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番外編
兄の寵愛弟の思惑117
「デルロイ、目が覚めたか! 気分はどうだ、眩暈や吐き気はしないか。ああ、デルロイ顔を見せてくれ、私が分かるかデルロイ!」
紙をめくる様な微かな音が聞こえて瞼を開くと、私の顔を覗き込む目が見えてギョッとする。
「あに、うえ?」
デルロイと私の名を呼ぶ人は数えるほどしかいないが、この人ほど私の名を宝物の様に呼ぶ人はいないだろう。
心配そうな顔を安心させたくて微笑みながら手を伸ばすと、冷たい両手が私の手を包んだ。
「デルロイ、デルロイ。良かったデルロイ、シード神よ感謝します」
私を心配するというにはあまりに大袈裟な兄上の言葉に驚きながら体を起こそうとするけれど、なぜか力が入らなくて体を起こせない。剣術の稽古をし過ぎた後の様に体が重い。
「兄上? どうなされたのですか?」
体の怠さだけじゃなく、とても口の中が渇いていて声を出しにくい。
自分の体のおかしさに不安を覚える。
「デルロイ、悲しそうな顔をしている。デルロイはずっと魘されていた、辛い夢を見ていたのか?」
「夢……夢は……長い夢を見ていたように思いますが、覚えていません」
おじい様が夢に出て来た気がする。
ああ、なぜだろう。おじい様のことを思うと胸が苦しくなる。
「どうした」
「なぜでしょう、おじい様に夢の中でお会いしたような気がしたのですが、なんだかとても悲しい? 寂しい気持ちになってしまいました」
この胸の苦しさは、泣きたいのを我慢している時の感覚に似ている気がする。
おじい様が亡くなったのは、私が生まれて間もない頃だから実際にお会いしたことはない。以前見た夢の中で一度お話しただけだ。
それなのにおじい様をたった今亡くした様な、そんな喪失感に私は苦しめられている。
「おじい様が夢に? ……何か覚えているのか」
兄上はベッドの端に座ったまま、私の体を抱き起そうと私の背中に腕を入れ自分の方に引き寄せる。
筋肉が付きにくい私と違って、兄上は簡単に私を抱き起せるくらいに鍛えているのだなと、ぽすりと兄上の胸に体を預けながら羨ましく思う。
「私は心配しているというのに、何を笑っている」
「兄上は鍛えていらっしゃるのだなあって、安心して体を預けられます」
呑気なことを言っている自覚はあるけれど、体が怠くて怠すぎて兄上が支える様に背中に回してくれた腕の力すらありがたくて甘えてしまう。
「痛みがあるのか? それとも……」
「なんだか怠くて、今迄眠っていたのにどうしたのでしょう」
眠る前、何があったのか……思い出そうとしてそういえば兄上はどうして私の部屋にいるのだろうと遅まきながら気が付いた。
「そういえば兄上はどうして私の部屋……ここ兄上の部屋ですか?」
なぜ私は兄上の寝室にいるのだろう? あれ? 私はそう言えば。
「デルロイ、眠る前のことを覚えていないのか?」
「私は、学校で倒れて……その後確か……」
そうだ学校で倒れた後私は兄上の宮にある、私の為に用意されている寝室で目覚めた。
エマニュエラに精神攻撃魔法を掛けられて、そのせいで私は倒れたのだ。
「思い出しました、でもどうして兄上の寝室に?」
「デルロイはあの後、十日間もの間眠り続けていた……精神攻撃魔法の後遺症だと神官は言っていて精神浄化の魔法は掛けていたが、それでも目覚めぬ理由が分からなくて」
「十日、えっ、十日間もですか?」
あまりのことに驚き、兄上に持たれていた顔を上げると私と同じ色の瞳から涙が溢れているのが見えた。
「兄上、どうして泣いて」
「デルロイ、良かった。デルロイ」
ぎゅうと私の体を抱きしめる腕に力がこもり、何度も何度も兄上が私の名前を呼ぶ。
「兄上、ご心配を」
「いい、どれだけ心配を掛けてもいい。お前が何をしてもしなくてもいい。こうしてお前の声が聞けるなら、お前が私を見てくれる。それだけで十分だ」
どれだけ兄上に心配を掛けていたのか、ぽとぽとと私の顔に落ちて来る兄上の涙が教えてくれている様だ。
今まで私の前でも兄上は泣いた事など無かったというのに、こんな風に泣かせてしまうなんて。
「兄上、心配を掛けて申し訳ありません」
「謝らなくていい。デルロイ、その声をまたこうして聞けるだけで私は嬉しいのだから。デルロイ大丈夫だな? 私の側から急にいなくなったりしないでくれ」
涙が浮かんだ目が私を見つめる。
大きな手が私の背を撫でる、優しい手の動きに兄上の思いを感じて「大丈夫です、ずっと兄上の側にいます」と答える以外出来なかった。
紙をめくる様な微かな音が聞こえて瞼を開くと、私の顔を覗き込む目が見えてギョッとする。
「あに、うえ?」
デルロイと私の名を呼ぶ人は数えるほどしかいないが、この人ほど私の名を宝物の様に呼ぶ人はいないだろう。
心配そうな顔を安心させたくて微笑みながら手を伸ばすと、冷たい両手が私の手を包んだ。
「デルロイ、デルロイ。良かったデルロイ、シード神よ感謝します」
私を心配するというにはあまりに大袈裟な兄上の言葉に驚きながら体を起こそうとするけれど、なぜか力が入らなくて体を起こせない。剣術の稽古をし過ぎた後の様に体が重い。
「兄上? どうなされたのですか?」
体の怠さだけじゃなく、とても口の中が渇いていて声を出しにくい。
自分の体のおかしさに不安を覚える。
「デルロイ、悲しそうな顔をしている。デルロイはずっと魘されていた、辛い夢を見ていたのか?」
「夢……夢は……長い夢を見ていたように思いますが、覚えていません」
おじい様が夢に出て来た気がする。
ああ、なぜだろう。おじい様のことを思うと胸が苦しくなる。
「どうした」
「なぜでしょう、おじい様に夢の中でお会いしたような気がしたのですが、なんだかとても悲しい? 寂しい気持ちになってしまいました」
この胸の苦しさは、泣きたいのを我慢している時の感覚に似ている気がする。
おじい様が亡くなったのは、私が生まれて間もない頃だから実際にお会いしたことはない。以前見た夢の中で一度お話しただけだ。
それなのにおじい様をたった今亡くした様な、そんな喪失感に私は苦しめられている。
「おじい様が夢に? ……何か覚えているのか」
兄上はベッドの端に座ったまま、私の体を抱き起そうと私の背中に腕を入れ自分の方に引き寄せる。
筋肉が付きにくい私と違って、兄上は簡単に私を抱き起せるくらいに鍛えているのだなと、ぽすりと兄上の胸に体を預けながら羨ましく思う。
「私は心配しているというのに、何を笑っている」
「兄上は鍛えていらっしゃるのだなあって、安心して体を預けられます」
呑気なことを言っている自覚はあるけれど、体が怠くて怠すぎて兄上が支える様に背中に回してくれた腕の力すらありがたくて甘えてしまう。
「痛みがあるのか? それとも……」
「なんだか怠くて、今迄眠っていたのにどうしたのでしょう」
眠る前、何があったのか……思い出そうとしてそういえば兄上はどうして私の部屋にいるのだろうと遅まきながら気が付いた。
「そういえば兄上はどうして私の部屋……ここ兄上の部屋ですか?」
なぜ私は兄上の寝室にいるのだろう? あれ? 私はそう言えば。
「デルロイ、眠る前のことを覚えていないのか?」
「私は、学校で倒れて……その後確か……」
そうだ学校で倒れた後私は兄上の宮にある、私の為に用意されている寝室で目覚めた。
エマニュエラに精神攻撃魔法を掛けられて、そのせいで私は倒れたのだ。
「思い出しました、でもどうして兄上の寝室に?」
「デルロイはあの後、十日間もの間眠り続けていた……精神攻撃魔法の後遺症だと神官は言っていて精神浄化の魔法は掛けていたが、それでも目覚めぬ理由が分からなくて」
「十日、えっ、十日間もですか?」
あまりのことに驚き、兄上に持たれていた顔を上げると私と同じ色の瞳から涙が溢れているのが見えた。
「兄上、どうして泣いて」
「デルロイ、良かった。デルロイ」
ぎゅうと私の体を抱きしめる腕に力がこもり、何度も何度も兄上が私の名前を呼ぶ。
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「いい、どれだけ心配を掛けてもいい。お前が何をしてもしなくてもいい。こうしてお前の声が聞けるなら、お前が私を見てくれる。それだけで十分だ」
どれだけ兄上に心配を掛けていたのか、ぽとぽとと私の顔に落ちて来る兄上の涙が教えてくれている様だ。
今まで私の前でも兄上は泣いた事など無かったというのに、こんな風に泣かせてしまうなんて。
「兄上、心配を掛けて申し訳ありません」
「謝らなくていい。デルロイ、その声をまたこうして聞けるだけで私は嬉しいのだから。デルロイ大丈夫だな? 私の側から急にいなくなったりしないでくれ」
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