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番外編
おまけ 愛のかたち6 (陛下視点)
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「ボナクララは余程具合が悪いようだな」
訪ねてきたデルロイの顔色が優れぬ気がして問いかけると、余に自分を好きかと尋ねてきた幼き頃と同じ不安気な顔で小さく頷いた。
「隠したつもりでしたが、……申し訳ございません」
心配をかけまいとしていたのだろうが、余が愛しいデルロイの変化に気が付かぬわけが無いから、そんな泣きそうな顔などしなくてもいいというのに、余の弟は何ともいじらしいものだ。
「よい、座りなさい」
状況を読むのが上手い侍従は、既に部屋から出ている。
ただ、短時間しか居られぬだろうからと、執務室に招いたのは失敗だった。
ここでは落ち着いてデルロイの話が聞けぬではないか。
「……はい」
俯くデルロイの肩に手を掛け声を掛けると、気落ちした声で返事をしながらデルロイは余のエスコートに従いソファーに腰を下ろした。
頭を撫でながら隣に座り見つめていると、眠れていないのだろうかデルロイの端正な横顔に疲れが見える。
これは何か飲ませて休ませなければと、侍従を呼びかけようとした口を閉じ自ら立ち上がる。
疲れたデルロイの顔を見ていいのは、王宮の中では余だけだ。
「あ、私が」
「よい。美味くはないだろうが、気落ちした弟に茶を振る舞う位は余にも出来る」
いつかデルロイが望んだ時の為、密かに茶の入れ方を練習していたのが役に立つ日が来たようだ。
デルロイの口に合うだろうか、可愛い弟が望むことがあるかもしれないと料理を覚えようとして侍従に泣いて止められたから断念したが、もし喜ぶようなら茶ぐらいは毎回入れてやってもいいかもしれない。
「とても手際が良いのですね」
デルロイの驚く声を聞きながら侍従が部屋の隅に用意していた道具を使い茶を入れ、菓子と共にデルロイの前に置き寄り添い座る。
「ありがとうございます陛下」
「それを飲んでそなたが落ち着いたら話を聞こう」
「この国の太陽であらせられる陛下自ら入れて下さったお茶を頂ける栄誉を賜り……」
「これは兄から弟への振る舞いだ。デルロイ余を何と呼べば良いか分かるな」
弱っていると言わんばかりの顔で茶器を品良く持つデルロイに、軽く睨むと「……兄上、ありがとうございます」と素直に微笑んだ。
慎ましいのはデルロイの美点だが、余が許さぬと兄上と呼べぬのは問題だ。
いつでも甘えていいと言っているのに、周囲を気にして余に甘えるのを我慢しているのだから謙虚が過ぎるというものだ。
王命で呼ばせてもいいのだが、余に許されて兄上と呼ぶ嬉しそうな顔が見えなくなるのは寂しいと思うから、今のままが良いのかもしれない。
「兄上はいつも私に気遣ってくださいますね。兄上が優しいから私は図々しく甘えてしまうのです」
「そうだ、それでよい。余計な者はいないのだから遠慮せずに甘えなさい」
「私はいい大人です。忙しい兄上に甘えるのは申し訳なく思います」
「そなたを甘やかす時間が取れぬほど無能ではないつもりだが、兄を信じられぬか? 何を悩んでいる遠慮せずに話してみよ」
何度言っても慎ましい弟は余に気を遣うばかり、茶を半分程飲んでテーブルに茶器を置いても躊躇っている。
「……妻は寝込むことが増えました。私が無能なばかりに」
「治癒師はなんと言っている」
「過去の毒の影響で体が弱っている上、心労ではと」
毒の影響と聞いて、デルロイに気が付かれぬように小さく息を吐く。
デルロイの妻ボナクララが過去に受けた毒は、特殊なものだった。
王妃の実の姉妹であるボナクララに、あの毒婦が長期に苦しむ毒を飲ませたのはデルロイの愛娘ダニエラが三歳の時だった。
不甲斐ない事に、余はそれを後になってデルロイから聞くまで知らなかった。
あの毒婦王妃は、ダニエラには少し強めの毒を、ボナクララには軽いと見える毒を使い治癒師の目を欺いた。
実際には、ボナクララには軽い毒と共に、体内に摂取してから三日以内に解毒しなければ生涯体に影響する毒を飲ませていたのだ。
しかもその毒は同時にボナクララに盛った軽い毒を解毒する為の薬を飲むことで毒化するもので、摂取してからしばらくは症状が出ない。
症状が出始める頃にはもう解毒出来なくなってしまうという、たちの悪いものだった。
「あの毒婦から聞いた毒は解毒出来ぬらしいが、それでも症状を軽くすることはダニエラの夫の守り石なら出来るのではないか?」
デルロイの愛娘ダニエラは、幼き頃からとても聡明で愛らしかった。
余にとてもよく懐き、いつもおっとりと笑っている可愛いダニエラとボナクララ二人を害していたと知った時、余は怒りですぐさま王妃を処刑しようと思った程だ。
だがあんな毒婦でも守りの魔法の使い手としては優秀で、すぐに殺すことは出来なかった。
「守り石も万能ではありません。害されて時間が過ぎた体は治せないようです」
「そうか」
「それでもディーンは、未だに妻を救う魔法陣が出来ないか考え続けてくれています。あれは自分に自信がないのが困りますが、ダニエラと家族を大切にしてくれています」
「そうか。ダニエラはいい夫を得たな」
だがまだボナクララを救う魔法陣は生まれていない。つまり彼女の苦しみはまだまだ続くということか、なんと憐れなことだろう。
王妃と良く似ているが、ボナクララは女神の化身のように優しく思いやりがある女性だ。
余が唯一妻にしたいと考えた女性でもある。
王妃ではなく、余の妻にしていればこんな苦しみは味あわずに済んだのかもしれぬ。
だがボナクララは余の妻では幸せにはなれなかっただろう。
デルロイはボナクララを妻にと望み、ボナクララもデルロイの妻になる事を望んでいたのだから。
二人の思いを知り、ボナクララは余では無くデルロイの妻として生きる事こそが幸せなのだろう。そう考えたからこそ余はボナクララをデルロイの妻に選んだのだ。
「私は無力です」
俯き嘆くデルロイは、ボナクララを愛し子にも孫にも恵まれた。
王妃の悪行が無ければ、常に幸せな顔を余に見せてくれていた筈、それを思うと王妃を何度殺しても足りないと歯ぎしりしたくなる。
「そんな悲しいことを申すな。薬師に解毒の研究は続けさせている。すぐには無理でもいづれは……」
気休めな言葉だと互いに分かりながら、そういえば心労もあるのかと思い直す。
デルロイが妻が寝込むほど追い詰めるわけが無い、だとしたら何があったというのだろう。
「何があった」
「兄上……」
「申してみよ。王妃は最近大人しくしている筈だ」
ダニエラの夫が、国境の守りの為の魔法陣を発明したお陰で王妃の力は不要になった。
だから余はデルロイには秘密に王妃の思考が徐々に退行する薬を飲ませ始めた。
あれは疲労感と倦怠感が酷くなり、頭の中に霧がかかった様になるものだ。
それを使ってから、王妃の悪い噂を聞かなくなった。
だから憂いは無くなった筈だ。
「第一王子と王子妃が」
「二人がどうした」
「先日妻と夜会に出た際、王子妃と第一王子が『マチルの名が付いた恥知らずを次期当主にしようとしている愚か者達を王家は見逃していてはいけない』と話しているのを妻が聞いてしまったのです」
「何だと」
確かにデルロイは先日余が主催した夜会に出ている。
だがあの夜会は、第一王子達は出られぬ様に申し付けていた筈だ。
「なぜ二人が」
「人酔いをした妻が、庭園で少し休んでいた時に二人がある人とそんな話をしているのを聞いてしまったのです」
夜会に出た貴族と秘密裏に会っていたのか?
第一王子と付き合いがある貴族で、デルロイに悪意があるものは誰だ。
「ある人というのは、顔は見たのか」
「東の辺境伯です」
「何だと?」
デルロイに心酔しているあの男が、ダニエラを害しようと画策しているというのか?
予想外の男に、余は言葉を失ったのだった。
※※※※※※※
ダニエラ父、健気な弟の演技中。
陛下気持ち悪くないとコメント頂いてホッとしてます。
訪ねてきたデルロイの顔色が優れぬ気がして問いかけると、余に自分を好きかと尋ねてきた幼き頃と同じ不安気な顔で小さく頷いた。
「隠したつもりでしたが、……申し訳ございません」
心配をかけまいとしていたのだろうが、余が愛しいデルロイの変化に気が付かぬわけが無いから、そんな泣きそうな顔などしなくてもいいというのに、余の弟は何ともいじらしいものだ。
「よい、座りなさい」
状況を読むのが上手い侍従は、既に部屋から出ている。
ただ、短時間しか居られぬだろうからと、執務室に招いたのは失敗だった。
ここでは落ち着いてデルロイの話が聞けぬではないか。
「……はい」
俯くデルロイの肩に手を掛け声を掛けると、気落ちした声で返事をしながらデルロイは余のエスコートに従いソファーに腰を下ろした。
頭を撫でながら隣に座り見つめていると、眠れていないのだろうかデルロイの端正な横顔に疲れが見える。
これは何か飲ませて休ませなければと、侍従を呼びかけようとした口を閉じ自ら立ち上がる。
疲れたデルロイの顔を見ていいのは、王宮の中では余だけだ。
「あ、私が」
「よい。美味くはないだろうが、気落ちした弟に茶を振る舞う位は余にも出来る」
いつかデルロイが望んだ時の為、密かに茶の入れ方を練習していたのが役に立つ日が来たようだ。
デルロイの口に合うだろうか、可愛い弟が望むことがあるかもしれないと料理を覚えようとして侍従に泣いて止められたから断念したが、もし喜ぶようなら茶ぐらいは毎回入れてやってもいいかもしれない。
「とても手際が良いのですね」
デルロイの驚く声を聞きながら侍従が部屋の隅に用意していた道具を使い茶を入れ、菓子と共にデルロイの前に置き寄り添い座る。
「ありがとうございます陛下」
「それを飲んでそなたが落ち着いたら話を聞こう」
「この国の太陽であらせられる陛下自ら入れて下さったお茶を頂ける栄誉を賜り……」
「これは兄から弟への振る舞いだ。デルロイ余を何と呼べば良いか分かるな」
弱っていると言わんばかりの顔で茶器を品良く持つデルロイに、軽く睨むと「……兄上、ありがとうございます」と素直に微笑んだ。
慎ましいのはデルロイの美点だが、余が許さぬと兄上と呼べぬのは問題だ。
いつでも甘えていいと言っているのに、周囲を気にして余に甘えるのを我慢しているのだから謙虚が過ぎるというものだ。
王命で呼ばせてもいいのだが、余に許されて兄上と呼ぶ嬉しそうな顔が見えなくなるのは寂しいと思うから、今のままが良いのかもしれない。
「兄上はいつも私に気遣ってくださいますね。兄上が優しいから私は図々しく甘えてしまうのです」
「そうだ、それでよい。余計な者はいないのだから遠慮せずに甘えなさい」
「私はいい大人です。忙しい兄上に甘えるのは申し訳なく思います」
「そなたを甘やかす時間が取れぬほど無能ではないつもりだが、兄を信じられぬか? 何を悩んでいる遠慮せずに話してみよ」
何度言っても慎ましい弟は余に気を遣うばかり、茶を半分程飲んでテーブルに茶器を置いても躊躇っている。
「……妻は寝込むことが増えました。私が無能なばかりに」
「治癒師はなんと言っている」
「過去の毒の影響で体が弱っている上、心労ではと」
毒の影響と聞いて、デルロイに気が付かれぬように小さく息を吐く。
デルロイの妻ボナクララが過去に受けた毒は、特殊なものだった。
王妃の実の姉妹であるボナクララに、あの毒婦が長期に苦しむ毒を飲ませたのはデルロイの愛娘ダニエラが三歳の時だった。
不甲斐ない事に、余はそれを後になってデルロイから聞くまで知らなかった。
あの毒婦王妃は、ダニエラには少し強めの毒を、ボナクララには軽いと見える毒を使い治癒師の目を欺いた。
実際には、ボナクララには軽い毒と共に、体内に摂取してから三日以内に解毒しなければ生涯体に影響する毒を飲ませていたのだ。
しかもその毒は同時にボナクララに盛った軽い毒を解毒する為の薬を飲むことで毒化するもので、摂取してからしばらくは症状が出ない。
症状が出始める頃にはもう解毒出来なくなってしまうという、たちの悪いものだった。
「あの毒婦から聞いた毒は解毒出来ぬらしいが、それでも症状を軽くすることはダニエラの夫の守り石なら出来るのではないか?」
デルロイの愛娘ダニエラは、幼き頃からとても聡明で愛らしかった。
余にとてもよく懐き、いつもおっとりと笑っている可愛いダニエラとボナクララ二人を害していたと知った時、余は怒りですぐさま王妃を処刑しようと思った程だ。
だがあんな毒婦でも守りの魔法の使い手としては優秀で、すぐに殺すことは出来なかった。
「守り石も万能ではありません。害されて時間が過ぎた体は治せないようです」
「そうか」
「それでもディーンは、未だに妻を救う魔法陣が出来ないか考え続けてくれています。あれは自分に自信がないのが困りますが、ダニエラと家族を大切にしてくれています」
「そうか。ダニエラはいい夫を得たな」
だがまだボナクララを救う魔法陣は生まれていない。つまり彼女の苦しみはまだまだ続くということか、なんと憐れなことだろう。
王妃と良く似ているが、ボナクララは女神の化身のように優しく思いやりがある女性だ。
余が唯一妻にしたいと考えた女性でもある。
王妃ではなく、余の妻にしていればこんな苦しみは味あわずに済んだのかもしれぬ。
だがボナクララは余の妻では幸せにはなれなかっただろう。
デルロイはボナクララを妻にと望み、ボナクララもデルロイの妻になる事を望んでいたのだから。
二人の思いを知り、ボナクララは余では無くデルロイの妻として生きる事こそが幸せなのだろう。そう考えたからこそ余はボナクララをデルロイの妻に選んだのだ。
「私は無力です」
俯き嘆くデルロイは、ボナクララを愛し子にも孫にも恵まれた。
王妃の悪行が無ければ、常に幸せな顔を余に見せてくれていた筈、それを思うと王妃を何度殺しても足りないと歯ぎしりしたくなる。
「そんな悲しいことを申すな。薬師に解毒の研究は続けさせている。すぐには無理でもいづれは……」
気休めな言葉だと互いに分かりながら、そういえば心労もあるのかと思い直す。
デルロイが妻が寝込むほど追い詰めるわけが無い、だとしたら何があったというのだろう。
「何があった」
「兄上……」
「申してみよ。王妃は最近大人しくしている筈だ」
ダニエラの夫が、国境の守りの為の魔法陣を発明したお陰で王妃の力は不要になった。
だから余はデルロイには秘密に王妃の思考が徐々に退行する薬を飲ませ始めた。
あれは疲労感と倦怠感が酷くなり、頭の中に霧がかかった様になるものだ。
それを使ってから、王妃の悪い噂を聞かなくなった。
だから憂いは無くなった筈だ。
「第一王子と王子妃が」
「二人がどうした」
「先日妻と夜会に出た際、王子妃と第一王子が『マチルの名が付いた恥知らずを次期当主にしようとしている愚か者達を王家は見逃していてはいけない』と話しているのを妻が聞いてしまったのです」
「何だと」
確かにデルロイは先日余が主催した夜会に出ている。
だがあの夜会は、第一王子達は出られぬ様に申し付けていた筈だ。
「なぜ二人が」
「人酔いをした妻が、庭園で少し休んでいた時に二人がある人とそんな話をしているのを聞いてしまったのです」
夜会に出た貴族と秘密裏に会っていたのか?
第一王子と付き合いがある貴族で、デルロイに悪意があるものは誰だ。
「ある人というのは、顔は見たのか」
「東の辺境伯です」
「何だと?」
デルロイに心酔しているあの男が、ダニエラを害しようと画策しているというのか?
予想外の男に、余は言葉を失ったのだった。
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ダニエラ父、健気な弟の演技中。
陛下気持ち悪くないとコメント頂いてホッとしてます。
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