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番外編
兄の寵愛弟の思惑121(エマニュエラ視点)
「でも、デルロイ様を手に入れるためには、邪魔な者が多すぎるわね」
邪魔な者、その筆頭はボナクララだ。
あれは、私の人生で一番不要で邪魔な存在だ。
私よりすべてが劣るくせに、ボナクララを周囲は甘やかしている。
ボナクララを甘やかす愚か者達が私にだけ厳しかったわけではない、そもそも私は優秀だから家庭教師達が私を褒めることはあっても叱ることは無かったし、他の者達だって同じだ。
でも、教師達も使用人達もボナクララと私には接し方が違う気がしていた。
それは両親も兄も同じだ。
皆私とボナクララどちらにも甘いけれど、両親はボナクララの方を特に愛している様に感じる時があった。
特にお父様の優しい目が、私達姉妹が一緒にいる時でもボナクララにだけ向けられている、そう感じる時があったのだ。
お父様の視線に気が付く度、私はどうしようもなく苛々して誰かを傷つけたくてたまらなくなった。
そしてお母様は、ボナクララの方に優しい目を向けるのではなく、出来の悪いボナクララに自ら教育を施した。私には「エマニュエラはなんでもすぐに覚えて完璧に出来てしまうから、私が教えられることが無いわ」と言いながらボナクララに美しく淑女の礼が出来る様に手本を示し、綺麗に刺繍できるようにコツを教え、ダンスを踊る。
私はそれを見ていただけ、お母様は「エマニュエラは上手にダンスを踊るのね」とは言っても私の手を取り踊ることは無かった。「エマニュエラは綺麗に背筋を伸ばして礼が出来るのね。私の真似をして練習すればボナクララもきっと綺麗な所作になるわ。頑張りましょうね」とボナクララには励ましの言葉を贈るけれど、私は褒められる事はあってもお母様に励まされたことなんて一度も無かった。
私が優秀過ぎるせいだと分かっていても、ほんの少し寂しく感じた。
寂しさを感じるのは、ボナクララに負けたと認めることに繋がる気がして、私はまた苛々してしまう。
お父様の優しい視線も、お母様からの誉め言葉と励ましも、私だけのものにしたかった。
ボナクララになんて譲りたくなかった、負けたくなかった。
邪魔な存在、憎くて憎くてたまらない存在、それがボナクララだ。
成長するにしたがって、私はボナクララを傷つけたくてたまらなくなった。
すべての幸せと、優しい心で出来ている様なあの顔を傷つけたい。そう思った。
だけどボナクララを傷つけるには理由が必要だったし、ボナクララの周囲にはいつもメイドがいたから簡単に傷つけることは出来なかった。
「ボナクララの顔の傷、婚約式まで残っていればいいのに」
呑気に部屋にやってきたボナクララの頬を切りつけた。
長年の恨みを込めて傷をつけてやった私を、信じられないとばかりにボナクララは目を見開き見ていた。あの顔をずっと見たかった。ボナクララの頬から流れる赤い血を見ても後悔なんか爪の先程も感じなかった。
もっと傷つけたい、ボナクララが恐ろしさで泣き出すくらいに、悲鳴をあげて逃げ惑うボナクララを傷付けて私の前から永遠に排除したい。
そうすれば私は大嫌いなボナクララを見なくてすむ。
それに、デルロイ様を私のものに出来る。
「ボナクララの顔の傷を理由に、あの子の婚約を遅らせるのはどうかしら。私とダヴィデ様だけ婚約するのよ、それがいいわ」
良い事を思いついたとばかりに、私は浮かれて歩を進めダヴィデ様の執務室の扉に手を掛ける。
入室許可を取らずに入ったら、ダヴィデ様は怒るだろうか。
怒りたいなら怒ればいい、私は気にしない。
でも、様子は見た方がいいかもしれないと、そっと気付かれないように扉を僅かに開くと、ダヴィデ様の声が聞こえて来た。
「……私がエマニュエラを選んだのは、そうするしかなかったからだ」
何を言っているのだろう、そうするしかなかったとはどういうこと。
思いがけない言葉に私の体は凍り付いた様に動けなくなった。
扉を開く手が止まり、呼吸さえ止まってしまう。
「王太子殿下」
女性の声が聞こえて来て、聞き覚えのあるその声に息が苦しくなる。
ダヴィデ様は誰に向かって話しているのか、なぜここにあの子がいるのか理由が分からない。
「初めて王太子殿下とデルロイ様にお会いした時に、王太子殿下はエマニュエラを気に入ったから自分の婚約者候補にすると、そう父に宣言されたと……」
「気に入る? そうだったら良かったがあれは婚約者候補にするための嘘だ。ボナクララ、私が本当に気に入ったのは君だったよ。とても愛らしい笑顔をデルロイに向けていた君を好きだと思った」
ダヴィデ様は何を言っているの、初めて会ったあの日ダヴィデ様は私に未来を願ったじゃない。
「王太子殿下は、あの日エマニュエラを婚約者候補に選んだのに、それが本心では無かったというのですか」
「そうだ、私はエマニュエラを選んだけれど、それはそうするしかなかったからだ」
「エマニュエラは当時から賢いと言われて、何でも上手に出来て素晴らしいと言われて。両親も選ばれて良かったととても喜んでいたのに?」
「もし私が王太子になる身ではなかったら、そしてデルロイがボナクララを気に入らなければ、私は君を望んだよ」
息が苦しくてたまらない。ダヴィデ様は私ではなくボナクララが良かっただなんて、そんなの嘘よ。
邪魔な者、その筆頭はボナクララだ。
あれは、私の人生で一番不要で邪魔な存在だ。
私よりすべてが劣るくせに、ボナクララを周囲は甘やかしている。
ボナクララを甘やかす愚か者達が私にだけ厳しかったわけではない、そもそも私は優秀だから家庭教師達が私を褒めることはあっても叱ることは無かったし、他の者達だって同じだ。
でも、教師達も使用人達もボナクララと私には接し方が違う気がしていた。
それは両親も兄も同じだ。
皆私とボナクララどちらにも甘いけれど、両親はボナクララの方を特に愛している様に感じる時があった。
特にお父様の優しい目が、私達姉妹が一緒にいる時でもボナクララにだけ向けられている、そう感じる時があったのだ。
お父様の視線に気が付く度、私はどうしようもなく苛々して誰かを傷つけたくてたまらなくなった。
そしてお母様は、ボナクララの方に優しい目を向けるのではなく、出来の悪いボナクララに自ら教育を施した。私には「エマニュエラはなんでもすぐに覚えて完璧に出来てしまうから、私が教えられることが無いわ」と言いながらボナクララに美しく淑女の礼が出来る様に手本を示し、綺麗に刺繍できるようにコツを教え、ダンスを踊る。
私はそれを見ていただけ、お母様は「エマニュエラは上手にダンスを踊るのね」とは言っても私の手を取り踊ることは無かった。「エマニュエラは綺麗に背筋を伸ばして礼が出来るのね。私の真似をして練習すればボナクララもきっと綺麗な所作になるわ。頑張りましょうね」とボナクララには励ましの言葉を贈るけれど、私は褒められる事はあってもお母様に励まされたことなんて一度も無かった。
私が優秀過ぎるせいだと分かっていても、ほんの少し寂しく感じた。
寂しさを感じるのは、ボナクララに負けたと認めることに繋がる気がして、私はまた苛々してしまう。
お父様の優しい視線も、お母様からの誉め言葉と励ましも、私だけのものにしたかった。
ボナクララになんて譲りたくなかった、負けたくなかった。
邪魔な存在、憎くて憎くてたまらない存在、それがボナクララだ。
成長するにしたがって、私はボナクララを傷つけたくてたまらなくなった。
すべての幸せと、優しい心で出来ている様なあの顔を傷つけたい。そう思った。
だけどボナクララを傷つけるには理由が必要だったし、ボナクララの周囲にはいつもメイドがいたから簡単に傷つけることは出来なかった。
「ボナクララの顔の傷、婚約式まで残っていればいいのに」
呑気に部屋にやってきたボナクララの頬を切りつけた。
長年の恨みを込めて傷をつけてやった私を、信じられないとばかりにボナクララは目を見開き見ていた。あの顔をずっと見たかった。ボナクララの頬から流れる赤い血を見ても後悔なんか爪の先程も感じなかった。
もっと傷つけたい、ボナクララが恐ろしさで泣き出すくらいに、悲鳴をあげて逃げ惑うボナクララを傷付けて私の前から永遠に排除したい。
そうすれば私は大嫌いなボナクララを見なくてすむ。
それに、デルロイ様を私のものに出来る。
「ボナクララの顔の傷を理由に、あの子の婚約を遅らせるのはどうかしら。私とダヴィデ様だけ婚約するのよ、それがいいわ」
良い事を思いついたとばかりに、私は浮かれて歩を進めダヴィデ様の執務室の扉に手を掛ける。
入室許可を取らずに入ったら、ダヴィデ様は怒るだろうか。
怒りたいなら怒ればいい、私は気にしない。
でも、様子は見た方がいいかもしれないと、そっと気付かれないように扉を僅かに開くと、ダヴィデ様の声が聞こえて来た。
「……私がエマニュエラを選んだのは、そうするしかなかったからだ」
何を言っているのだろう、そうするしかなかったとはどういうこと。
思いがけない言葉に私の体は凍り付いた様に動けなくなった。
扉を開く手が止まり、呼吸さえ止まってしまう。
「王太子殿下」
女性の声が聞こえて来て、聞き覚えのあるその声に息が苦しくなる。
ダヴィデ様は誰に向かって話しているのか、なぜここにあの子がいるのか理由が分からない。
「初めて王太子殿下とデルロイ様にお会いした時に、王太子殿下はエマニュエラを気に入ったから自分の婚約者候補にすると、そう父に宣言されたと……」
「気に入る? そうだったら良かったがあれは婚約者候補にするための嘘だ。ボナクララ、私が本当に気に入ったのは君だったよ。とても愛らしい笑顔をデルロイに向けていた君を好きだと思った」
ダヴィデ様は何を言っているの、初めて会ったあの日ダヴィデ様は私に未来を願ったじゃない。
「王太子殿下は、あの日エマニュエラを婚約者候補に選んだのに、それが本心では無かったというのですか」
「そうだ、私はエマニュエラを選んだけれど、それはそうするしかなかったからだ」
「エマニュエラは当時から賢いと言われて、何でも上手に出来て素晴らしいと言われて。両親も選ばれて良かったととても喜んでいたのに?」
「もし私が王太子になる身ではなかったら、そしてデルロイがボナクララを気に入らなければ、私は君を望んだよ」
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