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失言と失敗と自覚(ディアス視点)
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夕食は顔を赤らめながら顔合わせの感想を皆に話すカレンを中心に、和やかな雰囲気のまま終わった。
俺は部屋に戻りゆっくりと湯船に浸かると、従兄妹達のことを考え始めた。
社交界にデビューしたというのにふわふわと落ち着かない従兄妹カレンは、姉のジョーシーと違って心配な要素が多すぎる令嬢だった。
見た目は良いし、性格も良い、治癒魔法の才能は宮廷魔法使いにも負けず劣らずだろうと思う。
困った点は、そそっかしいところと令嬢としては若干、いやかなり出来が悪いというところだ。
でも、俺にとって身近な令嬢がジョーシーだから、比較するのは酷なのかもしれない。
ジョーシーは、昔から侯爵家を自分が継ぐのだと勉強にも社交にも令嬢教育にも人一倍努力していて、おまけに両親を見ているせいか、魔物を狩れなければ当主になる資格なしと思い込み、攻撃魔法の修行も欠かさなかった。
どこの令嬢が攻撃魔法の使い過ぎで魔力切れ起こして外で倒れる? ジョーシーは出来て当たり前だと言うが、世の中の令嬢は馬に跨がり野を駆ける等経験することも、それを自分が行うと想像することもないっていうのに、彼女は乗馬服の上に魔法使いのローブとマントを着けて、自在に馬を操り駆け回るんだから恐れ入る。
ジョーシーは、カレンと違いキリリとした顔立ちの美人だ。
両親揃って美形なのだから、当たり前なのだろうけれど十人が十人美人というだろうという顔をしている。
俺はその顔を見慣れているし、見惚れることなんかないだろうと侮っていた。
ジョーシーが生まれた時から見続けていて、夜会で着飾った姿だって何度も何度も見ているのだから。
どんなに着飾っても、家族を見る様な気持ちにしかならないだろうと舐めていたんだ。
「馬鹿だよな、俺。あそこは褒めるところだよ。何がカレン君は姉妹だと実感する。だよ」
階段を下りてくるジョーシーのあまりの可愛さに動揺して、何か言わなければと焦った結果の失言だった。
口にした途端にメイド達の刺すような視線と、落胆したジョーシーの顔が視界に入ったけれどもう遅かった。
ジョーシーは一旦外に出れば育ちのいい令嬢らしい表情 を作り、何でも卒なくこなすけれど俺の前では何を考えているか分かりやすいんだ。
「あれは褒める場面だったし、お世辞抜きに可愛かった」
パシャリと両手で湯を掬い顔にかける。
日頃は一つに結んでいることが多いジョーシーの、髪を下ろした優しげな髪型は、とても似合っていた。
妖精姫と言われるジョーシーの母親と妹、どちらちも負けない位の姿に、俺は柄にもなく見惚れて、ジョーシーに見惚れたという事実に動揺したんだ。
あの瞬間、妹からジョーシーが女性になった。
言い方は悪いけれど、女性として意識するようになったのだ。
そして、意識していると分かると俺の今までの気持ちはただの独占欲だったと自覚したのだ。
妹だ従姉妹だと、俺は自分に言い訳していただけで本当はちゃんと好きだったんだ。
「失言のお詫びに花とか贈ろうと思えば、植物園では邪魔が入って変な空気になるし、あれは最悪だった」
昔少し付き合って、向こうから振ってきたというのにどうやったらあんな風に話し掛けられるのか、神経を疑う。
けばけばしいドレスに化粧、吐き気がするほどの香水の臭い、あんな女と一時でも付き合っていたなんて俺は見る目が無さすぎた。
「ふう、おばさんに一応事情を話しておくか」
彼女は子爵家の令嬢だし派閥も違うから、ジョーシー達が参加する夜会や茶会には呼ばれることは少ないだろうけれど、自分の利益には貪欲な人だから何を言ってくるか分からない。
俺の学生時代の交友関係を、多分おばさん達は調べて知っているだろうから彼女のことも知っているだろう。
仮にも侯爵家の代官候補として学生時代を送っていあのだから、当然の話だ。
評判の悪い奴らと付き合っていたら、代官候補なんて話はすぐに消えていた筈だ。
俺は学生の身分に合わない生活をしたりしなかったし、勉強も剣の修行も真面目にやっていたし、散財もしなかった。
「学生時代は兎も角、問題はジョーシーに何を贈るかだよな。だが、贈り物って微妙なんだよな、おばさん達俺の服まで用意し始めたし。今俺は侯爵家から給金を貰っている身分で、そうそう自由になる金はないからジョーシーが普段選ぶ物より高価なものなんてあげられないし。装飾品なんて十分過ぎるほど持っているもんなあ」
婚約者となって初めて贈るものくらいは、それなりの物を贈りたい。
花とかお菓子は贈り物っていうより、土産的な感覚だしジョーシーもそんなに喜びはしないだろう。
今日だって気に入った菓子は、ジョーシー自身がさっさとメイドに購入手続きをさせてしまったくらいだ。
そもそも俺は侍従なんか付いていなかった。俺自身がおじさんの仕事の助手的な立場だったんだから当然だ。
まだ修行中で仕事半分、甥の立場半分な状態だったけれど、将来は元貴族の立場で生きていくと考えてきたのだから、急には意識は変わらないし、侯爵家の長女に生まれて次の当主として育ったジョーシーとは感覚が違うんだ。
こうなると家格が上の婚約者を持つって大変だ。
これ結婚したら、どういう風に考えればいいんだろう。
「それを考えると、今日花を贈らなくて正解だったのかもしれないな。婚約者からこんなものしか贈られないとがっかりされたかもしれない」
カレンに殿下から花が届いて、それをジョーシーは羨ましそうに見ていただなんて、知らなかった俺は間違った判断をしていたんだ。
※※※※※※※※※※
やっと恋愛的気持ちだったと自覚したディアスですが、『婚約者からこんなものしか贈られない』ではなく、実際には『婚約者から花すら贈られない』と思われてるなんて、想像すらしていません。
結構鈍い感じです。
俺は部屋に戻りゆっくりと湯船に浸かると、従兄妹達のことを考え始めた。
社交界にデビューしたというのにふわふわと落ち着かない従兄妹カレンは、姉のジョーシーと違って心配な要素が多すぎる令嬢だった。
見た目は良いし、性格も良い、治癒魔法の才能は宮廷魔法使いにも負けず劣らずだろうと思う。
困った点は、そそっかしいところと令嬢としては若干、いやかなり出来が悪いというところだ。
でも、俺にとって身近な令嬢がジョーシーだから、比較するのは酷なのかもしれない。
ジョーシーは、昔から侯爵家を自分が継ぐのだと勉強にも社交にも令嬢教育にも人一倍努力していて、おまけに両親を見ているせいか、魔物を狩れなければ当主になる資格なしと思い込み、攻撃魔法の修行も欠かさなかった。
どこの令嬢が攻撃魔法の使い過ぎで魔力切れ起こして外で倒れる? ジョーシーは出来て当たり前だと言うが、世の中の令嬢は馬に跨がり野を駆ける等経験することも、それを自分が行うと想像することもないっていうのに、彼女は乗馬服の上に魔法使いのローブとマントを着けて、自在に馬を操り駆け回るんだから恐れ入る。
ジョーシーは、カレンと違いキリリとした顔立ちの美人だ。
両親揃って美形なのだから、当たり前なのだろうけれど十人が十人美人というだろうという顔をしている。
俺はその顔を見慣れているし、見惚れることなんかないだろうと侮っていた。
ジョーシーが生まれた時から見続けていて、夜会で着飾った姿だって何度も何度も見ているのだから。
どんなに着飾っても、家族を見る様な気持ちにしかならないだろうと舐めていたんだ。
「馬鹿だよな、俺。あそこは褒めるところだよ。何がカレン君は姉妹だと実感する。だよ」
階段を下りてくるジョーシーのあまりの可愛さに動揺して、何か言わなければと焦った結果の失言だった。
口にした途端にメイド達の刺すような視線と、落胆したジョーシーの顔が視界に入ったけれどもう遅かった。
ジョーシーは一旦外に出れば育ちのいい令嬢らしい表情 を作り、何でも卒なくこなすけれど俺の前では何を考えているか分かりやすいんだ。
「あれは褒める場面だったし、お世辞抜きに可愛かった」
パシャリと両手で湯を掬い顔にかける。
日頃は一つに結んでいることが多いジョーシーの、髪を下ろした優しげな髪型は、とても似合っていた。
妖精姫と言われるジョーシーの母親と妹、どちらちも負けない位の姿に、俺は柄にもなく見惚れて、ジョーシーに見惚れたという事実に動揺したんだ。
あの瞬間、妹からジョーシーが女性になった。
言い方は悪いけれど、女性として意識するようになったのだ。
そして、意識していると分かると俺の今までの気持ちはただの独占欲だったと自覚したのだ。
妹だ従姉妹だと、俺は自分に言い訳していただけで本当はちゃんと好きだったんだ。
「失言のお詫びに花とか贈ろうと思えば、植物園では邪魔が入って変な空気になるし、あれは最悪だった」
昔少し付き合って、向こうから振ってきたというのにどうやったらあんな風に話し掛けられるのか、神経を疑う。
けばけばしいドレスに化粧、吐き気がするほどの香水の臭い、あんな女と一時でも付き合っていたなんて俺は見る目が無さすぎた。
「ふう、おばさんに一応事情を話しておくか」
彼女は子爵家の令嬢だし派閥も違うから、ジョーシー達が参加する夜会や茶会には呼ばれることは少ないだろうけれど、自分の利益には貪欲な人だから何を言ってくるか分からない。
俺の学生時代の交友関係を、多分おばさん達は調べて知っているだろうから彼女のことも知っているだろう。
仮にも侯爵家の代官候補として学生時代を送っていあのだから、当然の話だ。
評判の悪い奴らと付き合っていたら、代官候補なんて話はすぐに消えていた筈だ。
俺は学生の身分に合わない生活をしたりしなかったし、勉強も剣の修行も真面目にやっていたし、散財もしなかった。
「学生時代は兎も角、問題はジョーシーに何を贈るかだよな。だが、贈り物って微妙なんだよな、おばさん達俺の服まで用意し始めたし。今俺は侯爵家から給金を貰っている身分で、そうそう自由になる金はないからジョーシーが普段選ぶ物より高価なものなんてあげられないし。装飾品なんて十分過ぎるほど持っているもんなあ」
婚約者となって初めて贈るものくらいは、それなりの物を贈りたい。
花とかお菓子は贈り物っていうより、土産的な感覚だしジョーシーもそんなに喜びはしないだろう。
今日だって気に入った菓子は、ジョーシー自身がさっさとメイドに購入手続きをさせてしまったくらいだ。
そもそも俺は侍従なんか付いていなかった。俺自身がおじさんの仕事の助手的な立場だったんだから当然だ。
まだ修行中で仕事半分、甥の立場半分な状態だったけれど、将来は元貴族の立場で生きていくと考えてきたのだから、急には意識は変わらないし、侯爵家の長女に生まれて次の当主として育ったジョーシーとは感覚が違うんだ。
こうなると家格が上の婚約者を持つって大変だ。
これ結婚したら、どういう風に考えればいいんだろう。
「それを考えると、今日花を贈らなくて正解だったのかもしれないな。婚約者からこんなものしか贈られないとがっかりされたかもしれない」
カレンに殿下から花が届いて、それをジョーシーは羨ましそうに見ていただなんて、知らなかった俺は間違った判断をしていたんだ。
※※※※※※※※※※
やっと恋愛的気持ちだったと自覚したディアスですが、『婚約者からこんなものしか贈られない』ではなく、実際には『婚約者から花すら贈られない』と思われてるなんて、想像すらしていません。
結構鈍い感じです。
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