【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香

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それは突然に

「まあ、スィートピーなぜあなたが一緒に?」

 先触れもなく私の屋敷に訪れた婚約者のシオン殿下には驚くよりも呆れましたが、我が家で一番立派な応接室のソファーに文字通りふんぞり返る様に足を組み座っていらっしゃるシオン殿下の隣に、私の妹スィートピーが長年連れ添った夫婦の様に並んで座っているのが見えた瞬間、なんとも言い表せない感情が心の奥底から湧き上がって来ました。

 呆れ以上の呆れ? いいえ侮蔑とでも言ったほうがいいのかもしれません。

 シオン殿下の隣に座っているのは、私の妹。そしてシオン殿下は、私の婚約者の筈ですが、もしかして私の覚え違いだったのでしょうか。
 彼が私の婚約者なのは、私の勘違い。だとすれば私はどんなに幸せだったでしょう。
 ですが、彼は間違いなく私と婚約しています。私は一度も幸せだと感じたことはありませんが、それでも彼と私は王命で婚約しているのです。

「何故殿下の隣に座っているの、礼儀を弁えなくては駄目よ、スィートピー」

 呆れと驚きを心の奥底に押し込もうとしても、その努力を無にして後から後から湧き出てくる呆れという感情。それに無理矢理蓋をして、作り笑顔のまま私の扉を開いたまま立っていた執事に目配せすると優秀な彼はすぐに去っていきました。

「お姉様、私、私」

 妹が私に何を言いたいのか分かりませんが、大きな瞳に涙をためて申し訳無さそうにしつつも、嬉しさは隠しきれていない。そんな彼女にため息が出そうになりました。

 愛らしい顔の我が妹は、感情を隠すのが上手くありません。
 まだ私も妹も成人前ですから、社交界にはお母様と一緒にお茶会に出る程度ですから良いですが、妹一人でどこかの家の茶会に出席させられる日はまだ暫くは来ないでしょう。
 私は王太子妃教育を幼い頃から受けていて感情を隠せる様に身に付いけましたが、妹はいくらお母様から叱責されても直せないのですから、これから先妹苦労するのは目に見えています。

「スィートピー、いくらここが自分の家とはいえ婚約者でもないあなたがシオン殿下のお側に座るのは良くないわ。場所を移動しなさい」
「私が許しているのだからかまわない」
「シオン殿下」

 殿方が良くてもこちらは問題視するべきこと、それをこの二人は……。
 私が注意した途端、私に見せつけるよう更に寄り添う二人の様子に、私は目眩つきの頭痛を感じながら、学園で私の耳にも聞こえて来るようになった噂を思い出しました。
 やはりあの噂は本当なのでしょうか。

「今日は婚約の話で来たのだスクテラリア」
「婚約の話、でございますか?」

 この国の貴族令息令嬢が成人前の三年間通うことを義務付けられている貴族学園は、勉強と社交を目的に存在しています。
 殿下と私の学園卒業まであと三ヶ月と少し、卒業と同時に婚姻を結び私は王宮に居を移します。
 それが今更どんな話があるというのでしょう。

「私はスクテラリアとの婚約を、今すぐにでも解消したいと考えている」
「随分突然なお話ですね」

 誰の都合も考えない勝手な言い分に扇を広げ不快感を表しながら、私はやっと殿下の向いのソファーに腰を下ろしました。
 こんな話を聞くと分かっていたら、お兄様から頂いたお気に入りのドレスなんて着はしなかったというのに、このドレスを着るたびに不快な思いをしそうで腹が立ちます。
 そもそも、そんな大事な話を王宮の陛下の前ではなく、こんなところでしようとする殿下の気持ちが理解できません。

「私はスクテラリアとの婚約を解消し、スィートピーと婚約を新たに結びたいのだ」
「スィートピーと、でございますか? 側妃ではいけませんの? 王太子殿下であれば側妃を望めますわ。スィートピーを大切に思っていらっしゃるのなら、尚の事そうされた方が二人の幸せに繋がると存じますが」

 この国は基本的には一夫一婦制です。
 ですか国王陛下と王太子殿下のお二人だけは、側妃が持てます。
 誰かと夫を共有するのを好き好んでする人などいないでしょうが、正妃には重大な役目がある為そう決められています。

「お前はこんな時まで冷静なのだな」
「お気に障りましたでしょうか」

 常に冷静であれ、そう教育されて来たのですから仕方がありません。
 感情など殺してしまえ、婚約が決まった幼いあの日から私はずっと王子妃教育の為王宮が用意した家庭教師達に、そう言われ続けました。
 それが私の幸せだと、教え込まれたのです。

「私はスクテラリアと結婚しても、夫婦としてはとてもやってはいけぬ。だからスィートピーを妻にしたい。それにスィートピーの腹には私の子が授かっているのだ」

 よりにもよってこの時期に、シオン殿下は何を狂ってしまわれたのでしょうか。
 ですが言い出したら自分の我を通す方ですから、仕方がないのかもしれません。

「シオン殿下がいらっしゃっていると聞いたが」

 すぐに王宮に知らせを送らなければ、私が立ち上がろうとしたその刹那、荒々しく扉を開き部屋に入っていらしたのはルドベキアお兄様でした。

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