3 / 310
夜中に目が覚めて
しおりを挟む
「ここは?」
目を開けると見慣れた天蓋が薄暗い視界に入ってきて、私はベッドに横たわっているのだと気が付きました。
ベッド近くの飾り棚の上に置いてある燭台の形の魔道具から、薄ぼんやりした灯りが部屋の中を小さく照らしていますが、大分遅い時間なのか部屋の中はそれでも暗く不安な気持ちが募ってきます。
「あれは夢? いいえ、違うわ」
警備隊の言っていた女性使用人と子供の存在、亡くなった夫と共に同じ馬車に乗っていたという事実だけで判断するのは軽率ですが私の予想は外れてはいないでしょう。
女性使用人が誰か分からないと暗に執事に告げて、あの時考えることを放棄しましたが心の底では女性が誰なのか予想がついていました。
「あの人、別れていなかったのね」
結婚前夫には、学生の頃から付き合っていた平民の女性がいました。
平民でも成績が優秀で魔法の才能がある場合、貴族の子息子女が通う王立学園に奨学金を受け通うことが出来る制度があります。彼女はその奨学生だったそうです。
二人は愛し合っていましたが、平民が侯爵家の嫡男の妻になるなど認められるわけがなく、夫の両親の命令で別れされられていた筈でした。
それは私が彼と婚約する際、彼の両親から父に説明されていた話です。
「彼が愛人を作らないのが結婚の条件だった筈なのに、馬鹿にされたものだわ」
思ったよりも部屋に響いた声に自分自身が声の主にも関わらず驚きながら、ベッドに体を横たえたまま頭を抱えました。
私は嫁いで五年経つものの子供は無く、恋愛結婚ではなく政略による縁です。
夫婦としての情はあっても、お互い愛してはいませんでした。
愛人の存在は知りませんでしたし、それなりに夫婦生活はありました。
子が出来ない事が気掛かりで、鬱々とした日々を過ごしてはいましたが、それでも侯爵家に嫁いできた以上妻として嫁としての役割を果たそうと必死に努力してきたつもりですし、私が嫁いできたことで私の実家との繋がりも出来侯爵家は私が嫁ぐ前以上に領地経営も商売も上手くいっていた筈です。
「割り切った関係だけど夫婦だから、そう思っていたのは私だけだったのね。彼にとって私はいつでも切り捨てられる存在でしか無かったんだわ」
そうでなければ、お義父様の跡を継ぐため領地に戻るというのに妻を連れて行かない理由が分かりません。
子供と愛人を連れていき、お義父様達に納得させた後に私と離縁するつもりだったのでしょうか。
この国は一夫一婦制です。愛人の子は自分の子には認められず跡継ぎに出来ません。
それは前妻を追い出しても同じです。
不義の子は悪として扱われるのがこの国の当たり前ですから、仮に夫が愛人との間に出来た子に家を継がせたいと思っても認められません。
唯一の方法は養子とすることです。
夫婦の間に子が無い場合、親族から養子を取ることは許されていますから、愛人の子を無理矢理にそうすることは出来ます。
自分の子なのに養子というのはおかしな話ですが、それがこの国の法律なのですから仕方がありません。
「愛人とその子供がお義父様達に認められれば、私は離縁されたのでしょうね。でもお義父様達は認める筈がないでしょうから、私達の養子として子を引き取り彼女は愛人のままとするつもりだったのかしら」
この結婚は、私の実家である公爵家との繋がりが欲しいお義父様からもたらされた縁談でした。
父は王弟ですし、兄である陛下との仲も良好ですからその権力は公爵家の中でも上位です。
お義父様が、折角繋いだその縁を自ら切りたがるわけがありません。
だからこそ、私達両方が心の底で離縁を望んでいたとしても出来なかったのです。
「私に子が出来なかったのが悪いとはいえ、この仕打ちはあまりにも酷いわ」
心が無かったのはお互い様で、それでも私は少しずつ夫に心を向けていたというのにあの人の心は愛人とその子供に向かっていたのです。
宮仕えをしている夫はそれなりに忙しく、屋敷に戻らないことも多かったですがそれは仕事ではなく……よしましょう、考えるだけで気分が悪くなってきてしまいます。
「でも夫がいなくなったのなら、家に帰ることが出来るのかしら」
成人前の十七歳という年齢でこの家に嫁いで人妻になった私は、五年の月日をだらだらと生きてきました。
私が結婚した当時は独身だった兄も、今は結婚しています。
私はもうすぐ二十ニ歳になりますが、出戻ったとしてもすぐにどこかの家に嫁がされるだけでしょう。
両親はいつも忙しく一緒に食事をするのすら稀でしたが、愛されていたと思います。
兄との仲も悪くはないと思いますし、義姉とはそれなりに親しくしていますがそれとこれは別です。
この国の女は、所詮家の為の道具でしかないのですから。
「葬儀までに身の振り方を考えないといけないわね」
夫を亡くしたばかりだというのに、気になるのは自分のことだけです。心が向いていたとしても、やはり愛はなかったのかもしれません。
分かりません、心が夫に向いていたと思いたくないだけなのかもしれません。
「どうしたらいいのかしらね」
薄暗い部屋で私は、一人頭を抱えるしかありませんでした。
目を開けると見慣れた天蓋が薄暗い視界に入ってきて、私はベッドに横たわっているのだと気が付きました。
ベッド近くの飾り棚の上に置いてある燭台の形の魔道具から、薄ぼんやりした灯りが部屋の中を小さく照らしていますが、大分遅い時間なのか部屋の中はそれでも暗く不安な気持ちが募ってきます。
「あれは夢? いいえ、違うわ」
警備隊の言っていた女性使用人と子供の存在、亡くなった夫と共に同じ馬車に乗っていたという事実だけで判断するのは軽率ですが私の予想は外れてはいないでしょう。
女性使用人が誰か分からないと暗に執事に告げて、あの時考えることを放棄しましたが心の底では女性が誰なのか予想がついていました。
「あの人、別れていなかったのね」
結婚前夫には、学生の頃から付き合っていた平民の女性がいました。
平民でも成績が優秀で魔法の才能がある場合、貴族の子息子女が通う王立学園に奨学金を受け通うことが出来る制度があります。彼女はその奨学生だったそうです。
二人は愛し合っていましたが、平民が侯爵家の嫡男の妻になるなど認められるわけがなく、夫の両親の命令で別れされられていた筈でした。
それは私が彼と婚約する際、彼の両親から父に説明されていた話です。
「彼が愛人を作らないのが結婚の条件だった筈なのに、馬鹿にされたものだわ」
思ったよりも部屋に響いた声に自分自身が声の主にも関わらず驚きながら、ベッドに体を横たえたまま頭を抱えました。
私は嫁いで五年経つものの子供は無く、恋愛結婚ではなく政略による縁です。
夫婦としての情はあっても、お互い愛してはいませんでした。
愛人の存在は知りませんでしたし、それなりに夫婦生活はありました。
子が出来ない事が気掛かりで、鬱々とした日々を過ごしてはいましたが、それでも侯爵家に嫁いできた以上妻として嫁としての役割を果たそうと必死に努力してきたつもりですし、私が嫁いできたことで私の実家との繋がりも出来侯爵家は私が嫁ぐ前以上に領地経営も商売も上手くいっていた筈です。
「割り切った関係だけど夫婦だから、そう思っていたのは私だけだったのね。彼にとって私はいつでも切り捨てられる存在でしか無かったんだわ」
そうでなければ、お義父様の跡を継ぐため領地に戻るというのに妻を連れて行かない理由が分かりません。
子供と愛人を連れていき、お義父様達に納得させた後に私と離縁するつもりだったのでしょうか。
この国は一夫一婦制です。愛人の子は自分の子には認められず跡継ぎに出来ません。
それは前妻を追い出しても同じです。
不義の子は悪として扱われるのがこの国の当たり前ですから、仮に夫が愛人との間に出来た子に家を継がせたいと思っても認められません。
唯一の方法は養子とすることです。
夫婦の間に子が無い場合、親族から養子を取ることは許されていますから、愛人の子を無理矢理にそうすることは出来ます。
自分の子なのに養子というのはおかしな話ですが、それがこの国の法律なのですから仕方がありません。
「愛人とその子供がお義父様達に認められれば、私は離縁されたのでしょうね。でもお義父様達は認める筈がないでしょうから、私達の養子として子を引き取り彼女は愛人のままとするつもりだったのかしら」
この結婚は、私の実家である公爵家との繋がりが欲しいお義父様からもたらされた縁談でした。
父は王弟ですし、兄である陛下との仲も良好ですからその権力は公爵家の中でも上位です。
お義父様が、折角繋いだその縁を自ら切りたがるわけがありません。
だからこそ、私達両方が心の底で離縁を望んでいたとしても出来なかったのです。
「私に子が出来なかったのが悪いとはいえ、この仕打ちはあまりにも酷いわ」
心が無かったのはお互い様で、それでも私は少しずつ夫に心を向けていたというのにあの人の心は愛人とその子供に向かっていたのです。
宮仕えをしている夫はそれなりに忙しく、屋敷に戻らないことも多かったですがそれは仕事ではなく……よしましょう、考えるだけで気分が悪くなってきてしまいます。
「でも夫がいなくなったのなら、家に帰ることが出来るのかしら」
成人前の十七歳という年齢でこの家に嫁いで人妻になった私は、五年の月日をだらだらと生きてきました。
私が結婚した当時は独身だった兄も、今は結婚しています。
私はもうすぐ二十ニ歳になりますが、出戻ったとしてもすぐにどこかの家に嫁がされるだけでしょう。
両親はいつも忙しく一緒に食事をするのすら稀でしたが、愛されていたと思います。
兄との仲も悪くはないと思いますし、義姉とはそれなりに親しくしていますがそれとこれは別です。
この国の女は、所詮家の為の道具でしかないのですから。
「葬儀までに身の振り方を考えないといけないわね」
夫を亡くしたばかりだというのに、気になるのは自分のことだけです。心が向いていたとしても、やはり愛はなかったのかもしれません。
分かりません、心が夫に向いていたと思いたくないだけなのかもしれません。
「どうしたらいいのかしらね」
薄暗い部屋で私は、一人頭を抱えるしかありませんでした。
155
あなたにおすすめの小説
悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!
ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」
特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18)
最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。
そしてカルミアの口が動く。
「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」
オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。
「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」
この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜
雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。
しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。
英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。
顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。
ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。
誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。
ルークに会いたくて会いたくて。
その願いは。。。。。
とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。
他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。
本編完結しました!
大変お待たせ致しました。番外編の公開を始めました。
なるべくこまめに公開していきたいと思います。
あんまり長くならない予定ですので、どうぞよろしくお願いします!
【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます
よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」
婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。
「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」
「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」
両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。
お姉様からは用が済んだからと捨てられます。
「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」
「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」
ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。
唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。
ここから私の人生が大きく変わっていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる