【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

ほのぼの日常編2 くもさんはともだち5(蜘蛛視点)

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気持ち悪い表現があります。
申し訳ありません。

「主、マチルディーダ来たか」
「くぅちゃん、ディーダよ。おはようーーございましゅ」

 午後に行くという知らせを主から受けていた蜘蛛は、午前中は狩りに勤しんだ。
 腹が大きくなってきたダニエラは、また食欲が無くなりつつあるという。
 マチルディーダが腹にいた時の様に、ダニエラが痩せ細るなんて失態を蜘蛛は二度としないと決めているから、一口、二口食べただけでも栄養になる上位の魔物を沢山狩って来た。
 マチルディーダの妹、アデライザも離乳食というものになりだいぶ経って食べられる物も増えたと聞いたから、迷宮の最奥で育てた金の桃の実と癒しの苺も沢山収穫して来た。
 人というものは、魔物と違ってすぐに弱るから全くもって気を抜く暇がないのが困る。

「ディーダ、今は昼過ぎだからこんにちはだろう。いや、ごきげんようと言うのだったか?」

 昼を少し過ぎた頃、主とマチルディーダは森にやって来た。
 マチルディーダを片腕に抱いて、のんびりと歩いてくる主はこの森の魔物を片手間に狩れる力を持つ実力者だ。
 ダニエラの事になると弱気になる困った子でもあるが、魔物には力が全てだから問題ない。
 それに主の弱い部分は蜘蛛が助けてやればいいだけだと思っている?
 その為に蜘蛛は強くなったし知識を付けた。それに言葉も流暢に話せるようになった。数年前様な不様な話し方等もうしないのだ。
 後はなんとかして人型に変化出来るようになれるといいのだが、まだまだ修行が足りない。

「蜘蛛に人間の挨拶は良く分からないが、どうだ主」

 マチルディーダは小さく丸まっこいが、これでも人の世界では上の方の家の娘になるから変な挨拶は教えられない迂闊な事を言わないように気を付けなければ。

「ごきげんようなら、間違いはないかな。さあディーダ蜘蛛に挨拶してみようか。この間淑女の礼を習ったね。覚えているかな?」

 主はそっとマチルディーダを地面に下ろした後、優しく促す。
 ダニエラと結婚して、主の顔は優しくなったと蜘蛛は思う。
 昔の様に何かを諦めてしまった様な、追い詰められた様な顔をしなくなったのは、ダニエラと子供達のお陰なのだろう。


「ごきげんよう、くぅちゃん」

 ぎこちなく淑女の礼というものの真似事を、マチルディーダは蜘蛛にしてみせた。
 頭に着けた大きなリボンがふわりと揺れて、なんとも愛らしい挨拶だ。
 主に良く似た顔立ちがこんなに愛くるしく育つとは、人の顔というものは不思議なものだ。

「うん、ごきげんよう。ディーダ。良く来たな」
「ディーダ上手に挨拶出来たね。偉いよ」

 主は父親の顔で、ディーダの頭を優しく何度も撫でながら笑っている。
 そう言えば今日はあの煩い奴がいない、だから静かなのか。

「それで今日は何故呼び出した。魔力なら夜に渡しに来ているだろう?」
「ああ、すまなかったな主。ダニエラの調子はどうだ」
「昨日の夜お腹の子が少し暴れたとかで、睡眠不足の様のせいか食欲がないんだ」
「そうか心配だな。雪の魔鹿を大量に狩ったからダニエラに食べさせやってくれ。金の桃と癒しの苺も沢山取って来た。これはマチルディーダとアデライザも好きだろう。ダニエラもこれなら食べやすいはずだ」

 アデライザの時は、かぼちゃのスープばかり食べていたが、今回はどうも魔力の多い食べ物を望んでいる様に見えるから、迷宮の中で育った果物や魔力と生命力が強い雪の魔鹿は今のダニエラに丁度良いはずだ。

「これを渡す為に呼んだのか?」
「違う。マチルディーダに蜘蛛の声がかなり遠くからでも届く様になったから、実験をしてみようと思ったのだ」
「実験?」

 元々素質があったのだと思うが、マチルディーダは人間の幼児にしては魔力がかなり多い。
 もしかすると生まれた時に大量の魔力を注いだせいで魔力の器が大きくなったのかもしれないが、詳しい事は蜘蛛には分からない。

「マチルディーダには使役の能力があるのではないか?」
「使役、だから蜘蛛の声が聞こえるのか」
「分からない。だがマチルディーダの声には時々魔力が籠っている様に感じるのだ。もし使役出来るのなら、早めに教えて置くべきだと蜘蛛は思う。守りは必要だ」

 ダニエラは、マチルディーダが六歳になった時に行う陛下への謁見が不安なのだという。
 幸い第一王子殿下の息子との婚約は無くなったが、陛下が寵愛する王弟の孫という立場は色んな意味で狙われやすい。
 そもそもダニエラ同様マチルディーダも、変な者に執着されやすい体質だと蜘蛛は思う。
 執着の筆頭は主だが、主とダニエラは幸い上手くいっているし、子供達も主を慕っているから問題ない。
 問題は、第一王子とその妃だ。
 第一王子が執着し続けているせいで、王子妃はダニエラを嫌っているのだと王妃付きの使用人が話しているのを、蜘蛛はこの間聞いたばかりだ。
 王妃はすでに蜘蛛の傀儡としたから問題ないが、あの王子妃は問題だ。
 命を奪うのはいつでも出来るから、今はしない。
 ダニエラが狙われ苦しめられた年月の長さ、王妃とその配下に苦しみを与えたい。
 父上殿の望みを主は蜘蛛に命じたから、王妃と配下の耳から蜘蛛の化身を中に入り込ませ、傀儡とした。
 今は蜘蛛の思うまま動き、寝る時は常に悪夢に魘されている。痛みと苦しみの感覚は鋭くさせているから、蜘蛛の化身が頭の中で動く度、死んだほうがマシだと思うような痛みに苦しめられている。
 
 あの愚かな王妃がダニエラを狙ったのは、嫉妬からだった。陛下の寵愛が王弟だけに向き、王弟そっくりの子供まで寵愛していた。
 そして最愛の息子まで、ダニエラは自分のものだと言い始めた。それが悔しくてダニエラを害そうと考え始めたのだという。
 ダニエラを害せば、子供を愛している王弟が苦しむ。
 そう考えたのだ。
 王子妃の嫉妬が過ぎれば、王妃の様にダニエラと子供達を狙うようになるかもしれない。
 立場としては向こうが上だし、まだ何もしていない王子妃に手は出せない。
 だから、守りに力を入れるのだ。
 
「守りか」
「そうだ。主の守り石は心強い守りだが、それでも不安は残るだろう。人の悪意は恐ろしいものだからな。使役がもし出来るなら少しでも早く覚えた方が良いと思わないか」

 ダニエラは覚えていないそうだが、彼女が初めて王妃に毒を盛られたのは、今のマチルディーダ位の年に王妃に茶に呼ばれた時なのだと父上殿が教えてくれた事がある。
 それは遅延性の軽い毒で、お茶を飲んですぐに反応は出なかった。
 だが、屋敷に戻って少し経った頃ダニエラは突然顔を真っ青にして倒れたのだそうだ、ニール様の目の前で。
 一緒に王宮に行った父上殿には何も無かった、母上殿はダニエラと同じ様に倒れたが大人だったからなのか軽くてすんだ。
 三人の内二人の具合が悪くなった事で毒を疑い、解毒薬を飲ませることが出来たから大事に至らなかったそうだ。
 ダニエラが心配しているのが何なのか、蜘蛛には分からないが、やらずに後悔する位なら大袈裟だと言われようが出来る限りの守りを子供達に施す方がいい。
 
「使役出来るだろうか。私にもダニエラにもその才は無いいけれど、まだ三歳で可能だろうか」
「マチルディーダは幼いから、その才が本当にあったとしても使いこなせないかもしれない。だがマチルディーダの守りを考えるなら、使役獣程都合の良い物はない。そうだろう主」
「それはそうだが」

 主と話をしていたら、ぽんぽんと小さな手が蜘蛛の前足を叩き始めた。

「マチルディーダ、どうした」
「くぅちゃん。おとおさまぁとのお話まだかかる? ディーダ背中すべりしたい。駄目?」
「おお、そうかそうか。退屈させてしまったか。いいぞ好きなだけ滑るといい」

 退屈して我慢できなくなった様だが、今迄大人しく待っていたのだから、偉いと褒めていいのかもしれない。
 マチルディーダは、少し我儘なところはあるが考え無しの馬鹿ではないなと思う。

「くぅちゃん、上っていい?」
「いいぞ」

 大きくしていた体を、マチルディーダが遊びやすい大きさに変えてから、背中に上りやすいように足の角度も変えてやる。

「おとおさまぁ。いい?」
「蜘蛛が良いと言ったから遊んでいいよ。でも怪我には気を付けるんだよ」
「はあい。ええと、ここ上るの」

 うんしょ、うんしょとマチルディーダが蜘蛛の足を上りだす。
 生まれた時から蜘蛛を側で見ているマチルディーダは、蜘蛛を怖がらない。

「すべるよぉ」

 背中に上ったマチルディーダは、宣言した後ずりずりとうつ伏せになって尻の上を滑っていく。

「わぁぃ。もぉいっかい」

 うんしょうんしょと足を上り、つるりと滑ってまた蜘蛛の足を上る。
 数回繰り返して満足したのか、最後は滑らずに蜘蛛の背中にうつ伏せになり、頭に頬ずりし始めた。

「くぅちゃんありがとう。たのしかったぁ」
「そうか、良かったな」
「あのね、ディーダねぇ、くぅちゃんだぁいすきぃ」

 くふふと笑いながら、マチルディーダは今度は蜘蛛の頭を撫でる。
 マチルディーダが怪我しないように、蜘蛛の体を今はつるりとさせているから撫でやすいのだろう。

「そうか、蜘蛛もマチルディーダを好きだぞ」
「いっしょだねぇ」

 くふふと笑う声を聞きながら、蜘蛛はマチルディーダの為に絶対に人型に変化出来るようになると決めたのだ。


※※※※※※※
蜘蛛が段々無敵になって来てます。
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