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蛍サイド
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「うまぁっ」
コンビニを出て駐車場に停めていた車に乗り込んだ俺は、紙コップのコーヒーをドリンクホルダーに置き、エコバッグからドーナツの袋を取り出すといそいそと齧り付いて思わず声を上げた。
「昼飯食いそびれてたから、余計に甘みが染み渡るぅっ」
ドーナツとかパンって、袋にイラストがなんて美味そうに描かれてるんだろう。
白地に『クリームたっぷりドーナツ』と赤く大きく書かれた文字と、こんがり揚げられ砂糖をまぶされ、ちょっとだけ齧ったところからクリームがこぼれ落ちた様に描かれているのがもう美味しそうすぎて、気が付けば手に取っていた。
インパクトって大事だよなこのパッケージ大正解、なんて。滅茶苦茶美味そうに描かれたイラストをしげしげと眺めた後、もう一口齧りつく。
「パソコンすぐに交換してもらえて良かった。課長と打ち合わせも出来たし今日はツイてるなぁ、俺」
俺こと笹川蛍が大卒で入った会社は、俺が入社した年から会社方針が変わり殆どの部署がリモート勤務になった。
池袋にある営業所勤務の予定で有楽町線の駅近くのマンションを借りたのに、三カ月の研修期間の後その営業所は神奈川県にある本社に集約されてしまった。
そんなわけで自宅勤務になった俺は、電話とチャットとWEB会議、ツールを駆使して社内の人とやり取りをしつつ、何とか仕事をこなしてもうすぐ三度目の春が来る。
この仕事にもすっかり慣れたなぁ。なんて、呑気に今朝パソコンを立ち上げようとしてパソコンがブルーバックになった時は焦ったけれど、会社に来て機材担当に半泣きで泣き付いたら、予備に購入したパソコンが届いたばかりだったらしく、すぐに新しいパソコンと交換してくれて設定もやってもらえたのはラッキーだった。
それに、偶然会社に来ていた課長と出会えたお陰で打ち合わせも出来たし、その関連で「最近笹川はしっかりしてきたな」と褒められたから、目茶苦茶気分が良い。
今日はやっぱりいい日だ。
「ドーナツもコーヒーも美味くて幸せっ。今日は金曜日だけど久々に一人だし、家に帰ったらのんびりしよっと」
エンジンを掛けていない車の中は少し肌寒いけれど、もう三月も半ばだし耐えられない程じゃない。
コンビニの明かりが差し込む車内は、夕方六時を過ぎてもおやつを食べるに困らない程度の明るさはある。
「うーん、髪伸びたかな」
ドーナツ片手にルームミラーを覗き込むと、ふわふわでちょっと長め前髪でくりくりとした二重の目をした童顔が映っている。
そろそろ切りに行かなきゃと思いつつ、仕事で客と会うわけじゃないしと三カ月程美容院に行ってない。今日は会社に行ったから、見苦しくない程度に襟足に掛かる髪を犬のしっぽみたいに一つに縛っているけど、そろそろ限界かもしれない。
こんな髪型している上童顔なせいで、スーツを着ていても社会人にはなかなか見られないのが悩みだ。
「家だと前髪上げとけばいいけど、邪魔ではあるんだよなあ」
切ろうかな、なんて言葉をドーナツと一緒にコーヒーで流し込みながら、拓は今頃飲み始まったぐらいだろうかとスマホのメッセージを確認する。
「飲み会だもんな、連絡来ないよな」
同居人の中村拓は、俺と違って在宅勤務じゃないから毎日出勤する。
リモートもありらしいけど、部署でリモートな人がいないから「満員電車は辛い」と言いつつ毎朝決まった時間に出掛けていく。
今日は転勤が決まった同僚の送別会らしく、帰りは遅くなると言って出て行った。
拓とは高校の頃からの付き合いだ。
高校が同じで、大学は別々で、でもどちらも大学が東京だったからなのか付き合いは切れなかった。
大学卒業後に会社に通いやすい場所に部屋を借りようと探していた俺は、同じ路線で部屋を探していた拓に誘われて即同居を決めた。
拓は仲が良い友達とルームシェアって感覚で誘ってくれたんだろうけれど、俺は高校の頃から拓のことが好きだったから嬉しくて仕方なかった。
「俺一人だから、夕飯これだけでいいかな」
ドーナツと一緒に、明日の朝食用の食パンと卵とハムを買ったけれど、夕食用には何も買っていない。
冷蔵庫の中身を思い浮かべるけれど、キュウリと牛乳ぐらいで後は冷凍庫にちょっとストックがある程度だから、弁当とか買わなければ家に帰って適当に作るしかないけれど、そんな気持ちにはなれなかった。
「家着いた頃には糖分回って満腹になってそうだ」
一人用の夕飯を作る気にはなれないし、食材の買い出しも面倒だ。
俺は食欲旺盛な方じゃないし、料理もそんなに得意じゃない。
俺が毎日家にいるから、何となく俺が炊事担当になってるだけだ。それに拓が毎回美味い美味いって食べてくれるから良い気になって作ってるというのもある。
「拓がいないと作る気になんないし、ドーナツ食ったらハンバーガーとか量多すぎて食えないし」
拓に、痩せすぎだもっと食えと言われるけれど、食えないんだからどうしようもない。
「拓帰って来るの俺が寝てからだろうし、だったら食って無くてもバレないか」
口に出したら気が楽になって、勢いよくドーナツに齧りついたらクリームが中から零れ落ちた。
コンビニを出て駐車場に停めていた車に乗り込んだ俺は、紙コップのコーヒーをドリンクホルダーに置き、エコバッグからドーナツの袋を取り出すといそいそと齧り付いて思わず声を上げた。
「昼飯食いそびれてたから、余計に甘みが染み渡るぅっ」
ドーナツとかパンって、袋にイラストがなんて美味そうに描かれてるんだろう。
白地に『クリームたっぷりドーナツ』と赤く大きく書かれた文字と、こんがり揚げられ砂糖をまぶされ、ちょっとだけ齧ったところからクリームがこぼれ落ちた様に描かれているのがもう美味しそうすぎて、気が付けば手に取っていた。
インパクトって大事だよなこのパッケージ大正解、なんて。滅茶苦茶美味そうに描かれたイラストをしげしげと眺めた後、もう一口齧りつく。
「パソコンすぐに交換してもらえて良かった。課長と打ち合わせも出来たし今日はツイてるなぁ、俺」
俺こと笹川蛍が大卒で入った会社は、俺が入社した年から会社方針が変わり殆どの部署がリモート勤務になった。
池袋にある営業所勤務の予定で有楽町線の駅近くのマンションを借りたのに、三カ月の研修期間の後その営業所は神奈川県にある本社に集約されてしまった。
そんなわけで自宅勤務になった俺は、電話とチャットとWEB会議、ツールを駆使して社内の人とやり取りをしつつ、何とか仕事をこなしてもうすぐ三度目の春が来る。
この仕事にもすっかり慣れたなぁ。なんて、呑気に今朝パソコンを立ち上げようとしてパソコンがブルーバックになった時は焦ったけれど、会社に来て機材担当に半泣きで泣き付いたら、予備に購入したパソコンが届いたばかりだったらしく、すぐに新しいパソコンと交換してくれて設定もやってもらえたのはラッキーだった。
それに、偶然会社に来ていた課長と出会えたお陰で打ち合わせも出来たし、その関連で「最近笹川はしっかりしてきたな」と褒められたから、目茶苦茶気分が良い。
今日はやっぱりいい日だ。
「ドーナツもコーヒーも美味くて幸せっ。今日は金曜日だけど久々に一人だし、家に帰ったらのんびりしよっと」
エンジンを掛けていない車の中は少し肌寒いけれど、もう三月も半ばだし耐えられない程じゃない。
コンビニの明かりが差し込む車内は、夕方六時を過ぎてもおやつを食べるに困らない程度の明るさはある。
「うーん、髪伸びたかな」
ドーナツ片手にルームミラーを覗き込むと、ふわふわでちょっと長め前髪でくりくりとした二重の目をした童顔が映っている。
そろそろ切りに行かなきゃと思いつつ、仕事で客と会うわけじゃないしと三カ月程美容院に行ってない。今日は会社に行ったから、見苦しくない程度に襟足に掛かる髪を犬のしっぽみたいに一つに縛っているけど、そろそろ限界かもしれない。
こんな髪型している上童顔なせいで、スーツを着ていても社会人にはなかなか見られないのが悩みだ。
「家だと前髪上げとけばいいけど、邪魔ではあるんだよなあ」
切ろうかな、なんて言葉をドーナツと一緒にコーヒーで流し込みながら、拓は今頃飲み始まったぐらいだろうかとスマホのメッセージを確認する。
「飲み会だもんな、連絡来ないよな」
同居人の中村拓は、俺と違って在宅勤務じゃないから毎日出勤する。
リモートもありらしいけど、部署でリモートな人がいないから「満員電車は辛い」と言いつつ毎朝決まった時間に出掛けていく。
今日は転勤が決まった同僚の送別会らしく、帰りは遅くなると言って出て行った。
拓とは高校の頃からの付き合いだ。
高校が同じで、大学は別々で、でもどちらも大学が東京だったからなのか付き合いは切れなかった。
大学卒業後に会社に通いやすい場所に部屋を借りようと探していた俺は、同じ路線で部屋を探していた拓に誘われて即同居を決めた。
拓は仲が良い友達とルームシェアって感覚で誘ってくれたんだろうけれど、俺は高校の頃から拓のことが好きだったから嬉しくて仕方なかった。
「俺一人だから、夕飯これだけでいいかな」
ドーナツと一緒に、明日の朝食用の食パンと卵とハムを買ったけれど、夕食用には何も買っていない。
冷蔵庫の中身を思い浮かべるけれど、キュウリと牛乳ぐらいで後は冷凍庫にちょっとストックがある程度だから、弁当とか買わなければ家に帰って適当に作るしかないけれど、そんな気持ちにはなれなかった。
「家着いた頃には糖分回って満腹になってそうだ」
一人用の夕飯を作る気にはなれないし、食材の買い出しも面倒だ。
俺は食欲旺盛な方じゃないし、料理もそんなに得意じゃない。
俺が毎日家にいるから、何となく俺が炊事担当になってるだけだ。それに拓が毎回美味い美味いって食べてくれるから良い気になって作ってるというのもある。
「拓がいないと作る気になんないし、ドーナツ食ったらハンバーガーとか量多すぎて食えないし」
拓に、痩せすぎだもっと食えと言われるけれど、食えないんだからどうしようもない。
「拓帰って来るの俺が寝てからだろうし、だったら食って無くてもバレないか」
口に出したら気が楽になって、勢いよくドーナツに齧りついたらクリームが中から零れ落ちた。
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