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番外編
それはまるで夢か幻 おまけ後編(ディーン視点)
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「ディーン、まさかそうなの?」
「ええ、偶然出来たものですが」
通信用の魔法陣を刻んだ魔石は、軍事用だけでも大量に必要で今は製造が追いついていない。
個人はウィンストン公爵家に、私が製造した魔道具が数台あるだけだ。
私は勿論持っているが、ダニエラにはまだ渡していなかった。
「ダニエラにも、通信の魔道具を渡しておけば良かったです。そうしたらすぐに場所を確認出来たというのに、考えが足りず申し訳ありません」
「場所を知らせる魔道具があっただけで十分よ。それに雷の魔法に助けられたわ」
「ですが」
「それより、先程ユニコーンの魔石と聞こえたのは聞き違いよね?」
「いえ、ユニコーンの魔石で間違いありません。ユニコーンの特殊個体である天、虹、光それぞれのユニコーンの魔石を組み合わせて作ったものです。一応自信作ではあるのですが、少し大きくなってしまいました」
重さ軽減の魔法陣は刻めたが、大きさだけはどうしようも無かったのが残念だ。
「天、虹、光の特殊個体。メイナ、特殊個体って集団で狩ると聞いたことがあるわ。そうよね」
「集団? それでは魔石が独占出来なくなるではありませんか」
特殊個体は希少素材ばかりなのだから、そんな勿体無い事はしない。
誰だそんな無駄な狩り方をする奴は、余程弱い奴達が狩ろうとしたのか。
「ディーンまさか」
「慣れないと少し手こずりますが、私はコツを熟知していますからお望みであればすぐ狩ってきます。確かネルツ領にも居た筈ですし、ネルツ領近くにある迷宮なら三種の特殊個体が出ますから、今日中にでも献上出来ます」
今から馬を駆れば数体程度すぐに狩れる筈だ。
ダニエラは怖い思いをしたのだから、ユニコーンの魔石を贈れば心を癒して下さるに違いない。
光のユニコーンの魔石は、持っているだけで心を癒す効果がある。
そうだ今すぐ行ってこよう。
今後ダニエラを馬車で長距離移動させるのも心配だから転移の魔法陣を領地と王都の屋敷に置いて、簡単に転移出来るようにしなければ。
ニール様以外には、転移の魔法陣は一度起動するだけでも大量の魔石が必要だと伝えてあるし、実際そういう魔法陣を王宮には渡してある。
だけど本当は、オークの魔石数個あれば転移できるものを既に発明済みだから、設置さえしてしまえば後は使い放題だ。
「ディーンッ、だ、大丈夫よ。私この腕輪で十分満足しているし、指輪は石を付け替えればいいだけなのだと分かったから、急がないわ。だってディーンが側にいてくれれば怖いことは何もないでしょう? ディーンは竜を狩れる程の強い人なんですもの」
私の腕をぎゅうっと両手で握りしめて、ダニエラが私に縋る。
「よろしいのですか? ユニコーンはすぐに狩って来られますよ。遠慮なさらなくても……」
「いいの、いいのよ。遠慮じゃないわ。私の傍に居てくれない方が嫌よ。私凄く怖い思いをしたのに、ディーンは私の傍から離れるつもりなの。ディーン……私悲しいわ」
涙を浮かべた大きな目が私を見上げて、うっと息が詰まる。
母のせいで私は女性が苦手なのだが、ダニエラは別だ。
涙を見れば狼狽えるし、見つめられるだけで体温が上がる。
「ダニエラ、私の女神。あなたを悲しませたりしません。あなたから離れたりしませんから安心してください」
「……良かった。でもディーンはとても強いのね。物凄く強い上に魔法陣の発明まで出来るなんて知らなかったわ、本当に凄いのね」
ダニエラが私を褒めてくれるのは嬉しい、こんな私でもダニエラの役に立てるだろうか。
ニール様とダニエラの役に立てるなら、私はこれから先も生きていける。
「私に強さや魔法陣の腕があれば、あなたのお役に立てますか?」
「役に立つ?」
「ええ」
もしもそれが必要だと言うのなら、いくらでも私は強くなる。便利な魔法陣を作れというなら不眠不休で発明し続ける。
だから私を必要として欲しい、私を捨てないで。
「ディーン、役に立つ能力があるから自分を夫にしてくれなんて言うつもりなら、私怒るわよ」
私を見上げたまま少し頬を膨らませているダニエラの可愛さに、狼狽えながらメイナの立つ方へ視線を向けるといつの間にか部屋は私達だけになっていた。
「ディーン、聞いていて?」
「き、聞いています」
「じゃあ、返事をして。どうなの? 役に立つから夫にしてというつもりだった?」
「はい。ダニエラとウィンストン公爵家の役に立ちます。生涯かけて公爵家に仕えます。私の忠誠はダニエラとウィンストン公爵家のものです」
躊躇わず頷く。
私の命も忠誠も、ウィンストン公爵家とダニエラの為に存在している。
ニール様とダニエラが私を不要とするのなら、私は生きている意味がない。
「ディーン、私に忠誠はいらないわ。妻に忠誠ってなんてことを言うの。家はともかく妻に向けるのは愛よ。頭は良いのにどうしてディーンはすぐに忘れてしまうのかしら。怒るわよ、私本当に怒るわよ」
ダニエラが何故怒っているのか分からない。
そう言えば、ニール様も私がニール様に仕えると言った時に怒っていらっしゃった気がする。
でも理由が分からない。
「忠誠は不要ですか」
「父や兄に向けてなら必要かもしれないけれど、私はいらないわ。夫から私に向けて欲しいのは愛だけよ。愛じゃなくあるのは忠誠心だなんて言う気なら本気で怒るわ。いいえ、悲しんで泣き喚くわ。私を泣かせたくないのなら、今すぐ訂正して。いい、ディーン許すのは今回だけよ」
許すのは今回だけ、その言葉に背筋が冷えた。
私はダニエラをそんなに怒らせてしまったというのか。
「ディーン?」
「ダニエラ、ダニエラ……許して、捨てないで。愚かな私を見限らないで」
体が震える。
ダニエラに拒まれたら、拒まれてしまったら私はもう生きていけない。
「もう、ディーン。あなた何を馬鹿な事を言っているの。私があなたを捨てるわけないでしょう? そんな気軽な気持ちであなたを夫にすると言ったりしないわ」
「本当に?」
「ええ、あなたが私を愛し続ける限り、私はあなたの妻よ。誰のものでもないディーンの妻は私」
ダニエラが微笑むけれど、私の背筋はまだ冷えたままだ。
「……ディーン、ちょっとそちらに座って」
ダニエラに手を引かれて、私は力無くソファーに腰を下ろす。
「はい、両手を開いてそのままよ」
ダニエラにされるがままの私の心は暗く沈んでいく。
ダニエラに捨てられる、失言に呆れられて許されず捨てられてしまう。
その思考がぐるぐると私の頭の中に渦巻いて行く。
「左手は背中、右手はこうかな。うん、これでいいわ」
「ダニエラ?」
いつの間にか私の膝の上にダニエラが座っていた。
えっ? いつの間にか、私の膝の上にダニエラが座っている???
「ダ、ダニエラッ?」
な、なぜ膝の上にダニエラが、私が無理矢理にそうしてしまったのか?
ダニエラに捨てられたくなくて、ダニエラを離したくなくて、無理矢理にこんな事を?
左腕でダニエラの背中を支え、右手はダニエラを抱え込む様に腹部に回している。
まだ夫婦になっていないというのに、こんな不適切な距離をダニエラの許しを得ずしてしまうなんて、本当にダニエラに捨てられてしまう。
「あなたは心配しすぎる傾向にあるみたい。だから二人きりで座る時はあなたの膝の上が私の場所よ。こうしていれば不安になんてならないでしょう? これは決定だから拒否は駄目よ。でも、そうね妥協案として寄り添って座り手を繋ぐのは認めるわ。私、重いからいつもこうだとディーンが疲れてしまうかもしれないものね」
「私の膝の上がダニエラの場所」
それなら、私はダニエラをこうして抱きしめていていいのだろうか。
私のようなものが、こんな幸せを頂いていいのか。
これは都合の良い夢を見ているのか。
「ふふふ、あなたが弱気な事ばかり言うから、私に我儘を言われてしまうのよ。あなたが弱気になるのが悪いのだからあなたは反省して私の我儘を全部きいてくれないといけないの。こうやって私を抱きしめて愛していると囁きながら私を甘やかさないといけないの、これは絶対よ」
悪戯が成功したと喜んでもいる様に、ダニエラは笑っているけれど私は冷静ではいられない。
私の気持ちが落ち込んでしまったと気が付いて、こんなに優しい事を提案してくれるなんて。
ダニエラはどうしてこんなに優しいんだ。
「ダニエラは私の女神だ」
「そういう時は愛してるというのよ。ディーン、私がもっと好きになった? もっと愛しくなった? ならそれをちゃんと言葉にしてくれなくては駄目よ。私は贅沢な女なの、だからディーンは毎日私に愛してると告白してね」
「愛しいなんて言葉じゃ足りない。あなたの存在を失ったら私は命を絶つだろう。ダニエラ、愛してる」
ぎゅうとダニエラの体を抱きしめる。
こうしてダニエラを抱きしめていられる幸せを、私は誰に感謝したらいいのだろう。
※※※※※※
ダニエラ視点
「愛しいなんて言葉じゃ足りない。あなたの存在を失ったら私は命を絶つだろう。ダニエラ、愛してる」
重い、重すぎる。
私をギュウギュウと抱きしめながら、ディーンが感極まった様に、重い愛の言葉を告げてくれる。
私は余裕な顔でディーンの腕の中で目を閉じているけれど、内心バクバクと動悸が激しい。
許すのは今回だけよ。なんて大失言だった。
ディーンのあまりの言葉に苛々して、つい言ってしまったけれど、言った瞬間、しまったと気が付いても時すでに遅しでディーンの瞳から光が一瞬で消えてしまった。
さすが、ゲームのヤンデレ。
瞳から光が消えるなんて、実際に見る日が来るとは思わなかった。
ディーンのヤンデレは骨の髄までしみ込んでいると、私は嫌になるほど実感してしまった。
せっかく私と娘の破滅理由である、『ネルツ侯爵家からダニエラが居なくなる』を回避出来たというのに、ディーンをここで闇落ちさせてしまったら回避した意味が無くなってしまう。
「ダニエラ、愛してます。愛してます。愛してます」
「ディーン、私あなたの作った守り石にずっと守られていたのね。私を守ってくれてありがとう」
言いながら、考える。
私はお兄様から、腕輪の魔道具の効果を全部教えられていなかった。
ディーンは、ユニコーンの魔石は癒しの守り石だと言っていたけれど、何故お兄様は私にそれを教えてくれなかったのだろう。
「あなたを守れて良かった」
この言い方だと、昔からディーンは私が命を狙われていたのを知っているように聞こえる。
兄が私の事情を安易に他人に話すとは思えないのだけれど、でもディーンには教えていた。
そう考えると兄は、本当にディーンを信用しているのだと分かる。
二人の性格的に合うところがあるとはとても思えないけれど、彼の何を兄は気に入ったのだろうか。
「そう言えば、私が良く着ているドレス。大魔糸で織った布を使っているのだけれど、あれもお兄様のお友達が糸を贈ってくれていると聞いたわ。まさかこれもディーンじゃないわよね」
大魔糸の布のドレスはとても高級だ。
私はそのドレスを幼い頃から沢山作って貰っていた。
王宮で行われるお茶会や夜会は、私にとっては戦場と同じだったけれど大魔糸のドレスは糸が魔力を含んでいるからそれだけで身を守る魔道具扱いになるらしく、ある意味必需品だった。
でも高級品。
公爵家の令嬢のドレスは日常着含め殆どが高級品だけれど、大魔糸で作られたドレスはその一着の金額で、上位貴族家令嬢が夜会用に仕立てるドレスが四、五着は作れる程の値段がするはずだ。
そんなとんでもない高級素材を、ディーンが兄に贈っていたのだろうか。
なんのために?
「大魔糸ですか。ええ、それは私です」
「大魔糸は魔法陣じゃ作れないわよね。狩るって事?」
「いいえ、使役です。王家の森に私の使役獣の大魔女郎蜘蛛の群れがいるんです。ああ、私がネルツ領に生活の場を移すのですから、あれらはネルツ領に連れてこないといけませんね」
大魔女郎蜘蛛と今言ったわ。
聞き間違いじゃなく、確かに大魔女郎蜘蛛って言った。
それはゲームでダニエラが襲われて腕を喰われて、確かダニエラの娘は大魔女郎蜘蛛の攻撃で、糸にぐるぐる巻きにされて森に吊るされて……。
「ダニエラ?」
「そ、それは大きな蜘蛛なの? ディーンに害は無いのかしら? 魔物でしょ?」
「ああ、魔物を狩ったことがないダニエラには虫型の魔物は怖いかもしれないですね。でも大丈夫ですよ。私は彼らを使役していますし、長年の付き合いがありますからもうすっかり慣れています。最初は一束程度の糸でしたが、今は大量に糸をくれますし最近彼らも器用になって好みの色や太さを言うと、希望通りの糸を出してくれる様にもなりました」
「好みの糸を出す」
どうしよう、何をどう突っ込んで聞いたらいいのか分からない。
ディーン、ネルツ領にその蜘蛛達を連れて来ると、今言ったわよね。
それってゲームで私達親子を断罪する魔物を、私の近くに呼び寄せるって事よね。
どうしよう、気を失いたくなってしまったわ。
「そんな凄い魔物を使役するって、ディーンは凄いのね」
「魔物と心が通じる様になるとは思いませんでしたが、今では心から信頼できる仲間の様なものです。いつかダニエラにも紹介したいですね」
いつか私に紹介。
それが、断罪の時だったりしないわよね。
私、ディーンとハッピーエンドを迎えるのよね、メリバエンドじゃないわよね。
「魔物に近付くのは怖いですか。私の使役獣でも、難しいですよね」
ディーンの低い声が頭の上からして、私はごくりと唾を飲み込んで上を向く。
ここで選択肢を間違うわけにはいかない。絶対に。
「魔物を実際に見たことはないから、何とも言えないけれど。ディーンが使役している子なら、きっと怖くないと思うわ。だってあなたを信じているもの。ディーンの使役獣にいつか会わせてくれる?」
「はい、是非。ああ、ダニエラならきっとそう言ってくれると思っていました。見た目はちょっと怖いですがどの蜘蛛も良い子達なんですよ」
せ、正解だった。
良かった、よくやったわ私、正解を引き当てたわ。
これから先、こういう事は何度もあるのわよね。
でも私、負けないわ。
ディーンもロニーも、これから生まれて来る子供達も皆一緒に幸せになるんだから。
出産後、ヤンデレ心配性ディーンに加え、もう一人のヤンデレに頭を悩ます様になるとは、この時の私は思ってもいなかった。
※※※※※※※※※
おまけでした。
ダニエラ、色々ニールに秘密にされてると気が付きましたが基本深く考えないので、そのままです。
「ええ、偶然出来たものですが」
通信用の魔法陣を刻んだ魔石は、軍事用だけでも大量に必要で今は製造が追いついていない。
個人はウィンストン公爵家に、私が製造した魔道具が数台あるだけだ。
私は勿論持っているが、ダニエラにはまだ渡していなかった。
「ダニエラにも、通信の魔道具を渡しておけば良かったです。そうしたらすぐに場所を確認出来たというのに、考えが足りず申し訳ありません」
「場所を知らせる魔道具があっただけで十分よ。それに雷の魔法に助けられたわ」
「ですが」
「それより、先程ユニコーンの魔石と聞こえたのは聞き違いよね?」
「いえ、ユニコーンの魔石で間違いありません。ユニコーンの特殊個体である天、虹、光それぞれのユニコーンの魔石を組み合わせて作ったものです。一応自信作ではあるのですが、少し大きくなってしまいました」
重さ軽減の魔法陣は刻めたが、大きさだけはどうしようも無かったのが残念だ。
「天、虹、光の特殊個体。メイナ、特殊個体って集団で狩ると聞いたことがあるわ。そうよね」
「集団? それでは魔石が独占出来なくなるではありませんか」
特殊個体は希少素材ばかりなのだから、そんな勿体無い事はしない。
誰だそんな無駄な狩り方をする奴は、余程弱い奴達が狩ろうとしたのか。
「ディーンまさか」
「慣れないと少し手こずりますが、私はコツを熟知していますからお望みであればすぐ狩ってきます。確かネルツ領にも居た筈ですし、ネルツ領近くにある迷宮なら三種の特殊個体が出ますから、今日中にでも献上出来ます」
今から馬を駆れば数体程度すぐに狩れる筈だ。
ダニエラは怖い思いをしたのだから、ユニコーンの魔石を贈れば心を癒して下さるに違いない。
光のユニコーンの魔石は、持っているだけで心を癒す効果がある。
そうだ今すぐ行ってこよう。
今後ダニエラを馬車で長距離移動させるのも心配だから転移の魔法陣を領地と王都の屋敷に置いて、簡単に転移出来るようにしなければ。
ニール様以外には、転移の魔法陣は一度起動するだけでも大量の魔石が必要だと伝えてあるし、実際そういう魔法陣を王宮には渡してある。
だけど本当は、オークの魔石数個あれば転移できるものを既に発明済みだから、設置さえしてしまえば後は使い放題だ。
「ディーンッ、だ、大丈夫よ。私この腕輪で十分満足しているし、指輪は石を付け替えればいいだけなのだと分かったから、急がないわ。だってディーンが側にいてくれれば怖いことは何もないでしょう? ディーンは竜を狩れる程の強い人なんですもの」
私の腕をぎゅうっと両手で握りしめて、ダニエラが私に縋る。
「よろしいのですか? ユニコーンはすぐに狩って来られますよ。遠慮なさらなくても……」
「いいの、いいのよ。遠慮じゃないわ。私の傍に居てくれない方が嫌よ。私凄く怖い思いをしたのに、ディーンは私の傍から離れるつもりなの。ディーン……私悲しいわ」
涙を浮かべた大きな目が私を見上げて、うっと息が詰まる。
母のせいで私は女性が苦手なのだが、ダニエラは別だ。
涙を見れば狼狽えるし、見つめられるだけで体温が上がる。
「ダニエラ、私の女神。あなたを悲しませたりしません。あなたから離れたりしませんから安心してください」
「……良かった。でもディーンはとても強いのね。物凄く強い上に魔法陣の発明まで出来るなんて知らなかったわ、本当に凄いのね」
ダニエラが私を褒めてくれるのは嬉しい、こんな私でもダニエラの役に立てるだろうか。
ニール様とダニエラの役に立てるなら、私はこれから先も生きていける。
「私に強さや魔法陣の腕があれば、あなたのお役に立てますか?」
「役に立つ?」
「ええ」
もしもそれが必要だと言うのなら、いくらでも私は強くなる。便利な魔法陣を作れというなら不眠不休で発明し続ける。
だから私を必要として欲しい、私を捨てないで。
「ディーン、役に立つ能力があるから自分を夫にしてくれなんて言うつもりなら、私怒るわよ」
私を見上げたまま少し頬を膨らませているダニエラの可愛さに、狼狽えながらメイナの立つ方へ視線を向けるといつの間にか部屋は私達だけになっていた。
「ディーン、聞いていて?」
「き、聞いています」
「じゃあ、返事をして。どうなの? 役に立つから夫にしてというつもりだった?」
「はい。ダニエラとウィンストン公爵家の役に立ちます。生涯かけて公爵家に仕えます。私の忠誠はダニエラとウィンストン公爵家のものです」
躊躇わず頷く。
私の命も忠誠も、ウィンストン公爵家とダニエラの為に存在している。
ニール様とダニエラが私を不要とするのなら、私は生きている意味がない。
「ディーン、私に忠誠はいらないわ。妻に忠誠ってなんてことを言うの。家はともかく妻に向けるのは愛よ。頭は良いのにどうしてディーンはすぐに忘れてしまうのかしら。怒るわよ、私本当に怒るわよ」
ダニエラが何故怒っているのか分からない。
そう言えば、ニール様も私がニール様に仕えると言った時に怒っていらっしゃった気がする。
でも理由が分からない。
「忠誠は不要ですか」
「父や兄に向けてなら必要かもしれないけれど、私はいらないわ。夫から私に向けて欲しいのは愛だけよ。愛じゃなくあるのは忠誠心だなんて言う気なら本気で怒るわ。いいえ、悲しんで泣き喚くわ。私を泣かせたくないのなら、今すぐ訂正して。いい、ディーン許すのは今回だけよ」
許すのは今回だけ、その言葉に背筋が冷えた。
私はダニエラをそんなに怒らせてしまったというのか。
「ディーン?」
「ダニエラ、ダニエラ……許して、捨てないで。愚かな私を見限らないで」
体が震える。
ダニエラに拒まれたら、拒まれてしまったら私はもう生きていけない。
「もう、ディーン。あなた何を馬鹿な事を言っているの。私があなたを捨てるわけないでしょう? そんな気軽な気持ちであなたを夫にすると言ったりしないわ」
「本当に?」
「ええ、あなたが私を愛し続ける限り、私はあなたの妻よ。誰のものでもないディーンの妻は私」
ダニエラが微笑むけれど、私の背筋はまだ冷えたままだ。
「……ディーン、ちょっとそちらに座って」
ダニエラに手を引かれて、私は力無くソファーに腰を下ろす。
「はい、両手を開いてそのままよ」
ダニエラにされるがままの私の心は暗く沈んでいく。
ダニエラに捨てられる、失言に呆れられて許されず捨てられてしまう。
その思考がぐるぐると私の頭の中に渦巻いて行く。
「左手は背中、右手はこうかな。うん、これでいいわ」
「ダニエラ?」
いつの間にか私の膝の上にダニエラが座っていた。
えっ? いつの間にか、私の膝の上にダニエラが座っている???
「ダ、ダニエラッ?」
な、なぜ膝の上にダニエラが、私が無理矢理にそうしてしまったのか?
ダニエラに捨てられたくなくて、ダニエラを離したくなくて、無理矢理にこんな事を?
左腕でダニエラの背中を支え、右手はダニエラを抱え込む様に腹部に回している。
まだ夫婦になっていないというのに、こんな不適切な距離をダニエラの許しを得ずしてしまうなんて、本当にダニエラに捨てられてしまう。
「あなたは心配しすぎる傾向にあるみたい。だから二人きりで座る時はあなたの膝の上が私の場所よ。こうしていれば不安になんてならないでしょう? これは決定だから拒否は駄目よ。でも、そうね妥協案として寄り添って座り手を繋ぐのは認めるわ。私、重いからいつもこうだとディーンが疲れてしまうかもしれないものね」
「私の膝の上がダニエラの場所」
それなら、私はダニエラをこうして抱きしめていていいのだろうか。
私のようなものが、こんな幸せを頂いていいのか。
これは都合の良い夢を見ているのか。
「ふふふ、あなたが弱気な事ばかり言うから、私に我儘を言われてしまうのよ。あなたが弱気になるのが悪いのだからあなたは反省して私の我儘を全部きいてくれないといけないの。こうやって私を抱きしめて愛していると囁きながら私を甘やかさないといけないの、これは絶対よ」
悪戯が成功したと喜んでもいる様に、ダニエラは笑っているけれど私は冷静ではいられない。
私の気持ちが落ち込んでしまったと気が付いて、こんなに優しい事を提案してくれるなんて。
ダニエラはどうしてこんなに優しいんだ。
「ダニエラは私の女神だ」
「そういう時は愛してるというのよ。ディーン、私がもっと好きになった? もっと愛しくなった? ならそれをちゃんと言葉にしてくれなくては駄目よ。私は贅沢な女なの、だからディーンは毎日私に愛してると告白してね」
「愛しいなんて言葉じゃ足りない。あなたの存在を失ったら私は命を絶つだろう。ダニエラ、愛してる」
ぎゅうとダニエラの体を抱きしめる。
こうしてダニエラを抱きしめていられる幸せを、私は誰に感謝したらいいのだろう。
※※※※※※
ダニエラ視点
「愛しいなんて言葉じゃ足りない。あなたの存在を失ったら私は命を絶つだろう。ダニエラ、愛してる」
重い、重すぎる。
私をギュウギュウと抱きしめながら、ディーンが感極まった様に、重い愛の言葉を告げてくれる。
私は余裕な顔でディーンの腕の中で目を閉じているけれど、内心バクバクと動悸が激しい。
許すのは今回だけよ。なんて大失言だった。
ディーンのあまりの言葉に苛々して、つい言ってしまったけれど、言った瞬間、しまったと気が付いても時すでに遅しでディーンの瞳から光が一瞬で消えてしまった。
さすが、ゲームのヤンデレ。
瞳から光が消えるなんて、実際に見る日が来るとは思わなかった。
ディーンのヤンデレは骨の髄までしみ込んでいると、私は嫌になるほど実感してしまった。
せっかく私と娘の破滅理由である、『ネルツ侯爵家からダニエラが居なくなる』を回避出来たというのに、ディーンをここで闇落ちさせてしまったら回避した意味が無くなってしまう。
「ダニエラ、愛してます。愛してます。愛してます」
「ディーン、私あなたの作った守り石にずっと守られていたのね。私を守ってくれてありがとう」
言いながら、考える。
私はお兄様から、腕輪の魔道具の効果を全部教えられていなかった。
ディーンは、ユニコーンの魔石は癒しの守り石だと言っていたけれど、何故お兄様は私にそれを教えてくれなかったのだろう。
「あなたを守れて良かった」
この言い方だと、昔からディーンは私が命を狙われていたのを知っているように聞こえる。
兄が私の事情を安易に他人に話すとは思えないのだけれど、でもディーンには教えていた。
そう考えると兄は、本当にディーンを信用しているのだと分かる。
二人の性格的に合うところがあるとはとても思えないけれど、彼の何を兄は気に入ったのだろうか。
「そう言えば、私が良く着ているドレス。大魔糸で織った布を使っているのだけれど、あれもお兄様のお友達が糸を贈ってくれていると聞いたわ。まさかこれもディーンじゃないわよね」
大魔糸の布のドレスはとても高級だ。
私はそのドレスを幼い頃から沢山作って貰っていた。
王宮で行われるお茶会や夜会は、私にとっては戦場と同じだったけれど大魔糸のドレスは糸が魔力を含んでいるからそれだけで身を守る魔道具扱いになるらしく、ある意味必需品だった。
でも高級品。
公爵家の令嬢のドレスは日常着含め殆どが高級品だけれど、大魔糸で作られたドレスはその一着の金額で、上位貴族家令嬢が夜会用に仕立てるドレスが四、五着は作れる程の値段がするはずだ。
そんなとんでもない高級素材を、ディーンが兄に贈っていたのだろうか。
なんのために?
「大魔糸ですか。ええ、それは私です」
「大魔糸は魔法陣じゃ作れないわよね。狩るって事?」
「いいえ、使役です。王家の森に私の使役獣の大魔女郎蜘蛛の群れがいるんです。ああ、私がネルツ領に生活の場を移すのですから、あれらはネルツ領に連れてこないといけませんね」
大魔女郎蜘蛛と今言ったわ。
聞き間違いじゃなく、確かに大魔女郎蜘蛛って言った。
それはゲームでダニエラが襲われて腕を喰われて、確かダニエラの娘は大魔女郎蜘蛛の攻撃で、糸にぐるぐる巻きにされて森に吊るされて……。
「ダニエラ?」
「そ、それは大きな蜘蛛なの? ディーンに害は無いのかしら? 魔物でしょ?」
「ああ、魔物を狩ったことがないダニエラには虫型の魔物は怖いかもしれないですね。でも大丈夫ですよ。私は彼らを使役していますし、長年の付き合いがありますからもうすっかり慣れています。最初は一束程度の糸でしたが、今は大量に糸をくれますし最近彼らも器用になって好みの色や太さを言うと、希望通りの糸を出してくれる様にもなりました」
「好みの糸を出す」
どうしよう、何をどう突っ込んで聞いたらいいのか分からない。
ディーン、ネルツ領にその蜘蛛達を連れて来ると、今言ったわよね。
それってゲームで私達親子を断罪する魔物を、私の近くに呼び寄せるって事よね。
どうしよう、気を失いたくなってしまったわ。
「そんな凄い魔物を使役するって、ディーンは凄いのね」
「魔物と心が通じる様になるとは思いませんでしたが、今では心から信頼できる仲間の様なものです。いつかダニエラにも紹介したいですね」
いつか私に紹介。
それが、断罪の時だったりしないわよね。
私、ディーンとハッピーエンドを迎えるのよね、メリバエンドじゃないわよね。
「魔物に近付くのは怖いですか。私の使役獣でも、難しいですよね」
ディーンの低い声が頭の上からして、私はごくりと唾を飲み込んで上を向く。
ここで選択肢を間違うわけにはいかない。絶対に。
「魔物を実際に見たことはないから、何とも言えないけれど。ディーンが使役している子なら、きっと怖くないと思うわ。だってあなたを信じているもの。ディーンの使役獣にいつか会わせてくれる?」
「はい、是非。ああ、ダニエラならきっとそう言ってくれると思っていました。見た目はちょっと怖いですがどの蜘蛛も良い子達なんですよ」
せ、正解だった。
良かった、よくやったわ私、正解を引き当てたわ。
これから先、こういう事は何度もあるのわよね。
でも私、負けないわ。
ディーンもロニーも、これから生まれて来る子供達も皆一緒に幸せになるんだから。
出産後、ヤンデレ心配性ディーンに加え、もう一人のヤンデレに頭を悩ます様になるとは、この時の私は思ってもいなかった。
※※※※※※※※※
おまけでした。
ダニエラ、色々ニールに秘密にされてると気が付きましたが基本深く考えないので、そのままです。
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