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誰を贄にすればいい?3(王妃視点)
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「母上、フィリップとフローリア嬢の婚約はもう破棄されたと明日公表されます。フィリップの不義が理由と明言した上でです。この意味がお分かりになりますか? 父上、陛下はフィリップに呆れておいでです。今までフローリア嬢に対する愚かな行ないは数々あれどあそこまで愚かだとは思っていなかった。臣籍降下し侯爵家に婿入りする意味を全く理解出来ぬ程愚かな王子等外に出すのは王家の恥を晒して歩く様なものだと、酷くお怒りです」
アダムは大袈裟に言っているだけ、陛下は子供達全員を可愛がって下さっています。
王太子であるアダムは別格ですが、末の子だから不要な王子だとフィリップを蔑ろにすることはありませんでした。
上の兄二人に比べフィリップは劣っているところは多いですが、それはあえて私がそう育てたからです。
怠け癖があり自分に甘いフィリップは、兄や姉達に比べ劣っている自分を密かに恥じていてそれ故考え方が卑屈で自分の行ないを肯定してくれる人間に甘える傾向があります。
その最たる者が私です。
母親として私は厳しくフィリップ以外の子供達には接しています。
フィリップだけに甘いのです。
「ご自覚があるかどうか分りませんが、母上がフィリップを駄目にしたのですよ。あれを甘やかし何でも許してしまうから、何が良くて何が駄目なのかの判断すら出来なくなってしまった」
「そんな、私はそんなつもりでは」
いいえ、そのつもりで私はフィリップを教育しました。
私がいなければ何も出来ない様に、私だけを信用する様に。
だからフィリップがフローリアに惹かれているのも、私がその思いを歪めたのです。
「母上にそのつもりがなくても、フィリップはそうなってしまったのです。謹慎と言っていますがあれが反省しなければ身柄は離宮から北の塔に移動になりますよ。その意味は母上もおわかりですよね」
ぐらぐらと視界が揺れました。
動揺ではありません。
可愛い息子に非情な決断をした陛下に、その原因となった侯爵家の人間に対する怒りからです。
「陛下はそんな非情な決断をされたの」
「そうではありません。フィリップが自分の罪を理解し、反省出来なければそうなる可能性もあると言っているのです。ご存知ですか、あれは恥知らずな手紙を母上の名でフローリア嬢に送っているのです」
「手紙? そんなことフィリップは何も言っていないわ」
あの子が私に相談もなく、フローリアに手紙を送っているなんてそんなこと信じたくありません。
あの子は私の助言無しには何も出来ない子なのですから、そんなこと。
「フローリア嬢が反省すれば許してやると、ふざけた内容の手紙です。自分は悪くない悪いのはフローリア嬢だと。彼女がどれだけフィリップに尽くしていたか、フィリップ以外の人間は理解していたというのに。手伝う必要がない生徒会の仕事を自分の代わりにさせて、自分は仕事をするフローリアの前で遊んでいたという恥知らずが」
「そんな事、フローリアはフィリップの婚約者なのですから当然ではありませんか。何故それを責められるのです」
「本気で母上は仰っているのですか。本来生徒会の仕事は役員以外は行えないものなのですよ。役員と役員の補佐となったものが行なうのです。フローリア嬢は補佐ですらないというのに生徒会の仕事をほぼ一人で行なっていたのですよ。フィリップの命令で」
それの何が悪いというのでしょう。
フローリアはフィリップの婚約者なのです。婚約者であるフローリアが将来の夫になるフィリップに尽くすのは当り前の話です。
「フィリップの命令がなければ行動出来ないフローリアが無能なのでしょう。可哀相なフィリップは、気の利かない婚約者がいるせいで辛いめにあっていたのね」
「母上、正気ですか」
「正気? 正気でないのはあなたの方よ。どうして可愛い弟を助けようと思わないの。あの子は何も悪くないのに仕える者すら無く謹慎なんて、兄であるあなたが陛下に嘆願してあげるのが筋でしょう」
「嘆願? 私が? 何故」
「冷たい子、弟が可哀相だと思わないの。愚鈍な婚約者のせいで謹慎させられたのよ」
怒りで声を荒げる私を、アダムは冷ややかに見つめるだけだったのです。
アダムは大袈裟に言っているだけ、陛下は子供達全員を可愛がって下さっています。
王太子であるアダムは別格ですが、末の子だから不要な王子だとフィリップを蔑ろにすることはありませんでした。
上の兄二人に比べフィリップは劣っているところは多いですが、それはあえて私がそう育てたからです。
怠け癖があり自分に甘いフィリップは、兄や姉達に比べ劣っている自分を密かに恥じていてそれ故考え方が卑屈で自分の行ないを肯定してくれる人間に甘える傾向があります。
その最たる者が私です。
母親として私は厳しくフィリップ以外の子供達には接しています。
フィリップだけに甘いのです。
「ご自覚があるかどうか分りませんが、母上がフィリップを駄目にしたのですよ。あれを甘やかし何でも許してしまうから、何が良くて何が駄目なのかの判断すら出来なくなってしまった」
「そんな、私はそんなつもりでは」
いいえ、そのつもりで私はフィリップを教育しました。
私がいなければ何も出来ない様に、私だけを信用する様に。
だからフィリップがフローリアに惹かれているのも、私がその思いを歪めたのです。
「母上にそのつもりがなくても、フィリップはそうなってしまったのです。謹慎と言っていますがあれが反省しなければ身柄は離宮から北の塔に移動になりますよ。その意味は母上もおわかりですよね」
ぐらぐらと視界が揺れました。
動揺ではありません。
可愛い息子に非情な決断をした陛下に、その原因となった侯爵家の人間に対する怒りからです。
「陛下はそんな非情な決断をされたの」
「そうではありません。フィリップが自分の罪を理解し、反省出来なければそうなる可能性もあると言っているのです。ご存知ですか、あれは恥知らずな手紙を母上の名でフローリア嬢に送っているのです」
「手紙? そんなことフィリップは何も言っていないわ」
あの子が私に相談もなく、フローリアに手紙を送っているなんてそんなこと信じたくありません。
あの子は私の助言無しには何も出来ない子なのですから、そんなこと。
「フローリア嬢が反省すれば許してやると、ふざけた内容の手紙です。自分は悪くない悪いのはフローリア嬢だと。彼女がどれだけフィリップに尽くしていたか、フィリップ以外の人間は理解していたというのに。手伝う必要がない生徒会の仕事を自分の代わりにさせて、自分は仕事をするフローリアの前で遊んでいたという恥知らずが」
「そんな事、フローリアはフィリップの婚約者なのですから当然ではありませんか。何故それを責められるのです」
「本気で母上は仰っているのですか。本来生徒会の仕事は役員以外は行えないものなのですよ。役員と役員の補佐となったものが行なうのです。フローリア嬢は補佐ですらないというのに生徒会の仕事をほぼ一人で行なっていたのですよ。フィリップの命令で」
それの何が悪いというのでしょう。
フローリアはフィリップの婚約者なのです。婚約者であるフローリアが将来の夫になるフィリップに尽くすのは当り前の話です。
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「嘆願? 私が? 何故」
「冷たい子、弟が可哀相だと思わないの。愚鈍な婚約者のせいで謹慎させられたのよ」
怒りで声を荒げる私を、アダムは冷ややかに見つめるだけだったのです。
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