おきつねさんとちょっと晩酌

木嶋うめ香

文字の大きさ
1 / 80

失恋やけ酒

しおりを挟む
 もう最悪な夜だわっ。
 こんな日は飲まなきゃやってられないよね。

 泣きたいのを堪えて電車から降りて、コンビニに直行してお酒を買い込むと、人通りのない裏道を白ワインをらっぱ飲みしながら歩いた。

 付き合ってた筈の会社の先輩鈴木透さんが昨日突然結婚発表して明けて金曜日、部内でお祝いの会をしようと急遽飲み会になった。
 昨日一日は頭の中が真っ白で何も考えられない状態だった。
 今日になって少しはマシになったけれど、現実を受け入れられないまま一日を過ごし、部内の友達松本美紀ちゃんに引きずられる様にお店に連れていかれて、辛い二時間を過ごした。

 冗談じゃなく、本当に結婚するらしい。
 相手は私じゃなく、受付業務の美人で有名な花村カレンさん。
 彼女がいるだけで、ぱぁっと場が華やぐ感じがする凄い美人さんで、二人並んで座っているのを見て、私二股かけられていたのだと遅ればせながら気が付いた。

 透先輩と並んで座る花村さんは、とても嬉しそうに「実は授かり婚なんですよ」と美紀ちゃんに打ち明けた。

「結婚式は三月末にする予定なの。運良く希望していたホテルに式の予約が取れたから、明日はその打ち合わせなの。美紀さんと由衣さんもご招待させてね」

 にこやかに美紀と私の名前を呼んで、結婚式をするというホテルの名前を教えてくれた。
 ローテローザクランツホテルは、二年ほど前に出来たところで最近ある女優がそのホテルの最上階にあるチャペルで結婚式を挙げて話題になったところだ。
 もし透先輩と結婚式をするなら、なんて夢うつつでそこのチャペルと披露宴について調べたらビックリするくらい高くて、それなのに予約は一年先まで埋まっていて驚いた。
 それなのに、三月。今は十二月なのに、三月の予約を一体いつ取ったというの。
 本当はずっと前から結婚が決まっていたのかも、私が気がつかなかっただけなのねと、苛々しながらも悲しくて、やけ食いとばかりに飲み会の席で食べまくってしまった。

「ああ、もうやってらんない」

 二次会はパスして、一人で電車に乗った。
 日頃あんまり食べないのにむちゃ食いしたあげく、酒豪の美紀につられて飲み慣れないハイボールとかも飲んだせいでちょっと気持ちが悪くなりながら、電車に揺られていたら車窓に映る自分の顔が今にも泣きそうに見えてきて、ぐっと奥歯を噛みしめて涙を我慢した。

「もういいわ。今晩は飲もう」

 電車を降りてすぐコンビニに向かい、白ワインとカップ酒と焼酎とウィスキーと炭酸とおつまみを買いこんだ。

「見る目が無かったのよ。私に見る目が無かったの」

 ぐびっと白ワインをラッパ飲み。
 明日記憶が残ってたら、即黒歴史決定しそうな飲み方をしてる。
 まだ十時を少し過ぎたばかりなのに、珍しく人通りがないからいいけれど。
 二十五の女がしていい行動じゃない。

「明日は二日酔いだろうなあ」
 
 やけになって買い込んだ、コンビニの袋が重い。
 肩掛けのバッグに七センチヒールの黒いパンプス。仕事用のちょっとおしゃれで、でもかっちり系のワンピースの上にはベージュのコート、そんな姿でワインをラッパ飲みして歩く、二十五歳の女。
 もうすぐ来るクリスマスは、透先輩と過ごす初めてのクリスマスになる予定だった。
 なのに失恋、まさかの二股。

「いいよ、二日酔いになるまで飲んでやる。吐いてもいいから飲んでやる」
 
 失恋でやけ酒、二日酔い。安っぽいドラマみたいだ。

「お嬢さん、お嬢さん。酒のあてにお稲荷さんはどうかな」

 酔っ払い過ぎて、幻覚を見ているんだろうか。
 それとも気がつかなかっただけ?
 薄ぼんやりとついた街灯の下、白い狐面を付け紺色のはっぴを着た人が赤い屋根の屋台の中から手招きをしていたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...