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「あなたに、君を愛するつもりはないお飾りの妻だと言われるのか、それとも白い結婚で数年後に離縁すると言われるのか」
「お、お飾りっ! し、白い結婚!」
「私を生涯愛すると誓ってくださったのは嘘だったのか」
「う、嘘っ!」
私が思いついたまま、表情だけは悲壮感漂わせてする話に、ギュスターヴ様は悲鳴のような声を上げる。
「私の夫は、何があろうと生涯あなただけと心に決めて嫁いだというのに、私の思いはどこへ捨てられてしまうのかと、不安で不安でたまらなかったのですよ。一晩中私はたった一人、この部屋で不安と戦っていましたわ」
「何があろうと、それは夫が猫になる呪いが掛けられても?」
恨めしい気持ちを吐露しているというのに、見当違いなことを不安そうに聞いてくるギュスターヴ様を、内心呆れて見つめても、私は悪くないと思う。
ギュスターヴ様の気持ちが私にあるのなら、猫になることくらい大きな問題でもなんでもない。と考える私は呑気過ぎるだろうか。
昨日盛大な結婚式を行い、沢山の貴族を招いて結婚披露の宴を開いたのだ。私はシュテフイーナ・バウワーからシュテフイーナ・エリンケスになったことは、この国の社交界にもう周知されている。
呪いが怖いから、初夜を行わず呪いが解けるまで白い結婚を続けるとか、呪いが解ける見込みがないから結婚したけれどすぐに離縁するとか、そんなこと出来るわけがない。
エリンケス公爵家の使用人達がよく躾けられているとしても、人の口に戸は立てられないという言葉がある通り嫡男が初夜をせず寝室に近付きもしなかったなんて醜聞は、いつの間にか面白可笑しく広まることだろう。
「伺いますが、猫になる時間がどんどん長くなり、最後は本当の猫になる?」
「そ、そんなことは無いと思う。夜中に猫になり日が昇れば人に戻る。そこまで強い呪いでは無いから、そのうち何もしなくても解呪されるかもしれないとは聞いている」
自信なさげに言われてしまうと信じるのは難しいけれど、だとしたら女は度胸あるのみだ。
呪いなんて、人に嗤われ指刺され生きるかもしれない未来に比べたら些細なことだ。そう、私にとって大切なのはギュスターヴ様と共に歩む未来なのだから。
「ギュスターヴ様」
「な、なに?」
「あなたが仮に本当の猫になって、ニャアとしか鳴けなくなったとしても、私の夫はあなた一人です」
この人が何を心配していても、私はこんな呪い程度で夫を見捨てる女じゃない。
三年間思い続けた、この私の気持ちを甘く見ないで欲しい。
「ほ、本当に?」
「ええ、幸いこの家は跡継ぎに困るわけではありません。ギュスターヴ様には弟君も妹君もいらっしゃいますもの。もしも呪いが解けずに、むしろ酷くなって本当の猫になったとして子供が望めなくてもどうにかなります」
「どうにか……弟も妹もまだ婚約していないから最悪どちらかが跡を継げばいいけれど、そもそも本当の猫になったら当主なんて出来ないだろうしねえ」
私が何を言おうとしているのか分からないのか、ギュスターヴ様は戸惑った様子で私を見下ろしたままだ。
この人は本当育ちがいいというか、おっとりとしているというか、心配になるほど呑気だとちょっと呆れるけれどそういう所を私は好きになったのだから、この人はこれで良いのだ。
「ギュスターヴ様が本当の猫になってしまっても、生涯一緒です。離れに住まわせて頂けるようにお願いして、猫になったギュスターヴ様と慎ましく暮らします」
この人はきっと私の傍にいてくれるだろう、傍目には夫婦に見えなくても、老女と老猫になるまで一緒に生きてギュスターヴ様の最期まで見届ける。
そのくらいの覚悟、たった今出来た。
人でも猫でも関係ない、ギュスターヴ様はずっと私の夫だ。
「一緒に生きてくれる? 私と? 呪われてしまった私と?」
「ええ、ギュスターヴ様が浮気をしないのであれば、呪い程度で私の心はゆらぎません」
そう、呪いなんて平気だ、浮気だけは許さないけれど。
「浮気なんてするわけない」
即答、でも未来は分からない。
呑気に呪いを受けるような人だもの、本人にその気が無くても周囲の悪意に簡単に巻き込まれることはあるかもしれない。
そこは、私が用心しなければ。
だって私はこの人の妻だもの。
「もう朝です、初夜は終わってしまいました。結婚して初めての夜だから初夜なのです。延期なんて出来ないこと、本当はご理解されていますわね?」
ギュスターヴ様にしがみついていた両腕を、彼に逃げられないように背中へと回す。
「へ?」
「私名実ともにあなたの妻になれなければ、悲しみのあまり本当に儚くなってしまうかもしれませんわ」
不安そうなギュスターヴ様を見ていれば分かる、今私が動かなければこの人は呪いが解けるまで私に指一本手を出さないだろう。
私がこれだけ言っても、それでも不安そうにしているのだから、きっと呪いを理由に私を避け続ける。
そうなったら、本当に幸せになんて、きっとなれはしない。
「そ、そんな」
「念の為確認致しますが、誓って下さった愛に偽りはございませんわよね?」
初夜は過ぎてしまったし、延期して後日なんて許せるものではない。
そんなの、この家の女主人公になる私が使用人達に笑われるだけだ。
呪われているなんて、使用人達は知らないだろう。だとしたら、彼らの頭に残るのは『初夜を夫に無視された女主人』という私しかない。
そんなの一生の屈辱だ。
「ない! 絶対にないよ! 心から愛してる、神に誓って嘘じゃない」
「それならば、今から私を妻にしてくださいませ」
「へ?」
「まだ夜が明けたばかり、使用人達はいつあなたが部屋に来たのかなんて分かりません。呪いで猫になると使用人達に話してはいないのでしょう?」
驚きすぎたのか、ギュスターヴ様は私の腕を振り払ったりしない。
それをいいことに、抱きつく腕に力を込めて、そのまま私の体をギュスターヴ様にもたれさせていく。
「え、それはつまり」
「延期なんて悲しいこと仰らないで、辛いことも悲しいことも共に乗り越えてこそ真の夫婦だと思いませんか」
「え、でも呪い……君に万が一……」
本当にこの人は優しい、優しすぎるけれど、理由を知らない他人が初夜の延期なんて知ったらどう思うか分からないことまでは考えが及んでいない。
私は他人の目に映る自分を気にする方だし、結婚の始まりにとんでもない躓きは必要ないと心から思う。
「お慕いしています、ギュスターヴ様。ご存知でしたか? 私一年生の頃からあなたをずっと見ていましたの。あなたに素敵な令嬢だと思ってほしい一心で努力していましたのよ」
「え、ええっ」
「しいっ、そんな大声は初夜に相応しくありませんわ」
優しいのは美徳だけれど、私が呪いなんてどうでもいいと思うくらいにはあなたを愛しているのだと、いい加減理解して欲しい。
「愛しています。ずっとずっと思っています」
「そんなの、私の方がずっとずっと思っている。意気地なしでごめん、猫になるなんて間抜けな呪い受けて、嫌われるかもなんて怯えたせいで、一人の夜を過ごさせてごめん」
へにょりと眉が下がって謝る姿は、なんだか失礼だけれど情けなくて可愛い。
彼が猫になっても、きっと同じく思うだろうって自信がある。
きっと、この人はどんな姿でも私の胸をときめかせると思う。
「明日からは猫の姿でも一緒に眠ると誓ってくれるなら、許します」
「誓う、誓うよ。大好きだよぉ」
大好きだといいながら、私を抱きしめた力強い腕に体を預け、目を閉じる。
初夜の延期なんてありえない。
そんなの認めないから、ちゃんと愛して。
ギュスターヴ様の耳元に囁くと、彼は嬉しそうに微笑みながら、頬を擦り付けてきた。
猫みたいね、なんて思ったのは内緒だけれど、私達は幸せな時間を過ごして本当の夫婦になったのだ。
「お、お飾りっ! し、白い結婚!」
「私を生涯愛すると誓ってくださったのは嘘だったのか」
「う、嘘っ!」
私が思いついたまま、表情だけは悲壮感漂わせてする話に、ギュスターヴ様は悲鳴のような声を上げる。
「私の夫は、何があろうと生涯あなただけと心に決めて嫁いだというのに、私の思いはどこへ捨てられてしまうのかと、不安で不安でたまらなかったのですよ。一晩中私はたった一人、この部屋で不安と戦っていましたわ」
「何があろうと、それは夫が猫になる呪いが掛けられても?」
恨めしい気持ちを吐露しているというのに、見当違いなことを不安そうに聞いてくるギュスターヴ様を、内心呆れて見つめても、私は悪くないと思う。
ギュスターヴ様の気持ちが私にあるのなら、猫になることくらい大きな問題でもなんでもない。と考える私は呑気過ぎるだろうか。
昨日盛大な結婚式を行い、沢山の貴族を招いて結婚披露の宴を開いたのだ。私はシュテフイーナ・バウワーからシュテフイーナ・エリンケスになったことは、この国の社交界にもう周知されている。
呪いが怖いから、初夜を行わず呪いが解けるまで白い結婚を続けるとか、呪いが解ける見込みがないから結婚したけれどすぐに離縁するとか、そんなこと出来るわけがない。
エリンケス公爵家の使用人達がよく躾けられているとしても、人の口に戸は立てられないという言葉がある通り嫡男が初夜をせず寝室に近付きもしなかったなんて醜聞は、いつの間にか面白可笑しく広まることだろう。
「伺いますが、猫になる時間がどんどん長くなり、最後は本当の猫になる?」
「そ、そんなことは無いと思う。夜中に猫になり日が昇れば人に戻る。そこまで強い呪いでは無いから、そのうち何もしなくても解呪されるかもしれないとは聞いている」
自信なさげに言われてしまうと信じるのは難しいけれど、だとしたら女は度胸あるのみだ。
呪いなんて、人に嗤われ指刺され生きるかもしれない未来に比べたら些細なことだ。そう、私にとって大切なのはギュスターヴ様と共に歩む未来なのだから。
「ギュスターヴ様」
「な、なに?」
「あなたが仮に本当の猫になって、ニャアとしか鳴けなくなったとしても、私の夫はあなた一人です」
この人が何を心配していても、私はこんな呪い程度で夫を見捨てる女じゃない。
三年間思い続けた、この私の気持ちを甘く見ないで欲しい。
「ほ、本当に?」
「ええ、幸いこの家は跡継ぎに困るわけではありません。ギュスターヴ様には弟君も妹君もいらっしゃいますもの。もしも呪いが解けずに、むしろ酷くなって本当の猫になったとして子供が望めなくてもどうにかなります」
「どうにか……弟も妹もまだ婚約していないから最悪どちらかが跡を継げばいいけれど、そもそも本当の猫になったら当主なんて出来ないだろうしねえ」
私が何を言おうとしているのか分からないのか、ギュスターヴ様は戸惑った様子で私を見下ろしたままだ。
この人は本当育ちがいいというか、おっとりとしているというか、心配になるほど呑気だとちょっと呆れるけれどそういう所を私は好きになったのだから、この人はこれで良いのだ。
「ギュスターヴ様が本当の猫になってしまっても、生涯一緒です。離れに住まわせて頂けるようにお願いして、猫になったギュスターヴ様と慎ましく暮らします」
この人はきっと私の傍にいてくれるだろう、傍目には夫婦に見えなくても、老女と老猫になるまで一緒に生きてギュスターヴ様の最期まで見届ける。
そのくらいの覚悟、たった今出来た。
人でも猫でも関係ない、ギュスターヴ様はずっと私の夫だ。
「一緒に生きてくれる? 私と? 呪われてしまった私と?」
「ええ、ギュスターヴ様が浮気をしないのであれば、呪い程度で私の心はゆらぎません」
そう、呪いなんて平気だ、浮気だけは許さないけれど。
「浮気なんてするわけない」
即答、でも未来は分からない。
呑気に呪いを受けるような人だもの、本人にその気が無くても周囲の悪意に簡単に巻き込まれることはあるかもしれない。
そこは、私が用心しなければ。
だって私はこの人の妻だもの。
「もう朝です、初夜は終わってしまいました。結婚して初めての夜だから初夜なのです。延期なんて出来ないこと、本当はご理解されていますわね?」
ギュスターヴ様にしがみついていた両腕を、彼に逃げられないように背中へと回す。
「へ?」
「私名実ともにあなたの妻になれなければ、悲しみのあまり本当に儚くなってしまうかもしれませんわ」
不安そうなギュスターヴ様を見ていれば分かる、今私が動かなければこの人は呪いが解けるまで私に指一本手を出さないだろう。
私がこれだけ言っても、それでも不安そうにしているのだから、きっと呪いを理由に私を避け続ける。
そうなったら、本当に幸せになんて、きっとなれはしない。
「そ、そんな」
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初夜は過ぎてしまったし、延期して後日なんて許せるものではない。
そんなの、この家の女主人公になる私が使用人達に笑われるだけだ。
呪われているなんて、使用人達は知らないだろう。だとしたら、彼らの頭に残るのは『初夜を夫に無視された女主人』という私しかない。
そんなの一生の屈辱だ。
「ない! 絶対にないよ! 心から愛してる、神に誓って嘘じゃない」
「それならば、今から私を妻にしてくださいませ」
「へ?」
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驚きすぎたのか、ギュスターヴ様は私の腕を振り払ったりしない。
それをいいことに、抱きつく腕に力を込めて、そのまま私の体をギュスターヴ様にもたれさせていく。
「え、それはつまり」
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「え、でも呪い……君に万が一……」
本当にこの人は優しい、優しすぎるけれど、理由を知らない他人が初夜の延期なんて知ったらどう思うか分からないことまでは考えが及んでいない。
私は他人の目に映る自分を気にする方だし、結婚の始まりにとんでもない躓きは必要ないと心から思う。
「お慕いしています、ギュスターヴ様。ご存知でしたか? 私一年生の頃からあなたをずっと見ていましたの。あなたに素敵な令嬢だと思ってほしい一心で努力していましたのよ」
「え、ええっ」
「しいっ、そんな大声は初夜に相応しくありませんわ」
優しいのは美徳だけれど、私が呪いなんてどうでもいいと思うくらいにはあなたを愛しているのだと、いい加減理解して欲しい。
「愛しています。ずっとずっと思っています」
「そんなの、私の方がずっとずっと思っている。意気地なしでごめん、猫になるなんて間抜けな呪い受けて、嫌われるかもなんて怯えたせいで、一人の夜を過ごさせてごめん」
へにょりと眉が下がって謝る姿は、なんだか失礼だけれど情けなくて可愛い。
彼が猫になっても、きっと同じく思うだろうって自信がある。
きっと、この人はどんな姿でも私の胸をときめかせると思う。
「明日からは猫の姿でも一緒に眠ると誓ってくれるなら、許します」
「誓う、誓うよ。大好きだよぉ」
大好きだといいながら、私を抱きしめた力強い腕に体を預け、目を閉じる。
初夜の延期なんてありえない。
そんなの認めないから、ちゃんと愛して。
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