抱え外に出た

「リチャード」

「ん? まだ何かあるのかい?」

「飲み込む前に洗っておくように」

「この小っちーは結構綺麗じゃないかと思ってるんだよ」

「衛生面に気をつけないと」

「分かったわ」

カレンはその白い虫が危害を及ぼさないことを確信していた。

それは、先ほど自分に包帯を当ててくれた際に礼儀正しく振舞ったからという理由だけでなく、フェリヤス氏が意図的に害悪な生物を育成するような人物ではないと信じていたからだった

相手の人物性から虫の品性を判断するというわけだ

さらにその虫がベルナ体内で共生した百年間、明らかに成長・成熟し続けたことは事実。

非常に優れた存在ではあるものの、自分には使えないためアルフレッドたちに渡すのが最善だった。

ただ問題は、人間から離れすぎると何か不具合が起きるかもしれないこと。

既に以前から弱っている様子も見えた

だからリチャードへのお礼として、エイセン氏にも恩を返すという二重の意味で贈るのが最も効率的だった

リチャードが洞穴を出た後

カレンは振り向きざま棺桶の脇を叩いた

「まだ装睡中なのか?」

ベルナが目を開けた!

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