【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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何が言いたいのか

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「では、その様に進めますよ。本当にいいのですか」
「ええ、お義父様達が反対なさらないのであれば、あなたの良きように」

 ディーンの思惑が分かりませんが、家に戻っても次のところに嫁がされるだけです。
 その場合、悪役令嬢の母となる可能性が高くなるのですから、それならディーンに嫁いだ方が良いはずです。
 少なくとも、私が側にいればロニーを虐待するお義母様から守れるのですから。

「では、一ヶ月後にあなたと婚姻手続きが出来る様準備しますから」

 ディーンは最短の婚姻を考えている様です。
 この国では、未亡人離縁どちらになるにしても確定してから半年は他家に嫁ぐことは出来ませんが、兄から弟に婚姻関係を変更するのは一ヶ月置くだけで可能です。
 半年期間を置くというのは、子供が出来ている可能性があるからだそうです。
 同じ家の場合は、子供が出来ていても関係ないので一ヶ月だけでいいのでしょう。
 そう考えると、やはりこの国の女の地位は低く、その価値は子供を産むだけの存在、家の利益の為の駒でしかないのだと考えてしまいます。

「お兄様それでよろしいでしょうか」
「その位はお前が決めればいい」
「では、ディーンの心のままに」

 その辺りはどうでもいいです。
 ディーンとの結婚は、夫の喪中に行うのであれば届を行うだけでしょう。
 夫が亡くなって僅か一ヶ月で結婚式をするのは時間が短すぎて用意が出来る筈がありませんし、さすがに行う気も起きません。

「一つお願いがございます。叶えて下さいますか」
「なんでしょうか」
「夫の、ピーターの石棺を霊廟に納める時に彼女、子供の母親も同じ石棺に入棺したいのです。あなたはネルツ侯爵家の次期当主となる方ですから、お義父様達には話せませんが許可を頂けませんか」

 私の願いに、兄もディーンも動きを止めました。

「子供の母親、兄の愛人を一緒にと言っていますか」
「おまえ、それは流石に人がいいにも程があるだろうが」

 戸惑うディーンの声と、呆れ切った兄の声が私を責めますが私は真顔で頷きました。

「いけませんか」
「兄の愛人にその権利はないでしょう」
「それは分かっています。彼の妻の座は彼女ではなく私が持っていました。彼の希望は違っていたと言うのに、私がずっと妻でした。でも亡くなった後くらいは一緒にいさせてあげてもいいのではないかと思うのです」

 あの人は私には不誠実で卑怯な夫でしかありませんでしたが、愛人の彼女にはそうでは無かったのだと思います。
 欲を言えば彼女を妻にするだけの根性が欲しかったと思います。
 彼が精一杯努力して彼女と添い遂げようとしたのなら、私は寂しい女にならずに済んだのですから、その点に関しては彼を恨みます。
 今この場に彼がいるなら、両方の頬が腫れ上がる程に打って土下座させるでしょうが、残念ながら彼も愛人の彼女も亡くなっているのですから、どうしようもありません。

「彼が生きていたらお兄様に死んだ方がマシだと思う程の報復をお願いしたと思います。それだけの屈辱を彼は私に与えたのは事実です。嫁いで五年、彼の策略で私は子が成せませんでした。お義母様にどれだけ責められたことか分かりません。離縁されなかったのは、私の実家が公爵家でこの婚姻が政略だったからです。それでも子が生まれない五年は長く辛いものでしたから」
「それなら何故」
「あの人は愚かだったと思います。そんなに好きなら私と結婚する前に努力するべきだったし、私と婚約などせずにさっさと決断するべきでした。彼が家をでて彼女と暮らす選択をすれば良かっただけです。でも、彼には平民になってまで彼女と添い遂げる決断は出来なかった。そのくせ政略で嫁いだ私を蔑ろにする愚かな人でした。だから彼女は結婚せず子を生むしか無かったし、私はお義母様から石女扱いされるしかありませんでした。彼がきちんと決断して家を出ていたとしたら、私の夫は最初からあなただったでしょう。そうしたら私は幸せな妻で、幸せな母になっていた筈、悪いのはすべて彼です」

 夫の真意を察せられず、夫は結婚の契約通り愛人等作れないだろうと愚かにも信じ切っていた。
 あの人は愚かで、私は間抜けでした。
 最後にディーンの妻になっていた可能性を付け足したのは、ゲームのディーンの性格を思い出したからです。
 彼がこれから先私の夫になるのなら、亡くなった夫を愛していたかもなんて疑いは、髪の毛一本程も持たれてはいけません。
 
「そこまで思っていて何故」
「愚かなあの人を愛してはいません。ですが、最後の時位彼の希望を叶えてあげてもいいのではないかと、そう思うのです。彼の愛した人を他の男の妻と、書類上だけでもしようとしているのですから、その代償にせめて同じく弔ってあげたいと思うのです」
「代償といっても、二人の子を生かす為の代償ですよ」

 困惑しているこの顔は、私の気持ちを慮っているのだと思います。
 兄と違ってディーンは誠実な人なのかもしれません。

「侯爵家の霊廟に平民を弔うのはお嫌ですか」
「そうではなく。あなたの気持ちです」
「私は、これからあなたの妻となるのですから、元の夫が誰と一緒に弔われようが、本心を言えばどうでもいいと思っています」

 本心ではどうでも良くありません。
 元々は最後位夫の希望を叶えて上げたいと言う気持ちでしたが、ここが乙女ゲームの世界だと知りロニーが攻略対象者で私と私が産む筈の娘が悪役で破滅の道を進むと分かった今では、少しでも破滅の可能性を減らしたいという気持ちからの提案です。
 攻略対象者であるロニーから私が恨まれない様にするための選択、それをしているだけです。

「あなたが兄に対する優しさでそう思っているのなら、協力するしかないでしょうね」

 私の願いに、最後はディーンが屈したのです。
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