侯爵令嬢の婚約の行方~妖精の様だと言われる可愛い妹と素直になれない私~(旧、やって出来ないこともある)

木嶋うめ香

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匂い袋にまじないを込めて

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「カレン、お花のお礼は何か考えているの?」

 顔合わせの後、カレンと第三王子殿下は何度か手紙のやり取りをしています。
 婚約はほぼ決まりとなっていても、正式に婚約の届けをしたわけではなく、人気のある第三王子殿下を狙っている令嬢は多いそうなので油断は出来ません。
 本人同士が思い合っていても、どこから横槍が入るか分からないのですからカレンが他の令嬢とは違って王家から認められている婚約者候補だと知らしめる必要があります。

「刺繍はどう? 殿下の名前をハンカチに刺すのよ」
「ま、まだ自信がありません。イグナス殿下には刺繍もダンスも下手だとお伝えしていますけれど、謙遜だと思われている様ですしもっと練習しないと贈ったり出来ません」

 そう言いながらカレンは、以前に比べたら見違える程上手に針を動かしています。
 まだ刺繍糸を艶が出る様に美しく刺すのは出来ませんが、下絵に描いた通りに刺せるようになったのですからカレンの努力の賜物です。

「ねえカレン、贈って頂いた薔薇の花びらを乾燥させていたわね」
「はい。初めて頂いた贈り物ですから、全部は無理でも手元に残したくて」

 香りの強い花は、花びらを乾燥させて綺麗なガラスの器などに入れて飾るのは貴族令嬢の楽しみの一つです。
 薔薇は人気があり、匂い袋等も作ります。

「あなたはまじないが得意だったわよね」
「お姉様? はい、徐々に体力が回復するとか怪我をしにくくなるとかの弱いものですが」
「それ、匂い袋にもできるかしら」

 初めての贈り物は、これからの二人にとって思い出となるでしょう。
 姉としては二人がずっと互いを思い合って欲しいですし、薔薇の花束や手紙を見るに殿下は所謂記念的な物を大切にしてくれる方の様に思います。
 ですから、カレンの気持ちを理解してくれるのではないでしょうか。

「匂い袋に、ですか? お姉様がお使いになるのですね! 頂いた薔薇は乾燥してもとても良い香りがしていますのよ、きっとお姉様も気に入って下さるわ」

 あぁ、この子は本当に優しくて良い子です。
 自分が大切にしているものを私に贈ろうとするなんて。
 こんな優しい子を羨む私は酷い姉ですが、これからは絶対に気持ちを改めます。ええ、絶対に。

「馬鹿ね、あなたの宝物を私が欲しがるわけかないでしょう」
「でも本当に良い香りがしますし、お姉様はお仕事が忙しいからきっと良い香りに癒やされると思います」
「それは嬉しいけれど、あなたが幸せそうに笑ってくれる方が癒されるわ。そうじゃなくてね、匂い袋に怪我を回避するまじないをして殿下に贈るのはどうかしらって思ったのよ」
「匂い袋を、イグナス殿下にですか」
「ええ、騎士団では日々剣術の腕を磨くため鍛えていらっしゃるとはいえ、あなた怪我が心配だと言っていたじゃない」

 何せ二人の出会いは、たまたまカレンが手伝いに行った王都の治療院に殿下が怪我の治療に行ったのがきっかけなのですから、なぜ騎士団に所属している殿下が城外の治療院に行ったのかは謎ですが、怪我の心配は今後もあるでしょう。

「お姉様、さすがですわ!」

 カレンは興奮して私に抱きつきました。
 華奢な体に似合わず強い力でギュウギュウと抱きつくので、息が出来ません。

「カレン!」

 何とか両手を伸ばし、カレンの頭を拳骨でグリグリと攻撃します。

「イタタタッ。お姉様酷いです!」
「酷いのはあなたよ、第三王子殿下と婚約しようとしている令嬢がいきなり抱きつくなんて、お行儀が悪いわ」
「こんなことするのはお姉様にだけですわ」
「それでも駄目です。こういうのは日々の積み重ねなのよ。お行儀悪い行動を家の中だからと行っていたら、つい外でも出てしまうわ」

 気をつけようとしても、私もついこうやって説教してしまいます。
 私もディアスに嫌われないように、キツイ性格は直さなければいけませんよね。

「はぁい、気をつけます」
「よろしい。今のあなたへの心配はその程度よ。刺繍もダンスも貴族年鑑の暗記もちょっと苦手程度までになったのは、全部あなたの努力の結果よ。素晴らしいわカレン」

 あぁ、何だか泣きそうです。
 ずっと一緒に暮らしてきたのにカレンは王家に嫁ぎ王都に暮らすようになるのですから。
 姉妹とはいえ、結婚したら気軽には会えなくなるのです。

「お姉様、お姉様のお陰です」
「ふふふ。じゃあ匂い袋を殿下に贈ってもいいかお父様に確認していらっしゃい。神殿のお守りにあるようなまじないとはいえ、王族にお渡しするのですから、念の為に確認しないとね」
「はい」
「早く行っていらっしゃい。許可を頂いたら、匂い袋に使う布を選びましょうね」
「はい、お姉様! 行ってまいります!」

 元気に部屋を出ていくカレンを見送ると、ルルが心配そうに私の側にやってきました。

「お嬢様」
「仕方がない話だけれど、カレンが嫁いでしまうのは寂しいわね。ルル服飾担当の者たちに匂い袋に適した布を用意するよう伝えて来てくれる? 殿下の好みが分からないから、上等なでもかれん好みの物をいくつか揃えて欲しいのよ」
「畏まりました」

 ルルに指示を出すと私はソファーに深く座り目を閉じました。
 優しい妹の為に私は何が出来るでしょうか、今までカレンを妬んだ事への償いに私は必死に考えを巡らせたのです。
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