【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

兄の寵愛弟の思惑119(エマニュエラ視点)

「デルロイ様が体調を崩されてからもう十日以上よ、私がお見舞いに行って何が悪いというの」

 いらいらした気持ちで、今朝メイドに整えさせたばかりの爪を噛みながらダヴィデ様の執務室へ続く廊下を一人歩く。
 私に付き添う使用人はいない、王宮にいるのは気が利かない人間ばかりで私の神経を逆なでるから一人が良い。
 サデウス家の使用人も仕事が出来ない者ばかりだけれど、それでもここの使用人に比べたらいくらかマシだ。そうお父様に言って元々私付きだった者を王宮に連れて来たいとお願いしたのに、許可されなかった。
 お父様いわく「エマニュエラは準王族になるのだから、サデウス家の使用人ではお前に仕えることは出来ない」のだそうだ。王子の婚約者が準王族になるなら、ボナクララだって同じだけれど、王太子妃になる私と今後臣籍降下すると決まっているデルロイ様に嫁ぐボナクララでは立場が違うのだと言われたら文句は言えなくなる。
 サデウス家にいた頃と違い、王妃宮で暮らすのは好き勝手出来ないから辛い。
 ボナクララは結婚までサデウス家で呑気に暮らすのは狡いと思うが、「未来の王太子妃を大切にしているのだ。むしろ同じく王家に嫁ぐのに王宮に迎えてもらえないボナクララを気遣ってあげなくては」と言われたら私の考えがわがままなのだと言われている様で腹が立つ。
 なぜ私がボナクララの気持ちを気遣ってあげなければならないのか、意味がわからない。
 王太子妃になる私と、ただの王子妃のボナクララとでは待遇が違うことの何が悪いというのか。
 長く夜だけが続くことはないし、夜が来ない昼だけという日もないのと同じように、王太子妃がただの王子妃より優遇されるのは当たり前、だというのになぜ私がボナクララを気遣わないといけないのかわからない。
 それに私が優遇されているとは思わない。
 婚約披露の予算が私の方が多いのは私が王太子妃になる人間だからだし、継承権はそのまま残るとしてもデルロイ様は臣籍降下する身だ。つまり王太子妃になる私には臣下となる人だ。
 彼は結婚してすぐ公爵家を興す、貴族の中では公爵位は最高になるけれど、臣下は臣下でしかない。
 つまりデルロイ様の妻なんて、私が気遣う必要はなにもない。

「デルロイ様を気遣えというなら、譲歩してもいいけれど。ボナクララになんて嫌よ」

 王妃宮にいるのは煩わしいことが多いから、気楽に過ごせるデルロイ様の住まい、王子宮に何度も足を運んだ。
 侍女やメイド達の行動をほんの僅かな時間だけ操れると気が付いたから、もしかしたらデルロイ様にも使えるのではないかと期待したというのもある。
 最近は行動だけでなく、心も僅かだけど操れる様になったのだから、いつか王妃のことも陛下のことも私の意のままに操るつもりで、これはそのための練習でもあった。

「デルロイ様にお会いしたいのに、本当ボナクララが邪魔だわ」

 何かと厳しいことを言うダヴィデ様と違い、デルロイ様は私にいつも優しい。
 ダヴィデ様は性格の厳しさが顔にも表れているけれど、デルロイ様は元々の穏やかな性質のせいなのか表情も柔らかいし一緒にいて心地良い。
 ダヴィデ様とはあんな時間は過ごせない、優しい彼がボナクララの夫になるのが苦痛に思う程今の私の心はデルロイ様に傾いている。
 デルロイ様だってきっとそう思っている筈だ、ボナクララより私が良いと。
 だって私はデルロイ様と過ごす時、私をもっと好きになって欲しいと願っていた。
 デルロイ様は義理固い人だから、婚約者のボナクララを邪険にできないだろうし、兄の婚約者である私と距離を縮めたりもできないだろう。
 でもデルロイ様は私のものなのだから、素直になって私を優先したらいいのだ。
 まずは頑なな心を懐柔しよう、互いに婚約者がいる身だという遠慮をデルロイ様から取り去ればいい。
 そう思って、心の変化に気づかれないようにこっそりとデルロイ様の心を操り始めたのに、体調を崩したせいで会えなくなるなんて。
 私の能力の欠点は、数日会えないと気持ちが戻ってしまうというところだ。
 まだ練習が足りないのか、この程度しか使えないものなのか分からないけれど、きっとデルロイ様の気持ちは元に戻っているだろう。
 せっかく、周囲に遠慮することなく私に微笑んでくれるようになったのに。
 また一からやり直しになってしまった。

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