【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香

文字の大きさ
13 / 25

人を信じた神の話

しおりを挟む
『愚かな神の話をしよう』

 とても恐ろしい外見の魔神の腕の中に囲われているというのに、恐怖も嫌悪感も感じることはありませんでした。
 私を抱きしめたまま、魔神は感情のこもっていない声で語り始めました。

『昔善き神がいた。短き命を懸命に生きる人や動物を愛しく思い、慈しむ。そんな神がいた』

 魔神の話は長い長いものでした。

 善き神は、長い年月を一人で過ごしながら自分の子とも言える人や動物を愛していました。
 善き神は特に人を愛していました。
 いつの間にか人は言葉を話し、文字を使い相手と意思疎通する力を得て、生きる為の糧として食べていた物を、美味しくなるように工夫していく。
 美しい物を喜び、花を植え育てる。
 生きる上で無くても問題ないというのに、音楽を楽しみ絵や彫刻を楽しむ。
 手触りの布を織り服を作り、時には美しく手の込んだ模様が入った布を織り着飾る。
 ただの色がついた石ころを研磨し、宝石として楽しむ。
 ただの動物の一種でしかなかった人は、善き神が長く眺めている間にそうして変化していったのです。

 善き神にとって想像もしていなかったことの一つに、信仰がありました。
 何故か人は善き神の存在をいつの間にか信じ、善き神の像を作り、絵を描き神殿という場所に供えると善き神を崇め奉り、祈りを捧げるようになりました。
 沢山の人が祈りを捧げる内に、善き神の力は強くなり、力が強くなればなる程、いつの間にか人形作っていた国というものが栄え出し、国が栄え人々の暮らしが豊かになると人々はもっともっと善き神を信じ祈るようになりなっていきました。
 善き神は自分でも気が付かぬ内に、いつの間にか人々の国を守る存在になっていたのです。


 けれど、良いことは長くは続きません。
 ある時、虫が大量に生まれ育ち作物を食い荒らし始めました。
 食料になる大切な作物を虫に奪われた人々は弱り、その不幸と悲しみを神への怒りに変えました。

 幸せへの感謝の心はどこにもなく、強くなっていた善き神の力もだんだんと弱くなっていきました。
 そうすると、善き神の守りも弱くなり、それに引きずられる様に人々の国も力を失って行きました。

 愛しい人を救おうとしたくても、神の憎むばかりで崇めることをせず守りを信じる者がいない地には善き神の力は届きません。
 善き神は自身の力不足を嘆きながら、死にかける人々を悲しく眺める事しか出来ないのです。

 沢山の人々が命を落とし、飢えに苦しみ、それが元で疫病が流行り始めても善き神は何もできなかったのです。
 善き神自身、姿を保っていられない程に弱り消えかけながら人に何かしたいと、その姿を眺めるのを止められずにいました。

 もう善き神が消える、それが目前に迫ったある日、善き神の元に一つの願いが届きました。
 自分の命も大切なものもすべて差し出すから、この国を助けて欲しい。
 その強い願いは善き神のちからになり、神は願いの主の前に姿を現したのです。

 願いの主はこの国の王でした。
 王は自分の命と引き換えに国を救って欲しいと、善き神に願いました。

 対価など不要、祈りと信じる心さえあれば善き神は力を使えましたが、願いの主がその願いと共に命を差し出すというので、それで契約が成ってしまいました。


 善き神は力を使い、国の土を肥えさせ、木々を育て作物を実らせました。
 人々の病を治し、死にかけの人をも癒やしました。
 そうして国を救い、豊かにしてから願いの主の前に戻ると、王は己の命を差し出そうと剣を手に取ったのです。
 けれど、その手を止めた者がいました。
 王の妻は、この国には王が必要でこの王こそが良き国を作るのだと、切々と訴えました。
 そうして、王の替わりに自分の命を差し出すと言い始めたのです。
 自分は神の妻となり生涯仕えるから、王を助け王家の血筋が耐えぬよう守り、そして国を守って欲しい。
 そう願ったのです。

 強い願いは契約を上書きし、神への願いの対価は王妃自身となりました。

 仕方なく神は王妃の良人になり、この国を守ると誓いました。

 けれど、現実は物語のようにめでたしめでたしでは終わらなかったのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

いなくなれと言った本当に私がいなくなって今どんなお気持ちですか、元旦那様?

睡蓮
恋愛
「お前を捨てたところで、お前よりも上の女性と僕はいつでも婚約できる」そう豪語するカサルはその自信のままにセレスティンとの婚約関係を破棄し、彼女に対する当てつけのように位の高い貴族令嬢との婚約を狙いにかかる。…しかし、その行動はかえってカサルの存在価値を大きく落とし、セレスティンから鼻で笑われる結末に向かっていくこととなるのだった…。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

処理中です...