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番外編
兄の寵愛弟の思惑113
「帝国が滅んでから月日が過ぎて私は病により寝たきりになりました。私は殆どの時間を眠りながら過ごし、その眠りの中で守りの魔法陣を改良し続けました。私の人生の最後の最後にようやく、完全なる守りをこの国に施すことが出来ました」
「守りの魔法陣が完成し、国の周囲が守りの壁で包まれたのを見届けて皇女の命は尽きた」
おじい様がぽつりと呟く、王宮の中にいてどうやって国の周囲を守りの壁……実際には目に見えないし触れることも出来ない。けれど魔物と害意ある者の侵入を阻止する。それが現れたのを皇女がどうやって見届けたのか分からないけれど、それは真実だと王家の歴史書に書かれている。
「見届けたのではありません、私の命を魔法陣に移すことで守りの魔法陣は完成したのです。私は守りの魔法陣に自分自身を紐づけて、私の命の残りと魔力のすべてを魔法陣の核となる魔石に移しました。私は魔法陣の魔石の中で永遠に生き、意識を保ち続けることで守りの魔法陣を守る、それはこの国を守ることにもなる。私の肉体は人生を終えても私の魂と魔力は永遠に魔法陣の中に生き続けているのです」
永遠に生きる。
皇女のそれは、献身なんて簡単な言葉で言い表せるものではないように思う。
この国の守りのために、どうしてそこまでのことを皇女は出来たのか分からない。
皇女の様な魔法陣の才が私にあったとして、私は同じことが出来ただろうか。
「私は夫を、私と夫の子供達を守りたかった。私を受け入れてくれた夫の兄弟も、その伴侶も、その子供達も。私を王妃と認めてくれた貴族達も、この国の民も、皆を守りたかった。この国に暮らすすべての者が幸せに暮らせるようになんて、私には出来ない。私は神では無い、少し魔法が得意なだけの女でしかない私にそんな力はない。だけど他国の者から襲われる恐怖を無くすことなら出来るかもしれない。この国全体を私の魔力で包むことが出来たら、恐ろしい私の父の手からこの国を守れるかもしれない。それが守りの魔法陣を作り始めた理由です」
少し魔法が得意なだけ、そう自分を評価しているけれど、過小評価過ぎる。
今より小さい国だったとしても、一人の魔力でこの国を包むなんて出来るわけが無い。夢物語と笑われるのがせいぜいの話だ。
「当時の私が何より恐ろしかったのは帝国からこの国が狙われることでした。帝国の者は残忍な方法で他国を攻めるのを得意としていましたし、魔物の扱いにも長けていました。そんな彼らがこの国に攻め入る事が出来ない様に、それが出来るのは私だけだと考えたのです。それが皇帝の血を引いた私の償いでもあると」
皇帝の血、皇女の父は残虐王として歴史に名を残した人だ。
贅沢を好み、色を好み、気に入らないことがあれば躊躇いなく人をその手で殺めた。
殺めた人の血を溜めた湯殿で、その血を浴びるのを好んだとも言われている。さすがにそれは嘘だと思うが、それをしかねない人だと思われる程酷い人間だったということだ。
「私の死後も魔法陣が稼働し続けられる様に、私は私自身の魂と魔力と魔法陣を紐づけました。魔法陣は古代竜の魔石を主軸にし、火、水、土、風の竜の魔石をその補助に置いたのです。王宮のすぐ近くに迷宮王家の森がありましたから、そこから必要な魔素は得られる。私の魔力と魂の力と王家の森から得られる魔素、それで永遠に魔法陣は稼働し続けられる。私の計算は完璧な筈でした。でも誤算があったのです」
皇女の誤算とは何だろうと考えて、すぐに思いついた。
皇女の話には、王家の森からの魔素と皇女の魔力と魂の力としか出てこなかった。それで足りるのなら、王家の者が魔力を注ぐ必要はないのだ。
「誤算?」
「はい。私が生きていた時代より、この国の国土はかなり大きくなっています。魔法陣にはこの国の守る範囲を決める地図が組み込まれています。なんらかの理由で国土が広がるまたは狭まった場合、国王陛下自身がその地図を書き変えることで守りの範囲を変えられる様になっています。陛下はご存知ですよね」
「ああ、余の代でそれをしたことはないが、国が大きくなる度にそれを行ってきた記録は残っている」
そんな仕組みがあるなんて、私は教えられていない。
もしかすると、この話は王位を継いだ者以外には教えられないことなのだろうか。
それにしても守りの魔法陣はしっかりと考えられた上で作られていても、皇女の予想を超える規模で国は大きくなっていたのか。
この国は帝国が滅んだ後、戦で国土を広げたことは一度もない。
この国の周辺には元々どの国にも属さない土地があった。
そこは大きな森があり、強い魔物が多くいて人が暮らすのは難しい土地だった。他国に行くにはその恐ろしい森を通り抜けなければならなかった。
帝国が滅んだ後、そこを開墾し国土を広げようとする者が現れ、徐々にこの国は広くなっていったのだという。
「守りの魔法陣が完成し、国の周囲が守りの壁で包まれたのを見届けて皇女の命は尽きた」
おじい様がぽつりと呟く、王宮の中にいてどうやって国の周囲を守りの壁……実際には目に見えないし触れることも出来ない。けれど魔物と害意ある者の侵入を阻止する。それが現れたのを皇女がどうやって見届けたのか分からないけれど、それは真実だと王家の歴史書に書かれている。
「見届けたのではありません、私の命を魔法陣に移すことで守りの魔法陣は完成したのです。私は守りの魔法陣に自分自身を紐づけて、私の命の残りと魔力のすべてを魔法陣の核となる魔石に移しました。私は魔法陣の魔石の中で永遠に生き、意識を保ち続けることで守りの魔法陣を守る、それはこの国を守ることにもなる。私の肉体は人生を終えても私の魂と魔力は永遠に魔法陣の中に生き続けているのです」
永遠に生きる。
皇女のそれは、献身なんて簡単な言葉で言い表せるものではないように思う。
この国の守りのために、どうしてそこまでのことを皇女は出来たのか分からない。
皇女の様な魔法陣の才が私にあったとして、私は同じことが出来ただろうか。
「私は夫を、私と夫の子供達を守りたかった。私を受け入れてくれた夫の兄弟も、その伴侶も、その子供達も。私を王妃と認めてくれた貴族達も、この国の民も、皆を守りたかった。この国に暮らすすべての者が幸せに暮らせるようになんて、私には出来ない。私は神では無い、少し魔法が得意なだけの女でしかない私にそんな力はない。だけど他国の者から襲われる恐怖を無くすことなら出来るかもしれない。この国全体を私の魔力で包むことが出来たら、恐ろしい私の父の手からこの国を守れるかもしれない。それが守りの魔法陣を作り始めた理由です」
少し魔法が得意なだけ、そう自分を評価しているけれど、過小評価過ぎる。
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「当時の私が何より恐ろしかったのは帝国からこの国が狙われることでした。帝国の者は残忍な方法で他国を攻めるのを得意としていましたし、魔物の扱いにも長けていました。そんな彼らがこの国に攻め入る事が出来ない様に、それが出来るのは私だけだと考えたのです。それが皇帝の血を引いた私の償いでもあると」
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贅沢を好み、色を好み、気に入らないことがあれば躊躇いなく人をその手で殺めた。
殺めた人の血を溜めた湯殿で、その血を浴びるのを好んだとも言われている。さすがにそれは嘘だと思うが、それをしかねない人だと思われる程酷い人間だったということだ。
「私の死後も魔法陣が稼働し続けられる様に、私は私自身の魂と魔力と魔法陣を紐づけました。魔法陣は古代竜の魔石を主軸にし、火、水、土、風の竜の魔石をその補助に置いたのです。王宮のすぐ近くに迷宮王家の森がありましたから、そこから必要な魔素は得られる。私の魔力と魂の力と王家の森から得られる魔素、それで永遠に魔法陣は稼働し続けられる。私の計算は完璧な筈でした。でも誤算があったのです」
皇女の誤算とは何だろうと考えて、すぐに思いついた。
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「誤算?」
「はい。私が生きていた時代より、この国の国土はかなり大きくなっています。魔法陣にはこの国の守る範囲を決める地図が組み込まれています。なんらかの理由で国土が広がるまたは狭まった場合、国王陛下自身がその地図を書き変えることで守りの範囲を変えられる様になっています。陛下はご存知ですよね」
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