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突然の訃報
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「リチャード、今なんて?」
心地よい風が、開け放たれた窓から部屋の中に入ってくる、そんな気持ちの良い時間を過ごしていた私の前に立っているのは、この家の執事であるリチャードです。
日頃は沈着冷静な彼が荒々しく扉を叩いて私に入室許可を取り、足音をたて部屋の中に入ってくるなり告げた言葉を、私は何故か聞き違えてしまい直様リチャードに聞き返しました。
「旦那様がどうしたというの? 今朝お出かけになったばかりよ」
今朝私は、夫ピーターを領地へと送り出しました。
領地はお義父様が治め、夫は王宮に文官として働いていましたがそろそろ領主としての仕事も覚えた方がいいとのお義父様からの提案を受け入れ、彼が文官を辞めたのは十日程前のことでした。
渋々領地に向かう準備をし馬車に乗り込んだ夫は、王都に未練を残しながら旅立ったのですが、その夫がどうしたというのでしょうか。
「奥様、旦那様が第二門を過ぎた辺りで馬車が横転し亡くなったと警備隊からの連絡がございました」
「本当の話なの? 第二門の辺りならそんなに速度も出せない筈よ。何故横転等」
リチャードの説明に私は眉をひそめて聞きながら、第二門周辺の辺りで馬車が横転しそうな場所などあっただろうかと考えますが、思いつきません。
王都は二重の塀で守られています。
貴族街と言われる第一門、市井街と言われる第二門、それらを通り抜けなければ王都の外には出られません。
第一門は王宮や貴族街に暮らす者やそれに仕える者、もしくはそれらと商売を行う者達以外通り抜け出来ません。
第二門は王都から外へと出るための門ですから、とても混雑しており馬車や馬の速度を上げて走らせる等出来ない筈、そこで馬車が横転などありえるのでしょうか。
「それが、馬を避けようとした拍子に車輪の軸が折れたそうで」
「馬を避ける? あの辺りは嫌になるくらいノロノロとしか馬車を進められないというのに?」
私は混乱しすぎているのでしょうか。
どうして馬が馬車の近くを走っていたのか、騎乗していた人はいたのか、頭の中には浮かぶのに言葉に出来ませんでした。
「詳しいことはまだ聞いておりません。連絡に来た者がまだ下におりますが、お会いになりますか?」
「連絡、そうね、話を聞かないといけないわね」
今の自分がまともな会話が出来るのか自信がありませんが、ここで執事のリチャードに任せてしまったら使用人達に侮られてしまいます。
「衣服を整えて来ますから、その方を、そうね青の間にお通しして」
「畏まりました」
部屋を出ていくリチャードを見送ると、私は控えていた侍女のメイナと共に寝室の隣にある支度部屋へと向かいました。
「奥様」
「落ち着いた色、そうね濃い緑のドレスにして髪と化粧はこのままでいいわ」
「畏まりました」
ドレスの用意が出来るまで、化粧台の椅子に腰を下ろし目を閉じました。
信じられません、信じたくもありません。
朝まで元気にしていた夫が亡くなるなんて思いもよらぬ事態に動揺しない筈がなく、私は浅い呼吸を繰り返しながら冷静になろうとしました。
私達は結婚して五年程になりますが、政略結婚で愛情等はありません。
ただ互いの家の利益を考えて表面上仲良く見せているだけの、貴族の家には良くある割り切った夫婦というものでした。
まだ子供は授かっていませんでした。
それなりに閨事はありましたが、縁が無かったのでしょう。
「家に戻されるのでしょうね」
子供がいれば別でしょうが、そうではないのですから夫が亡くなったのならそれが筋でしょう。
ポツリとこぼれ落ちた言葉は、思った以上の衝撃を私に与え同じ様に侍女にも与えてしまったようです。
パサリと布の落ちる音が聞こえて瞼を開くと青い顔をしたメイナが背後に立っていました。
「メイナ、ドレスが皺になってしまうわ」
「も、申し訳ございません」
慌ててドレスを持ち上げて、メイナは皺を確認すると、私が着ていた着心地が良いのが取り柄の、地味なドレスを脱がせ、緑色のドレスを着せました。
白い立ち衿に胡桃ボタンが三つ付いただけの紺色のドレスから、白いレースの衿が付いて膨らんだ袖の緑色のドレスに着替えた私は、年齢を考えるとこれでも十分に地味ですが、私の顔立ちには似合っている様に思います。
「取り乱さないのよ」
「畏まりました」
この時の私は、階下に下りて警備隊の連絡係から、夫の死以上の衝撃の話を聞くとは想像もしていなかったのです。
心地よい風が、開け放たれた窓から部屋の中に入ってくる、そんな気持ちの良い時間を過ごしていた私の前に立っているのは、この家の執事であるリチャードです。
日頃は沈着冷静な彼が荒々しく扉を叩いて私に入室許可を取り、足音をたて部屋の中に入ってくるなり告げた言葉を、私は何故か聞き違えてしまい直様リチャードに聞き返しました。
「旦那様がどうしたというの? 今朝お出かけになったばかりよ」
今朝私は、夫ピーターを領地へと送り出しました。
領地はお義父様が治め、夫は王宮に文官として働いていましたがそろそろ領主としての仕事も覚えた方がいいとのお義父様からの提案を受け入れ、彼が文官を辞めたのは十日程前のことでした。
渋々領地に向かう準備をし馬車に乗り込んだ夫は、王都に未練を残しながら旅立ったのですが、その夫がどうしたというのでしょうか。
「奥様、旦那様が第二門を過ぎた辺りで馬車が横転し亡くなったと警備隊からの連絡がございました」
「本当の話なの? 第二門の辺りならそんなに速度も出せない筈よ。何故横転等」
リチャードの説明に私は眉をひそめて聞きながら、第二門周辺の辺りで馬車が横転しそうな場所などあっただろうかと考えますが、思いつきません。
王都は二重の塀で守られています。
貴族街と言われる第一門、市井街と言われる第二門、それらを通り抜けなければ王都の外には出られません。
第一門は王宮や貴族街に暮らす者やそれに仕える者、もしくはそれらと商売を行う者達以外通り抜け出来ません。
第二門は王都から外へと出るための門ですから、とても混雑しており馬車や馬の速度を上げて走らせる等出来ない筈、そこで馬車が横転などありえるのでしょうか。
「それが、馬を避けようとした拍子に車輪の軸が折れたそうで」
「馬を避ける? あの辺りは嫌になるくらいノロノロとしか馬車を進められないというのに?」
私は混乱しすぎているのでしょうか。
どうして馬が馬車の近くを走っていたのか、騎乗していた人はいたのか、頭の中には浮かぶのに言葉に出来ませんでした。
「詳しいことはまだ聞いておりません。連絡に来た者がまだ下におりますが、お会いになりますか?」
「連絡、そうね、話を聞かないといけないわね」
今の自分がまともな会話が出来るのか自信がありませんが、ここで執事のリチャードに任せてしまったら使用人達に侮られてしまいます。
「衣服を整えて来ますから、その方を、そうね青の間にお通しして」
「畏まりました」
部屋を出ていくリチャードを見送ると、私は控えていた侍女のメイナと共に寝室の隣にある支度部屋へと向かいました。
「奥様」
「落ち着いた色、そうね濃い緑のドレスにして髪と化粧はこのままでいいわ」
「畏まりました」
ドレスの用意が出来るまで、化粧台の椅子に腰を下ろし目を閉じました。
信じられません、信じたくもありません。
朝まで元気にしていた夫が亡くなるなんて思いもよらぬ事態に動揺しない筈がなく、私は浅い呼吸を繰り返しながら冷静になろうとしました。
私達は結婚して五年程になりますが、政略結婚で愛情等はありません。
ただ互いの家の利益を考えて表面上仲良く見せているだけの、貴族の家には良くある割り切った夫婦というものでした。
まだ子供は授かっていませんでした。
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子供がいれば別でしょうが、そうではないのですから夫が亡くなったのならそれが筋でしょう。
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パサリと布の落ちる音が聞こえて瞼を開くと青い顔をしたメイナが背後に立っていました。
「メイナ、ドレスが皺になってしまうわ」
「も、申し訳ございません」
慌ててドレスを持ち上げて、メイナは皺を確認すると、私が着ていた着心地が良いのが取り柄の、地味なドレスを脱がせ、緑色のドレスを着せました。
白い立ち衿に胡桃ボタンが三つ付いただけの紺色のドレスから、白いレースの衿が付いて膨らんだ袖の緑色のドレスに着替えた私は、年齢を考えるとこれでも十分に地味ですが、私の顔立ちには似合っている様に思います。
「取り乱さないのよ」
「畏まりました」
この時の私は、階下に下りて警備隊の連絡係から、夫の死以上の衝撃の話を聞くとは想像もしていなかったのです。
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