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番外編
兄の寵愛弟の思惑123 (王太子視点)
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ボナクララが帰った後、私は自分の失言を悔みながら部屋を出た。
「そういえば今日はエマニュエラの顔をまだ見ていないな」
ボナクララから受け取ったデルロイの見舞いの品を侍従に持たせ、デルロイがいる私の寝室へと向かう途中で思い出した。
すでに午後のお茶の時間も過ぎたというのに、今日はまだエマニュエラの姿を見ていない。
いつもなら私が執務中だろうが、大臣達と話をしていようが関係なく部屋に来るというのに珍しいこともあるものだ。
「なにか予定が入っていたか?」
「先程ご友人のイラリア・ルイス様のお屋敷に向かわれたそうで、夕餉も不要と」
ルイスというのは伯爵家の中でも歴史の浅い家で、数代前の当主が子爵位を親から譲り受け分家し、その後子爵が代官として管理していた地で起きた迷宮の魔物の氾濫を、私兵と冒険者を率いて討伐に成功した功績をたたえて子爵から伯爵に陞爵した。
親の領地の代官として管理していた土地なのだから、魔物の氾濫を食い止めるのは管理している者の役目だと言えなくもないが王都からさほど離れていない土地だったこともあり、当時の国王陛下が陞爵と共に領地を与えたと聞いている。
ルイス家は陞爵以降目立った功績は無いが、堅実な領地運営をしている。
「ルイス家、たしかあの家の娘がビンダール侯爵家の嫡男と婚約していたな」
「はい、イラリア・ルイス様が婚約している相手がアルティエロ・ビンダール様です」
デルロイは、ビンダール侯爵家の嫡男と話している途中に倒れた。その嫡男の婚約者がエマニュエラの友人というのはただの偶然だろうか。
「その者とエマニュエラはかなり親しいのか?」
「どの程度か分かりませんが、以前エマニュエラ様が馬車の事故でお怪我をされたのがルイス家からの帰宅途中と聞いております」
そういえば以前エマニュエラは、馬車の事故で怪我をしたと言っていた。
王家から贈った馬車が頑丈だったため、軽い怪我で済んだと珍しく礼を言われたが、不思議な事に御者も同乗していた侍女も怪我はなく、後から確認したところ馬車にも傷らしい傷は無かった。
サデウス家に確認すると、馬車の事故というのは通行人を轢きそうになった御者が馬を無理矢理止めただけでなぜそれでエマニュエラだけが怪我をしたのか分からないとのことだった。
しかも、轢きそうになった通行人は、エマニュエラが怪我をしたと騒いでいる間にその場から逃げてしまったらしく、エマニュエラが「轢いていないならどうでもいい、自分の怪我の治療の方が大切だ。馬をまともに御せない者んの馬車になんて怖くて乗られない」と騒ぎ、ビンダール侯爵家が近いからそこで治療すると従者を走らせビンダール侯爵家から馬車を呼び、御者も侍女も連れずビンダール侯爵家に向かい治療を受けたのだ。
「そうか、あの時治療に行った家がピンダール家」
「はい」
「エマニュエラに誰がついている」
「王妃殿下の宮のメイドが一人と、護衛騎士がついて行こうとして断られましたので、一人だけ」
「そうか、相変わらずだな」
一人というのは影が付いているということだ。
護衛もメイドもつけずに夜まで出掛けるというのは、まともな貴族令嬢とは思えない行動だがエマニュエラはそういう常識外れなことを平気でするから、王妃宮の使用人達はそれに慣れつつある。
母上はそれを知っていて、あえて放置している様子なのがまた頭が痛い。
エマニュエラと私の婚約が解消できないのは両親も嫌になるほど理解しているから、エマニュエラの素行の悪さが周知のものとなるのだけは避けようと苦慮しているのに、彼女自身は何も気にしていないのだから皆の頭痛の種になっている。
いっそ婚姻後、エマニュエラを体調不良にして離宮かどこかに閉じ込めた方がいいのではないかとも思うが、占術師にはエマニュエラが心身共に健康でないと守りの魔法陣に影響が出ると言われてしまい、そうなるとこの手は使えない。
「エマニュエラ付きになる者達に、魔道具は配ったな」
「神官が急ぎ用意したものなので数が足りず、最低限の者になりますが」
「とりあえずはそれでいい」
デルロイの意識が戻らない間、占術師からエマニュエラの闇属性の魔法への対策を聞いた。
私達王家の者が常につけている魔道具の強化と、エマニュエラにつけさせる闇属性の魔法の使用を封じる魔道具、それからエマニュエラの周囲にいる使用人達に与える魔道具だ。
魔道具に組み込む魔法陣を、なぜ占術師が描けたのか分からないが、それを受け取り神官に魔道具の強化と新たな魔道具の作成を頼んだ。
神官にはだいぶ無理をさせたが、これが国を守ることになるのだからと頼み込んだ。
「お前は私と共にあれの近くにいることが多い、気を抜くことなく肌身離さずいろよ」
「畏まりました」
占術師は気になる事ばかりを話し、それでも占術師の言う通りデルロイは目を覚ました。
だが、心労が掛かり過ぎて気弱になったせいで、私はボナクララに言ってはいけないことを告げてしまった。
「デルロイと私に気持ちが安らかになる茶を用意せよ」
従者から荷物を受け取り、寝室の扉を開きながら命令する。
デルロイには失言できない、ボナクララに言ったことも、占術師の言葉も、何もかも飲み込んで余裕のある振りで笑ってみせる。
デルロイに不安は見せない、私はいつも強い兄であり続けなければならないのだから。
守りの魔法陣は、王太子殿下、第二王子殿下の婚約式以後国の守りが徐々に弱くなっていくでしょう。
今、守りの魔法陣は魔法陣の書き換えにより勝手に守りの壁を脆くし修復するのを繰り返しており、その修復に大量の魔力を消費しています。
それを行わなくするため魔法陣を修復するのですが、それを行うことで国土が広がっても守りの範囲が変わらなくなり、守りの壁が脆くなっても修復できなくなり守りが弱くなるのです。
その代わり、魔力を勝手に陛下から奪う事もなくなるでしょう。
それは占術師のお告げとも言える言葉だった。
今までこんなに具体的な話を、占術師がしたことはなかった。
あまりのことに、私と父上は言葉を発することは出来ず、占術師の言葉を受け止めることも出来なかった。
国土は前国王陛下の頃に若干増えた程度で、父の代では変化はない。
だが、今後どうなるか分からない。
増えることもあるし、そもそも守りが弱くなれば、減ることもある。
占術師は今すぐ何かあるわけでないと言った、これからいくらでも準備は出来るとも言われた。
それでも、今迄確実にあったものが弱くなると聞いただけで、衝撃だった。
衝撃過ぎたのだ。
「そういえば今日はエマニュエラの顔をまだ見ていないな」
ボナクララから受け取ったデルロイの見舞いの品を侍従に持たせ、デルロイがいる私の寝室へと向かう途中で思い出した。
すでに午後のお茶の時間も過ぎたというのに、今日はまだエマニュエラの姿を見ていない。
いつもなら私が執務中だろうが、大臣達と話をしていようが関係なく部屋に来るというのに珍しいこともあるものだ。
「なにか予定が入っていたか?」
「先程ご友人のイラリア・ルイス様のお屋敷に向かわれたそうで、夕餉も不要と」
ルイスというのは伯爵家の中でも歴史の浅い家で、数代前の当主が子爵位を親から譲り受け分家し、その後子爵が代官として管理していた地で起きた迷宮の魔物の氾濫を、私兵と冒険者を率いて討伐に成功した功績をたたえて子爵から伯爵に陞爵した。
親の領地の代官として管理していた土地なのだから、魔物の氾濫を食い止めるのは管理している者の役目だと言えなくもないが王都からさほど離れていない土地だったこともあり、当時の国王陛下が陞爵と共に領地を与えたと聞いている。
ルイス家は陞爵以降目立った功績は無いが、堅実な領地運営をしている。
「ルイス家、たしかあの家の娘がビンダール侯爵家の嫡男と婚約していたな」
「はい、イラリア・ルイス様が婚約している相手がアルティエロ・ビンダール様です」
デルロイは、ビンダール侯爵家の嫡男と話している途中に倒れた。その嫡男の婚約者がエマニュエラの友人というのはただの偶然だろうか。
「その者とエマニュエラはかなり親しいのか?」
「どの程度か分かりませんが、以前エマニュエラ様が馬車の事故でお怪我をされたのがルイス家からの帰宅途中と聞いております」
そういえば以前エマニュエラは、馬車の事故で怪我をしたと言っていた。
王家から贈った馬車が頑丈だったため、軽い怪我で済んだと珍しく礼を言われたが、不思議な事に御者も同乗していた侍女も怪我はなく、後から確認したところ馬車にも傷らしい傷は無かった。
サデウス家に確認すると、馬車の事故というのは通行人を轢きそうになった御者が馬を無理矢理止めただけでなぜそれでエマニュエラだけが怪我をしたのか分からないとのことだった。
しかも、轢きそうになった通行人は、エマニュエラが怪我をしたと騒いでいる間にその場から逃げてしまったらしく、エマニュエラが「轢いていないならどうでもいい、自分の怪我の治療の方が大切だ。馬をまともに御せない者んの馬車になんて怖くて乗られない」と騒ぎ、ビンダール侯爵家が近いからそこで治療すると従者を走らせビンダール侯爵家から馬車を呼び、御者も侍女も連れずビンダール侯爵家に向かい治療を受けたのだ。
「そうか、あの時治療に行った家がピンダール家」
「はい」
「エマニュエラに誰がついている」
「王妃殿下の宮のメイドが一人と、護衛騎士がついて行こうとして断られましたので、一人だけ」
「そうか、相変わらずだな」
一人というのは影が付いているということだ。
護衛もメイドもつけずに夜まで出掛けるというのは、まともな貴族令嬢とは思えない行動だがエマニュエラはそういう常識外れなことを平気でするから、王妃宮の使用人達はそれに慣れつつある。
母上はそれを知っていて、あえて放置している様子なのがまた頭が痛い。
エマニュエラと私の婚約が解消できないのは両親も嫌になるほど理解しているから、エマニュエラの素行の悪さが周知のものとなるのだけは避けようと苦慮しているのに、彼女自身は何も気にしていないのだから皆の頭痛の種になっている。
いっそ婚姻後、エマニュエラを体調不良にして離宮かどこかに閉じ込めた方がいいのではないかとも思うが、占術師にはエマニュエラが心身共に健康でないと守りの魔法陣に影響が出ると言われてしまい、そうなるとこの手は使えない。
「エマニュエラ付きになる者達に、魔道具は配ったな」
「神官が急ぎ用意したものなので数が足りず、最低限の者になりますが」
「とりあえずはそれでいい」
デルロイの意識が戻らない間、占術師からエマニュエラの闇属性の魔法への対策を聞いた。
私達王家の者が常につけている魔道具の強化と、エマニュエラにつけさせる闇属性の魔法の使用を封じる魔道具、それからエマニュエラの周囲にいる使用人達に与える魔道具だ。
魔道具に組み込む魔法陣を、なぜ占術師が描けたのか分からないが、それを受け取り神官に魔道具の強化と新たな魔道具の作成を頼んだ。
神官にはだいぶ無理をさせたが、これが国を守ることになるのだからと頼み込んだ。
「お前は私と共にあれの近くにいることが多い、気を抜くことなく肌身離さずいろよ」
「畏まりました」
占術師は気になる事ばかりを話し、それでも占術師の言う通りデルロイは目を覚ました。
だが、心労が掛かり過ぎて気弱になったせいで、私はボナクララに言ってはいけないことを告げてしまった。
「デルロイと私に気持ちが安らかになる茶を用意せよ」
従者から荷物を受け取り、寝室の扉を開きながら命令する。
デルロイには失言できない、ボナクララに言ったことも、占術師の言葉も、何もかも飲み込んで余裕のある振りで笑ってみせる。
デルロイに不安は見せない、私はいつも強い兄であり続けなければならないのだから。
守りの魔法陣は、王太子殿下、第二王子殿下の婚約式以後国の守りが徐々に弱くなっていくでしょう。
今、守りの魔法陣は魔法陣の書き換えにより勝手に守りの壁を脆くし修復するのを繰り返しており、その修復に大量の魔力を消費しています。
それを行わなくするため魔法陣を修復するのですが、それを行うことで国土が広がっても守りの範囲が変わらなくなり、守りの壁が脆くなっても修復できなくなり守りが弱くなるのです。
その代わり、魔力を勝手に陛下から奪う事もなくなるでしょう。
それは占術師のお告げとも言える言葉だった。
今までこんなに具体的な話を、占術師がしたことはなかった。
あまりのことに、私と父上は言葉を発することは出来ず、占術師の言葉を受け止めることも出来なかった。
国土は前国王陛下の頃に若干増えた程度で、父の代では変化はない。
だが、今後どうなるか分からない。
増えることもあるし、そもそも守りが弱くなれば、減ることもある。
占術師は今すぐ何かあるわけでないと言った、これからいくらでも準備は出来るとも言われた。
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衝撃過ぎたのだ。
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