侯爵令嬢の婚約の行方~妖精の様だと言われる可愛い妹と素直になれない私~(旧、やって出来ないこともある)

木嶋うめ香

文字の大きさ
10 / 51

苦手なダンスも克服しよう

しおりを挟む
「いっ」
「ご、ごめんなさいっ」

 順調に旅を続けて後一日で王都到着となった夜、私はカレンと宿の部屋でダンスの練習をしていました。

「お姉様大丈夫?」
「ごめんなさいと言った瞬間治癒魔法を使ってくれたあなたのお陰で、もう痛くないわ」

 本当にこの子ったら憎らしいほどに治癒魔法が得意過ぎます。
 魔法の操作の上手下手は、使い手の知性と器用さに左右されると言われていますがカレンは治癒魔法に限って言えばどんな高度な治癒魔法も瞬時に発動できます。
 魔法の発動が術者の知性や器用さに左右されるのであれば、カレンのそれは最上の筈です。そうでなければあんなに素晴らしい治癒魔法が発動されるはずがありません。
 治癒魔法の腕を考えるなら、カレンは他の事に関してもう少し器用に物事が出来ていい筈なのですが。
 なぜ治癒魔法だけが得意なのでしょう? それが大きな謎です。

「良かったぁ」
「口調が乱れているわ。気をつけないと駄目よ。明日はもう王都に入るのですからね」
「はい、お姉様」

 真面目な顔で私が叱るのを聞いているカレンは、素直な性格がわかる愛らしい顔立ちをしているとつくづく思います。
 可愛い私の妹ですが、最近の私は少し苛々していて何故か優しく出来ないのです。

「もうあなたとのダンスはこりごりよ。少し休むわ」
「じゃあお茶にしましょう。この宿の料理人が作るタルトは絶品だと聞きましたのよ。ねえ、お茶の用意をして頂戴な」
「畏まりました」

 私達のダンスを壁際に控えて見守っていたメイドが返事をして部屋を出ていくのを見送って、私はため息を付きながら部屋の隅に寄せたソファーに座り込みました。

「疲れましたぁ。私の足が棒になってしまった気がしますうっ」
「あなたは休んでは駄目よ。お茶の用意が出来るまで一人で踊ってみなさい」
 
「えー」
「えーじゃありません。焦らなくていいからゆっくり踊ってごらんなさい」

 ソファーに腰を下ろし休もうとするカレンにそう言うと、休もうとしていたカレンは渋々姿勢を正し私の前にやってきました。 

「はぁい」

 ふて腐れた顔をしながらも、カレンはダンスが出来なければ殿下に嘘を付かなければいけない為私の指示に従い練習を始めました。

「自分で数を数えながら、ゆっくりやってみて」
「はい。いち、に、さん。いち、に、さん」

 本来の曲調よりだいぶゆっくりとした速度でカレンは一人でダンスを始めました。
 今練習している振り付けは『王冠の花』という曲で、デビューの夜会や婚約披露の際には必ず使われるものです。
 婚約披露の場合、広間の中央に主役である二人が踊り、その周囲を男女が二人一組になり円を描くように踊っていきます。
 中央で踊る人物を王冠、その周囲を踊る人達を花に見立ててダンスの名前が付けられたと言われています。

「焦らなくて良いわ、ゆっくり落ち着いて動けばいいの。上手に出来るようになってから曲に合わせるのよ」
「いーち、にぃ、さーん。いーち、にぃ、さーん」

 私の言葉にカレンはゆっくりと動いています。
 その動きに迷いは無く流石に動きは覚えているのだと、安心しました。
 足さばきもそんなに悪くありません。

「いーち、にぃ、さーんっ!」

 突然、かくんとカレンの体が揺らぎ、前のめり倒れかけました。

「カレン!」
「だ、大丈夫ですぅ」

 転びはしなかったものの、カレンはヨロヨロとソファーまで歩いてくると、脱力して腰を下ろしました。

「ゆっくりやっても駄目なんて、やっぱり無理なんですっ。私、やっぱり駄目なんです。平民がいうところのポンコツなのですわっ」
「いいえ、大丈夫。私理由が分かった気がするのよ。カレンは前進する時の動きが苦手なのよ」
「前進ですか?」
「ええ、見ていて」

 私は立ち上がると、足の動きが見やすいようにドレスの裾を両手で持ち上げ膝下が露わになる様にしました。

「いち、に、さん。いち、に、さん」

 王冠の花は三拍子です。
 こんなにゆっくり踊るのは子供の時以来ですが、カレンに分かりやすいようにゆっくりと動きます。

 花となる人達も、王冠となる人達も、場所を移動せずに踊る部分と、花達だけが動きを変え踊りながら右周りに前進する部分があります。
 ゆっくりした動きをしていたから分かった事ですが、カレンは前進する為に大きく前に踏み出さなくてはならない右足を小さく出し、左足から大きく前に出すようにしていたのです。

「カレンは、ここで右足の動きが小さいのよ」
「え?」
「ここで曲調が変わるでしょ、その時に右足を大きく前に出すの」

 踊りながら説明すると、カレンは驚いたような顔で私の足元を凝視していました。

「えええっ?」

 ダンスの練習は本番同様ドレスで行いますから、足の動きは良く見えません。
 今はカレンだけ踝が見える程度のドレスの丈の旅装を着ています。だから足さばきがはっきりと分かったのです。

「私、右足も大きく動かしていたつもりでしたが」
「足りなかったのね」

 ダンスの教師も最初は足の動きを見せてくれますが、後は口でここが悪い、そこを直せと言うだけです。
 あり得ない話ですが、カレンが誤解して踊っていると気がつかなかったのかもしれません。

「そこを直せばだいぶ改善出来るのではないかしら」

 立ち止まってそう説明すると、カレンはまだ少し不安そうに天井を見ています。
 頭の中で動きを再現しているのでしょうか?

「なんとなく分かったかもしれません。確かに私が相手の足を踏むのは前進の前後が多かったような」

 歩幅が相手と大きく違っていたら、足ももつれるでしょうし相手の足を踏みやすくなるのでしょう。

「さあ、ゆっくり踊ってあげるから良く見て覚えるのよ」

 スカートをたくしあげたまま、私はダンスを再開した時、扉が大きく開いたのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

『殺されたはずの公爵令嬢は、幽霊として王太子を断罪します』

鍛高譚
恋愛
死んだはずの公爵令嬢――いえ、死んでませんけど、幽霊始めました。 婚約者である王太子アルファルドに突然、婚約破棄を言い渡されたユウナ・アストラル。 しかも彼は、次の婚約者セレスティナとの未来のために、ユウナの両親を「事故」に見せかけて殺害し、ユウナ自身まで――。 けれどユウナは死ななかった。瀕死の彼女が目覚めたのは、幽体化というスキルを得た“不完全な死”の状態。 それならば、生きているとは言えない。でも、死んでもいない。 ならば今の私は――幽霊になって復讐しても、いいでしょう? 正体不明の「亡霊」として、王太子と新しい婚約者をじわじわと恐怖に落とすユウナ。 しかし、真の目的は“復讐”では終わらない――。 王宮で、社交界で、玉座の間で。 すべての罪を暴き、偽りの王子を地獄に突き落とす“ざまぁ”の舞台は整った! これは、「死んでないけど幽霊になった」令嬢が、人生を取り戻しに行く痛快・逆転ラブファンタジー。 彼女の本当の人生は、“幽霊”になってから始まった――! -

【完結】転生の次は召喚ですか? 私は聖女なんかじゃありません。いい加減にして下さい!

金峯蓮華
恋愛
「聖女だ! 聖女様だ!」 「成功だ! 召喚は成功したぞ!」 聖女? 召喚? 何のことだ。私はスーパーで閉店時間の寸前に値引きした食料品を買おうとしていたのよ。 あっ、そうか、あの魔法陣……。 まさか私、召喚されたの? 突然、召喚され、見知らぬ世界に連れて行かれたようだ。 まったく。転生の次は召喚? 私には前世の記憶があった。どこかの国の公爵令嬢だった記憶だ。 また、同じような世界に来たとは。 聖女として召喚されたからには、何か仕事があるのだろう。さっさと済ませ早く元の世界に戻りたい。 こんな理不尽許してなるものか。 私は元の世界に帰るぞ!! さて、愛梨は元の世界に戻れるのでしょうか? 作者独自のファンタジーの世界が舞台です。 緩いご都合主義なお話です。 誤字脱字多いです。 大きな気持ちで教えてもらえると助かります。 R15は保険です。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

処理中です...