【本編完結済】夫が亡くなって、私は義母になりました

木嶋うめ香

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番外編

ほのぼの日常編2 くもさんはともだち39(ダニエラ視点)

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「うふふぅ、くぅちゃ……おせなかすべりゅぅ」

 愛らしい声が聞こえ、柔らかい何かが私の胸元にすり寄る気配に私は重い瞼を開きました。

「……マチルディーダ?」

 私の寝間着を小さな手で握りしめ胸に顔を埋める様にして眠っていたのは、マチルディーダでした。
 どうしてこの子がここに? ここは夫婦の寝室よね?
 混乱しながら視線を動かし周囲を見渡すと、目に入って来るのは見慣れた寝室の調度品、カーテンの向こうはまだ明るい様ですが私はどのくらい眠っていたのでしょう。

「おか……さま、いっしょにすべりゅ……くぅちゃ……」

 彼女の夢の中に私とくぅちゃんが出ている様で、私達の名前を呼びながらマチルディーダは微笑んでいます。
 楽しい夢を見ているなら良かったと、私は安堵しながら小さな体を抱きしめて目を閉じました。

「少し魔力が戻ったのかしら、やっぱり魔力が足りないのね」

 寝不足が続いた後の様な疲れと怠さは、妊娠中も度々感じていた症状です。
 ディーンに魔力を流して貰ったり、魔物肉を食べた後は緩和されていた時と同じ感覚がするのですから魔力が足りていないのだと思います。
 マチルディーダとアデライザにお乳をあげていた頃は今の様な疲れは感じていなかったので、これは双子へお乳をあげているのが原因なのか、それともあの子達の魔力が多すぎるのが理由なのか分かりませんが単純に赤ちゃん二人にお乳と共に魔力を吸われているのですから、疲労して当然なのかもしれません。

「……あの子達お腹空かせていないかしら」

 弱々しすぎて生まれてから暫くのあいだまともにお乳を飲めなかったマチルディーダとも、問題など何もなく健やかに生まれ育ったアデライザとも双子達は違っています。
 何せあの子達は生まれて数日しか経っていないというのに、すでに首が座っている様に思える程しっかりとしているのです。
 とても三か月も早く生まれた様には見えません。
 ルチアナはマチルディーダやアデライザと同じくディーンに似た顔立ちをしていて、ルカ―リオは何故かお兄様そっくりです。
 私とお兄様の顔は良く似ていますが、ルカ―リオは私ではなくお兄様似だとはっきり分かります。
 お兄様似というより、お兄様の赤ん坊の頃はこんな顔だっただろうと想像が出来る顔なのです。
 顔がお兄様そっくりだからなのか、男の子が生まれたら息子として愛せるだろうかと心配していたディーンはルカ―リオを愛せないかもしれない、という心配はどこかへ飛んでしまった様でルカ―リオもルチアナも二人共可愛いと目を細めています。
 ディーンの心の傷は癒えているとは言えないので心配の要因が減った事は嬉しいですが、その理由がルカ―リオの顔がお兄様に似ているからだと思うとちょっと複雑です。

「……将来が怖いわ」

 双子が生まれて、お父様は辺境伯のやらかしを陛下に伝えつつ双子について陛下に事細かく話をしてきたらしく、陛下はネルツ家に絵師を向かわせお父様とルカ―リオの絵を描かせると言い出したそうです。
 双子だと話をしているのに、ルカ―リオだけお父様と一緒の絵を描かせようとするあたり、陛下の思考は通常運転の様です。
 陛下のはしゃぎっぷりから、ルチアナが私やお兄様に似ていたらどうなっていただろうと少し怖くなります。
 陛下が第一王子の子を溺愛しているという話は聞いた事がありませんが、お兄様の子のジェリンドの事は当然の様に溺愛していますし、ルカ―リオも同様になるでしょう。
 仮にルチアナの方がお兄様に似ていたら、お父様が絶対に私の子を王家に嫁がせないと宣言していたとしても王子の婚約者にされてしまったかもしれません。
 そうなってしまったとしたら、ルチアナが大きくなった時にゲームの様になってしまうかもしれないのです。

「でも、だいぶ違うわ」

 ルチアナはネルツ家の三女、ブレガ侯爵の娘ではなくネルツ侯爵家の娘です。
 名前を口にするのもおぞましいあの男に私が穢された末に生まれたルチアナではなく、ディーンに愛され授かったルチアナなのです。
 この違いはかなり大きいと思います。
 だって私は無条件にルチアナが可愛いのです、勿論マチルディーダもアデライザもルカ―リオも、全員可愛くて愛おしくてたまらないのです。
 夢の中のダニエラは、ルチアナを心のそこから愛せてはいなかったけれど、今の私は違います。

「だから、怖がることは無いのよ」

 双子が産まれる時、私は私で、でも違うダニエラでもあった気がします。
 産気づいて、陣痛に苦しんでいたあの時、私はゲームのダニエラの記憶の中にいました。
 長い長い夢を見ていた様に思います。
 あれはゲームのエピソードではなく、この世界のダニエラの記憶です。
 そう、もう一つの未来、ゲームの展開の通りのダニエラの記憶です。

 ネルツ家でお義母様の計略に嵌り穢されて、ディーンの側にはいられないと逃げてしまったダニエラの記憶です。
 私の予想通り、ゲームのダニエラはディーンから求婚されそれを受け入れていました。
 短い時間でディーンの思いに絆されて彼を愛する様になったのは、ダニエラの中に前世の私の記憶が無かったせいなのかもしれません。
 彼女はピーターの裏切りに傷付き、ロニーの存在にも傷付いていました。
 子供が生めなかった自分はお父様とお兄様に見捨てられて当然の役立たずだと嘆き悲しんでいる中で、ディーンに求婚されたダニエラは、溺れた者が必死に縋る命綱の様にディーンに傾倒していったというのに、ディーンの隣にいてはいけない様な事態に陥ってしまったのです。
 ディーンの側にいられる資格が無いとダニエラは自分を責め、ダニエラを守れなかったとディーンもまた自分を責めました。
 ダニエラは自分が穢れてしまったと思い込みデーンの元を去りましたが、ディーンは愛すると言いながらダニエラを守れなかった自分をダニエラは見捨てたのだと考えたのです。

「……」

 悲しみの中公爵家に戻ったダニエラは不幸にも子を授かってしまっていたと分かり、ブレガ侯爵家の後添いとして嫁ぐことになりました。
 貴族の娘であるダニエラが父親のいない子を生むわけにはいかず、ネルツ家から逃げてしまったダニエラには亡くなった夫であるピーターの子を授かっていたとすることも出来なかった為、すべての事情を分かった上で書類上の夫となる存在が必要だったためです。
 
 ブレガ侯爵は幼い頃からお父様を敬愛している者の一人で、ブレガ侯爵家の力はすべてお父様の為に存在すると考えている様なかなり偏った考えの持ち主でした。
 だからこそ、半分正気を失った様なダニエラを保護する為に妻として受け入れたのです。
 夫としてではなく、敬愛する主の娘を守る忠義者の家臣の様な思いでそうしたのです。
 
※※※※※※
そう言えば、コロちゃんではありませんでした。
原因不明な感じで念のための解熱剤だけ処方されました。
お騒がせして申し訳ありませんでした。
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